Design Ideas

レギュレータ定数、特にパスコンの設計

[2007年07月号]

By 白石 知男 星和電機
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 本誌2006年11月号、12月号に掲載された『Signal Integrity』(著者:Howard Johnson)では、スイッチングレギュレータをモデル化し、それによって出力電圧の変動を解析する手法について述べられている*1)*2)。しかし、この記事では、概念的な解説に重きが置かれており、あまり定量的な解析がなされていない。実際の設計に取り入れることができないわけではないが、そのままではかなりの時間を要すだろう。本稿では、シミュレーションを用いて直感的かつ定量的に理解可能な定数の設計手順を示し、実際の設計にこのモデルを適用する方法を説明する。なお、本稿は、この記事の内容を理解していることを前提とする。従って本稿を読み進めるに当たっては、本誌バックナンバーあるいはhttp://www.ednjapan.com/content/issue/2006/11/si/si01.htmlhttp://www.ednjapan.com/content/issue/2006/12/si/si01.htmlの記事を事前にご確認いただきたい。

 この記事のレギュレータのモデル(等価回路)は、直流電源から電源ラインを経て、負荷となる基板(基板内であれば機能ブロック)の受電端まで(バイパスコンデンサも含む)の等価回路とまったく同じものだと考えることができる。そこで、以下ではそのような電源ラインの受電端を例に説明する。図1に示したのがシミュレーション用の等価回路で、図2に示したのはシミュレーション結果である。本稿では、図2の結果を定量的に解析する。

図1 シミュレーション用の等価回路
図1 シミュレーション用の等価回路


図2 シミュレーション結果
図2 シミュレーション結果
抵抗値は電源ラインの値であり、R2は含まない。


図2を見ると、電流が急激に変化した際の瞬時の電圧変動は、負荷電流が流れる場合、流れなくなる場合ともに約70mVである。瞬時の電流変動をΔi、コンデンサのESR(equivalent series resistor:等価直列抵抗)をR2注1)とすれば、電圧変動Δveは以下の式で表される。



 電流が急変した場合の瞬時の電圧変動は、このように表現できるということである。これが従来はあまり見当たらない手法で、本稿における1つ目の重要なポイントとなる。実際の設計時にはESR(つまりR2)が未知数だが、これは仕様で決まっている電流変動/電圧変動の値から式(1)を変形して求めることができる(以下参照)。



 ここで図1をよく見ると、この回路は電源から電源ライン、バイパスコンデンサ(パスコン)までで直列共振回路を成していることが分かる*3)。共振回路の振る舞いは、Q(quality factor)により定まる。つまり、望ましい応答波形を得るにはQを定めるだけでよく、しかもインダクタンスとコンデンサの値を同時に検討することができる。Qに注目して検討するのが2つ目のポイントである。

 共振角周波数ω(=2πf)は次式で表される。



 直列共振回路の抵抗Rは、電源ラインの往復の抵抗をR1として、以下の式で表すことができる。



 そこで、Qを定義する式(=ωL/R)に、式(3)、式(4)を代入する。



 この式(5)によってQを算出することができる。図2に示したシミュレーション結果は、R1=6mΩ~12mΩ、R2=7mΩとした場合の演算例である。図2にも示したように、これらを用いれば、Qの値は以下のようになる。



 実際の設計時には、図2を基に所望の波形に対応するQ値を選ぶことになる。Q=0.73の場合、振動的ではあるがノイズは0.11Vp-pに抑えられる。Q=0.50の場合、波形としては非振動的で望ましいが、ノイズは0.12Vp-pとやや大きくなる。

 直流的な電圧降下は参考文献*2)にある通り、R1×電流で決まる。この電圧降下ΔVLと電流Iは仕様で決定されるので、R1注2)が算出できる(以下参照)。



 図2の波形を見ると、下式のESR=R2がノイズが少なくて良さそうである。



 ここまでで要点が整理できたことになる。次に実際の設計手順をまとめておく。まずは電圧、ノイズ(電流急変時の変動、直流的変動、振動として現われる変動分など)、負荷電流(最大電流急変値、最大電流値など)などの仕様を決定する。その後の設計の流れは以下のようになる。

