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2005.11
周波数帯域でしのぎを削る
WiFiとBluetooth

BluetoothとWiFiが衝突しそうである。
市場ではなく、周波数帯域で。
Richard A Quinnell
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 WiFi(Wireless Fidelity)のIEEE802.11b/gプロトコルに準拠した無線LAN(Local Area Network)がパソコンやノートPCで一般的になってきており、さらにPDA(Personal Digital Assistant)等の携帯型データ端末にも導入され始めている。一方では、あらゆる携帯型システム・アプリケーションのヘッドホンやマイクロホンにBluetoothが無線シリアル・ケーブルとして採用されつつある。これらが市場で競合することはなさそうだが、同じ周波数帯域を共有していることや、設計において帯域共有への考慮が不十分なことなどから、今後問題が起きる可能性がある。
 この2つの無線通信プロトコルは、産業、科学、医学用の機器に用いられている2.40GHzから2.48GHzの周波数帯域「ISM RF(Industrial, Scientific, Medical Radio Frequency)帯域」で動作する。WiFiは各22MHz幅の重複した12チャンネルの1つを使用するのに対し、Bluetoothは、帯域内に均一間隔に置かれた1MHzの79チャンネルの周波数ホッピングを用いる。その結果、どちらのプロトコルを使用しても、プロトコル間干渉の可能性があり、両者のデータ・スループットを低下させてしまうかもしれない。
 この干渉の影響を明らかにするため、米Texas Instruments社は2000年に一連のテストを実施し、WiFiとBluetoothについて、他方から干渉がある場合のスループットを測定した。その結果、干渉を起こす送信機と干渉を受ける受信機間の距離が、干渉に大きく関係することが明らかになった(図1)。
図1 Bluetooth/WiFi機器間の距離と干渉の相関
図1 Bluetooth/WiFi機器間の距離と干渉の相関
(a)Bluetooth動作時には常にWiFiのデータ転送速度が低下する。特にBluetoothの送信機が近くにある場合には影響が大きい。
(b)一方、Bluetoothは、WiFiの送信機が近くにある場合を除き影響が少ない。 (出典:米Texas Instruments社)

 WiFiの場合、Bluetooth送信機との距離が10mあれば、短距離のWiFi通信への影響は最小限にとどまり、通信距離が長くなるほど影響が大きくなる。ノートPCのPCMCIA(Personal Computer Memory Card International Association)カード・スロットが干渉を起こす送信機と隣接している場合、その距離が2cmになることがある。このような場合にはさらに深刻な影響がある。WiFi通信は短距離なもの以外不可能になってしまうのだ。
 Bluetoothの場合の影響はWiFiとは異なる。10m離れていればWiFiがBluetoothに与える影響はその通信距離に関わらず最小限ですむ。一方、WiFi送信機が2cmの距離にある場合、Bluetoothのスループットは短距離通信であっても大幅に低下し、通信距離が長くなると通信不能になる。
 この影響を緩和するため、Bluetooth陣営は干渉を自動的に排除することのできるAFH(Adaptive Frequency Hopping:適応型周波数ホッピング)技術を開発した。AFH技術は、干渉が起こっているチャンネルをホッピング対象から除外する(図2)。この結果、Bluetoothは使用されているWiFiチャンネルを避けるために、使用するスペクトラム帯域を自動的に変更することができる。しかし、この手法を実現するためにBluetooth陣営は米連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)にルール変更を承諾させる必要があった。検討の結果FCCはこの変更を受け入れ、現在、Bluetooth1.2でAFH技術を導入できるようになっている。
図2 AFH技術を用いた周波数ホッピング AFH技術はBluetooth1.2で利用できる特徴を使用し、別の送信機が占有しているチャンネルでの送信を制限する。その結果重複は減り、スループットが向上する。(出典:米STMicroelectronics社)
図2 AFH技術を用いた周波数ホッピング
AFH技術はBluetooth1.2で利用できる特徴を使用し、別の送信機が占有しているチャンネルでの送信を制限する。その結果重複は減り、スループットが向上する。(出典:米STMicroelectronics社)

