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2005.9
勝者は誰か
――「iPod」帝国への逆襲

デジタル・オーディオ・コンテンツおよびデジタル・オーディオ・プレーヤー市場での米Apple Computer社(以下Apple社)の優勢は明らかである。10年以上前のパーソナルコンピュータ市場の様相の再来である。米Microsoft社は、Apple社に対抗すべくオーディオ戦略を推し進めている。今後Microsoft社はどのような巻き返しを図るのか、そしてApple社はこの反撃をどうかわしていくのか?
Brian Dipert
 「私は多額の投資をしようと思う。他社に打ち勝つためだ。MP3戦争はもう始まっている。これは宣戦布告だ。」この好戦的ともとれる発言は、シンガポールのCreative Technology社の最高経営責任者(CEO)を務めるSim Wong Hoo氏によるものだ。2004年11月17日にシンガポールで行った記者発表の席で発せられた。つい最近*1)韓国Samsung Electronics社から出された声明も同じ心境によるものだろう。2005年3月27日付けの“Korean Times”によれば、Samsung社の専務取締役で、デジタル・オーディオ装置およびホームシアター・システム製造子会社の最高経営責任者(CEO)、Ahn Tai-ho氏は、「MP3プレーヤーの今年の販売目標は、全世界で500万台以上だ。デジタル・オーディオ装置ビジネスを強化することにより、2007年までにMP3プレーヤーのトップベンダーに成長してみせる*2)」。Sonyも、この市場に強い興味を抱いており、ここ数年さまざまなチャレンジを試みているが、今のところ目立った成果は得られていない(囲み記事『ウォークマンの復活は?』参照)
図1 デジタルオーディオの市場予測
(a)はデジタル・オーディオ・プレーヤーの売上台数(出展:米iSuppli社)、 (b)はコンテンツ市場規模。未来は明るいか?

 彼らの共通の敵は果たして誰か?勿論Apple社である。通り過ぎる人の多くが耳につけている白いイヤホンを見れば明らかだろう(囲み記事『数値データの考察』参照)。サンフランシスコである朝、通行人を30分間観察したところ、5人に1人が同社のイヤホンをつけていた。米iSuppli社が3月中旬に出した予測レポートによれば、デジタル・オーディオ・プレーヤー市場の年成長率は、2009年まで29.1%という堅調な値を示すという。米JupiterResearch社の副社長兼シニアアナリストのDavid Card氏もその予測に同意する。同氏は、デジタル・オーディオ・プレーヤーの売上げは2005年35%増加し、2004年の1620万台から1820万台になり、2010年までには設置ベースで5610万台になると見ている(図1)*3)。「従来、新しい装置やメディアでは、米国内の世帯普及率が15〜20%の臨界点に達すると他の製品やサービスの購買が本格化する」と同氏は言う。同氏は、デジタル・オーディオ・プレーヤーが年末までにこの臨界点に達すると見ている。米In-Stat社も同様だ。同社はオンライン音楽市場について楽観的な予測をしており、全世界の市場は2005年134.4%成長し16億5000万ドルになり、2009年までに100億米ドルに近づくと見ている。
 この力強い市場成長のどれほどをApple社が獲得するだろうか。より正確に言い換えれば、どの程度「取り損ねる」だろうか。Apple社の勢いは、そう簡単には止まりそうにない。しかし、Apple社のパーソナルコンピュータ市場シェアは1992年に12%でピークとなり、現在のシェアはそのときの4分の1になっているという事実がある。Apple社のデジタル著作権管理(DRM:digital rights management)技術「FairPlay」のライセンス供与拒否は、コンピュータOSとハードウエア・デザインのライセンス供与を拒否した昔の同社を思い起こさせ、Wintel陣営対Apple社のパーソナルコンピュータでの過去の動向が、iPodおよびiTunesの先細りを予言していると考える市場関係者もいる。米DNNA(Digital Networks North America)社「Rio」部門の製品マーケティング&プログラム・ディレクターPeter Zan氏は次のように言う。「Apple社の最大の問題点は、皮肉なことに、同社を今の状況まで導いたSteve Jobs氏本人である」。コンピュータのハードウエアやソフトウエアでは、技術革新に伴ってユーザーは否応なくアップグレードを迫られ、その結果、プラットフォームの切り替えの道が開かれている。一方、2チャネル「Red Book」で規定されているCD等のオーディオ品質に満足しているユーザーには、コンピュータと同様の数年毎の自然なアップグレード・サイクルがない。そのため、既に購入したコンテンツに再び金を出す気にはならない。3億5000万回のDRMによる規制を受けた「iTunes Music Store」のダウンロード数は、2005年4月上旬の時点で3億5000万にのぼるという。この数は、プラットフォームが長期に亘って使用されることを示しているといえるだろうか。
 他社がApple社へ近づけない理由は何か。iPodは3月末までに約150万台売れたという。「iPod」の所有者がそれぞれ平均2台の「iPod」を購入し、また、「iTunes Music Store」からの音楽ダウンロードの多くが「iPod」に取り込まれたと仮定すると1人平均約50トラックとなり、2005年第1四半期の1人当たりの支出は約50米ドルになる。Microsoft社のWindowsメディア・グループ・マネジャーDavid Caulton氏は市場調査で、このデータとは異なる結果を得たという。同氏は、「iPod」所有者のなかで「iTunes Music Store」から何らかのコンテンツを購入した人は25%に満たないと主張する。「iPod」に現在セーブされている多くの音楽ファイルは、他のプレーヤーに転送可能な、DRM制約のないMP3フォーマットのものだという。オンライン購入も、全世界のCD売上げの約2%にすぎないと同氏は指摘する。「デジタル・オーディオ市場は、1982年から1984年におけるパーソナルコンピュータ市場と同じだ」と同氏は言う。「意識のなかでは隔たりを克服したが、実際はそうでもない」。彼の言わんとすることはお分かりになるだろう。

