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2005.9
低コストか高機能か、
岐路に立つ
車載ネットワークLIN

自動車に搭載される各種電子システムの発展によって、安全性に関わる極めて重要なものから日常的に気軽に利用されるものまで、さまざまなネットワークが必要とされている。その答えの1つとして注目されているのが、LIN(local interconnect network)プロトコルだ。
David Marsh
 全世界の年間成長率がこの先5年間で8.3%と見込まれているように、自動車部品部門は、電子部品産業全体において相変わらず最も成長が著しい市場である。思い起こしてみると、20年前には、一般の車に搭載されていた電子装置といえばラジオぐらいだった。その後登場してきたのが、電子点火、エンジン管理ユニット、そしてアンチロック・ブレーキングシステムである。これらは今日、エントリレベルに位置づけられる自動車でも標準装備品になっている。のみならず、以前は聞いたこともなかったような贅沢な装備が今日の自動車には搭載されている。トップクラスのものになると、前方の車両に対して安全な車間距離を自動的に維持する「インテリジェント・クルーズコントロール」のような洗練された電子機器まで採用されている。試算によれば、平均的な自動車に搭載されている電子機器類は、いまや車全体の製造コストの22%以上を占めているという。同時に、こうした電子機器類によって、組み込み型コントローラや電源装置、ECU(電子制御ユニット)接続用通信技術といった市場が開拓されているのである。
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 分散した情報を管理し、さらにワイヤリングハーネスの容量の削減も可能な、堅牢性に優れた車載ネットワークの構築を目指して、Bosch社は1986年にCAN(controller area network)規格を策定した。今日、CANは車載ネットワークを利用するにあたって大きな影響力をもっており、自動車以外の産業でも利用されるようになっている。その一方で、新たなネットワークシステムも登場してきた。次々に現われる新たな車載用アプリケーションに対処するためであり、D2B(domestic digital databus)、FlexRay、MOST(media oriented system transport)などがその例だ。これらの規格では、速度とEMC(electromagnetic compatiblity)耐性の向上のために光ファイバが採用されている。また、TT-CAN(time triggered extensions to CAN)では、プロトコルの決定性が改善されている。こういった改善は、安全性がきわめて重視される用途でFlexRayと競合するTTP(time triggered protocol)シリーズでも行なわれている*1)。しかし、これらのネットワークシステムは、比較的費用がかさむ。このため、座席からサンルーフにいたるまでの車体機能を制御といった日常的処理に利用できるような安価なネットワークが求められていたのである。結果として、LINは自動車メーカーに徐々に受け入れられつつある。LINは、車載ネットワーク階層の最下層をカバーする技術として位置づけられている(図1)。

図1 車載機器用のネットワーク規格
LINはネットワーク階層の最下層を対象としている。

 最初のLINの仕様は1999年に登場した。LIN設計の権限を有するLINコンソーシアムの設立メンバーには、ハードウエアおよびネットワーク技術を専門とするFreescale Semiconductor社およびVolcano Automotive Groupに加えて、自動車メーカーである、BMW、DaimlerChrysler、Volkswagen Audi Group、Volvo Carsの各企業が名を連ねている。LINの設計は、自動車メーカー数社が採用しているVlite (Volcano Lite)バスの影響を受けている。もちろん、何年にもわたるCANの進化と発展から得られた教訓も生かされている。2002年11月にはいくつかの修正が加えられ、LINはバージョン1.3になっている。このバージョンは、多数のオブザーバから最初の安定版として認められている。それ以降のさらなる取り組みは、2003年9月に登場した現行のバージョン2.0への大幅な改訂という形で実を結んだ。LINコンソーシアムはこのバージョンをすべての新規開発に対して利用するよう推奨している。
 一方、北米ではアメリカ自動車技術会(Society of Automotive Engineers)が、Ford社およびGeneral Motors社からの主要な自動車メーカー代表者とともにJ2602規格の推奨案である「車載アプリケーション向けLINネットワーク(LIN Network for Vehicle Applications)」を発表した。LIN 2.0に対するJ2602の主な違いとして、通信速度が10.4kビット/秒に制限されている点や、エラーハンドリングのようなプロトコルの詳細がいくつか修正されている点がある。オブサーバのなかには、J2602の目的には機能の不要な拡張を制限し、ひいてはLINが最優先の目標である低コストの実現を容易にすることが含まれている、という者もいる。例えば、ステートマシン回路を使いこなすことで、マイクロコントローラによる知能化には頼らないようにしている点が挙げられる。
 LINはCANや米国の国内規格であるJ1850よりも格段に安価であり、コストこそがLINを牽引する大きな要因である。ここにきて、LINコンソーシアムはこれからのシステムに向け、さらなる基本施策を打ち出してきた。実際のところ、当初想定されていたLINのコストはノードあたり約1米ドルだったのだが、現状ではこのコストを維持するのは困難になってきた。しかし、サブバスとしての主要な役割を果たすにあたって、LINの設計は、CANおよびJ1850に対して論理回路上の拡張を施し、多様な規模に対応できる柔軟性を追加したものとして確実に機能することも事実である。また、安全性がさほど重要にならないレベルでは、許容できる範囲の信頼性も提供されている。こうした信頼性は、100ミリ秒未満の応答時間や予測可能な最悪条件下の時間特性に基づいたものである。これまでのバスの発展に学び、開発者たちはまた注意深くツール群による支援の問題(tool chain support)を考慮していた。自動車メーカーが、システムのサプライヤと一体となって共同開発を進めていくには、そのような配慮がきわめて重要になってきている。

