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2006.2
米国で始まった
電力線ブロードバンド・サービス
データが正弦波に乗る

Maury Wright
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 BPL(broadband over power line)技術の支持者たちは、家庭には昔から最適なワイヤーが引き込まれているではないかと主張する。しかしBPLは依然として技術的な問題を抱えており、さらには今後予想される激しい規格競争をくぐりぬけ、アマチュア無線(ハム)愛好家からの反対にも対処していかねばならない。
 DSL対ケーブルの争いを見てきた多くの人にとって、ブロードバンド競争はもはや過去のことに思える。しかし、WiMaxなどの新しい方式が出現しているように、新しいブロードバンド技術が登場する余地はまだある。BPLの支持者は「電力網」がベストオプションだと主張する。BPL技術ならば、家庭や会社のどの壁にもある電気コンセントを利用して、どこからでもブロードバンドに接続できるメリットがあるというのだ。さらには、電力網を利用したスマートグリッドによって、電力メーターの自動読み取りやロードバランシング、エアコンなど消費電力の大きい家電製品の遠隔制御といったことが可能となり、インターネットサービスとして利用できるようになるという。そのほか、動画配信やVoIP(voice over IP)でさえ可能だと支持者たちは語る。しかし、BLPが導入されている例はまだ少ない。BPLを普及させていくにあたって解決しなければばならない問題を、ここでじっくり見ていくことにしよう。
 誰の話を聞くかによって、BPLは万能薬にも伝染病にもなる。2005年10月初め、米Communications Technologies社(ComTek)はバージニア州マナサス市と合同でプレスカンファレンスを開き、市全域でBPLネットワークサービスを提供すると発表した。その宣伝は誇大とも取れるものだった。ComTek創設者でCEOのJeseph Fergus氏は、カンファレンスのオープニングで次のように語った。「今日は、この国の歴史に残るこの素晴らしいイベントに皆さんをお迎えし、アメリカの技術史を変える画期的な偉業といえる世界初の市全域商用BPLネットワークサービスを発表することができ、大変喜ばしい。大げさではなく、マナサス市には米国内の他の市とはまったく違う方法でインターネットに接続できるという栄誉が与えられた」。
 一方で、このニュースに否定的な人々もいた。マナサス市民でエンジニア、そしてハム愛好家であるGeorge Tarnovsky氏は、「このBPLシステムは完全に失敗だ」という。Tarnovsky氏は、BPLシステムから放射される電磁波がハムに干渉するだけでなく、ハムや他のソースもBPLシステムに干渉するという。「このシステムには電磁波保護対策がまったくない」(Tarnovsky氏)。
 電力線を利用したデータ伝送は新しいコンセプトではない。HPA(HomePlug Powerline Alliance)は何年にも渡って電力線を利用した家庭内ネットワークを推進してきており、複数のベンダーから提供されているHomePlug 1.0という製品を使用すれば最大14Mビット/秒のデータレートを実現できるとうたっている(実際のデータレートは5M〜6Mビット/秒程度ではあるが)。発売されたばかりのHomePlug 1.0 Turboでは、最大85Mビット/秒にまでデータレートを上げている。その一方で、同グループは家庭向けの動画配信に着目し、データレート200Mビット/秒を実現する新しい仕様「HomePlug AV」にも取り組んでいる。この仕様はすでに完成しており、HomePlug AVをサポートするサンプルチップが2005年度末には登場する。
 しかしBPLでは、ブロードバンドのアクセスに電力網を使用する。家庭に電力を供給する電力線でブロードバンドデータも伝送するのだ。データは光ファイバやその他の高速ネットワークメディアで家庭の近くまで運ばれ、そこから電力網に乗り換えて家庭に到達するため、溝を掘ったり新しいワイヤーを敷設したりする必要がない(別掲記事「インフラに依存するBPLネットワーク」を参照)。おそらく、BPLのユーザーとなるのはDSLもケーブルも利用していない消費者だろう。そしてBPLが既存の通信事業者と競争するようになるかもしれない(別掲記事「BPLの経済性を考える」を参照)。
 データを電力線につなげる方法としては2つの選択肢がある。BPLにLV(Low Voltage:低電圧)電力線のみを使用しているサービスプロバイダもある。通常、LV電力線を使用する場合は、6〜8戸の住宅に割り当てられているトランスでデータが電力網に送られる。このトランスとBPLブリッジまたはルーターは電柱に取り付けられるか、電力線が地中に埋設されている場合は地上のキャビネット内に収納される。LV BPLは一般に110Vまたは220Vのシステムで利用できる。一方で、電力網のMV(Medium Voltage:中電圧)部分からデータ伝送するサービスプロバイダもある。この方法では、必要となる光ファイバや、その他高速メディアの長さが短くてすむ。MVアーキテクチャは電力会社や地域によって大きく異なるが、これらの電力線上の電圧は5k〜30kVである。通常、ブロードバンドストリームは各トランスでMVからLVに連結しなくてはならない。
 BPLと家庭内電力線ネットワークは両方とも、DSLと802.11ワイヤレスLANに使用されているのと同じOFDM(直交波周波数分割多重)技術を使用している。例えば、HomePlug 1.0では、4.5M〜21MHzの帯域内で均等に分割された84のOFDMサブキャリアが使われている。
 残念なことに、競合しているBPL方式に共通しているのはこのOFDMだけだ。現在、IC企業を中心に組織された3つの主なBPL陣営がある。長年にわたって電力線ネットワークを推進してきた米Intellon社は、HPA設立当初から業界をリードしている。Intellon社に続き、米Conexant社もHPAチップ製品を提供しており、米Arkados社もつい最近市場に参入した。Home Plug 1.0は家庭内ネットワーク向けに設計されたものだが、メーカーはHome Plug 1.0のチップをLV BPLシステムに採用しようとしている。
 スペインに拠点を置くDS2(Design of Systems on Silicon)社もHPAに参加していたが、技術ロードマップに関する意見の不一致が原因で脱退した。しかしDS2社には有力な製品がある。同社では、データレート200Mビット/秒の家庭内ネットワークとBPLネットワークの両方に対応したチップを製造している。第三のプレーヤとしてはイスラエルのMain.net Communications社がある。しかし、Main.net社製のチップを採用しているBPLサービスはあるものの、同社は財政難に陥っているようだ。同社の関係者がEDN誌のインタビュー要請に応じることはなかった。