Apple社による「独占」

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 iTunesが使用しているAAC(Advanced Audio Coding)が業界採用への重大な障壁になっているわけではない。米Via Licensing社を通じてライセンスを取得することも可能である*4)。しかし、iTunesが使用している「Fair Play DRM」は別問題である。米Roku社を例に取ろう。同社は、Apple社からネットワーク・プロトコル「Rendezvous」(現在Bonjour)とDAAP(Digital Audio Access Protocol)技術のライセンスを取得した。同社のネットワーク型メディア・プレーヤー「PhotoBridge」、「Sound Bridge」、および、OEMライセンスが可能なソフトウエア、「SoundBridge」WiFi(Wireless Fidelity)メディア・モジュール用としてである。Apple社がRoku社に「FairPlay DRM技術」のライセンス供与も承認すると思った人も多くいただろう。しかし、Roku社の設立者で最高経営責任者(CEO)のAnthony Wood氏は言う。「ライセンス供与を申し入れたが断られた。丁寧だが断固としていた」。ぎりぎりまで、Apple社はFairPlayへの合法的なアクセスをどの企業にも認めなかった。米Hewlett-Packard社もiPodを販売しており約2%の市場シェアを持つが、これは単にApple社が開発した製品を再販しているだけである。
 Microsoft社と米Real Networks社は、広範な音楽市場でのDRM機密の共有をいやがるApple社のやり方を「独占状態」と指摘している。この論争は米国政府の耳にも入っていると思われる。議会の2005年4月6日の小委員会ではデジタル音楽の相互運用性と可用性についての公聴会が開かれた。報道によれば、Apple社は小委員会から出席を要請されたが断ったという*5)。Microsoft社とReal Networks社のこの指摘は、この2社自身が独占企業と見られていないならばもっと説得力があっただろう。Apple社の競合他社が行なっている議論は、平均的なユーザーは考えない技術レベルの高さや長期的な見通しのレベルを前提にしたものである。これでは平均的なユーザー、特に短期的にiPodに魅力を感じているユーザーに関係ないと思われても仕方がない。
 2004年7月下旬、米Real Networks社は、同社の「RealRhapsody」サービスでダウンロードした音楽を、同社の「Harmony」符号化技術とDRM符号変換技術を使用してiPodにも転送できるようにFairPlayのリバースエンジニアリングを行ったと発表した。Apple社は迅速かつ強硬な反応を示した*6)。「Real Networks社がハッカーのような策略と倫理観でiPodに進入したことに唖然としている。現在、この行為の詳細をDMCA(Digital Millennium Copyright Act)などの法律に基づいて調査している。適宜実施するiPodソフトウエアの更新後には、現在およびこれからのiPodでHarmonyが動作しなくなる可能性が非常に高いことを、Real Networks社とそのユーザーに強く警告する」。威嚇的な言葉はさておき、Real Networks社の最高戦略責任者(CSO)のRichard Wolpert氏は、Apple社は同社を相手取って訴訟を起こしたことはなく、Harmonyは現在、「iPod Photo」を除くすべてのiPodをサポートしていると主張している(その後、iPod Photoの互換性も回復した)。しかし、同社が合法的にFairPlayのライセンスを取得するまでは、同社のサービスは常に、Apple社の締め出しを避けるために「iPod」ファームウエアを更新し続けるという不安定な状態にあるといわざるをえない。