図2 LIN規格の構成
LINは、構成言語を活用して物理層、プロトコルハンドラ、アプリケーションプログラミングインターフェースを定義できる。

 当然のことながら、規格では、ハードウエアおよびソフトウエアの相互運用性が多数のベンダー間で確保されていなければならない。同様に、EMCのような重大な問題に関わるものを除き、周辺装置を最小限に抑えることも必要である。当初からLINの規格は、合理的な形で大きく3つに分割されていた。伝送媒体とその通信プロトコル、構成言語、それにAPI(application programming interfaces)である(図2)。ISO/IEC 7498-1:1994に定められた開放型システム間相互接続モデルの最下層の2つのレベルを表現するために、LINのプロトコル仕様では、物理層とデータリンク層の仕組みに対する取り組みが積極的に進められている。最上位レベルでは、APIによって、下位レベルのネットワーク構造から得られるユーザコードの抽象化が行われる。また、それらの中間レベルでは、信号間の相互作用と診断用のレイヤーによって、アプリケーションがネットワークから分離されている。またLIN構成言語による記述を用いて、ネットワークを構成するファイルの形式を定義し、多くのサプライヤから提供されるLINノード間に標準インターフェースを実現することもできる。こうした構成ファイルは、開発ツールとのつながりを提供するためのものでもある。さらなる大きな前進として、バージョン2.0の仕様にはLINノード機能言語が導入され、プラグアンドプレイの概念による統合が容易になっている。

特徴的な「ワンワイヤー」構成

 コスト削減およびケーブルの軽量化を実現するために、LINでは単一コンダクタのワイヤーオア型のバスが使用されている。この方式には、車体のボディーシェルを共通のグランドとして利用しながら配線ができるという利点がある。それぞれのLINサブネットには、1台の親機と、バス1本につき最低1台から最大16台までの子機ノードが含まれる。ノードを2つ以上のLINバスに接続することもできる。また、親機は、主としてCANのような他のネットワーク環境に対するブリッジとして利用することもできる。最大通信速度および最大通信距離は、UART/SCI(universal asynchronous receiver transmitter/serial communication interface)を用いた通信時の最大通信速度は20kビット/秒、最大通信距離は40mである。この技術を用いれば、単純なステートマシンから、シリアルに周辺機器を使用する際のI/Oピンにおける「ビットバッシング」処理まで、さまざまなLINをドライバーと共に実装できる。このような低速度動作はまた、干渉ノイズの発生を抑制し、タイミングに関する問題を緩和することにもつながっている。これには、親機駆動の自己同期機能が一役買っており、この機能が存在することで子機ノードには水晶や共振器によるタイマーが不要になっている。