規格競争の陰鬱

 HPAが規格団体かどうかは議論の余地があり、欧州組織Opera(Open PLC Research Alliance)はDS2社の技術を採用したが、規格をめぐる争いは依然として平行線をたどっている。IEEE P1901委員会は、BPLと家庭内電力線ネットワークの両方に取り組んでいる。
 仏Schneider Electric社のJean-Philippe Faure氏と、米Current Communications Group社のJim Mollenkopf氏が同委員会の共同委員長を務めている。BPLサービスプロバイダのCurrent Communications社と、BPL機器ベンダーのCurrent Technologies社は、両方ともCurrent Communications Groupの子会社だ。今やCurrent社がHomePlug陣営であることは明白であり、Schneider社はDS2社側に傾くと思われる。
 しかし、Faure氏とMollenkopf氏には、コンセンサスを確立し、ベストな技術を公平に開発できる環境を作るという義務がある。Current社のチーフアーキテクトであるMollenkopf氏は、共同委員長の立場で、「私達は最も優れたソリューションを選ぶだけ」と述べている。同氏によれば、BPLは現在LVに主軸を置いているが、「おそらく、徐々にMVにシフトしていくだろう」という。同グループが求めているのは、100Mビット/秒以上でデータを伝送できる技術なのだ。
 Mollenkopf氏は、P1901委員会の中で3つの業界コンソーシアムの活動が活発であることを認めている。DS2が主要メンバーであるUPA(Universal Powerline Alliance)、HPA、そしてCEPCA(Consumer Electronics Power-line Communication Alliance)だ。家庭内ネットワークに重点を置くCEPCAは、松下電器産業をはじめとする民生機器メーカーが推進している。Mollenkopf氏によると、Main.netは委員会に参加していない。

規格が問題?