図2 Microsoft社とApple社の印象的なロゴ
(a)はMicrosoft社の「playsforsure」、(b)はApple社の「Made for iPod」。どちらも肯定的な消費者体験を約束する。
 iTunes Music Storeも不安がないわけではない。例えば、Sonyは、音楽コンテンツ権を所有するとともに、「Connect」音楽ダウンロード・サービスによるオンライン・コンテンツ・プロバイダでもある。Connectの人気がもっと高くなった場合に、SonyはiTunes Music Storeでの同社レーベルのコンテンツへのアクセスを制限したりブロックしたりするだろうか。さらに、多くのユーティリティがFairPlayを回避している。例えばHymnは、PlayFairと呼ぶプログラムに取って代わるもので、Jon Johansen氏はDRMの復号化システム「DeDRMS」(decryption of DRM system)を開発した。同氏は、自身が開発したDVD暗号化解除システムDeCSS(decryption of content scrambling system)によってDVD Jonと呼ばれている。HymnとDeDRMSはどちらも、Apple社独自の「iMovie」アプリケーションと同様に、ダウンロードされた音楽トラックから暗号を取り除く。同氏が共同開発したもう一つのプログラムLinux用「PyMusique」は、コンテンツがダウンロードされ、ダウンロード先のパーソナルコンピュータのハードディスク装置に格納されるまでの間、iTunes Music Storeの音楽ファイルにFairPlayの暗号が付加されないことを巧みに利用した。PyMusiqueは、サーバーとiTunesクライアント間で介入を行い、FairPlay DRMのデータ挿入をブロックする。C#言語で開発された改良版「Sharp Musique」は入手可能で、Windowsで実行できる。
 Microsoft社主導のプログラム「playsforsure」は、同社の符号化技術「Windows Media」およびDRMスキームに基づいている。パソコン、デジタル・オーディオ・プレーヤー、およびコンテンツの円滑な相互運用を実現するプログラムで、ポータブル・プレーヤーやネットワーク・プレーヤーのメーカー、プレーヤーの部品サプライヤー、コンテンツ・プロバイダーの製品に対応している。Microsoft社がパソコン用のOS「Windows」や、「Pocket PC」、「Pocket PC Phone」用の「Windows Mobile OS」、携帯電話用オペレーティング・システム「Smart phone」に対して構築したecosystemにおける差別化と技術革新の結晶といえる。ネットワークを介して不法侵入するクラッカー達が一時的に「Windows Media DRM」を出し抜いたことが何度かあるが、米Napster社の最高技術責任者(CTO)のBill Pence氏は、この事実がFair Playに欠けている2つのポイントを示していると指摘している。ポイントとはすなわち、侵害しているクライアントに対するアクセス許可の取消機能と、更なる侵入を防止するための更新能力である*7)。Apple社は、DRMの詳細に関するあらゆる情報の提供を拒絶した。

