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2006.9
組み込みシステムに浸透する
フルカラーディスプレイ


携帯電話機や携帯型音楽プレーヤなどの民生電子機器に搭載されるフルカラーグラフィックディスプレイが最終消費者を引きつけるようになった。組み込み機器の分野にも新しい波が押し寄せている。

Warren Webb

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 製品価格が下落する中、組み込みシステムの設計者はグラフィックディスプレイを利用して操作を単純化し、システムのアップグレードを容易にすることで製品の差異化を図っている。これまでの組み込み製品の設計者は性能を向上させることに重点を置き、ユーザーインターフェースにはそれほど注意を払っていなかった。しかし、今日ではパソコンや携帯電話機、その他の携帯機器に素晴らしいフルカラーグラフィックディスプレイが搭載されるようになり、最終消費者はすべてのエレクトロニクス製品にそれを求めるようになった。ユビキタスネットワーク時代にふさわしいユーザーインターフェースに対するこうした期待が、従来の組み込み設計のルールを大きく変えている。最新の組み込み製品では、プロセッサとメモリーのリソースに対する制約が少なく、アプリケーションよりも通信やグラフィックディスプレイに、より多くのリソースを割り当てることができる。
 グラフィックディスプレイを使えば、設計者は1つの命令または機能を順次実行していく、シンプルなユーザーインターフェースを作成することができる。設計者は複雑な補助機能のほとんどを隠すことで操作を簡素化できる。グラフィックディスプレイは製品の第一印象を決めるものであり、自社製品と競合製品との大きな差異化要因となる。設計者はグラフィックを使って製品独自のルック&フィールを作り、同様のテーマで製品ラインを展開することが可能である。グラフィックディスプレイとタッチパネルを組み合わせれば、ユーザーはほぼすべてのフロントパネル構成を試すことができるほか、設計者はファームウエアを修正するだけで機能の追加や変更が行える。
 ディスプレイシステムは製品開発期間の短縮や収益増加につながる可能性もある。製品設計では開発期間と搭載する機能が天秤にかけられるのが常だ。使い勝手の良いグラフィックインターフェースとネットワーク接続機能が内蔵されていれば、製品出荷時には基本機能だけを搭載して、その後にネットワーク経由でファームウエアをアップグレードし、機能を追加したり不具合を修復したりすることができるようになる。他のマーケティング戦略としては、機能が制限された機器を低価格で販売し、機能またはサービスを遠隔から有効にするという手法でオプション販売を行う方法が考えられる。どのようなアプローチを取るにしても、しっかりと設計された汎用ハードウエアプラットフォームに、将来のソフトウエアプリケーションに対応できるグラフィックユニットと十分なシステムリソースが備わっていなくてはならない。


ディスプレイ用プロセッサ

 ディスプレイベースのインターフェースを組み込み製品に取り入れようとすると、コストと開発期間に大きく影響する。8ビットプロセッサで十分なアプリケーションでも、グラフィックを使うには2つ目のCPUが必要になるか、16ビットまたは32ビットプロセッサにアップグレードしなくてはならない。グラフィックサブシステムはかなりのメモリーとパワーリソースを消費する。従来の組み込みシステムのタスクにグラフィック処理を組み合わせるにも、アプリケーションの処理性能を維持するためにリアルタイムOSを使用しなくてはならないだろう。さらに、ディスプレイユニットには別の電源を用意する必要がある。
グラフィックディスプレイを組み込み機器に統合する方法はいくつかある。最も大胆なアプローチは機器を設計し直して、組み込みタスクとグラフィックディスプレイの両方をサポートできる新しいプロセッサ部を作ることだ。そうすれば後はソフトウエアチームが組み込みシステムに合ったグラフィックライブラリを開発できる。この方法にはおそらく多額のNRE(nonrecurring engineering)コストがかかるだろうが、生産ハードウエアのコストを最小限に抑えつつ最も効率的なシステムを作ることができる。もう少し手間のかからないアプローチを取るのであれば、組み込みプロセッサとの通信チャンネルを備えた外部ペリフェラルとして、グラフィック部を取り扱う方法がある。この方法ならば市販のグラフィック製品やソフトウエア製品を使えるため、開発コストを最小限に抑えることができる。