 いずれにしても、IEEEからすぐに規格が発表されることはない。IEEEは2005年夏に1つの案を検討し始めたばかりで、Mollenkopf氏は2006年末までに規格が承認されることを望んでいるが、同時にその予定が楽観的なものであることを認めている。多くの点で、このプロセスは複数の方式が混在していた他の通信技術と変わりないのだ。たとえば、DSLの初期の頃には、市場シェアを争っていた技術が少なくとも3つあった。プレーヤが規格問題に奔走している間にベンダーは互換性のない製品を出荷し続け、最終的には規格淘汰によって市場の受ける傷を最小限にとどめた。
 しかしBPLは基本的に他のブロードバンド技術と異なる。DSLやケーブルの場合は、ブロードバンドアクセスネットワークが家庭内ネットワークから完全に切り離されている。それは、家庭内ネットワークにイーサネット、802.11、HomePlugのどれが使用されていたとしても関係ない。BPLは、家庭内ネットワークに電力線が使用されていても機能しなくてはならない。アクセス用ネットワークと家庭内ネットワークを切り離すゲートウェイもない。Mollenkopf氏は、「アクセス用と家庭内の両方に低電圧電力線を使用できるかどうかが最大のポイントだ。電力線にははっきりとした境界点はないのだから」と言う。
 これが、BPLの最大の強みであり、アキレス腱でもある。HPAは「ブロードバンド・コンセント」のコンセプトを推進している。そこには、すべての電源コンセントからブロードバンドに接続できるというビジョンが描かれている。ゲートウェイもルーターもいらない。自室でもHomePlugモデムを使ってゲームコンソールを接続できるし、リビングでもHomePlugモデムを使ってセットトップボックスを接続できるし、オフィスでも別のHomePlugモデムを使ってパソコンを接続できる。電力会社のCinergy社と提携しているCurrent Communications社は、北米最大のBPLサービスの1つをシンシナティ地域で展開している。Current社の製品にはHomePlug 1.0準拠チップが採用されており、同社は「ブロードバンド・コンセント」モデルに基づいたBPLを販売している。消費者はHome Plug 1.0製品を購入して、各パソコンまたは各インターネット接続機器にインストールしなくてはならない。この作業はユーザー自身が行なわなくてはならず、それらの製品は大手小売店でも30米ドル以上で販売されている。BPLは対称帯域型であり、各モデムはトランスでブリッジ/ルーターと直接通信する。HPAとCurrent社は、この方式のほうがケーブルやDSLよりもパフォーマンスが高いと主張している。Current社が米オハイオ州シンシナティ市で提供しているサービスの月額利用料は、ユーザーが所有するモデムの台数に関係なく、1カ月27米ドルである。
 「ブロードバンド・コンセント」のデメリットの一つにセキュリティの問題がある。物理的に一体化されたアクセス用ネットワークと家庭内ネットワークとの間に何らかの通信規格が絶対に必要である。たとえば、家庭内ネットワークを介してファイルを共有したいとき、2台のコンピュータを接続する電力線が、インターネットへの接続にも使用される。つまり、そのファイルは、隣家とも共有しているネットワーク上を移動することになる。ケーブルモデムにも同じことが言えるかもしれないが、ケーブル利用者のほとんどはケーブルモデムをファイアウォール/ルーターに接続しているため、家庭内ネットワーク上のデータ転送はファイアウォールの内側で発生する。HPAのシナリオでは、2台のHomePlugモデム間のデータ転送を保護するのは内蔵の56ビットDES(data encryption standard:データ暗号規格)のみであるが、そのうちにより強力なセキュリティ対策を講じるだろう。
 アクセス用と家庭内用で互換性のある規格として、HPAは両方に同じMAC(media access controller)層とPHY(physical)層を使用する決定を下した。HPAは、2006年半ばの導入を予定しているHomePlug BPLの仕様に、すでにHomePlug AVで採用されているMACとPHYを使用すると発表した。
 アクセス用と家庭内用の物理的なネットワークを一本化するという考えに誰もが賛同しているわけではない。たとえば、米Motorola社は、HomePlug 1.0チップを搭載したPowerLine LVというブランド名のBPL機器を提供している。主任エンジニアのDick Illman氏は、「当社のモデルは依然としてDSLモデムやケーブルモデムと非常によく似ている。一家庭につき1クライアントというのが我々の考えだ」と述べている。Motorola社ビジネスディベロップメントマネジャーのMary Ashe氏は、ユーザーの大半が802.11またはイーサネットを家庭用ネットワークとして使用すると予想している。
 Motorola社はHomePlugチップを使っているが、暗号化・認証機能を強化している。したがって、Motorola方式のBPLを採用したユーザーは、小売店で売られているモデムを買うのではなく、サービスプロバイダから提供されるモデムを使用しなくてはならない。つまり、より高価なモデムを買わされるわけだが、Ashe氏はそれでも100米ドルもしないと言う。システムは依然としてユーザーが自分でインストールしなくてはならない。Illman氏は、Power Line LVモデムはHomePlug家庭内用ネットワークと共存すると主張するが、帯域幅の問題がある。CSMA/CA(carrier sense multiple access with collision avoidance)MAC方式では、両方のネットワークから電力線にアクセスできる。

