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2005.11
1チップ化により
240MHzで100万円を割る
ファンクション・ジェネレータ

手軽な万能信号源として、設計・製造・教育等の現場で広く使用されてきたファンクション・ジェネレータが、最近のデジタル信号処理技術と半導体技術の進歩によって、操作性や性能が向上している。これまで高価な信号発生器でしか対応していなかった240MHzの正弦波を発生できるコストパフォーマンスに優れたモデルも登場した。テクトロ二クス社の新製品AFG3000 シリーズを例に、その最新技術を解説する。
酒井良一 日本テクトロ二クス プログラム・マネジャー、Tektronix社フェロー
岡田信孝 日本テクトロ二クス プロダクト・マーケティング・マネジャー
図1 AFG3000シリーズ 価格は20万5000円〜97万8000円(税別)
図1 AFG3000シリーズ 価格は20万5000円〜97万8000円(税別)
 従来のファンクション・ジェネレータは、純粋なアナログ回路技術で設計され、安定度や精度に関しては満足できるものではなかった。近年では、ダイレクト・デジタル・シンセシス(DDS)技術を用いて安定度や分解能が向上した上に、任意波形発生機能が追加され、さらに便利になったが、半導体技術やデジタル技術、通信技術の進展に伴い、ファンクション・ジェネレータにも更なる性能の向上が求められている。これらの要求を満たすため、ファンクション・ジェネレータに要求される信号発生の大部分の機能を1チップに収めた、ジェネレータ・オン・チップ(GoC)と呼ばれるCMOS ASICを開発した。これにより、従来は高価な信号発生器でなければ得られなかった性能をローコストで実現している。AFG3000シリーズは6機種からなり(図1、表1)、最上位機種では240MHzの正弦波を発生できる。中位機種は、価格、周波数、振幅、オフセット電圧等もっとも使いやすい機種である。下位機種では、普及価格を設定している。従来機種に比べ、いずれの機種においても、任意波形ジェネレータとパルス・ジェネレータの機能が大幅に改良されている (DDSに関してはEDN Japan 2005年9月号 pp.71〜75参照)
表1 仕様
表1 仕様


使いやすさは重要な性能

図2 操作を簡単にする表示画面
図2 操作を簡単にする表示画面
図3 付属の波形作成ソフト「Arb Express 2.0」の画面例
図3 付属の波形作成ソフト「Arb Express 2.0」の画面例
 ファンクション・ジェネレータに求められる機能は年々複雑になってきた。ファンクション・ジェネレータはオシロスコープと共に使用されることが多いが、オシロスコープと比較すると使用頻度が低いため、操作の習熟に時間が取れず、結果的に機能を十分に活用できないケースが多い。こうした課題に対し、例えばAFG3000シリーズは、性能や機能の向上は当然のこととして、ユーザー・インターフェースにおいては直感的に操作でき、あまり操作の学習の必要がないことを目標に設計されている。既存のジェネレータ製品のユーザからは、操作性を良くして欲しいという要求が数多く寄せられており、大きな液晶画面や専用ボタンを配置したフロント・パネルを採用して操作性の向上をはかっている。
 例として、正弦波をあらかじめ用意し、ある任意波形で振幅変調するような、従来の機種ではメニューの階層をたどって設定する必要のあった比較的複雑な出力設定も、以下のような簡単な操作で実現できる(図2)。
  • 変調ボタン(フロント・パネル)を押す
  • 変調波形状(画面横のベゼル・ボタン)を押す
  • ノブでUser1(任意波形の名前)を選択
  • Ok(画面横のベゼル・ボタン)を押して決定
  • Output On(フロント・パネル)を押して信号出力
 このような操作性の向上は、単に使い勝手がよくなったというだけでなく、今まで測定器の操作方法の習熟に費やしていた時間を、実際の測定に割り当てることができるということを意味し、測定器の使用効率の向上と製品開発期間の短縮につながる重要な要素である。さらに、フロント・パネルを始め、メニューおよびヘルプが日本語でも表示でき、日本語マニュアルを読まなくても使用できる。

具体的な使用例

 超音波アクチュエータや小型センサーなど、MEMS関連デバイスの駆動では、正弦波やパルスなどの比較的単純な波形に、必要に応じて変調をかけるためにファンクション・ジェネレータが使用されている。これらのデバイスでは、XY2軸での制御や、位相が90°ずれた正弦波(SinとCos)を使って制御するなどの用途で、2チャンネルの信号が用いられることが多い。2チャンネル出力機能およびチャンネル間の位相制御の機能は、重要な要素である。AFG3000シリーズには2チャンネルモデルも用意され、チャンネル間の位相を0.01°の分解能で可変することができる。また、グラフィック表示によって、視覚的に位相差を確認しながらの設定も可能となっている。
 さらに、対象となるデバイスが物理的に小さくなるほど高い周波数の信号が必要となってくるので、AFG3000シリーズの持つ最高240MHzという出力周波数はこれらの分野で有効である。

波形作成・ダウンロードも簡単

 AFG3000シリーズは、本体に任意波形の作成機能を持ち、単純な波形作成や簡単な変更ができる。複雑な任意波形を作成するには、Microsoft WindowsPC上で動作する、付属の波形作成ソフトウエア「ArbExpress 2.0」を使用する(図3)。任意波形の作成方法としては、標準波形の組み合わせ、数式入力、シミュレータのデータ読み込み、オシロスコープのデータ取り込み、複数波形の演算などの方法がある。ArbExpress2.0は、これらの編集作業を一つのソフトウエアで行うことができる。作成した任意波形は、USB/LAN/GPIBインターフェース経由でAFG3000シリーズに転送することができる。また、AFG3000シリーズはUSBメモリーをサポートしているので、インターフェースを用意することなく、任意波形発生機能を活用することが可能となっている。さらに、従来機では、多種類の波形を選択して出力する場合、PCからGPIB等のケーブルを介してファンクション・ジェネレータ内部の波形メモリーを入れ替える必要があったが、AFG3000シリーズでは、USBメモリーを拡張メモリーのように使用できるので、多種類の波形を切り替えて使う場合の操作が簡単である。