図3 物理層での経路交換
レシーバは、グランドシフトなどの影響を考慮し、供給レールの40%レベルを許容している。

 物理層における経路交換では、ISO-9141標準規格に適合させるための機能強化が行われている。この規格は、欧州および日本の車両診断システムで非常に強い影響力を持っている。LIN互換のラインドライバでは、スルーレートを2V/μs程度に制限することによって、高速エッジに起因する干渉が発生するのを回避している。このようなラインドライバでは、バスラインの電位をシステムグランドから20%の範囲内に抑えることによって論理ゼロ状態が表現される。一方、1の論理状態を表すには電圧ラインをバッテリ電圧から20%の範囲内に持ってくる必要がある。グランドシフトのような影響を考慮するために、レシーバでは、それぞれのレールから40%範囲内のレベルまでが認められており、より耐性の高いものになっている(図3)。親機は、バッテリ電圧に至るバスに1kΩの抵抗を入れて終端させている。各子機は、30kΩのプルアップ抵抗を用いて入出力ラインの既定値を高レベルにしている。終端抵抗と直列に入れたダイオードは、電力が供給されなかった場合にバス上のデバイスがバッテリ電圧レールに逆給電するのを防止する。親機と子機はまた、それぞれラインに対して約220pF、バス1本あたり最大10nFまでの容量を実現している。これにより、システム時定数は1〜5μsになる。AMラジオが依然として増え続けている地域では、SAE-J2602における10.4kbpsの制限によって、北米市場のための互換性問題がさらに緩和されている。

図4 メッセージの構成
(a)各メッセージ交換は、親機によって初期化されたヘッダーとそれに続く子機の送受信データで構成されている。
(b)親機はシステムにおけるフレームの目的を一意に定める識別子バイトを送信する。