アクセス用と家庭内用に分離する

 一方のDS2社は、アクセス用と家庭内用でネットワークを切り離す考えだ。同社の創始者であるVictor Dominguez氏は、「アクセスネットワークとどのように作用させるかを考えもせず、家庭用の技術を開発することは不可能だ」という。アクセス用と家庭用で同じMAC層とPHY層を使用するHPAの計画については、「PHYチャンネル、ネットワークトポロジ、ネットワークパフォーマンスのどの観点から見てもまったく理解不可能である」と語る。
 DS2社は自社で使用するMAC層とPHY層の情報を明かしたがらないが、どの電力線ネットワーク規格団体でも共存層を最初に検討すべきだとDominguez氏は考えている。UPAではすでにそうした層を確立していると同氏はいう。さらに、ETSI(欧州電気通信標準化協会:www.etsi.org)が電力線通信規格の策定に取り組んでおり、IEEE P1901グループはETSIグループと連絡を取り合っている。HPAが却下した共存層を、2006年初めにはETSIグループが規定するだろうとGominguez氏は語る。IEEEのMollenkopf氏は、「解決の糸口は、汎用のシグナリングプロトコルにある」と述べている。
 規格があってもなくても、BPLの動きは今後益々活発になってくるだろう。もう一つの業界グループ、United Power Line Councilは、BPL導入マップをWebサイトで公開しており、北米でのユーザー数は一部が試用ユーザーであることを考えても驚異的な数字を示している。そしてヨーロッパはその数字をはるかに上回っている。参加電力会社には、Consolidated Edison社やDuke Power社といった実績のある企業も含まれている。さらにEarthlink社をはじめとするISP(internet service providers)も、インターネットバックボーンを提供するパートナー契約を結びつつある。