組み込み用ディスプレイ

 アクティブマトリクス液晶は、組み込みシステムに最もよく使われる表示装置である。省電力、軽量、高画質、応答速度の速さがその理由だ。2枚の垂直偏光ガラスパネルで液晶を挟み、TFT(薄膜トランジスタ)の行列によって駆動する。電流によって液晶の偏光特性が変化し、セルを透過する光が遮断される。メーカーはこの基本原理を応用してさまざまな組み込みシステムに適した高解像度モノクロ/カラー液晶パネルを提供している。設計者の多くは液晶パネルに抵抗膜式タッチスクリーンや他のさまざまな入力スイッチを組み合わせ、完全なユーザーインターフェースを作っている。
 米Eastman Kodak社が20年以上も前に開発したOLED(有機EL)ディスプレイ技術が組み込みシステム分野で脚光を浴びつつある。液晶よりも少ない電力と製造コストで、より明るくコントラストが鮮明なイメージを表示できる可能性があるからだ。
 OLEDは金属カソード(陰極)と透明アノード(陽極)で数枚の有機薄膜を挟んでいる。炭素系の薄膜が孔注入層、孔輸送層、発光層、電子輸送層を形成する。色、動作寿命、電力効率は使用される有機材料と層構造によって決定される。OLEDに電圧をかけると、注入された電子と正孔が発光層で再結合して有機電界発光(EL)を起こす。液晶パネルとは異なり、OLEDはそれ自体で発光するためバックライトが不要である。OLEDの欠点は製造コストが高いことと寿命が短いことだ。また水がかかるとマトリクスが簡単に破損する。


次世代ディスプレイ

図1 米E Ink社の電子ペーパー
ディスプレイ

このディスプレイには電荷で色を変化させる数100万個の双安定マイクロカプセルが封入されている。
 電子ペーパーディスプレイ技術は1970年代に発明されたものだが、最近の製造技術の進歩によって再び注目されるようになった。このディスプレイはコントラストが高く、紙のような形状をしている。消費電力が極めて少なく、薄型・軽量で、中には曲げられるものもある(図1)。ユーザーには情報を更新できる機能を持った紙で読んでいるような感覚を与える。黒い液体を封入した数100万個のマイクロカプセルと数100個の微細な白色チップが電子ペーパーディスプレイを覆っている。各マイクロカプセルで電荷を制御する活性化グリッドにより、白色チップを表面に浮き上がらせたり底に沈ませたりすることで各画素の色を指定できる。
 この電子インクの利点は、双安定・不揮発性マイクロカプセルが電源を切った後もその位置を保持することだ。このコンセプトを実証するため、E Ink社はLinuxベースの電子ペーパー開発キットを提供している。このキットに含まれている800×600画素のディスプレイパネル、電子回路、ソフトウエアを使えば、電池駆動式のポータブル電子ブックを作製できる。
 米Qualcomm社はMEMS(micro electro mechanical system)構造と薄膜光学を組み合わせた次世代のディスプレイ技術を開発しようとしている。同社は、蝶と孔雀の羽の微細構造をモデルとしてIMOD(interferometric modular display)を作製した。IMODは干渉によって光を変調する低電力の反射ディスプレイである(図2)。IMOD素子のサイズは通常10μm〜100μmで、その超薄膜構造体が厳密な光の波長を反射して移動する。反射膜は一定の距離を移動し、その距離がIMOD素子の色を決定する。各IMOD素子の解像度は400〜1000ドット/インチである。設計者はいくつかの素子をグループ化して1画素を形成できる。フラットパネルディスプレイを作製するために、Qualcomm社はIMOD素子の大規模アレイを、目的とするフォーマットで組み立てる。素子の先端にドライバICを取り付けて最終的にディスプレイを完成させている。反射IMODにはバックライトが不要なため、消費電力が少なくて済む。
図2 Qualcomm社のIMOD技術
MEMS構造と薄膜光学を組み合わせ、光干渉による発色を再現している。
 どの技術を使うにしても、ディスプレイシステムにはグラフィックソフトウエアライブラリとドライバICが不可欠である。制御ルーチンはディスプレイのメーカーかサードパーティベンダーから入手するか、あるいは自社で作成する。OSにこれらのルーチンが統合されている場合もある。簡単な描画ライブラリには、線、円、矩形、そしていくつかの文字種を描画するためのサブルーチンが含まれている。もう1つ上のレベルになると、プッシュボタンやスライダー、ゲージ、グラフ、ドロップダウンメニューを含むオブジェクト指向のグラフィックライブラリを使うことができる。画面上で1つまたは複数のオブジェクトを変更すると、ライブラリルーチンによって関連オブジェクトが自動的に再描画される。さらにその上のレベルには、Microsoft WindowsやX Windowなどのグラフィックマネジャがあり、これであればアプリケーションが自らのディスプレイ画面領域を自由に制御できる。複雑さとプログラムサイズは選択するライブラリモデルによって異なる。
図3 Sharp Microelectronics社の3.5インチQVGA対応TFT液晶
高輝度ディスプレイを必要とする低電力ポータブル設計をターゲットにしている。
 基本機能を備えたディスプレイを使うが、インターフェースとソフトウエアは自分で開発したい設計者のために、米Sharp Microelectronics社は100cd/m2の輝度を持つ3.5インチ半透過型TFT液晶ディスプレイを発売した(図3)。解像度がQVGAの「LQ035Q7DH01モジュール」は、少ない消費電力で、さまざまな照明条件下で動作することが要求される携帯機器をターゲットにしている。例えば、GPSユニットやPDA、バーコードスキャナ、試験装置などが挙げられる。このディスプレイは、表示色数26万2144色、消費電力365mW未満、透過モードのコントラスト比100:1、動作温度−10〜70℃という特徴がある。LEDバックライトシステムを入れても、このディスプレイモジュールの厚さは4mmしかなく、重さは約45gである。
 LQ035Q7DH01は145米ドル(50個購入時)で販売されている。