 とはいえ、AFH技術はWiFi陣営とBluetooth陣営の協力による完全な解決策ではない。「AFHは部分的な解決策だ。干渉の回避を目的としており共存のためのものではない」とカナダSiGe Semiconductor社のワイヤレス・データ・プロダクツ・ディレクタAndre Parolin氏は言う。
 最近のテストによると、AFHは、干渉を起こす送信機と影響を受ける受信機との距離が2m以上の場合には、干渉をほぼ完全に取り除くことが可能だが、各接続のスループットは距離が短くなると急激に悪化することが分かっている。だが、今のところはこれで十分である。Bluetoothの市場は携帯電話機用のワイヤレス・ヘッドセットから立ち上がっており、今のところ干渉が問題になる無線LANに接続されたノートPCを使いながら携帯電話機で通話を行うという状況はほとんどない。しかし、市場が変われば干渉の問題が再び浮上するだろう。
 例えばノートPCや携帯電話機、PDA等でのVOWLAN(Voice Over WLAN)のようなアプリケーションを考えてみよう。これにはBluetoothとWiFiの両方が同一の装置上で同時に必要である。このようなアプリケーションが一般的になろうとしている。例えば米国では、通信可能な範囲を広げるために携帯電話機に、一方、欧州ではスマートホン(smart phone)への高帯域ダウンロード用に無線LANを採用しようとしている。さらに、業界アナリストは、VOWLANの企業への導入が盛んになると見る。米国の市場調査会社In-Stat/MDR社は、調査した企業の10%がVOWLANの携帯電話機を使用し、48%がVOWLANの導入を検討しているという。
 このような傾向から見ると、1台の携帯電話機にBluetoothとWiFiを装備するメーカーが出てくる可能性は大きい。両方が音声データを送信するとなると、どちらも帯域を狭める余裕はない。さらに、1台の携帯電話機に両方を実装するとなると、2mという距離を保つことは不可能であり、BluetoothのAFHは単独の手法としては不適切ということになる。
 現在、ICメーカーや他のベンダーがいくつかの共存手法を提供しようとしている。無線LANとBluetooth間の動作を調整するためのコミュニケーションの必要性から何社かが共同開発を行っている。しかし、片方あるいは両方の技術を独自に開発するメーカーも少なくない。独自路線という手法は、音声通信を無線LANあるいはBluetoothのどちらか一方に限定することで状況を改善しやすいが、限界もある。

「独自路線」派の動向

 独自路線メーカーが推し進める干渉の削減技術として、Bluetooth接続でのAPSS(Adaptive Packet Selection and Scheduling:適応型パケット選択スケジューリング)がある。Bluetoothはさまざまなペイロード長とFEC(Forward Error Correction)オプションを持つ一連のパケット型を提供している。ホップしようとするチャンネルの状況に合わせてパケット型や送信タイミングを変えることにより、Bluetoothシステムの干渉によるデータ損失を削減できる。例えば、より短いパケットを使用すれば、干渉発生時に再送信を必要とするデータ量を削減でき、より長いパケットに比べてスループットを改善することができる。
 WiFiシステムが干渉の原因の場合、FECをBluetoothで実行することも有効である。パケット損失はランダム雑音よりも衝突が主な原因であるから、FECのオーバーヘッドはそう大きくない。FECを適用するとオーバーヘッドが減少し、データ・スループットが向上する。
 APSS技術はMAC(Media Access Control)層で大部分実現できるので、ハードウエア構造は実質的にはほとんど変わらない。BER(Bit Error Rate: ビットエラー率)、PER(Packet Error Rate:パケットエラー率)等、何種類かのチャンネル状況評価手法が使える。子機ノードが更新間隔ごとに親機ノードの周波数利用テーブルを更新し、親機ノードと子機ノードで周波数利用テーブルを保持することにより、干渉の発生もシステムで評価できる。親機/子機送信を「良好な」周波数帯域だけにスケジュールすることにより、周波数重複は依然あるにせよ、システムは干渉を避けることができる。この技術には驚くべき利点がある。不良チャンネルにほとんど時間を費やさないことによる低消費化である。
 APSS技術は良好なチャンネルを待つことにより全体的にスループットを低下させるが、多くのアプリケーションではこれは問題ない。しかし、APSSを使用できないアプリケーションもある。SCO(Synchronous Connection Oriented:同期接続主導型)の音声データ・パケットを扱う場合である。これらのパケットの場合、音声品質を落とさないためには、良好なチャンネルを待つことによる遅延は許されない。APSS技術はBluetoothの音声アプリケーションへは不向きということである。