ハムとの干渉問題

 しかしBPLの展開には世界中のハム愛好家が抗議している。一部のBPLでハムとの干渉が発生しているためだ。BPLシステムが、無線通信に干渉するエネルギーを放射することは言うまでもない。多くの地域で見られる架空電力線は保護されておらず、とりわけMV線でデータを伝送している場合にはそれが顕著だ。BPL業界には、ハム愛好家を、不満を言うことしか知らないおかしな人だと切り捨てる者もいる。そして、それら「おかしな人」のなかには、BPLが緊急通信の邪魔をすることで大災害が起きると主張する者もいれば、宣伝文句にあるような音声・データ・動画配信の世界を実現できるような技術ではないと指摘する者もいる。幸い、どちらの側にも道理をわきまえた人たちはいる。
 ハム愛好家たちを弁護しているのが米アマチュア無線協会(National Association for Amateur Radio)だ。このグループはまだ、旧グループ(www.arrl.org)のARRL(American Radio Relay League)という名称を使っている。ARRL研究所所長のHd Hare氏はBPLシステムの試験に携わり、HPA陣営やMotorola社をはじめとする企業と協力してBPLの運用に取り組んでいる。「私の目標はBPLを成功させることだ。BPLシステムのすべてが干渉をひき起こすわけではない」とHare氏はいう。
 BPLシステムの運用には、無認可サービスについて規定したFCC(Federal Communications Commission:連邦通信委員会)規則パート15が適用される。基本的にこの規則では、そうした無認可サービスが他の認可無線サービスに干渉してはならないことになっている。特に、緊急サービス、警察、軍事などに割り当てられている周波数の使用が固く禁じられている。2004年、FCCはBPLシステムについての指針を発表した。その詳しい内容については、Conformity誌に掲載されているFCC規則・指令に関する論評を参照されたい*1)
 Hare氏によると、DS2社もHome Plugチップベンダーも干渉を最小限に抑えるべく努力しているようだ。チップメーカーは干渉をなくすため、ハムに使用される帯域からBPLのシグナルを遮断する「ノッチ」を実装している。「ノッチ」という言葉は通常はアナログフィルタに使われるため、やや誤解を招くかもしれない。OFDMシステムでは、BPLベンダーは単純に、ハムが使用する周波数帯域内のサブキャリアを使用しない方法をとっている。
 Intellon社のHomePlugチップにはノッチが実装されている。DS2社は、ユーザーが動的に再設定できるプログラマブルなノッチを提供している。HomePlugまたはDS2社のチップを搭載したシステムは比較的静かだとHare氏はいう。ノッチが付いている場合、架空電力線から発生するノイズレベルは静音より15dBほど高い程度だ。そのノイズは地中の電力線では測定できないだろう。
 BPL業界の多くの関係者は、ノッチ付きシステムを静かだと考えている。しかしハム愛好家には、干渉の問題で悩んできた長い歴史がある。テレビに干渉すると隣人から苦情を言われることが多いのだ。Hare氏が指摘するように、測定される干渉値が合法であろうとなかろうと、乱れたテレビ画像を見せられる人たちが不満を抱いていることに変わりはない。だからハム愛好家たちは15dBのノイズさえなくして欲しいと考える。
 Hare氏は、Motorola社が自社の電力ラインLV機器で干渉をなくすことに成功しているという。Motorola社が市販のHomePlugモデムを利用せずに自社製の電力線モデムを提供している理由の一つが干渉問題なのだ。Motorola社のIllman氏は、一部のキャリアがOFDMシステムから撤退したとはいえ、相互変調が依然としてその帯域内のノイズフロアの原因となっていると指摘する。そのため、Motorola社は自社のモデムにフィルタを追加し、それらの周波数を遮断することにした。結果、干渉波を放射することも、干渉波を受けつけることもないシステムができあがった。Hare氏はMotorola社のシステムを丹念に試験して、これが事実であることを確認した。
 とはいっても、ARRLの最大のターゲットは、わずかなノイズしか出さないノッチ付きシステムではなく、ノッチがないシステムなのだ。Hare氏は、DS2方式を採用している一部のサービスプロバイダがプログラマブルノッチに対応していないと指摘する。また、Main. netベースのシステムにも、問題のある周波数をカットできる機能がなく、何らかの方法でフィルタを手動設定しなくてはならないものがあるようだ。
 バージニア州マナサス市はMain.net技術に基づくBPLを展開しており、現地のハム愛好家によればノイズが大きいという。Tarnovsky氏は、現地のハム愛好家グループで市内を調査した結果、ハムの信号強度測定器がS9 +20〜40dBの値を示したという。こうした測定器はS0からS9の等級を使用しており、S3〜S5はノイズの少ない環境だと考えられている。S9を超える値は等級の範囲にない。
 マナサス市のディプロイメントには基本的に初代のMain.netチップが採用されており、問題の周波数をカットするようにプログラムすることはできないとTarnovsky氏はいう。Main.netはハム愛好家たちと話し合うためにエンジニアさえ派遣した。Tarnovsky氏によると、ComTek社はノッチの導入を約束したが、ComTek社の従業員は会社がまだそうしていないことを認めている。ComTek社の経営陣は、この問題に関するEDN誌の問い合わせに答えてくれなかった。
 2005年10月中旬、ARRLはFCCに対し、BPLシステムの使用中止をマナサス市に指示するよう正式に申請した。プレス発表時にはARRLはその回答を待っている状態だった。Tarnovsky氏は、マナサス市のBPLシステムにはノイズをフィルタリングする機能がなく、まったく信頼性に欠けると主張する。市内を移動しながら通信していたハム愛好家がBPLシステムの一部を停止させ、リセットする必要があったというのだ。マナサス市民はこれからユニークな方法でインターネットに接続できると述べたComTek社のFergus氏の言葉はそういう意味だったのだろうか?
 
インフラに依存するBPLネットワーク

 BPL採用の成功は、依然としてある種の高速バックホールネットワーク(中電圧から低電圧線まで)に依存している。LV(低電圧)BPLネットワークでは、トランスから家庭までの電力線のみがデータストリームを伝送する。中電圧システムでは、データを伝送する電力線の長さがもっと伸びるが、そのようなシステムでもどこかでテレコム会社のインフラにリンクしなくてはならない。
 バージニア州マナサス市が過去5年間にわたって整備してきた光ファイバ網が、大きな話題になった市全域のBPLの採用を支えている。同市のBPLネットワークは中電圧と低電圧の両方の電力線を使って、変電所から顧客にデータを伝送しているのだ。
 一方でMotorola社はLVのみのBPLを推進している。LVシステムでは、サービスエリア内に敷設しなくてはならない光ファイバの距離が長くなる。しかしMotorola社は自社のCanopyという固定ワイヤレスソリューションでバックホール問題を解決している。Canopyは無認可周波数帯域やポイントツーポイント、あるいはポイントツーマルチポイントのトポロジで使用できる。このサービスはWiMaxと似ており、Motorola社は今では仕様が安定しているWiMaxの規格にCanopyを合わせると思われる。電力ラインLVシステムでは、電柱のトランスに取り付けられ、LV BPLブリッジの役割を果たすCanopyアンテナとレシーバが使われる。
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BPLの経済性を考える