市販ディスプレイ

 開発期間を短縮するため、液晶画面、ディスプレイコントローラ、グラフィックライブラリ、タッチスクリーンを組み合わせた評価プラットフォームが数社のベンダーから提供されている。この市販プラットフォームを利用することでユーザーインターフェースを開発してソフトウエアを統合する手間を省くことができ、簡単なシリアルインターフェースを使ってグラフィックを機器に組み込むことができる。
図4 Reach Technology社が開発したタッチパネル付き4インチのディスプレイモジュール
 例えば、米Reach Technology社は最近、医療・産業・ゲーム用途向けのタッチパネル付き4インチ型カラーTFTディスプレイモジュールを発表した(図4)。同社のディスプレイモジュールキット「42-0086」には、画面操作用に自社開発した「SLCDコントローラ」と韓国LG Philips LCD社製の320×240画素液晶パネルが含まれている。このユニットには特別なOSも、ホストプロセッサ上のライブラリも必要ないため、ユーザーはインテリジェントなシリアルデバイスとして液晶にアクセスできる。
 このシステムは50以上ある高レベルの命令のうちの1つを発行することで、テキストやグラフィックイメージをディスプレイに書き込む。標準機能としてさまざまなフォントを内蔵し、ボタン、チャート、メーターのほか、高レベルなマクロ機能が含まれている。
 内蔵されたタッチインターフェースを使えばグラフィックボタンを画面上で定義できる。これらのボタンを押せばシリアルストリングが返される。SLCDマイクロプロセッサコードには、グラフィックライブラリ、テキストフォント、定義済みビットマップ、コマンドインタプリタが含まれている。42-0086モジュールは、電源とシリアルケーブルがセットになった評価キットとして345米ドルで販売されている。
 組み込み機器向けのディスプレイシステムにおいて、機器のGUI(graphical user interface)の作成方法としては、次のような手法をとることもできる。例えば、PDA、ノート型パソコン、携帯電話機といった汎用機器への短距離ワイヤレス接続を利用すれば、機器操作のフルグラフィック表示が可能となる。Bluetooth、802.11、赤外線、あるいは有線接続を利用した場合でさえも、はるかに少ない開発労力とハードウエアコストでグラフィックを表示できる。インターネット接続を利用して、通常のウェブブラウザを搭載したパソコンをリモートフロントパネルとして使う方法もある。使いやすいインターフェースを作成するためのさまざまなウェブ開発ツールが無料または低価格で提供されている。インターネット接続機能があれば、遠隔からソフトウエアアップデートや製品データの収集も行える。
 パソコンや民生電子機器ではもはやグラフィックディスプレイが普通である。ユーザーの期待に応えて競争力を維持するためには組み込みシステムの設計者も同様のマルチメディア機能を提供する必要がある。複雑な組み込み機器も、GUIを利用すればよりシンプルで、簡単にアップデートできる効率的な製品に生まれ変わる。今では市販のハードウエア製品とソフトウエア製品を使って、小さな組み込み機器にも洗練されたGUIを簡単に組み込むことができる。
 
 

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