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高速デジタル伝送における
“不確定性原理”
[2007年11月号]
Enrico Persico氏は量子力学的波動関数の面から、不確定性原理を「波束(wave packet)の空間的広がりが小さいほど、波連(wave trains)の伝播ベクトルの分布は広くなる」と説明した*1)。これによれば、同原理を、波束の時間領域特性(物理的距離)と周波数領域特性(スペクトル幅)の関係としてとらえることができる。
不確定性原理は物理学者だけでなく、電気工学エンジニアにとってもなじみの深いフーリエ変換式から導くこともできる。高速デジタル伝送の世界でよく用いられるフーリエ変換にかんがみれば、不確定性原理は「現象の継続する時間が短ければ短いほど、その現象に伴う信号周波数帯域は広い範囲にわたる」と表現できる。これは時間と周波数との間には、逃れられない関係があることを示すものである。ただし、「信号時間幅」および「信号帯域」という言葉にはさまざまな定義があるので、この関係は幾分あいまいなものとなる。
デジタル信号エッジの立ち上がり時間幅を計測する際には、振幅の20%から80%に達するまでの時間でその幅を定義したり、10%から90%に達する時間で定義したりする。あるいは、立ち上がりエッジ上の1点(例えば中間点など)に接線を引き、それを基に立ち上がり時間を定義することもある。数学に詳しいエンジニアならば信号曲線を微分し、各立ち上がりエッジを短いパルスに変換して、そのパルス振幅のRMS時間幅を計算することもできよう。物理学者ならば信号の値を2乗して電力波形に変換し、その波形のRMS時間幅を求めることもあろう。
帯域幅に関しては3dBあるいは6dB減衰するポイントで規定することもできるし、一定電力の白色雑音が含まれる周波数幅として等価雑音帯域幅を定義することも可能である。物理学者であれば信号をフーリエ変換し、それを2乗して電力スペクトルを求め、それから電力(2乗)スペクトルのRMS帯域幅を評価するかもしれない。
これらのほかにも定義方法はあるが、どの定義を用いるかは解決すべき問題に応じて使い分けなければならない。例えば、電力波形のRMS時間幅と2乗スペクトルのRMS帯域幅はHeisenberg氏の不確定性原理の基礎となるものだ。
それぞれの定義には少しずつ異なる面もあるが、結論として得られることは基本的には同じである。つまり、定義(モデル)がどのようなものであるかによらず、信号の時間幅が狭くなれば帯域幅は広くなるのである。
ある計測基準をほかの計測基準に変換するための簡単な手法を示せればよいのだが、正確な変換のためには、信号波形を厳密に規定しなければならない。信号がガウス波形であるならば、計測基準間での変換はスケール定数によって規定できる。例えば、振幅の10%‐90%で規定した立ち上がり時間幅と3dB帯域幅の積は0.338Hzになるといった具合だ。このような簡明で整然とした数学解が得られることから、数学者はガウス波形を好んで利用する。しかし、実際の信号波形がガウス波形と異なれば、変換方法も異なり、場合によっては結果に大きな違いが出てくる*2)。
計測技術の細部の違いによっても結果が異なることがある。データシートが立ち上がり時間幅として振幅の20%‐80%としか規定していなければ、それがフルスケールに対する20%‐80%なのか、それとも負荷が接続された条件でのRMS信号振幅に対する20%‐80%なのかということが分からない。また、信号計測時のプローブの周波数特性を考慮しているのかといったことによっても結果は異なる。
特性をどのような基準/条件で測定して規定するのか。このことを意識しながら設計を進めれば、全体としてバランスの良い、不確定要素の少ない結果が得られる。









Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。