 CANとは異なり、LINの親機/子機アーキテクチャでは、データトラフィックの衝突が回避され、調整論理回路が不要になっている。これは、親機にメッセージ送信を監視させ、常に1つしかメッセージが送信されないようにしているためである。1つのフレームは、親機側のヘッダーとポーズ、それに各メッセージ交換をカプセル化している子機側の応答で構成されている(図4a)。各バイトは、先頭と末尾がスタートビットとストップビットでそれぞれはさまれているので、1バイトにつき10ビットが送信されることになる。フレームには、診断または初期化の情報を伝えるための診断フレームをはじめとして、いくつかの種類がある。一方、無条件フレームは常に8バイト分の信号を伝送する。この無条件フレームは、アプリケーションの特徴を示すためのフレームタイプである。散発的なフレームもまた常に信号を伝送する。ただし、子機は新しいデータが利用できる場合にかぎって応答し、その他の場合はデータフィールドをブランクのままにしておく(これは、決定性を崩すことなく、なんらかの動的な振る舞いをシステムスケジュールに加えるための試みである)。ごくたまにしか応答しないノードにポーリングをかけることで、バスのトラフィックが生成される。バストラフィックを低減させることによってシステムの応答性を向上させるために、LINのプロトコルにはイベント駆動フレームが用意されている。このフレームには、データ用に7バイトが確保されている。最初のフィールドを用いて、フレームをタスクに対応づける識別子を伝送するためである。ここでも、子機は新しいデータが得られた場合にしか応答しない。このプロトコルにはまた、ユーザー定義フレームも規定されている。また、将来の利用に備えてフレームタイプがもう1つ取られている。
 フレーム間スペースの後、またはバスがアイドル状態になった後に、データの転送を開始するにあたって、親機側はヘッダーの送信を行う。このヘッダーには、同期ブレーク期間、シングルバイト同期フィールド、および識別子バイトが含まれている。識別子バイトは、6ビットの情報と2ビットのパリティビットで構成されており、64種類のメッセージ識別子を扱うことができる(図4b)。通常の運用では、アドレス指定は一切行われない。むしろCANのように、識別子バイトによってそのフレームの目的が一意に定義される。識別子の持つ、10進数表現の0から59までの値によって信号が伝送される。60および61の値は、親機の要求および子機の応答診断のフレームである。ユーザ定義フレームの場合はヘッダ値として62を持つ。63は予備用である。各子機は、同期ブレークを待って、バスメッセージを読み取る前に同期バイトにロックをかける。続いて、1つまたは」2つ以上の子機がデータを受け取るか、あるいは、ある子機が単独で応答データを送信する。データフィールドには8バイトが確保されている。データフィールドとその識別子バイトとの関連付けによって、データフィールドの長さが事前に決まる。1バイトのチェックフィールドが最後に送信され、エラー検出の機能を果たしている。親機はすべてのエラー処理に対して責任を負っている。このことはつまり、最終的にはアプリケーションプログラマの責任になる。LIN2.0には、エラー処理を行う仕組みは一切定義されていないためである。
 緊急に解決すべきものとして、車両が動作していないときにバッテリ電力が無駄に失われるのを防ぐという問題がある。このため、子機はバスが4秒以上アイドルの状態になると自動的にスリープモードに入る。親機側でもまた、子機を強制的にスリープモードにすることができる。それには、最初のデータバイトを0に設定した、診断用の親機要求フレームを送ればよい。親機は、その後、アイドル状態にあるバスの監視を行う。サービスを要求する子機からのウェイクアップ信号を待つのである。どのバスノードであっても、250μsから5msの間低レベル状態をアサートすることによってウェイクアップを要求できる。これによって、5 msが低レベル状態の有効実行時間としては最長のものになる。大部分のトランシーバには、この最大値を超えるノードを切断するウォッチドッグタイマーが備えられている。このような挙動は何らかの誤りが生じた状態を示しており、切断しなければバスが独占されてしまうからである。子機は、スリープモードから抜け出し、データ送信の準備を行わなければならない。それもウェイクアップ信号が消えてから100ms以内にである。きわめて重要な点は、メッセージの長さ、フレーム間隔パラメータ、デバイスウェイクアップ時間が既知のため、どんなシステムであっても最悪条件下における応答時間の計算が容易に行えるという点である。親機側は通常、静的なラウンドロビン方式のスケジューラを使用している。一方、適応型スケジューラは、より高い柔軟性を提供し、同様に保証された決定性を有する意思決定ベースのシステムを実現できるものではあるが、親機では通常使用されていない。
 ゼロ衝突ルールの例外が生じるのは、親機側が1つのイベントトリガーフレーム内でポーリングをかけ、2台以上の子機が同じタイムスロット内に応答した場合である。この状況は、例えば次のような場合に起こり得る。親機がセントラルロッキングのアプリケーションにおいて、イベント駆動フレームを利用してすべてのドアにポーリングを行う場合である。このとき、応答は多くの場合はブランクになっている。しかし、もし2つ以上のドアボタンがその瞬間にアクティブになると、2台以上の子機が応答を返すことになる。親機は、同様の関連づけを持っている無条件フレームのすべてを要求することによって衝突を解決する。また、それらのイベントフラグについては、再びイベント駆動フレームを要求する前に、確認を行っておく。こうした一連の処理によって、子機が衝突から抜け出す可能性が回避されるが、データが破壊されることはない。親機側はこの状況を検出できないため、子機の応答を失うことになる。アプリケーションソフトウエアにはこうした手順が実装されている。そのため、プログラマは、バスに十分な時間的余裕を持たせ、システムのスケジュールに影響されることなくその処理を終えられるよう、確実を期さなければならない。また、スケジューラのレベルでは、散発的フレームまたはイベント駆動フレームと同じスケジュールテーブルの中に、それらのいずれかに関連付けられた無条件フレームを含めることは許されていない。

