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2006.7
マルチメディア携帯電話機の電力管理

アジアその他の市場では、デジタルテレビやストリーミングビデオ・音楽を楽しめるハンドヘルド機器の開発が進んでいる。その技術は素晴らしいが、設計者は小型化・省電力化を実現しながらマルチメディア機能を搭載するという難題に直面している。

Crystal Lam 米ON Semiconductor社

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 アジアその他の市場でポータブルメディア技術を搭載したマルチメディア電話機が普及しつつある今、設計者はこれらハンドヘルド機器の電力管理問題をもう一度考え直す必要がでてきた(別掲記事「マルチメディアに期待を寄せるアジア」を参照)。消費者はGSM(global system for mobile communication)方式あるいはCDMA(code-division multiple-access)方式を採用した第2世代、第2.5世代携帯電話機がより小型化され、バッテリ寿命が長くなることを期待している。携帯電話機の設計者にとっては、そうしたニーズを満たしながら新しいマルチメディア機能をいかに組み込んでいくかが課題となる。2時間使ったらバッテリが切れるような端末は誰も欲しがらない。
 新しいアプリケーションプロセッサを使えば必要なメディア処理機能を搭載できるが、消費電力が増える。新しいオーディオ・ビデオ機能が搭載されるということは再生時間が長くなることを意味するため、より効率的なオーディオアンプが必要となる。さらに、携帯電話機のオーディオ・ビデオ機能が成熟してくるに連れ、オーディオ品質と出力での競争が激しくなる。これらすべてを、決まった電力制約の範囲内で実現しなくてはならない。設計者はシステム設計のすべてのレベルでこれらの課題に取り組まなければならず、端末の心臓部であるデジタルSoC(system on chip)にもっぱら関心を寄せている。しかし、アナログ部分で解決できる問題もある。
 小型化を実現するため、設計者は一般にPMU(power management unit)を使って電源設計を簡素化する。PMUを使えば、複数の電源系統を必要とする場合でも最終製品の小型化が可能になる。しかし、マルチメディア機能の発達に伴ってコンパクト化と電力効率が求められるようになり、独立した電圧レギュレータを使う必要性がでてきた。マルチメディアに対応したアプリケーションプロセッサの電力要件をサポートするにはPMUでは弱すぎる。また、携帯電話機の開発サイクルが短縮化されてきて、PMUの出力がそれに追いつくまで設計者は待っていられない。結果として、独立した電圧レギュレータでモバイル端末に必要な電力を供給するしかない。
 従って、設計者は慎重に電圧レギュレータを選ぶ必要がある。全体のコストは別にして、電圧レギュレータの選択基準としては低ノイズ、低消費電力、小型化の3つが挙げられる。一般にはLDOレギュレータ(シリーズ電源)が設計者には好まれる。LDOレギュレータは設計が容易で、ノイズも少なく、応答が速い。しかしリニア制御では避けて通れない電力損失と発熱を最小限に抑えるため、専門家はLDOレギュレータを低電力アプリケーションか、出力電圧が入力電圧に近い場合にのみ使うよう推奨している。端末アプリケーションによく使われるリチウムイオン電池の出力電圧は3V〜4.2Vで、一般にアナログI/O回路が必要とする3.3Vまたは3Vの電圧を供給するにはLDOレギュレータが適している。LDOレギュレータは効率的とはいえないが、RF段などノイズに敏感な回路にクリーンな電力を供給できる。
 プロセス技術が微細化するに従ってマイクロプロセッサコアの電圧は着実に低下しつつある。SoCでは1.8V、1.5V、1.2Vでさえ普通になってきた。この電圧では、レギュレータの入出力電圧間の差が大きくなりすぎて効率が悪い。LDOレギュレータでそのように低い電圧をコアに供給しようとすれば、電力損失によってバッテリ寿命が大幅に削られてしまう。また、端末内部での放熱量が増え、結果的に製品の寿命が短くなる。
図1 MPEG-4プラットフォームには、電力効率が90%以上で放熱量が少ないDC-DC降圧コンバータが必要である。

