彼らの共通の敵は果たして誰か?勿論Apple社である。通り過ぎる人の多くが耳につけている白いイヤホンを見れば明らかだろう(囲み記事『数値データの考察』参照)。サンフランシスコである朝、通行人を30分間観察したところ、5人に1人が同社のイヤホンをつけていた。米iSuppli社が3月中旬に出した予測レポートによれば、デジタル・オーディオ・プレーヤー市場の年成長率は、2009年まで29.1%という堅調な値を示すという。米JupiterResearch社の副社長兼シニアアナリストのDavid Card氏もその予測に同意する。同氏は、デジタル・オーディオ・プレーヤーの売上げは2005年35%増加し、2004年の1620万台から1820万台になり、2010年までには設置ベースで5610万台になると見ている(図1)*3)。「従来、新しい装置やメディアでは、米国内の世帯普及率が15〜20%の臨界点に達すると他の製品やサービスの購買が本格化する」と同氏は言う。同氏は、デジタル・オーディオ・プレーヤーが年末までにこの臨界点に達すると見ている。米In-Stat社も同様だ。同社はオンライン音楽市場について楽観的な予測をしており、全世界の市場は2005年134.4%成長し16億5000万ドルになり、2009年までに100億米ドルに近づくと見ている。
この力強い市場成長のどれほどをApple社が獲得するだろうか。より正確に言い換えれば、どの程度「取り損ねる」だろうか。Apple社の勢いは、そう簡単には止まりそうにない。しかし、Apple社のパーソナルコンピュータ市場シェアは1992年に12%でピークとなり、現在のシェアはそのときの4分の1になっているという事実がある。Apple社のデジタル著作権管理(DRM:digital rights management)技術「FairPlay」のライセンス供与拒否は、コンピュータOSとハードウエア・デザインのライセンス供与を拒否した昔の同社を思い起こさせ、Wintel陣営対Apple社のパーソナルコンピュータでの過去の動向が、iPodおよびiTunesの先細りを予言していると考える市場関係者もいる。米DNNA(Digital Networks North America)社「Rio」部門の製品マーケティング&プログラム・ディレクターPeter Zan氏は次のように言う。「Apple社の最大の問題点は、皮肉なことに、同社を今の状況まで導いたSteve Jobs氏本人である」。コンピュータのハードウエアやソフトウエアでは、技術革新に伴ってユーザーは否応なくアップグレードを迫られ、その結果、プラットフォームの切り替えの道が開かれている。一方、2チャネル「Red Book」で規定されているCD等のオーディオ品質に満足しているユーザーには、コンピュータと同様の数年毎の自然なアップグレード・サイクルがない。そのため、既に購入したコンテンツに再び金を出す気にはならない。3億5000万回のDRMによる規制を受けた「iTunes Music Store」のダウンロード数は、2005年4月上旬の時点で3億5000万にのぼるという。この数は、プラットフォームが長期に亘って使用されることを示しているといえるだろうか。
他社がApple社へ近づけない理由は何か。iPodは3月末までに約150万台売れたという。「iPod」の所有者がそれぞれ平均2台の「iPod」を購入し、また、「iTunes Music Store」からの音楽ダウンロードの多くが「iPod」に取り込まれたと仮定すると1人平均約50トラックとなり、2005年第1四半期の1人当たりの支出は約50米ドルになる。Microsoft社のWindowsメディア・グループ・マネジャーDavid Caulton氏は市場調査で、このデータとは異なる結果を得たという。同氏は、「iPod」所有者のなかで「iTunes Music Store」から何らかのコンテンツを購入した人は25%に満たないと主張する。「iPod」に現在セーブされている多くの音楽ファイルは、他のプレーヤーに転送可能な、DRM制約のないMP3フォーマットのものだという。オンライン購入も、全世界のCD売上げの約2%にすぎないと同氏は指摘する。「デジタル・オーディオ市場は、1982年から1984年におけるパーソナルコンピュータ市場と同じだ」と同氏は言う。「意識のなかでは隔たりを克服したが、実際はそうでもない」。彼の言わんとすることはお分かりになるだろう。
図2 Microsoft社とApple社の印象的なロゴ (a)はMicrosoft社の「playsforsure」、(b)はApple社の「Made for iPod」。どちらも肯定的な消費者体験を約束する。
iTunes Music Storeも不安がないわけではない。例えば、Sonyは、音楽コンテンツ権を所有するとともに、「Connect」音楽ダウンロード・サービスによるオンライン・コンテンツ・プロバイダでもある。Connectの人気がもっと高くなった場合に、SonyはiTunes Music Storeでの同社レーベルのコンテンツへのアクセスを制限したりブロックしたりするだろうか。さらに、多くのユーティリティがFairPlayを回避している。例えばHymnは、PlayFairと呼ぶプログラムに取って代わるもので、Jon Johansen氏はDRMの復号化システム「DeDRMS」(decryption of DRM system)を開発した。同氏は、自身が開発したDVD暗号化解除システムDeCSS(decryption of content scrambling system)によってDVD Jonと呼ばれている。HymnとDeDRMSはどちらも、Apple社独自の「iMovie」アプリケーションと同様に、ダウンロードされた音楽トラックから暗号を取り除く。同氏が共同開発したもう一つのプログラムLinux用「PyMusique」は、コンテンツがダウンロードされ、ダウンロード先のパーソナルコンピュータのハードディスク装置に格納されるまでの間、iTunes Music Storeの音楽ファイルにFairPlayの暗号が付加されないことを巧みに利用した。PyMusiqueは、サーバーとiTunesクライアント間で介入を行い、FairPlay DRMのデータ挿入をブロックする。C#言語で開発された改良版「Sharp Musique」は入手可能で、Windowsで実行できる。