Jobs氏の決断

図3 各社のオーディオプレーヤー
(a)はLuxPro社の「Super Tangent」で、その外見はApple社のiPod Shuffle(b)によく似ている。「模倣は最も誠意のある褒め言葉」であるならば、Apple社は喜ぶべきだろう。PotalPlayer社のフラッシュメモリー型のリファレンスデザイン(c)には、カラー・ディスプレイと静止画機能が付加されている。
 iPod Shuffleは、Apple社のこれまでの製品ラインの中で、設計、製造、マーケティング部門による相乗効果を引き出した典型的な例である。同社の最高経営責任者(CEO)Steve Jobs氏は、ちょうどその1年前にフラッシュメモリー型のポータブル・オーディオ・プレーヤーのアイデアを皮肉たっぷりに退けた。しかし、同社の「iPod」が他社製品より価格が高いという批判は聞き入れ、1月に512Mバイトで99米ドル、1Gバイトで149米ドルの製品を発表した。この2種類のiPod Shuffleは、子供たちにポータブルプレーヤーをねだられながらも高価なハードディスク型の機種は購入には抵抗を感じているという親にとって特に魅力的だった。iPod Shuffleでは液晶ディスプレイ、FMラジオ、メモリーカード・スロット等の他社のプレーヤーには見られる機能を省いた。さらにユーザー・インターフェースを簡素化し、スイッチの数を減らしたことで同製品の価格をさらに抑え、利益を最大化した。また、同社のマーケティング担当者は、「ランダム再生モード」を「シャッフル」と呼び変え、液晶ディスプレイがないという欠点を「人生はランダムだ」、「予想外が楽しい」などのスローガンの下に長所に変えてみせた。
 iSuppli社は最近、iPod Shuffle、Rio Forge Sportの512Mバイト機種についての分析を発表した。同社は、iPod Shuffleの材料費を43.21米ドル、製造を含む全コストを45.37米ドルと推定している。Rio Forge Sportの材料費は50.34米ドル、全コストを52.76米ドルと見ている。Rio Forge Sportは、より安価な米SigmaTel社の古い型のオーディオ・プロセッサを使用していると推定されるにも関わらず、このコスト差が生じている。iPod Shuffleは、部品を近接配置する高密度設計を部分的に使用することで小型化を実現していると同社は分析している。設計密度は、Rio Forge Sportや、携帯電話、PDA等の設計密度よりも高いという。iPod Shuffleは、超薄型CSP(chip-scale-package)に封止された半導体も使用している。同社が分析した装置類のなかで、このパッケージ技術を使用していたのは初めてだという*8)
 Apple社は、そのブランドイメージ、設計、製造、マーケティングを総動員している。他社はどのように戦えばよいだろうか。Creative Technology社の国際広報部長Phil O'Shaughnessy氏は、「我々の戦略は簡単だ。機能が等価な製品をより低価格で提供し、機能がより高い製品を同程度の価格で提供することだ」と言う。Apple社のプレーヤーと同様の記憶容量を持つ他社製品は、FMラジオやFM録音機能、ライン入力、マイク入力や組込み型マイクロフォンと録音機能、ディスプレイ、充電回数に制限のある内蔵電池パックの代わりの交換式電池、メモリーカードによる容量の拡張、仮想サラウンド・サウンド、「Outlook」からの予定表や連絡先、仕事等のデータを転送する機能などをうたい文句にしている*9)*10)
 Microsoft社は、同社が提案する「フラッシュメモリー型MP3プレーヤー購入への6つのヒント」の中で、Microsoft社およびその提携企業の製品が提供し、iPod Shuffleにはない機能を強調している*11)。台湾のLuxPro社はiPod ShuffleにそっくりのMP3機種「Super Tangent」を提供しているが、同機種の最初の名前は「Super Shuffle」で、Apple社の弁護団の圧力により名前を変えたという経緯がある(図3)。「Super Tangent」は、Fair PlayやAACではなく、MP3とDRM付きWMA(Windows Media Audio)をサポートし、さらに、FMラジオ、音声録音機能もある。しかし、Apple社や競合他社よりも低い価格での発売を試みたばかりに、ユーザーの混乱や反発を招く現象が起きつつある。プレーヤーの記憶容量についてのクレームである。例えば、米Dell社のプレーヤーは、何メガバイトものデータを64kビット/秒で1トラック4分というユーザー・フレンドリーなトラック仕様に変換している。Apple社は128kビット/秒としてプレーヤーのベンチマークテストを行なっている。Rioは、64kビット/秒のWMAと128kビット/秒のMP3の両方の評価結果を公表している。

生き残るメーカーは?

