第2部:
国/地域によって
異なる「リファレンス設計」の意義

[2007年12月号]

世界の技術者にとって、リファレンス設計を活用するのは重要なことなのだろうか。答えは明らかに「イエス」である。


By Nicholas Cravotta
この記事を :  印刷する プリントする ブックマーク  はてなブックマークに登録 この記事をクリップ! Buzzurlにブックマーク Yahoo!ブックマークに登録 メールで送る メールで送る
12>> PAGE 1/2   目次に戻る
 機器設計やソフトウエア設計がより複雑になる中、部品ベンダーは単なるデータシート以上の情報を提供しなければならなくなりつつある。リファレンス設計(reference design)は、製品の活用を可能にするIP(intellectual property:知的財産)を供与するための重要な手段である。

 「リファレンス設計」という言葉自体は極めてあいまいなものだ。1つのチップベンダー内においてさえ、別の意味に解釈される可能性がある。例えば、北米のFAE(フィールドアプリケーションエンジニア)がこの言葉を使用する場合、それは回路図またはアプリケーションソフトウエアを限定的に搭載した評価用基板のことを指すと考えられる。同じ企業に属するアジア地域のFAEがこの言葉を使用する場合、それはプラスチックによる外装などを除いて、量産準備が整った製品の設計のことを指すと考えられる。

 専門性の高さと市場優位性を誇示するためにリファレンス設計を開発すると主張する企業もある。しかし、多くの場合、リファレンス設計の目的は、機器で使用される部品の販売を促進するということに尽きる。リファレンス設計の開発には莫大な費用を要するため、企業は何種類ものリファレンス設計を供給するわけにはいかない。そして、部品メーカーが自社の製品を機器メーカーに採用してもらうには、世界中の企業がリファレンス設計をどのように利用しているかを知ることが最も重要になる。

 部品ベンダーは、ターゲットとする国/地域について検討した上で、互いに(間接的に)競争関係にある国々(企業)に技術者を配置することになる。それにより、その部品ベンダーの技術およびサポートリソースへのアクセスを容易にするのである。つまり、一様ではないIPの供給フローが世界の技術勢力図に変化を与えているのだ。

世界の動向
Texas Instruments社のデジタルカメラのリファレンス設計は、カメラのレンズとセンサーを備えている。
Texas Instruments社のデジタルカメラのリファレンス設計は、カメラのレンズとセンサーを備えている。

 世界各国/地域のリファレンス設計の利用動向を追跡するのは困難である。従って、その動向を解説しようとすることは、読み手に不適切な固定観念を植え付けるのと同じことになる可能性がある。企業がIPを入手する方法は、その企業が存在する国の成熟度や地域性、文化に応じて大きく異なる。例えば、人件費が安い中国では、開発(NRE:nonrecurring engineering)コストよりも、部品コスト(BOM:bill of materials)のほうが重視される。一方、北米では、必要な機能を実現するために専用の回路を開発するのではなく、結果的に設計時間を短縮するためにC言語によるプログラミングを選択するといった傾向がある。しかし、それによってプログラムを格納するためのメモリー量は大きくなり、高性能で高額なプロセッサが必要となる。また、アジアではIPコアを利用してチップ設計を行い、システム設計を完成させる傾向がある。その背景には、必要十分な機能を市場に迅速に供給したいという考えがある。

 北米のNIH(not invented here)企業には、戦力として当てにできる設計経験者が社内に多数いる。こうした企業の設計技術者は、プロジェクトの違いに比較的依存しないようにIPを開発する部品ベンダーの設計技術者とは対照的に、1つのアプリケーションに焦点を絞る。こうすることで、NIH企業の設計技術者は最適な設計を実現している。このアプローチは、概して製品の性能と機能を最大限に高めるが、莫大な投資と諸経費が発生する。

 日本の設計技術者は経験豊富であり、優れた製品を生み出す。彼らは設計基盤としてではなく、自らの設計と比較するのに利用可能な包括的なリファレンス設計を好む。日本の設計技術者は自らの手ですべてを解決することを望む。つまり、答えについて検討するよりも問題を解くことに時間を割き、スキルを伸ばして技術の完成度を向上させることを望んでいる。また、ほかの設計技術者が設計したものをなぞるのではなく、どのように設計したのか理解することを好む。リファレンス設計は、おそらく、設計技術者が見過ごしていた部品仕様における軽微な特異性を明らかにするために使われることになるだろう。