「シンプルであること」が挑戦の足かせに

 LINの概念はシンプルだが、デバイスのベンダーは依然として重要な課題に取り組んでいる。第1の難関は、自動車の使用環境に耐えうるバストランシーバの実現である。つまり、極めて厳しいEMC試験の基準に準拠させる必要があるのだ。LINでは、ボーレートおよびスルーレートの制限によって干渉の発生が抑制されているが、深刻なレベルの放射妨害波や伝導妨害波にシステムが耐えられるようにすることが重要である。各種の放射や干渉の問題に対処するために、自動車メーカーは、車載ネットワーク評価のための一連のインハウス試験を自前で開発してきた。これらの試験は本質的に、システムが障害を起こすまで信号の周波数、振幅、変調度を変化させながら、RF干渉をバス内に発生させる、という形のものになっている。こうした独自仕様の試験に共通する多くの要素は、LINの適合性試験項目群にも存在する。応用科学専門大学のCommunication and Systems Group(C&Sグループ)のような機関では、依頼を受けた企業のためにLINの適合性試験項目群の適用を専門に行っている。
 米Texas Instruments社アナログ・デジタル混載型電源・制御グループのシステム設計者Scott Monroe氏は次のように説明する。バルク電流注入試験はアメリカではよく知られているが、欧州の自動車メーカーはDPI(直接パワー注入)のほうを好んで使用している。「DPIでは、バスに流し込むRF電力レベルを増加させていく。バスは、例えば、3または4個のトランシーバを束ねるもので、RC結合を介してシステムが故障するまでこれを行なう。一方、バルク電流注入では、バスを結合コイルに通し、やはり干渉レベルを変化させていく。こうして、メッセージ送信に失敗するポイントを探る」。Monroe氏は、LINの仕様では、誘導負荷を起こすような、バッテリ逆接続障害や降下過渡状態に対する保護については言及されていない、と述べている。こうした試験は、車載用IC向けの伝導イミュニティ規格であるCISPR(国際無線障害特別委員会)-25およびISO(国際標準化機構)-7637に含まれている。±40Vのバス障害と17kVものESD(Electro-Static Discharge)に対する保護機能を備えた、TI社のTPIC1021は、こうした厳しい条件にも耐えることができ、低レベル状態のタイムアウトのような機能によってシステムの信頼性を向上させている。TPIC1021の入出力ピンには、回路の互換性を最大化するために5Vにも対応できる3.3Vの構成が使われている。電源レールへのショートから温度やバス終端を保護する機能を備えているので、このチップは、非動作状態にある他のバスの通信を妨げることはない。また、このチップは、バスからのウェイクアップ要求や、ホストのマイクロコントローラ、またはバッテリ電圧のレベルスイッチ入力に接続されたイネーブルピンからのウェイクアップ要求に応答する。スリープモードにおいては、静止時消費電流は最大2.5mA程度からおよそ20μAにまで抑えられる。さらに、このチップは、外部電圧レギュレータを制御することもできるため、マイクロコントローラや他のLINプロトコル回路の電源を切断することが可能である。
 LINトランシーバを提供する他のベンダーとして、米AMI Semiconductor社、米Atmel社、米Freescale社、独Infineon社、ベルギーMelexis社、米Microchip社、米On Semiconductor社、オランダPhilips社、伊仏STMicroelectronics社、イスラエルYamar社、独ZMD社の各社が存在している。TI社の部品と同じように、こうしたベンダーのデバイスの多くでは、Freescale社のMC33399やPhilips社のTJA1020といった市場を先導するトランシーバに類似したピン配列と機能が提供されている。Phillips社は、LINトランシーバの問題について解説した有用なアプリケーションノートを提供している*2)。しかしながら、さまざまな競合品の間には、ベンダーが提示している異常電圧耐性の相違のほかにも、電気的仕様の細かい違いがある。例えば、Atmel社のATA6661は、42VのPowerNet環境で使用した場合、60Vのバス電圧にも耐えうる。また、わずかな違いが、明らかに似かよったピン配置同士の間に存在していることもある。例えば、ほとんどのトランシーバは、車両のバッテリ電圧を直接とることによって動作する。しかし、On Semiconductor社のNCV 7380/7382では、3番ピンに5Vの電圧を供給する必要がある。この3番ピンは、多くの場合、バッテリ電圧ピンと互換のウェイクアップ信号ピンになっている。さらに、NCV7380の改良品では、コストを最小限に抑えるためにスリープモード回路も取り除かれている。
 On Semiconductor社で欧州マーケティング活動を担当しているGilles Guillaume氏によれば、同社では設計者に対し、かなり自由度の高い柔軟な設計を認めているという。例えば、補助電源を確保するために電圧レギュレータを採用する、というケースもある。低ドロップアウト電圧レギュレータを統合するために、同社のNCV7361Aは、修正を施した8ピン形式を採用して、5V、50mAの出力を供給している。Melexis氏は、同社のTH8061においてよく似た部分を提示している。積分型電圧レギュレータを搭載したトランシーバのほかの例として、Microchip社のMCP201がある。この製品では、5V、50μAの出力を供給するために、典型的な3番ピンによるウェイクアップ機能の提供を断念している。外部パストランジスタがあれば、要求レベルの高い負荷がかかってもこの能力を高められる。MCP201の機能強化版であるMCP202では、ESD耐性が高くなり、待機時電流が抑えられている。今年の夏にサンプル供与が行われる予定である。Texas Instruments社もまた、電圧レギュレータ出力が可能な改良型のトランシーバの提供を計画している。