 米Sandisk社の小売り製品マーケティング・ディレクターEric Bone氏は、フラッシュメモリー型プレーヤーの淘汰に生き残るのはせいぜい3社程度と予測している。Apple社、Sony、Sandisk社の3社である。これらのプレーヤーで主に使用されているメモリーはNAND型フラッシュメモリーであり、現在の主要サプライヤーはSamsung電子と、Sandisk社/東芝である。これら3社はコスト面でAppple社に優位に立っている。Apple社はNAND型フラッシュメモリー・サプライヤーの利幅を吸収しなければならない。同氏は、フラッシュメモリーのコストは集積密度にも依存するがプレーヤーの全体の約80%を占めると見ている。iSuppli社の分析結果は同氏の言葉を裏付けるものである。「Sandisk社は昨年市場に参入して1カ月のうちに市場シェア第1位を獲得した。そしてApple社が1月にiPod Shuffleを発表するまで、その地位を保っていた」と同氏は言う。
 Bone氏はさらに、現在のオーディオ・プロセッサー・チップ・セットにはMLC(multi level cell)NAND型フラッシュメモリーに対応する誤り検出訂正機能を実装しているものがないと指摘する。メーカーがこの機能を付加し始めれば、低価格化が加速するだろう。暫定的な措置として、Sandisk社は、TransFlashカードを埋め込んだプレーヤーの展開を計画している。このプレーヤーのコントローラは、カードに内蔵されているMLC NAND型フラッシュメモリーも管理し、システムの残りの部分とSDカード駆動インターフェースを介して通信する。Sandisk社は、第2世代と今後のプレーヤーに、取り外し可能なメモリーカード用インターフェースも搭載していく。これは、同社の更なる収入源になる可能性を秘めている。
 ハードディスク型のプレーヤーに目を向けてみよう。家庭用電化製品大手のSamsung社や東芝もハードディスク装置を製造している。ただし、Samsung社にはまだ1.8インチ型以下の機種はない(そのためにCreative Technology社等の企業は大型だが成熟している2.5インチ型のハードディスク装置を使用していた)。薄型iPodの成功によって、需要供給のバランスが取れるまでの間、他のメーカーが入手できる1.8インチ型のハードディスク装置はほとんどなかった。

図4 PortalPlayer社のPP5022
高集積チップであるPP5022は、低電流動作の0.13μmプロセスを使用することで低消費電力を実現する。

 日立、米Seagate Technology社、東芝は、小型ハードディスク装置を垂直すなわち縦型の記録方式に数年のうちに移行する計画である。日立は、年末までに大容量化手法を取り入れた2.5インチ型ハードディスク装置を発売し、2007年初旬までに20Gバイトの1インチ型ハードディスク装置を発表したいと考えている(囲み記事『垂直磁気記録へ』を参照)。東芝の4Gバイト、0.85インチ型ハードディスク装置はちょうど製造段階に入っており、Samsung社は、第3四半期中に出荷を開始する計画である。
 米Western Digital社の参入により、中国GS Magicstor社、日立、Seagate Technology社とともに、1インチ型ハードディスク装置の市場への適切な供給体制が構築されつつある。もし音楽配信サービス「Napster To Go」やそれに代わる登録型サービスが軌道に乗れば、プレーヤーは0.85インチや1インチ型のハードディスク装置の容量で十分かもしれない。このアプリケーションでは1.8インチ型装置への需要は消滅する可能性もある。すなわち、ハードディスク装置は衰退しつつあり、米市場調査会社Semico Research社のアナリストJim Handy氏の予測が正しければ10年以内に消滅するかもしれない。2005年1月に“Consumer Electronics Show”に先立ってラスベガスで開催された“Storage Visions 2005 Conference”での同氏の発表では、ハードディスク装置のコストは容量には依存せず、記録媒体の円盤、ヘッド、モーター、シャーシ等で決まり、一方で、半導体メモリーの価格は容量にほぼ比例する。4Gバイトのフラッシュメモリー型プレーヤーのコストは、同レベルの容量のハードディスク型プレーヤーと同じになる。容量だけを問題にする場合、消費者が、大きくかさばり、無骨で消費電力のかさむプレーヤーを選択する理由があるとは思えない。

強化されていく画像機能

 オーディオ・プロセッサー・メーカーの製品ロードマップは、プレーヤーのプラットフォーム発展方向によって変わってくる。米PortalPlayer社の関心は、主に集積度と低消費化に向いている。同社は、最新世代のデュアルARM7コアであるPP5022に、イメージ・センサー、USB OTG(On the Go)サポートとともに静止画処理用ハードウエア・アクセラレーション機能ブロックを埋め込んだ。また、低電圧への移行、0.13μmプロセスによって、オンボード・メモリーの追加や消費電力の大幅な削減も可能である(図4)。Apple社は第2世代となるiPod Miniのマーケティング資料で低消費電力を大いに宣伝している。PortalPlayer社は、0.35μmの混合信号チップを開発したオーストリアのaustriamicrosystems社と提携してPP5022ベースのデュアルチップ・デバイスPP5024を製造した。PP5024は、オーディオ信号の増幅やミキシング、パワー管理、バッテリー充電機能を搭載している(囲み記事『音質はどうか?』を参照)