 新しいプロセッサに理想的な電圧レギュレータは、シンプルでノイズの少ないLDOレギュレータではなく、電力効率が90%以上で放熱量が少ないDC-DC降圧コンバータである(59ページの図1)。適切な同期PWM方式の降圧コンバータであれば、微細プロセス技術で製造したチップに必要な低い電圧を供給できる一方で、I/O回路には高い電圧を供給できる。同期整流回路を内蔵した降圧コンバータであれば、外部ショットキーダイオードを使う必要がなく、最大出力電流600mA、0.9〜3Vのフル動作で90〜96%の電力効率を実現する。しかし同期PWM方式にも問題点はある。負荷が小さいと効率が悪くなる。携帯電話機ではアプリケーションプロセッサのほとんどの時間がスタンバイモードに費やされる。動作電力を減らそうとすると、マイクロプロセッサがDC-DC方式を低負荷モードに入れるため、電力効率が90%未満に低下する。長時間のスタンバイモードでの消費電力を減らすため、設計者はPFM(pulse frequency modulation)方式のコンバータを使いたいと考えるかもしれない。この種の製品では、スイッチング周波数が負荷の大きさに比例するため、全体的な効率性は高いままである。今日のコンバータのいくつかは、必要に応じて自動的にモードを切り替えることができる。
 電源サイズを小さくするため、ベンダーは降圧コンバータのスイッチング周波数を1〜2MHzにしようと試みている。スイッチング周波数の効果を実証するため、3つの類似コンバータを考えてみる。その1つはインダクタ(L)とキャパシタ(C)で構成された出力フィルタを使った1MHz降圧コンバータで、インダクタンスは10μH、キャパシタンスは10μFである。一方、1.5MHzでスイッチングする類似のレギュレータには、それぞれ2.2μHと10μFのLCフィルタが必要である。同様に、発振周波数3MHzでの最適化されたLCフィルタの値はそれぞれ2.2μH、4.7μFとなる。
 この比較から分かることだが、スイッチング周波数が高くなるほど必要とされるインダクタとキャパシタが小さくて済む。これは電子部品を小型化できることを示している。基板面積に制約があるマルチメディア携帯電話機の設計では、受動部品のサイズとコストを最小限に抑えるためにスイッチング周波数が高いコンバータを使うべきである。一般に同期降圧コンバータには3mm×3mmのSOT23-5業界標準パッケージが使われる。しかし、チップスケールパッケージやDFNパッケージなどの、より小さなパッケージであれば、より厳しいサイズ要件を満たすことも可能だ。
 アプリケーションプロセッサの電力供給にはDC-DC降圧コンバータが最適である。一方で、ノイズが低いLDOレギュレータは、入力電圧が2.8〜3.3VのRFに敏感なアナログ回路に適している。最終的には、さらに集積度を向上させることで基板面積を大幅に減らすことが可能となる。このためベンダーは、降圧レギュレータとノイズの低いLDOレギュレータを統合したパワーICを採用し始めている(図2)。
図2 ベンダーは、降圧レギュレータとノイズの低いLDOレギュレータを統合したパワーICを採用し始めている。


オーディオ再生の課題

 ポータブルマルチメディア機能を携帯電話機に搭載するにはオーディオアンプに関して問題が2つある。1つは、マルチメディア電話機では音楽やビデオを最低でも2時間連続して再生できなくてはならないということだ。マルチメディア電話機ではオーディオ再生時間の長さが選択基準の1つとなる。2つ目は、モバイル機器のオーディオ品質を家庭用オーディオシステムのそれに近づけなくてはならないということだ。ユーザーはバスブースト機能を持ち低ノイズで高出力のステレオオーディオを求めている。今日の携帯電話機にはClass AB(AB級)のオーディオアンプが使われている。典型的なClass ABのオーディオアンプは、THD+N(全高調波歪+ノイズ)が0.1%未満の高品質オーディオを実現する。これらのアンプはPSRR(power supply rejection ratio)も高く、Class ABアンプのリニア特性により基板上のRFシステムに干渉することもない。電力効率は低いが、ハンズフリースピーカや音声・着メロ再生など、短時間の低電力オーディオアプリケーションには広く使われている。
 しかし、モバイルメディアプラットフォームではMP3が一般的なアプリケーションになり、再生時間が数分から数時間に延びてきていることから、電力効率が低く放熱量が大きいClass ABでは要件を満たせなくなってきた。現在の新しい設計には代わりにClass D(D級)のオーディオアンプが採用されている。標準的な携帯電話機で、オーディオアンプの定格消費電力は100mW未満、最大出力電力は700mWである。典型的なClass ABのオーディオアンプとClass Dのオーディオアンプの効率性を比較してみると、50mWでのClass Dアンプの電力効率が80%であるに対し、Class ABではわずか20%である。100mW〜500mWの動作電力になると、Class Dアンプは安定して85〜90%の効率性を示すのに対し、Class ABは30〜60%にとどまる(図3)。
図3 Class Dのアンプが安定して85〜90%の電力効率を実現するのに対し、Class ABでは30〜60%にとどまる。