マイクロコントローラがステートマシンの役割を果たす

 LINの市場の特徴としては低コストでありながら高い競争力を発揮できるという点が挙げられるが、この傾向がシステムインテグレータによるアーキテクチャの選定を複雑で難しいものにしている。たとえシステムが同じものであっても親機と子機に対する要求が変われば異なった選定が行なわれる可能性がある。従来から、プリント基板の設計者は、別々に分離されたトランシーバとマイクロコントーラを用いることによって最大限の柔軟性を確保してきた。設計者は、こうしたデバイスを馴染みのある製品ファミリや開発ツール群を利用して構築するので、このやり方は、特に熟練者には好まれることが多い。また、CANの環境との橋渡しを容易にすることもできる。それに対し、オンボードのトランシーバを備えたマイクロコントローラとアプリケーションに特化した周辺装置をしっかりと統合するという方法もある。この方法では、デバイスが小型化され、場合によっては、容積のかさむアプリケーションのコストを最小限に抑えられる可能性がある。Freescale社の8/16ビットシステム・ソフトウエアアプリケーション・マネジャーであるRoss Mitchell氏は、サイズはしばしば決定的な要因になることがあるが、その理由は、例えば、ミラーコントローラをプラスチック成形品の内部に一体化しようとすることの難しさを考えればわかるだろう、と述べている。「通常、制御モジュールは、その対象の負荷にできるだけ近いところに置くことが望ましい。なぜなら、それによって配線が最小限に抑えられ、EMC性能を向上できるからだ」とも話している。
 際立って低コストな点を除いても、ステートマシンは、マイクロコントローラや高価なオンチップメモリーに拮抗しているといえる。しかし、こうしたメモリー類は、システム内構成を支援するために必要なものである。この点は、LIN 1.3と互換性のあるハードウエアに固執しようとするユーザーがいることの理由の1つになっている。Microchip社で自動車用製品の欧州マーケティングマネジャーをしているJohann Stelzer氏は、とりわけアメリカの顧客がバージョン2.0のサブセットを採用するだろうと信じている。「コストの観点から、診断やシステム内構成に手を出すことは、ノードあたり1米ドルというコスト目標値を脅かすマイナスの開発行為でしかない」と彼は言う。そんななかで複数の競合他社が、今日のCANにおけるコストの低下は、複雑になったLINの実装の利点を凌ぐものになる可能性がある、と認めている。TI社のMonroe氏によれば、コストとパフォーマンスの最適なバランスがアプリケーション依存になっている点がきわめて重要だという。TI社は、ステートマシンとインテリジェント回路の両者をベースに、これら完全に統合した製品をシステムメーカーに供給することにしている。ただし、こうしたデバイスはまだ、カタログ商品として一般に利用できる形にはなっていない。このようなカスタムデバイスの多くは、3ピンの子機であり、エンジン制御のためのオイル品質および温度のセンサーから、搭乗者検知のためのシート重量センサーまで、多様な機能を実現できる。
 Monroe氏は「コストを最低限に抑えるには、無駄な機能を抑えて簡素化を貫くことが基本方針だ」と言っている。しかし、同業者との共通認識でもあるが、Monroe氏は、設計者のなかには今以上に多くの機能を望む傾向があることを感じ取っている。その結果として、膨大な数にのぼるコントローラの選択肢が、ベンダーから提供されている。そのベンダーの中には、トランシーバのサプライヤのほぼすべてが含まれている。これまでのところ、Atmel社とOn Semiconductor社は、物理層向けのインターフェースだけを供給している。しかし、両社ともにプロトコル回路を市場に出すことを計画しているという。Atmel社でLIN製品のマーケティングマネジャーを務めるMarcel Hennrich氏は、同社のAVRクラスの派生製品のなかに、LINトランシーバ、5Vレギュレータ、およびシステムウォッチドッグを含めることを確定させている。また、Atmel社では、同社のモジュラー開発戦略を支えるために、サードパーティのサプライヤから供給を受けたLINのプロトコルスタックに同社の標準的なツール群をバンドルして提供する予定である。一方、On Semiconductor社車載アプリケーションマネジャーのLeo Airchriedler氏は、次の段階では積分型電圧レギュレータを備えたLINトランシーバを提供する、と言っている。また「自分たちは、注意深く市場を監視している。もし市場から要求があれば、プロトコル回路の統合も検討するつもりだ」とも話している。このような組み合わせによって形成されるのが、いわゆるSBC(system basis chip)である。
 現在入手できるSBCの例として、Freescale社のMC33689がある。MC 33689は、トランシーバ、プロトコルハンドラ、および電圧レギュレータを32ピン、0.65mmピッチの表面実装により一体化したデバイスである。このチップには、次のような要素も含まれている。3つの保護機能付きハイサイドドライバ(そのうち2つはPWM(pulse width modulation)をサポートしている)、電流感知アンプとしての使用を想定した未使用オペアンプ、2つの高電圧ウェイクアップ入力、プログラム可能なウィンドウ・ウォッチドッグタイマー、供給電圧過不足の問題を通知できる割り込み出力である。また、SPI(serial peripheral interface)ポートを利用すれば、低電力モードやスルーレートといった各種のオプションを含めて、ホスト側から設定を行うことができる。このチップはさらに、過熱時シャットダウンや過電流制限などのハードウエア保護機能も備えている。