図5 SigmaTel社のロードマップ
ARM9への移行と集積度の上昇も織り込んだ内容となっている。

 SigmaTel社は、さらなる性能の向上を推し進めている。同社は、専用DSP(digital signal processor)コアからARM9プロセッサに移行しようとしている。広がっていくプラットフォームの要求に対応するため、時間をかけて、ARM9周辺チップを強化していく方針だ(図5)。同社のSoCグループのマーケティング・ディレクターBrad Hale氏とマーケティング・マネジャーBobbi Bone氏によると、同社の複数のシステム・パートナーは、ARM9コアの性能を利用して各々が開発しているプレーヤーの機能を強化していく予定だという。付加される機能としては、高速の画像変換が可能な静止画再生機能や、高品位動画再生、静止画および動画のイメージ・キャプチャ機能、ゲーム機能、電話機能、デジタル衛星機能、地上波無線受信機能等がある。同社の現在の製品ラインでは、3502を除く全チップにリアルタイム・クロック機能が付加されており、「Napster To Go」などの「Windows Media DRM 10」ベースの購読サービスを実現できる。
 米Texas Instruments社は、オーディオのみのシステムとオーディオ+画像のシステムからなる並行する2元的な製品ラインを提供している。オーディオ+画像の製品ラインでは、デジタル静止画カメラやビデオカメラでの使用も想定している。2005年初頭に発売した、同社の最新オーディオ用DSP「TMS320DA295」は、同社のコストへの関心の高さを示している。このチップは従来品と異なり、ヘッドフォン増幅器やステレオDAC(digital-analog converter)を統合しており、どちらかといえば脇役的な機能である。その代わり、同社はこの機能に基づいたリファレンス設計を強化した。「OEMメーカーは、製品化までの時間へのプレッシャーをより強く感じている」と、マーケティング・マネジャーのKevin Hawkins氏は言う。「だから当社はそのままで市場に出せるリファレンスデザインや、カスタマイズして差別化を行うことで独自の製品を実現できるようなリファレンス設計を開発している」。抱き合わせ販売は、販売価格を見て新規購入をためらうユーザーの背中を後押しする一般的な手法である。例えば、コンテンツ・プロバイダーは、1年または複数年の予約購読の同意と引き換えに、オーディオ・プレーヤーを無料にしたり、補助金を出したりする。このような手法は携帯電話で既に効果をあげており、オーディオ・プレーヤーの分野でも、うまくいかない理由はない。
 iPod Shuffleにはディスプレイがない。他の多くのメーカーは正反対の方向に向かっている。カラー・ディスプレイの利点はカメラ付き携帯電話の出現で顕著になった。ユーザーの多くは、人目を引き、見やすければ、価格の高さやカラー・ディスプレイ付き携帯電話の電池寿命の低下に拒否反応は示さなかった。同様に、カラー・ディスプレイ付きのフラッシュメモリー型プレーヤーやハードディスク型プレーヤーが相当数出始めている。韓国のiRiver社の「H10」は既に販売中であり、Creative社のOLED(organic-LED)付き「Zen Micro Photo」が7月に市場に出回る予定だった*12)
 Apple社は他社の猛攻をだまって見ているわけではない。現在、モノクロディスプレイ付きの機種は1.8インチ型ハードディスク装置内蔵の20Gバイトの「iPod」だけである。昨年の10月、同社は40Gバイトと50Gバイトの「iPod Photo」をそれぞれ499米ドルと599米ドルで市場に投入した。現在、両機種とも150米ドルも安くなっており、499米ドルの機種はメモリーが10Gバイト少なくなっている。値下げに伴って、充電用ドック・コネクタなどのいくつかのアクセサリーが標準装備から外された。同社は、写真への対応だけでなく、アルバム表示や、画面の見やすさを向上させるため、カラー・ディスプレイのサイズを大きくしようとしている。

そしてまた“Play”は押される

 「PlaysForSure」で手を組んだメーカーは、他の分野でも形勢を変えてApple社に反撃を加えたい考えだ。例えば、オーディオ・コンテンツの相互運用をパソコンやポータブル・オーディオ・プレーヤーだけでなく、PDAや携帯電話、LANやWAN接続用のメディア・アダプター等の装置でも応用していく計画である。また、会員制有料サービスの規則を変えて、プラットフォームの枠組みをオーディオと静止画に限らず、動画や他の機能にも拡張していく考えである。

編集部追記

 Apple社は2005年8月4日、「iTunes Music Store」の日本でのオープンを発表した。サービスが提供されるのは世界で20カ国目となる。
 1曲の価格は150円または200円、楽曲数は100万曲。最新バージョンとなるiTunes 4.9にはポッドキャスティング機能が組み込まれているが、今回開始されたiTunes Music StoreではInter FM、ソトコト、ラジオNIKKEIなどの日本語ポッドキャストが提供される。
 会見に出席したSteve Jobs氏は、iTunesおよびiPodを「デジタル音楽革命のリーダー役」と位置づけ、今回のオープンで日本におけるiPodの普及に弾みをつけたい考えを示した。
【参考】EDN Japanニュースサイト
「iTunes Music Store、ついに日本でも開始」
http://www.ednjapan.com/content/l_news/2005/08/04_03.html
ウォークマンの復活は?