 英国では、一般的にディストリビュータレベルでのIP管理が重視されている。欧州のディストリビュータは、チップ以外に、設計者がわずかに修正を加えるだけで設計に組み込むことができる完全なサブシステムも提供する。これを付加価値とすることで売り上げを増やしている。実際、ディストリビュータは部品ベンダーとOEM企業の間のIPブローカとして機能することで、部品の選択に大きな影響を及ぼしている。NIHを重視する設計技術者は、このような提供システムに抵抗感を持つかもしれないが、北米の一部のディストリビュータは、こうしたアプローチの採用を検討し始めている。

 台湾などでは、部品ベンダーが提供するリファレンス設計をそのまま利用するアプローチを採用している企業もある。こうした企業の狙いは、投資を最小限に抑え、製品化までの期間を短縮することである。ODM(original design manufacturer)企業は部品ベンダーとOEM企業の仲介をする場合もあるし、さらに関連するチップ、ソフトウエア、システムなどの問題に加え、アプリケーション市場を把握する責任を担っている場合もある。ODM企業は部品ベンダーと連携して独自のリファレンス設計を開発し、迅速な市場投入を検討しているOEM企業にそれを販売している。例えば、ODM企業が非常に複雑なデジタルカメラ製品を開発する場合、それに対応するリファレンス設計を複数のOEM企業に販売する。OEM企業はプラスチック外装のみを開発したり、手ぶれ防止や赤目防止などの差異化機能を付加したりするなどして、設計をカスタマイズする。

 例えばインドなどでは、実務経験に乏しいアプリケーション技術者は時間をかけて専門知識を得る余裕がない場合がある。そのため、OJT(on the job training)で“スポンジ”のように知識を吸収することを要求される。このような状況に置かれる設計技術者は、リファレンス設計を利用して基板や図面について詳細に研究し、できる限り早く開発を進めながらも、あらゆる知識の吸収に努めなければならない。従って、こうしたことに対応できる人員を採用することが極めて重要になる。

 対照的に、中国の設計環境は“チョップショップ(解体屋)”的である。リファレンス設計を最終製品に適合させてコストを最小限に抑えることを重視している。

 リファレンス設計は、多少汎用的で幅広いアプリケーションに対応している。また、リファレンス設計から得たIPは応用することが可能である。部品の販売を促進するという目的から、リファレンス設計を使用できる顧客は多ければ多いほどよい。評価ボードが動かなくなるくらいまでに部品を取り除き、必要最小限のものだけにしてしまうといった使われ方もあり得る。また、より精度の悪い部品や代替部品に置き換えての評価などにも使われる。

教育を通じたマーケティング
 リファレンス設計を、販売を拡大するためのツールとするには、そのリファレンス設計が教育や設計期間の短縮といった設計技術者のニーズを満たすものである必要がある。独自のIPや機能追加に関心がない企業にとっては、開発期間がすべてだ(別掲記事『製造のしやすさを重視する台湾企業リファレンス設計』を参照)。

 米Microchip Technology社のデジタルシグナルコントローラ部門で戦略マーケティングマネジャを務めるSteve Marsh氏は、「そのまま使用できる設計、すなわちターンキー設計がすでに多く存在するほど、製品を早く開発できる。だが、アジア市場はより“自給自足型”に向かう傾向がある」と述べている。企業が生き残るには、迅速に優れた設計を行うことが極めて重要である。「専門技術力を将来の顧客となる企業にアピールできるよう、独自のアプリケーションを実現したと主張できるようにしたい」とMarsh氏は述べている。

 特定分野に関する専門性に欠ける企業の中には、評価用の基板を大量生産に向けるところもある。こうした手法によっても成果を上げることは可能だが、長期的に見ると利益は少なく、その設計が機能する仕組みに関する理解も不足したままとなる。これでは、時間をかけて仕組みを理解した場合とは異なり、リファレンス設計を基礎として簡単に開発を行うことはできない。若くて経験に乏しい設計技術者を抱える国々は、この事実に気付き始めている。例えば、インドと中国は、迅速なサービスを“売り”とする世界の設計センターになることを望んでいる。両国はターンキー設計やブラックボックス設計を促進し続けている。しかし、両国の技術者は単に他者の成果物をコピーしているだけだとの見方は不適切である。彼らは、ほかの企業から提供された情報を可能な限り素早く取り込んでいる。