図5 Freescale社による、AN2623を用いた温度センサーの例
典型的なマイクロコントローラベースの子機ノードの実装が示されている。。

 Freescale社は、AN2623を用いた温度センサーの例(図5)など、代表的なアプリケーションをウェブサイトで公開している。ここでは、温度センサーアプリケーションを4KBのフラッシュメモリーを備えた68HC908QYマイクロコントローラによる監視のもとで実行させる場合を取り上げる。この例では、MC33399が、物理層レベルの変換処理を行ない、Linear Technology社製のマイクロパワー低ドロップアウト電圧レギュレータであるLT1121の抑制ピンを駆動することによって、ノードの電源供給を制御している。ソフトウエアにはFreescale社のLINドライバを使用している。なお、このLINドライバは同社ウェブサイトから無料で入手できる。
 Freescale社のRoss Mitchell氏は、エントリレベルである908ファミリの製品に載っている1.5KB容量のような、小さなメモリーであっても簡単なアプリケーションならぎりぎりで収められるかもしれないが、実用上は最低でも4KBの容量が必要になる、と述べている。彼をはじめ他のベンダーも、LINの“おいしいところ”は子機のための8KB領域周辺にある、との点で意見が一致している。挟み込み検知機能付きウィンドウリフターのようなアプリケーションの実現を可能にする部分である。MM908E625のような知的分散制御チップには、同社の「SmartMOS」プロセスが適用されている。この技術は、ヘッドランプレベラやミラーコントローラのような、Hブリッジによるモーター制御を必要とし、空間的制約のあるノードの集積化を高密度に行うものである。908ファミリの新製品であるMC68HC908QL4には、LINプロトコルハンドラがオンチップで実装されており、子機側の用途に合わせてバスのタイミングに自動的に同期させることができる。この製品は現在入手可能で、同社から米199.95ドルの評価用ボードが、LINキット用デモボードとセットで提供されている。
 Microchip社のStelzer氏によれば、親機側のボーレートに同期する子機側では16ビットの時間分解能が必要なために従来のUARTではこの処理に対応できない、という。そのため、同社では、PIC16F688のようなチップで、LINによって機能強化したUARTを提供している。なお、このPIC16F688には、バス動作のオートウェイクアップのような機能も備えられている。このデバイスには、PICファミリのユーザーにはお馴染みのHarvard RISCアーキテクチャの改良版が採用されている。また、システム内構成データを格納する256 KBのEEPROMが付いた4Kワードのプログラムフラッシュが備えられている。同氏は、C言語のプログラマには、メモリー容量が大きく、実質的な演算能力の高いPIC18ファミリのようなハイエンドのチップを好む者も多い、と述べている。同ファミリの最新製品は、6KBから64KBまでのプログラムメモリーのバリエーションがあり、10MIPSの演算処理速度、28または44ピンのQFNパッケージを備えた、PIC18F4x 20/18F2x20である。これらの製品は、F688と同様の機能強化が加えられたものである。こうした機能強化には、スリープモードでの消費電流を1μA未満のレベルに抑えることができる、Microchipのナノワット電力管理技術によるものが含まれている。また、Microchip製LIN子機製品のすべてに、外部の共振器や水晶を必要としないオンチップのRC発振器が組み込まれている。親機側のタスクには、PIC 18F4680の利用をStelzer氏は推奨している。PIC18F4680は、1KバイトのデータEEPROMを搭載した64Kバイトのデバイスで、同社がLINに特化して強化した機能を合計36本の入出力ピンを介して利用することができる。このチップには、同社によって機能強化されたCANインターフェースも備えられており、CANとLINをつなぐブリッジとして利用することもできる。