 Sonyのデジタル・オーディオへの意気込みが初めて公になったのは1999年のComdex会場だった。当時、同社の最高経営責任者(CEO)出井伸之氏は基調講演において、名ギタリストSteve Vai氏が実演のアシスタントになり、「Memory Stick Walkman」と、当時としては大容量だった64Mバイトの「Vaio Music Clip」を発表した。そこは勝っても負けてもSonyのビジネス、結果的に同社のハードウエア部門は敗北することになる。動きの鈍い企業風土とこだわり過ぎのコンテンツ部門の犠牲になったわけである。同社のプレーヤーは現在こそMP3もサポートしているものの、つい最近までサポートしていたのは同社独自の圧縮アルゴリズムATRAC(Adaptive Transform Acoustic Coding)だけだった。同社のMP3の採用は十分とはいえない*A)。また、今日まで、同社のオンライン音楽サービス「Connect」はATRACだけで、これには、独自の著作権管理システム「MagicGate DRM」を採用している。
 同社にデジタル・オーディオでの幸運はまためぐってくるだろうか。この答えの鍵は、最近行なわれた上層部の刷新が握っているといえるだろう。新任の会長兼CEOであるHoward Stringer氏は、Sony Americaのエンターテインメント・ビジネス・グループの前最高経営責任者(CEO)である。同社のウェブサイトに掲載されている経歴によると、「エンターテインメント・ビジネスとエレクトロニクス・ビジネスを連携する戦略開発と、今後のコンテンツ・ビジネスの拡大の責任を負った」とある*B) 。同氏は企業の道筋を実現するというよりは企業の方向性を決める世界規模の仕事のなかで、これまでアメリカ国内で収めてきたような成功を再現できるだろうか。同社の音楽部門の資産への従来の優先順位を継続するつもりだろうか。それとも、他社に同調してハードウエアの内容を公開するつもりだろうか。それは時が経てば明らかになる。

参考文献
*A)http://hardware.slashdot.org/article.pl?sid=05/04/13/190258
*B)http://www.sony.com/SCA/bios/stringer.shtml
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数値データの考察

 2005年1月11日、サンフランシスコで開催されたMacWorld ExpoでのSteve Jobs氏の基調演説からは、デジタル・オーディオ市場での現在のアップル社の優勢を伺い知ることができる(図A)*A)。同氏は次のように主張した。
●iTunes Music Storeの累積ダウンロード数は2億3000万回に達した。現在の1日の平均ダウンロード数は125万回であり、このままいけば年間ダウンロード数は5億回になる見込みである。
●iTunes Music Storeは70%の市場シェアを達成しており、2004年を通してこのシェアを維持した。
●2003年のホリデーシーズンを含む四半期に73万3000台以上のiPodを販売し、2004年の同四半期には450万台を販売した。年成長率は500%を記録し、これまでに1000万台以上、2004年だけで800万台以上のiPodが売れたことになる。
●サードパーティーは今までにiPodファミリー用アクセサリーを400種類以上発売している。
●1インチ型ハードディスク装置搭載のiPod miniの発表の1年前から、Apple社はフラッシュメモリー型プレーヤー市場のかなりのシェアを獲得していた。(Jobs氏の市場シェア・データの情報源を明かすよう再三要求したが、Apple社からの返答はなかった)
 Apple社が出したさらに最近の追加データにおいても同社のサクセス・ストーリーが展開されている。3月2日にはiTunes Music Storeのダウンロード数が3億回を上回ったと発表し、3月13日には、第2事業四半期の収益発表の一部として、iTunes Music Storeのダウンロード数が3億5000万回を超えたことを明らかにした。ここで、第1事業四半期の収益発表から引用する。「Apple社は107万台のMacintoshと531万1000台のiPodをこの四半期で販売し、昨年の同四半期と比較するとCPU台数は43%、iPodは558%の伸びを示した」*B)。
 収益レポートによると、同四半期、iPodのハードウエア販売がApple社の全収益の31%強を占めたことが分かる。この発表において、同社の最高財務責任者(CFO)のPeter Oppenheimer氏とワールドワイド・セールス経営担当副社長Tim Cook氏は、同社がiPod Shuffle発売から1四半期足らずで、米国のフラッシュメモリー型プレーヤー市場の43%以上を獲得し、米NPD Techworld社の分析では、2月に同市場シェアが第1位になったと発言した*C)。両氏は、また、同社はハードディスク型音楽プレーヤー市場では90%のシェアを持つと報告した。
 米DNNA社のRio部門製品マーケティング担当副社長のDaniel Torres氏は、Jobs氏が発表したサードパーティーによる400種類以上のアクセサリーの発売を割り引いて考えている。同氏の市場分析によると、これらのアクセサリーのうち200種類以上は色や形状の違い、ベンダーによる改良機であり、100種類以上はヘッドフォン・ジャックや、オーディオ・プレーヤー用の一般的な周辺機器であるという。Apple社は最近、「Made for iPod」ブランドのプログラムを発表した。提携企業が形成してきたアクセサリー市場に、Apple社が製品を投入する可能性もあるという。同氏はこの発表が提携企業を失望させてしまう可能性があると指摘する(1例としてApple社が最近発表した「iPod Camera Connector」が挙げられる。これは、昨年米Belkin社が公開したコンセプトである)。Apple社はMade for iPodを、iPodユーザーを悪徳アクセサリーメーカーから守る手段と位置づけているが、提携企業から10%のマージンを引き出す便利な方法だという人もいる。その判断は読者諸氏に任せたい。

