アナログスイッチ再入門

[2008年10月号]

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さまざまなトレードオフ

 アナログスイッチには、留意すべきさまざまなトレードオフ要因が存在する。以下、代表的なものを順に示す。

■コストと性能
 製品を選択する際に最も重視されるのは、言うまでもなく価格であろう。これとトレードオフの関係にあるのが性能である。

 低価格な製品の代表は、CMOSアナログスイッチのCD4066だろう。先述したように、そのオン抵抗はかなり大きいが、複数個を並列に接続することで、適切な値のオン抵抗を実現できる。CD4066の場合、複数個を用いてもコスト的なメリットが得られる可能性がある。

 CD4066の対極に位置するのが、誘電体素子分離を適用した製品「HS-303ARH」(Intersil社製)である。耐放射線型のシリコンゲートを採用しており、軍事用途や人工衛星用途に適している。しかし、値段は高価である。

■電源電圧とオン抵抗
 アナログスイッチでは、一般的に、電源電圧が高ければオン抵抗は小さい。しかし、低い電源電圧で小さなオン抵抗を実現している製品も存在する。例えば、スイスSTMicroelectronics社のクワッドSPDTスイッチ「STG3699B」は、電源電圧が1.65Vという条件でも、0.65Ωの低いオン抵抗値を実現している。

■パッケージサイズと放熱性
 パッケージの大きさと放熱性もトレードオフの関係にある。スイッチング電源では、大きなパッケージのアナログスイッチが必要となる。オン抵抗を下げるために、チップサイズが大きくなってしまうからだ。

 この分野では、新しいプロセス技術や新しい回路技術によって著しい進歩が得られている。現在、米Vishay Intertechnology社はオン抵抗が1Ω未満のスイッチを10種類以上供給している。しかも、それらの製品のパッケージ寸法は3mm×2mmで、SC-70と同じ程度に小さい。

■入力信号とオン抵抗
 見落としがちなトレードオフ項目に、入力信号に対するオン抵抗の値の変化がある。電源電圧が高く、信号の振幅が小さければ、オン抵抗の変化は問題とはならない。しかし、信号の振幅が電源レールと同じくらい大きい用途では、その範囲でオン抵抗がほぼ一定となる製品を探す必要がある。

製造プロセスによる差異化
 製造プロセスについても触れておこう。CMOSのアナログスイッチは安価で、電源電圧が低い。一方、DMOSのアナログスイッチは電源電圧が高く、スイッチング速度が速い。Vishay社は、CMOSとDMOSを組み合わせて、両方の利点を備えたアナログスイッチ「DG611」を開発した*6)

 アナログスイッチのメーカーが製品の差異化を実現する手段の1つは、独自の製造プロセスを開発することである。例えば、米Analog Devices社は35V系のiCMOSプロセスを有している。同社の製品マネジャであるLiam O Suilleabhain氏は「当社の古い製品である『ADG408』と新製品の『ADG1408』とを比較すると、ADG408のオン抵抗の値が100Ωであるのに対し、ADG1408のそれは4.7Ω。また、ADG1408はADG408と同じTSSOPでも提供されているが、それより70%も小さいLFCSPも選択できる」と語る。

回路設計時の注意点
 アナログスイッチはありふれた小さな部品に過ぎない。しかし、その応用分野と性能仕様を詳しく調べると、見かけよりもはるかに多くの事実が隠れていることがわかる*7)。回路設計を行う際には、アナログスイッチの使用方法と性能仕様を十分に理解しておくべきである。

 アナログスイッチを含む回路のSPICEシミュレーションを行う際には、寄生容量や浮遊容量、寄生インダクタンスなどを考慮したモデルを使うべきだ。多くのSPICEモデルには、電荷注入や印加電圧によるオン抵抗の変化などの要素は含まれていない。そのため、ブレッドボードを用いた評価の段階で、SPICEシミュレーションでは発見できなかった問題が見つかることがある。また、使用温度範囲を考慮すること、そして選択したアナログスイッチが、開発する機器の製品寿命の間、供給され続けることを確認するべきである。

脚注

*6)

"12ns DG611 Switch Family Combines Benefits of CMOS and DMOS Technologies," Application Note AN207, Vishay Siliconix, Aug 3, 1999

*7)

"Selecting the Right CMOS Analog Switch," Application Note 638, Maxim Integrated Products, Sept 3, 2002

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