「共同開発」派の技術はどうか

 干渉回避の共同開発技術には、BluetoothとWiFiの両者の動作を強引に調整してしまうような方法もある。簡単な手法として、例えば、ドライバ・レベルで動作を制御し、2台の無線装置間で、1台が送信を行っている間、もう1台を機能しないように切り替える手法がある。しかしこの簡単な技術では、どちらの接続のスループットも大幅に低下する。
 BluetoothとWiFiの両デバイスが相互通信する際にハードウエア・レベルで調整を取ることもできる。異なるメーカーのチップ間では、このような通信は標準化された通信手法が使えるようにならないと不可能である。IEEE802.15.2のタスクグループがBluetoothとWiFiの干渉問題を解決する推奨技術を開発しているが、標準化作業は今のところ行われていない。そのため、システム開発者は、米Broadcom社、米Intel社、伊仏STMicroelectronics社、米Texas Instruments社のような両タイプのICを製造しているメーカーからの製品購入を考えなくてはならない。
 簡単な共同開発技術としてAWMA(Alternating Wireless Media Access)がある。この技術では、より高いレベルのソフトウエアが無線LANのビーコン間の間隔を時間的に2セグメントに分離する。片方は無線LAN、もう片方はBluetooth信号専用である。Bluetoothデバイスは送信を割り当てられた時間セグメントに限定する。この手法は2つの装置の相互干渉を防止する。
 この技術を運用するには、無線LANとBluetoothの両デバイスが接続されていなければならない。すなわち、両デバイスを同一の物理的な装置内に置かなければならない。さらに、無線LANの全ノードを同期させるために同一のアクセス・ポイントに接続しなければならない。Bluetoothデバイスを持つ装置内の無線LANノードは、メディアのトラヒックがないときに配線接続によりBluetoothデバイスに信号を送り、Bluetoothデバイスがタイミング・アロケーションを制御する。Bluetoothデバイスは親機モードでなければならない。
 APSS技術と同様に、この技術も、Bluetooth子機の適時のチャンネル・アクセスを保証しない。子機デバイスは親機からの許可を受け取った場合にのみ送信でき、親機は無線LANノードが空きチャンネルの信号を送るまで待たなければならない。この手法では、タイミングが不確定になる。無線LAN親機がBluetooth送信のタイミングをアロケートしようとしても、ネットワーク内の他の無線LANノードを制御することはできないからである。タイミングが不確実なこの技術ではSCO音声データ通信をサポートすることはできない。