 電力効率が低いために高熱を発するClass ABのオーディオアンプは、飽和あるいは歪みを発生させることなく1W以上の出力電力を供給できるほど頑強ではないということになる。Class Dアンプはそのスイッチングモード動作により、オーディオ信号を効率的に増幅して高い出力電力を供給し、大音量のオーディオ再生を可能にする。8Ωのスピーカに対しては最大1.4Wを、1%未満のTHD+Nで出力できる。低い周波数のサウンドを生成するにはかなりの電力が必要となるため、特にスピーカの面積が小さい場合には、このアンプの電力が重低音の再生に役立つ。音楽やゲームのオーディオ再生では重低音を再生できることが重要なポイントである。
 MP3プレーヤには(そしておそらくは将来のモバイルメディアデバイスにも)4Ωステレオスピーカ付きの外部クレードルがよく使われる。これがオーディオアンプに関するもう1つの課題で、5V〜5.5Vの高い電圧でクレードルを動作させることで解決できる。ただしこの方法には、ステレオアプリケーションに必要な2つのClass Dアンプに安定して5Vの電力を供給するためのDC-DC昇圧コンバータが必要となる(図4)。
図4 DC-DC昇圧コンバータを使えば、ステレオアプリケーションに必要な2つのClass Dアンプに安定して5Vの電圧を供給できる。


EMIに関する注意点

 Class Dアンプは周波数一定のPWMスイッチングモードで動作する。つまり、近くにあるRF回路の動作に干渉するEMIを生成する可能性がある。RFシステムへのEMI干渉を防ぐ手段は2つある。1つは、Class Dアンプをスピーカの近くに置くことだ。ステレオアプリケーションの場合は、1つのステレオチップではなく2つのモノラルアンプを使う。そうすれば、普通は端末の両側にある2つのスピーカの近くにそれぞれアンプを配置することができる。この作業とは別に、設計者はフェライトビーズなどのEMIフィルタをアンプの出力に接続する必要がある。EMIフィルタは、オーディオ出力からの高周波スイッチング信号がRF回路に伝播される前に除去するバンドパスフィルタとして機能する。
 今や成熟市場と発展途上市場の両方で、携帯電話機の代わりにモバイルマルチメディア機器を普及させようとする動きが活発化している。この新しいモバイルメディア市場をにらみ、ベンダーは電源メーカーが追いつけないほどのペースでプロセッサをアップグレードし、チップセットを出荷し始めている。そのため、新しいモバイルメディア機器の設計者は、システム要件を満たすと同時に短期間で新型モデルを開発するために、独立した電源やオーディオ機器を使うほかない。
 最新の同期降圧コンバータは電力効率が高く、組み込みも簡単で、これを使えば設計者は低コストで小型システムを開発できる。同様に電力効率の高いClass Dのオーディオアンプを使えば、新しい市場に求められる長時間オーディオ再生が可能となる。またClass Dアンプの高出力電力により、MP3やテレビ機能、ゲーム機能に不可欠な迫力のあるサウンドを実現できる。
 
マルチメディアに期待を寄せるアジア
Margery Conner

 革新的な携帯電話機アプリケーションで世界を再びリードしているアジア市場では今、モバイルマルチメディアプラットフォームへの関心が高まっている。本記事の執筆者で、米ON Semiconductor社アナログローパワーマネジメント・ビジネスユニットの製品ラインマネジャーを務めるCrystal Lam氏によれば、現在韓国と中国で人気となっているMPEG-4対応の新型携帯電話機が、ストリーミング音楽やビデオを楽しめる初の電話機だという。「アジアでは携帯テレビももはや夢ではない。これらのデバイスを使えばストリーミングビデオやMP3音楽のダウンロードと再生が可能だ。アジアでは携帯テレビが現実のものとなりつつある」と同氏はいう。韓国で2005年5月に開始されたS-DMB(satellite-digital multimedia broadcasting)サービスにより、消費者は月額使用料を払えば端末でテレビ番組を見られるようになった。これに続き中国も同サービスを導入し、2005年11月には上海でDMB規格に基づく世界初のデジタルテレビ放送を開始した。ネットワーク事業者はデータ転送と月額使用料から収益を上げられるため、新しいマルチメディア電話機を手頃な価格で提供できるだろうとLam氏は予測する。
 既存のコンテンツプロバイダもモバイルメディア技術の発展に貢献している。S-DMBサービス開始から7カ月後に、韓国のテレビ局はT-DMB(terrestrial-DMB)規格に基づいた無料テレビ放送サービスを開始した。ネットワーク事業者はT-DMB対応電話機のプロモーションに乗り気ではないが、韓国Samsung社が7機種のT-DMB対応端末を発売し、韓国LG社はT-DMB対応のPDAを発売した。このPDAにはテレビ番組を1日当たり2.5時間表示できる液晶画面が付いている。どちらのデジタルテレビ規格が勝つかに関係なく、アジアの電話機メーカーは向こう18カ月でデジタルテレビサービス市場に参入するための準備を進めている。
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