図A iPodの市場動向
(a)iPodの出荷台数、(b)iPodの市場シェア。iPodの出荷台数は急激に増加している。Apple社はiPod Shuffleでさらなるシェアを獲得したいと考えている。

参考文献
*A)http://www.apple.com/quicktime/qtv/mwsf05
*B)http://www.apple.com/pr/library/2005/apr/13rusults.html
*C)http://www.apple.com/quicktime/qtv/earningsq205
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垂直磁気記録へ

 下記サイトに行けば、ハードディスク装置への垂直記録技術について音楽と動画で楽しく学ぶことができる。 http://www.hitachigst.com/hdd/rese arch/ recording_head/ pr/PerpendicularAnimation.html
 ただし、アクセスの前に米Macromedia社の「Flash player」がインストールされているか、またスピーカーが接続されているか、音量が適切かを確認すること。 日立のマーケティング担当者は次に何を考えてくれるだろうか。
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音質はどうか?

 優れた技術ジャーナリストとして知られているBill Machrone氏の記事はPC Magazine等で読むことができる。同氏は最近まで米Ziff-Davis Publishing社の技術担当副社長兼インタラクティブ・メディア・アンド・デベロップメント・グループの論説員だった。同氏は今も時間を見つけては、さまざまなハードウエアやソフトウエア製品を分析し、それらがどのように稼動するか分析している。同氏の最近のプロジェクトには各種のデジタル・オーディオ・プレーヤーの音質(すなわち、音の劣化)分析がある。同氏の一連の記事は下記にアクセスして読むことができる。
http://go.pcmag.com/machrone
さらに分析データが必要な場合は下記にアクセスされたい。
http://machrone.home.comcast.net/ playertest/distortion.htm
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用語解説 / 会社情報
*1)
http://www.theregister.co.uk/2004/11/18/creative_vs_apple
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*2)
http://times.hankooki.com/lpage/biz/200503/kt2005031716594411860.htm
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*3)
http://apple.slashdot.org/article.pl?sid=05/04/15/1447226
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*4)
Depert, Brian, "Digital audio gets anaudition: Part two: lossy compression," EDN, Jan 18, 2001, p.87.
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*5)
http://apple.slashdot.org/article.pl?sid=05/04/07/2157218
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*6)
http://www.crn.vnunet.com/news/1156980
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*7)
Dipert, Brian, "Media security thwarts temptation, permits prosecution," EDN, June 22, 2000, p.101.
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*8)
http://www.isuppli.com/marketwatch/default.asp?id=298
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*9)
Depert, Brian, "Decoding and virtualization bring surround sound to the masses," EDN, Oct 25, 2001, p.63.
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*10)
Depert, Brian, "Battery blues," EDN, July 11, 2002, p.33.
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*11)
http://www.microsoft.com/windows/windowsmedia/devices/flash.aspx
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*12)
Depert, Brian, "Master of some: direct-view display technology," EDN, March 3, 2005, p.38.
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