音声通信の干渉対策は

 音声をサポートする技術にPTA(Packet Traffic Arbitration)がある。MAC層を使用してトラヒックを制御する手法である。制御エンティティを使用し、各ネットワーク・スタックから送信ごとに送信リクエストを受信し、送信手続きを進めていいかどうかを示す送信確認信号をスタックに対して発行する。ネットワークはこれらの個別信号を各パケットの送信ごとに交換する。
 他の共同開発技術と違ってこの技術は多くの制約を受けない。例えば、どのネットワーク・デバイスも親機になる必要がない。PTAコントローラは重複を起こすような送信リクエストを簡単に拒否できる。コントローラは、パケット‐トラヒックのクラスに基づいて優先度を指定できるので、Bluetooth SCOパケットを適時に処理することができる。
 PTA手法の実現には、送信リクエスト信号と送信確認信号に加えて、2つの無線デバイスからの多数のステータス信号が必要である。コントローラは各パケットのトラヒック優先度や無線MAC層からのステータス情報を受け取る必要がある。さらに、衝突可能性を知るため、Bluetoothの使用周波数も必要である。これらの情報通信のために少なくとも2本の配線を追加する必要がある。
 PTA手法は、Bluetooth送信機とWiFi送信機の並立による影響を大幅に緩和する可能性を秘めていることは明らかである。しかし、この手法は複雑であり、特別な信号の送受信が必要なことから、システム設計者はこの2種類の無線ICチップのハードウエア設計に互換性がないかぎり、実現できないと思われる。互換性を保つには、同一ベンダーのハードウエアとPTAソフトウエアを使用するしかなさそうである。

第三の選択肢

 干渉を緩和する技術はこれ以外にもある。アンテナの指向性制御もその1つである。無線装置メーカーの米InterDigital社は、WiFiネットワークの動作周波数を干渉に応じて修正するAIM(Adaptive Interference Management)技術を開発したメーカーである。同社の「AIM Perform Ware」を無線LANのルーターやアクセス・ポイントに設置することにより、干渉のあるなかで最適な動作チャンネルを自動的に選択することが可能になる。
 同社はAIMアンテナを提供している。現在、無線システムの多くは無指向性アンテナを使用している。AIMアンテナはビーム成形手法を使用して、1方向にヌル点を持つ指向性アンテナである(図3)。この手法は、干渉を最小限に抑えるために、指向性パターンを、無指向性と、逆方向の2つの指向性パターンの間で切り替えることが可能である。さらに干渉による影響の残存分をBluetoothのAFHで処理することにより、装置内のWiFiとBluetoothアンテナの有効距離を伸ばすことも可能である。
図3 AIMアンテナの指向性パターン 無指向性アンテナに代えて、米InterDigital社は、並立する送信機からの干渉を抑えることが可能な指向性アンテナのパターン生成手法を提案している。
図3 AIMアンテナの指向性パターン
無指向性アンテナに代えて、米InterDigital社は、並立する送信機からの干渉を抑えることが可能な指向性アンテナのパターン生成手法を提案している。

 設計者が実現できる干渉緩和技術も存在する。例えば、Bluetooth音声送信の受信側に、ピッチ周期エラー隠蔽等のエラー隠蔽技術を適用することで、受信音声中のパケット損失による不自然さをいくらか取り除くことができる。また、物理層に適応型干渉キャンセル技術を採用することもできる。ただし、これらの技術は重度の干渉やデータ損失を処理することはできない。
 これらの問題に完全に対応できる可能性を秘めた技術もある。Bluetooth SIG(Special Interest Group)は、UWB(Ultra Wide Band)技術を支持するメーカーとともにBluetoothがUWBの大きな信号帯域をどのように使用可能か定義する作業を行っている。この2つがうまく融合すれば、干渉の問題は解消する。
 Bluetoothを廃止するという考え方もあったが、これは消えつつあるようだ。計測システム・ベンダーである米Azimuth Systems社のCTOを務めるFanny Mlinarsky氏は、WiFiがBlue toothに取って変わることは容易だと考えている。「BluetoothはWiFiほど単純ではない。BluetoothはパワーがWiFiより低い。WiFiのパワーを単に下げ、同じデータ速度を使用することにより、Bluetoothと同じパワーを得ることができるだろう。WiFiは量と価格の観点において優位にある」と語る。
 しかし今、BluetoothとWiFiの共存が必要であれば、効果的な干渉緩和技術を融合することが最良の解決策であるのは間違いない。システム設計者が適用可能な技術は使用するICチップ次第ではあるが、柔軟性はそれらの動作を調停することのできるデバイスによって得られるのである。どの技術を使用するにせよ、最も重要なのはWiFiとBluetoothが同時に動作したときにユーザーが高い満足度を得られるような設計を行うことである。
 

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