 BPL(broadband over power line)を取り巻く議論のほとんどは技術的なものだが、今さら新しいブロードバンド接続方式が必要なのかという疑問があってもおかしくない。事実、WiMaxのような固定ワイヤレス方式についても同じ疑問の声がある。しかし、WiMax陣営はDSLやケーブルの既存市場が存在しない発展途上国への展開を狙うこともできる。おそらくBPLもこれらの地域で展開されるだろうが、発展途上国の電力網はBPLに利用できるだけの信頼性がない。それならば、BPLはどれだけのコストをかけて、どこで勝負しようというのだろうか?
 長期的に見れば、BPLの成功はスマートパワーグリッドで何を実現できるのかにかかっている。電力メーターの自動読み取りだけでも電力会社は莫大なコストを浮かすことができるし、その分インターネットサービスに費用を投じることができるだろう。カリフォルニアなど夏になると電力不足が問題になる地域では、顧客の電化製品を遠隔制御することができれば大幅なコスト削減につながるかもしれない。
 新進ICベンダー、米Arkados社のOleg Logvinov社長兼CEOは、「BPLそれ自体が単独の技術として成功するということには懐疑的だ」と述べている。しかし、電力業界出身のLogvinov氏は、BPLが成功する理由をいくつでも挙げることができる。電力会社は電力線ネットワークを使って予防保守を行い、電力網のどこで配電ロスが発生しているのかをより早く把握できるようになるだろうと彼は言う。最終的には無効電力を管理してエネルギーを節約できるようになるだろう。「配電を最適化するだけで10%以上の節約になる」とLogvinov氏は語る。
 他のプレーヤは、インターネットサービスだけでもBPLには収益性があると考えている。Motorola社ビジネスディベロップメントマネジャーのMary Ashe氏は、「純粋に収益の観点から見ても、機器のコストから見ても、費用対効果は非常に大きい」と言う。
 例として挙げられる主要BPLサービスには妥当な価格が設定されているように思える。バージニア州マナサス市全域をカバーしているComTek社のBPLサービスは、DSLやケーブルと接戦を繰り広げるだろう。ComTek社はサービスの月額利用料を29.95米ドルに設定している。キャリアを乗り換えて長期契約を結ぶ気があるなら、もっと安いDSLサービスやケーブルサービスを見つけられるかもしれないが、それにしてもこのComTek社の価格は魅力的である。同社のBPLサービスはすでに1万2500世帯、2500社に導入されており、現時点での有料ユーザー数は700件に上っている。Current Communications社のシンシナティ市でのサービス利用料は月額27米ドルだ。
 ComTek社のケースはインターネットサービスだけではない。マナサス市の電力会社は、信号の制御、変電所遠隔監視カメラの接続、停電の自動検知にスマートグリッドを利用している。同市では電力メーターの自動読み取りにも乗り出そうとしている。
 しかし、BPLはケーブルやDSLにはない問題に直面している。BPLシステムにはトランス部分にブリッジ/ルーターが必要である。一般的なトランスでサービスを提供できるのはせいぜい6〜8世帯だ。インターネットサービスを利用するのが一世帯だけなら、ブリッジは高くつく。ケーブルやDSLだと、装置の利用範囲をそんなに狭める必要がない。実際、ケーブルやDSLのサービスプロバイダは、ユーザー数が少なくて投資分を回収できないと判断すればサービスを提供しない。おそらく、BPLが囲い込めるのはこうしたサービスを受けられないユーザーだろう。しかし、他のブロードバンドプレーヤが手を出せないような顧客にサービスを提供できるほどの資金的余裕がBPLサービスプロバイダにあるだろうか?
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用語解説 / 会社情報
*1)
Ramie, Jerry, “Review of FCC Report & Order 04-245 on Broadband Over Power Lines(BPL),” Conformity magazine, August 2005, www.conformity.com/0508/0508review.html.
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