 例えばインドは飛躍的な成長を続けており、同国で新たに設立される技術系企業は、毎年1万社に上ると推定されている。実に高い数字にも思えるが、インドでは求職者数が30万人を超えているため、相対的に見れば、必ずしも高い数字だとはいえない。「設計技術は、若者にカースト制度の下層から脱出するチャンスを与える。彼らはリファレンス設計に頼りながら、著しい経験不足を補っている」と、米National Semiconductor社でワールドワイドテクノロジパートナーシップマーケティングマネジャを務めるRick Zarr氏は述べている。この観点からすると、リファレンス設計は第三者の設計を単にコピーするために存在するわけではない。従って、リファレンス設計の利用を「設計技術のアウトソーシング」と表現するのは適切ではない。インドをはじめとする国々の設計技術者は、リファレンス設計によって設計技術の基本を習得することに加え、それを通じて革新的であるためには何が必要かを発見しつつある。何かがうまくいけば、大きな収益が得られるだけでなく、次のチャンスが得られることも理解している。

 Zarr氏は「イノベーション、洞察力、経験の輸出は難しい。米国の文化は極めて多様だが、そのことが米国の設計技術者の問題解決方法に影響を与えている」と指摘している。「米国はシンクタンクであり、世界のほかの国々はそのシンクタンクが抱える製造部門である」との認識を持っている人がいる。しかし、そのような認識は幼稚なものであり、この上なく危険である。北米で重責を担う設計技術者の人件費は約25万米ドルであるのに対し、電気工学の修士号を取得したインド人設計技術者の人件費は約4万5000米ドルで済む。インドの設計会社は、競争に参加し、積極的に給与の向上を図り、必要なインフラストラクチャと専門性を得るために投資することをためらわない。

 部品ベンダーにとって、経験の乏しい設計技術者はある意味、大きなチャンスの象徴であり、リファレンス設計を通じた効果的な投資対象でもある。どのような場面にも適用できる一般的な概念によって問題を解決する方法を教えるのではなく、リファレンス設計を使えば、部品を利用した具体的な問題解決方法を教えることができる。言い換えれば、配線方法やインピーダンス定数に関する一般論ではなく、必要な配線を実現するガーバーファイルを提供することになる。設計技術者はガーバーファイルから配線について学べるが、それではほかの部品などに対する自信を得るには不十分かもしれない。その場合、リファレンス設計が内包する部品は単なる提案や推奨事項以上のものとなる。

 リファレンス設計は、ディストリビュータの専門性不足もカバーする。取り扱う製品ラインの数が多ければ多いほど、ディストリビュータが部品の学習に要する時間と周期は短くなる。リファレンス設計は、ディストリビュータが効果的に部品を販売できるようにする画期的な方法への扉を開くものだ。

 リファレンス設計にかかわるデータ一式をウェブサイトからダウンロードできるようにしている企業もある。小規模な設計会社は、部品のサブセットを市場で活用することを学んでいるため、そうした企業とも連携する価値がある。迅速に設計する義務を負う設計技術者は、既知のものを活用して設計する傾向がある。リファレンス設計はこうした市場での効果的な種なのだ。

製造のしやすさを重視する台湾企業のリファレンス設計
by Mike Pan, EDN Asia

 研究開発に携わる技術者は、システム設計の複雑さと費用の問題に直面している。これを支援する形で、ICベンダー各社は、量産開始までの期間を短縮できるリファレンス設計を顧客に提供している。低価格の量産を得意とする台湾の電子機器業界にとっては、生産までの工程を簡素化できることが特に重要である。太陽電池や太陽電池パネル、UPS製品などの電力保護製品プロバイダである台湾Powercom社でシニアエンジニアを務めるAllen Su氏は「チップにリファレンス設計が付属していなければ、そのチップを当社のシステムに使用するのは不可能だ」と語る。

 リファレンス設計の入手元は、チップベンダー、販売代理店、VAR(value added resellers:付加価値再販業者)など、業界内に数多くある。しかし、入手したリファレンス設計の安定性はそれぞれに異なる。「自社のチップを搭載するプリント配線板を設計する際に使用したデータシートと関連規定しか提供してくれない会社もあれば、より完成度の高いソリューションを提供してくれる会社もある」と、ネットワークカメラ、ビデオサービス、録画アプリケーション用ソフトウエアやマルチメディア通信製品の製造を手がける台湾Vivotek社で研究開発部門のマネジャを務めるAren Chen氏は語る。