Microsoft社主導のプログラム「playsforsure」は、同社の符号化技術「Windows Media」およびDRMスキームに基づいている。パソコン、デジタル・オーディオ・プレーヤー、およびコンテンツの円滑な相互運用を実現するプログラムで、ポータブル・プレーヤーやネットワーク・プレーヤーのメーカー、プレーヤーの部品サプライヤー、コンテンツ・プロバイダーの製品に対応している。Microsoft社がパソコン用のOS「Windows」や、「Pocket PC」、「Pocket PC Phone」用の「Windows Mobile OS」、携帯電話用オペレーティング・システム「Smart phone」に対して構築したecosystemにおける差別化と技術革新の結晶といえる。ネットワークを介して不法侵入するクラッカー達が一時的に「Windows Media DRM」を出し抜いたことが何度かあるが、米Napster社の最高技術責任者(CTO)のBill Pence氏は、この事実がFair Playに欠けている2つのポイントを示していると指摘している。ポイントとはすなわち、侵害しているクライアントに対するアクセス許可の取消機能と、更なる侵入を防止するための更新能力である*7)。Apple社は、DRMの詳細に関するあらゆる情報の提供を拒絶した。
オーディオ・プロセッサー・メーカーの製品ロードマップは、プレーヤーのプラットフォーム発展方向によって変わってくる。米PortalPlayer社の関心は、主に集積度と低消費化に向いている。同社は、最新世代のデュアルARM7コアであるPP5022に、イメージ・センサー、USB OTG(On the Go)サポートとともに静止画処理用ハードウエア・アクセラレーション機能ブロックを埋め込んだ。また、低電圧への移行、0.13μmプロセスによって、オンボード・メモリーの追加や消費電力の大幅な削減も可能である(図4)。Apple社は第2世代となるiPod Miniのマーケティング資料で低消費電力を大いに宣伝している。PortalPlayer社は、0.35μmの混合信号チップを開発したオーストリアのaustriamicrosystems社と提携してPP5022ベースのデュアルチップ・デバイスPP5024を製造した。PP5024は、オーディオ信号の増幅やミキシング、パワー管理、バッテリー充電機能を搭載している(囲み記事『音質はどうか?』を参照)。
2005年1月11日、サンフランシスコで開催されたMacWorld ExpoでのSteve Jobs氏の基調演説からは、デジタル・オーディオ市場での現在のアップル社の優勢を伺い知ることができる(図A)*A)。同氏は次のように主張した。
●iTunes Music Storeの累積ダウンロード数は2億3000万回に達した。現在の1日の平均ダウンロード数は125万回であり、このままいけば年間ダウンロード数は5億回になる見込みである。
●iTunes Music Storeは70%の市場シェアを達成しており、2004年を通してこのシェアを維持した。
●2003年のホリデーシーズンを含む四半期に73万3000台以上のiPodを販売し、2004年の同四半期には450万台を販売した。年成長率は500%を記録し、これまでに1000万台以上、2004年だけで800万台以上のiPodが売れたことになる。
●サードパーティーは今までにiPodファミリー用アクセサリーを400種類以上発売している。
●1インチ型ハードディスク装置搭載のiPod miniの発表の1年前から、Apple社はフラッシュメモリー型プレーヤー市場のかなりのシェアを獲得していた。(Jobs氏の市場シェア・データの情報源を明かすよう再三要求したが、Apple社からの返答はなかった)
Apple社が出したさらに最近の追加データにおいても同社のサクセス・ストーリーが展開されている。3月2日にはiTunes Music Storeのダウンロード数が3億回を上回ったと発表し、3月13日には、第2事業四半期の収益発表の一部として、iTunes Music Storeのダウンロード数が3億5000万回を超えたことを明らかにした。ここで、第1事業四半期の収益発表から引用する。「Apple社は107万台のMacintoshと531万1000台のiPodをこの四半期で販売し、昨年の同四半期と比較するとCPU台数は43%、iPodは558%の伸びを示した」*B)。
収益レポートによると、同四半期、iPodのハードウエア販売がApple社の全収益の31%強を占めたことが分かる。この発表において、同社の最高財務責任者(CFO)のPeter Oppenheimer氏とワールドワイド・セールス経営担当副社長Tim Cook氏は、同社がiPod Shuffle発売から1四半期足らずで、米国のフラッシュメモリー型プレーヤー市場の43%以上を獲得し、米NPD Techworld社の分析では、2月に同市場シェアが第1位になったと発言した*C)。両氏は、また、同社はハードディスク型音楽プレーヤー市場では90%のシェアを持つと報告した。
米DNNA社のRio部門製品マーケティング担当副社長のDaniel Torres氏は、Jobs氏が発表したサードパーティーによる400種類以上のアクセサリーの発売を割り引いて考えている。同氏の市場分析によると、これらのアクセサリーのうち200種類以上は色や形状の違い、ベンダーによる改良機であり、100種類以上はヘッドフォン・ジャックや、オーディオ・プレーヤー用の一般的な周辺機器であるという。Apple社は最近、「Made for iPod」ブランドのプログラムを発表した。提携企業が形成してきたアクセサリー市場に、Apple社が製品を投入する可能性もあるという。同氏はこの発表が提携企業を失望させてしまう可能性があると指摘する(1例としてApple社が最近発表した「iPod Camera Connector」が挙げられる。これは、昨年米Belkin社が公開したコンセプトである)。Apple社はMade for iPodを、iPodユーザーを悪徳アクセサリーメーカーから守る手段と位置づけているが、提携企業から10%のマージンを引き出す便利な方法だという人もいる。その判断は読者諸氏に任せたい。