式(2)を用いてパスコンのESRを決定する。一般的に、パスコンの製品カタログでは、ESRの値としては温度が20℃のときの最大値が示されている。温度特性を加味し、ESRの最小値、他の温度の最大値でも検討する。特性の詳細についてはメーカーに問い合わせ、最悪の条件で設計する必要がある。また、1個のコンデンサで所望のESRが得られない場合には、2個を並列接続して使用することも考える
①の手順で求めたESRの値を持つコンデンサのうち、まずは最小の容量値のものを選択する
式(7)より電源ラインの抵抗R1の値を算出する
電源ラインの抵抗R1と電流値を基に、電源ラインの断面積/長さの設計を行う。その際、Qの値は0.56~0.73程度と仮定する;
式(5)を以下のように変形し、電源ラインのインダクタンスを求める



電源ラインの設計においては、これらの値のインダクタンス、抵抗が実際に実現可能かどうか、形状も含めて検討する
すべての条件が満足できるまで条件/ 仕様の変更を行い、ここまでの設計手順を繰り返す
パスコンの値を決定した上で、パスコンの電流実効値を算出する。加えて、実際に使用する電解コンデンサの電流容量をチェックする

 実際の設計では、定数変更に難易度の差があるので、以下のように“逃げ道”を用意しておくとよい。

パスコン:2個並列で使用可能なパターンとする。ESRは必要な値より小さくし、直列に調整用抵抗器を使用する。セラミックコンデンサのほうがESRが小さいため使用しやすいだろう。コンデンサを並列で使用する場合は、ESRの補正用抵抗器も2個並列で使用し、回路のESL(equivalent series inductance:等価直列インダクタンス)を下げるためにコンデンサの取り付け幅と同じ幅で取り付ける
電源からパスコンまでの配線の抵抗値:小さめに抑え、直列に抵抗器を挿入して調整する。パターンの幅が広い場合は2個を並列とし、それらの幅がパターン幅と同一となるようにして取り付ける。銅箔の厚さには35μm、70μmの2種類がある。また、インダクタンスの微調整は設計時にパターン幅を変更することでしか行えず、パターン設計後の変更は、パスコンの容量値の変更によってしか行えない。長さと絶縁距離は変更しがたい

 資料が乏しく設計しづらいのは、インダクタンスの値である。当然、公知の数式を用いて求めることになるが、単位に関して勘違いを起こしたり(CGS単位やMKS単位などを併用することで生じる桁数のミス)することもあるので十分な検討を要す。表1に米Polar Instruments社のソフトウエア注3)を使ってマイクロスプリットラインのインダクタンスを計算した結果を示しておく(周波数が高いので、対向2線の場合もほぼ値は変わらない)。これを参考にすれば、桁数のミスは回避できる。

表1 マイクロスプリットラインのインダクタンス(単位はnH)
表1 マイクロスプリットラインのインダクタンス(単位はnH)
注) 銅箔厚は35μm(ただし、70μmでもほぼ値は変わない)で、長さは100mm


 本稿に記したESRと容量、配線の抵抗、インダクタンスの4項目すべてを完全に設計するのにはかなりの時間を要する。式(2)によるESRの決定のみなら非常に簡単に行えるので、まずはこれだけでも実践していただきたい。ただし、この手法を適用できるコンデンサは通常の電解コンデンサに限られると考えられる。よりESRの小さい導電性高分子アルミ固体電解コンデンサや、さらにESRが小さいセラミックコンデンサでは、式(5)に示した通り、Qが高く振動的になるからである。

脚注

*1)

『レギュレータのモデル化』(Howard Johnson、EDN Japan 2006年11月号 p.38)

*2)

『レギュレータの出力電圧降下』(Howard Johnson、EDN Japan 2006年12月号 p.36)

*4)

例えば、日本ケミコン製の560μFの導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「APSC4R0E□□561MH08S」(□□には端子加工、テーピング加工を表すコードが入る)では、ESRの最大値は7mΩ(20℃のとき)である。

*3)

『パスコンの研究』(宮崎仁、トランジスタ技術SPECIAL No.22 1990年7月1日 p.20)

*5)

このR1の抵抗値については表皮効果を含めた値を使用すべきだと考えられる。しかし、例えば代表的なシミュレータである「Pspice」では、表皮効果までは扱えないようである。また、Polar Instruments社の電源ラインインピーダンスの算出ソフトでは、演算周波数が共振周波数よりかなり高いため、このようなケースでは使用できない。周波数が高くなれば、抵抗値も高くなる方向に向かう。波形が振動的でなくなるのはよいが、電圧降下は大きくなる。シミュレーションでは押さえ切れない項目なので、この点については実機で波形などを確認する必要がある。

*6)

本稿の執筆に当たり、マイクロスプリットラインのインダクタンス計算用ソフトの評価版を提供いただいたPolar Instruments社の中島氏に感謝する。

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