 Su氏とChen氏が声をそろえていうのは、「外国企業から提供されるリファレンス設計は、国内のものより多様な顧客をターゲットとしており、汎用性が高い」ということである。両社の技術者からは、「そうしたリファレンス設計を採用しようとすると、それを応用した製品の要件に合致させるために、かなりの労力を要する」という報告があるという。「外国のICベンダーはおそらく、自分たちの得意顧客向けにならリファレンス設計のカスタマイズを行うが、それ以外のユーザー向けのカスタマイズはしない」とSu氏は語る。

 また、Chen氏も国際的なICベンダーからのサポートが十分でないと感じた経験を持つ。Vivitek社では外国のベンダーからDSPを購入することにしたが、選定したDSP製品に使用予定だったOSを適用できず、製品コストが高くつくことが後になって判明したことがある。このような問題に対し、同社は自社でSoC(system on chip)を開発するという、台湾市場のシステムメーカーでは異例の対処を行った。Chen氏によると、SoCの導入により、性能だけでなく柔軟性も向上したという。

 両氏は、外国のチップベンダーから供給されるものより、台湾のチップベンダーの製品のほうが完成度が高いと信じている。地元メーカーの製品のほうが優っている理由としては、地の利を生かして顧客のニーズを的確にとらえていることが考えられる。さらに、台湾のベンダーは競争力のある価格を提示するし、同じ言語を話すことも遠因として挙げられるだろう。

 台湾の中小システムメーカーとの溝を埋めるべく、外国のICメーカーは現地の販売代理店やVARと連携して製品の販売促進を行っている。一例を挙げると、米Actel社は最近になって、インテリジェントなシステム管理/電源管理を行うことができるリファレンス設計を台湾で発表した。同社のアジア太平洋地域担当営業責任者のRick Lain氏は、「現地の顧客に対してより良いサポートを提供するために、現地代理店/VARとの密な連携を実現すべく、当社の販売ネットワークをフル活用した」と語る。さらに、「台湾には3社のVARを持ち、当社のチップを利用した具体的なソリューションをターゲットとする顧客に提供している」(同氏)という。

 販売代理店もまたリファレンス設計の入手元として活用されている。半導体/電子部品の販売を行う台湾Zenitron社で研究開発/現場応用技術開発部門の最高責任者を務めるTW Lin氏は、「リファレンス設計の開発に対する当社の意識はICベンダーのものとは異なる」と述べる。同氏は、「ビジネスである以上、ICベンダーが常に焦点を絞るのは、いかに自社チップに良い性能を発揮させるかだ。それとは対照的に、われわれの業界が注目するのは、製造のしやすさである」と説明した。同氏によれば、時にはほぼ量産品の試作品レベル、あるいはそのまま量産に投入可能なレベルのものを同社は提供することがあるという。

 ICベンダー、特に外国のベンダーから提供されるリファレンス設計は、すぐに製造に利用できる状態ではないとLin氏は語る。同氏によれば、「例えば、あるICベンダーが6層プリント配線板を使ってチップのリファレンス設計を開発した場合、それを4層プリント配線板対応に変更して、基板上のほか部品についても安価な代替品を探さなければならない。同時に、EMI(electro magnetic interference)やシグナルインテグリティ、その他の電子特性の問題にも対処する」という。同氏は、「当社はこれまで、顧客のコスト低減および製品を市場投入するまでの期間の短縮をお手伝いしてきただけだ」と語った。

FOR MORE INFORMATION

Actel社
www.actel.com

Powercom社
www.pcmups.com.tw

Vivotek社
www.vivotek.com

Zenitron社
www.zenitron.com.tw

12>> PAGE 1/2   目次に戻る
この記事を :  印刷する プリントする ブックマーク  はてなブックマークに登録 この記事をクリップ! Buzzurlにブックマーク Yahoo!ブックマークに登録 メールで送る メールで送る

Sponsor Links

Partner Solutions

EDN RESOURCE CENTER


新着ホワイトペーパー情報




アナログ・デバイセズ - 22件
インターナショナル・レクティファイアー・ジャパン - 1件
ナショナル セミコンダクター ジャパン - 9件
リニアテクノロジー - 15件
日本アルテラ - 4件
リード・ビジネス・インフォメーション - 1件