図6 MelexisのMLX4コア
ハードウエアによる2タスクのRTOS(リアルタイムOS)をエミュレートする形で、LINのタスクとアプリケーションソフトウエアとを別領域で実行している。

 Melexisは、LINに特化したMLX4コアによって別の方向に進んでいる。同社LIN製品のマーケティングマネジャーであるMichael Bender氏は、このコアはTH8100で最初に採用された、インテリジェントスイッチモジュールのためのシングルチップの子機であり、この先数カ月間に量産される新しいチップのいくつかの基礎をなすものだ、と述べている。TH8100には、LIN1.3準拠のプロトコルハンドラーと、12Vレールからチップに電力を供給する内部電圧制御によって、バストランシーバとその同期回路が実現されている。TH8100は、最小限の外部構成要素しか必要とせず、17のスイッチ信号入力、3つのAD変換チャネル、3つのPWM出力を備えている。搭載された4ビットのMLX4コアには、2つの独立したレジスタセットがあり、LINプロトコルとアプリケーションとのパーティションとなりながら、これらを同時に処理する(図6)。それぞれのタスク処理のために、タイマーやUARTのような専用の周辺デバイスと専有メモリー領域が別々に存在している。また、フラグと排他制御回路によってタスク間のデータ転送を保護し、双方のタスクが同一のRAMアドレスに同時に書き込みを行うことを防いでいる。レジスタセットの切り替えは1つの命令が終わるたびに発生するため、それぞれのタスクは、コアの持つ4MIPSの計算能力の50%を使用することになる。このシステムでは、利用可能な演算処理パワーを動的に共有することもできる。この場合、一方のタスクがウェイトモードに入ると、すべての演算処理パワーが他方のタスクで利用できるようになる。
 LINに対応したハードウエアを生み出す企業には、プログラマブルロジックを専門とする米Xilinx社や、IP(知的財産権)を中核とする設計会社である英Intelliga社や独Fraunhofer Institut社とともに、日本のマイクロコントローラの巨大メーカーである富士通、NECエレクトロニクス、ルネサス テクノロジの各社が、名を連ねている。いまやLINは、32ビットのARMプラットフォームにも搭載されることになった。その走りとなったのがPhilips社のSJA2020である。現在このチップは、144端子のパッケージの形でサンプル供与されている。この60MHzのデバイスには、256KBのフラッシュメモリー、6本のCANチャネルと4つのLIN親機が搭載されている。また、Analog Devices社は、LIN 2.0準拠のトランシーバを、ARM7をコアとする同社のADμC702xシリーズに追加する予定である。今のところ、この製品では、UARTベースのソフトウエア実装によってLINのプロトコルがサポートされている。製品が市場に出始めたばかりではあるが、こうして広い範囲でサポートされている状況からは、この技術の輝かしい未来が垣間見える。自動車業界内の関係者が厳しく見守っている問題として、日本市場のLINプロトコルへの反応、ISO標準化の実現に向けた進展、自動車業界以外への展開がある。Microchip社のStelzer氏は、LINのバージョンを2.0に据え置くことが、この技術の設計を成功に導くために必要不可欠な措置だった、とみている。彼はまた、白物家電のような民生用途であれば、12V電源の採用を取りやめることによってさらに安価にできる、とも述べている。つまり「LIN製品は単線の5V電源を採用することもできる。なぜなら12Vもの電源は無用だから」ということだ。
 
用語解説 / 会社情報
*1)
Marsh, David: "Network protocols compete for highway supremacy," EDN Europe, June 2003, pg 26.
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*2)
TJA1020 LIN transceiver, application note AN00093, Philips, 2002, www.semiconductors. philips.com.
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