信号発生回路を1チップに

 ここではGoC(Generator on Chip)について説明する。GoCは、性能向上とコストダウンを実現するため、信号発生の大部分の機能をデジタル化して1チップにまとめたものである。GoCでは、波形メモリー、波形データ発生、加速機能およびD-Aコンバータを1チップにまとめることにより、サンプルレートが2Gサンプル/秒で電圧分解能は14ビットを実現している。従来の個別メモリーを使用すると、メモリーのデータを加速するために大量のメモリーと高価なICが必要になるため、ローコスト、ローパワーでは実現不可能である。高速なサンプルレートにこだわったのは、品質の良い信号を得るには、出力信号周波数に比較して十分に高いオーバサンプリングが必要なためである。
 図4に、GoCのブロック・ダイアグラムを示す。若干の周辺回路や出力アンプ回路を除いて、信号発生の大部分が1つのASICに収められている。GoCは、機能的には高分解能な分周器に似ており、発生する周波数の安定度は基準クロックの安定度で決定される。GoCは、10MHzの基準クロックを100逓倍した1GHzクロックで動作し、安定度の高いTCXOを基準として用いることで1ppmの安定度を得ている。
図4 GoC ブロック・ダイアグラム
図4 GoC ブロック・ダイアグラム

 GoCの要は、デジタル・データを出力信号に変換するD-Aコンバータである。14ビットに相当する1万6384個の電流源アレイを、クロック1GHzの立ち上りと降下を用いて切り替えるシンプルな構造により、サンプルレートが2Gサンプル/秒で、14ビットの電圧分解能を達成している。波形のデータ生成は、波形生成ブロックで行う。このブロックは8セット用意されており、それぞれが250MHzで動作し、DDS技術で波形メモリーからデータを生成し、デコード後に後続のマルチプレクサ部で8倍に加速されてD-A変換されている。
 正弦波や任意波形等は、フェーズ・アキュムレータ(位相積算器)で波形メモリーのアドレスを発生させ、波形データを読み出している。パルス波形においては、立ち上り部分、パルス上部、降下部分、パルス下部の4つの部分に分け、各部のデータの読み出し速度をコントロールして、パルス幅や立ち上り/降下時間が独立可変なパルス波形としてデジタル的に発生させている。従来では、サンプルレートが不足していたため、正弦波発生後、コンパレータを使って発生させるか専用回路を用意する必要があったが、波形メモリーの中味は書き換えていないので、連続的に可変できる。
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 また、ノイズ波形は専用のランダム・データ発生部を8セット設け、それぞれが全く別のランダム・データを発生して8倍加速し、最後にD-A変換してノイズ波形を発生している。したがって、オシロスコープで観測した場合、ノイズ波形が静止して見えるようなことはない。ノイズは、波形データにデジタル加算し、信号のS/N比を変えられるようにしている。
 ファンクション・ジェネレータにとって、トリガー動作は重要な機能である。クロック動作しているシステムが、クロックと非同期のトリガーで動作を開始する場合、一般的には1クロックのトリガ・ジッタが発生してしまう。このことが、時にはパルス発生等で致命的な欠陥になる場合がある。GoCでは、タイム・インターポレータ(時間補間)部において、250MHzクロックと外部トリガー信号との時間関係をほぼ10ps分解能で測定し、トリガーごとに補正を行い、トリガーから波形発生までの時間を一定に保つことでこの問題を解決しており、パルス・ジェネレータとしても充分使用でき、本器の利用の幅を広げている。
 また、AFG3000シリーズでは、出力信号をオシロスコープで観測する場合に便利なトリガ・アウト信号が出力できる。従来では、出力信号をコンパレータで発生させていたが、低周波数でのジッタ発生や、複雑な波形が発生できない等、性能の限界があった。GoCでは、トリガ・アウト部で波形の開始点と250MHzクロックとの時間関係から、波形の周期ごとに動的に出力可変ディレイを動作させて、出力波形に同期したトリガ・アウト信号を得ている。
 さらに、変調機能もデジタルで実現している。外部変調入力は、外付けA-Dコンバータでシリアル・データに変換後、GoCに入力される。AM変調ではAMジェネレータ部で変換され、波形データと掛け算されてAM変調波形が得られる。AMジェネレータ部では、内部変調用の波形発生機能も含んでいる。FM/PM/SWEEPジェネレータ部も同様にして、フェーズ・アキュームレータ部に変調信号を供給し、周波数、位相変調、掃引信号を得ている。これらのGoC制御には、CPUからのシリアル信号が使用されている。
 AFG3000シリーズの直近の製品開発の方向性としては、ユーザからのフィードバックをもとに、使い勝手および性能の改善を考えている。将来に関しては、安定してロー・コストなCMOS0.18μmプロセスで設計されているGoCを、微細化プロセスを用いて出力信号をさらに高品質にすることである。具体的には、メモリー長の増加、サンプルレートの増加およびミックスド・シグナルICに見られるデジタル・ノイズの減少を目標と考えている。

 
 

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