2005年8月号
スマートバッテリーは部品選定レイアウトが決め手に
最近のスマートバッテリー回路では、主要部品の選定と実装が課題であり、トレードオフの問題にもなっている。だが、設計の全体を詳細に見直せば、アプリケーション要求を確実に満たすことができるはずである。
スマートバッテリーパックの設計には、システムの全体像を捉えることが求められる。部品間のトレードオフ関係を評価することで、電子機器にとって最適なバッテリーパックを開発できる。部品の1つ1つがバッテリーパックの性能に影響するため、仕様上の要求事項と各部品の適用可能範囲を十分に調べて、適切な部品を選定する必要がある。この作業をうまく行えば、製品開発サイクルの時間とコスト効率の管理ができる。
リチウムイオンバッテリーを採用する場合、安全面での問題があり、最悪条件でも高信頼性と安全性を保証できる設計が欠かせない。安全性に関わる問題として、セル電圧の過不足やバッテリーパックの過電流がある。回路を安全に保つには、充電と放電、双方の電圧を制限して、セルの永久破損を防がなければならない。また、放電時の過電流からも回路を保護しなければならない。今回は、各部品の選定が、プリント基板レイアウトなどのバッテリー設計にどう影響するかを述べる。システムの全体を見渡しながら細部まで検討していくことが、要求されたアプリケーションを満足する設計の一助となる。
スマートバッテリーには専用のハードウエアを搭載しており、これをソフトウエアで制御しながらSMBusホストに最新の情報や計算値、予測情報を送る(図1) 。スマートバッテリーの構成要素として、コネクタ、ヒューズ(F1 )、充電用および放電用のFET(Q1 、Q2 )、セルパック*1) 、検出抵抗(RSENSE )、1次および2次の保護用IC、残量ゲージIC、サーミスタ、プリント基板、EEPROM*2) がある。EEPROMには残量ゲージIC用のファームウエアを保存しておく。コネクタ、ヒューズ、FET、セルパック、検出抵抗はバッテリーパックの高電流経路に配置される。1次および2次の保護用ICと残量ゲージICは、FETとヒューズの制御を行う。サーミスタはセルパックの温度のフィードバックを行う。残量ゲージICはEEPROMを活用する。EEPROMには、バッテリーパックの構成や、製造番号、重放電サイクル寿命などの定数やパラメータを記憶させておく。これらの部品が集まって初めてプリント基板上のスマートバッテリー回路を構成する。
標準的なバッテリーパックでは、コネクタが複数必要になることがある。主コネクタは、バッテリーパックと電子機器をつなぐインターフェースとなる機械的かつ電気的な部品である。もう一つは、セルパックとスマートバッテリーのプリント回路基板をつなぐコネクタである。ただし、このコネクタはセルパックをプリント基板上に直接はんだ付けで取り付ける場合はいらないが、高熱が加わるため、工程の最終テストで組み立て不良を起こすことがある。
主コネクタに関する重要な項目として、動作温度範囲とピンの配置、向き、インピーダンスがある。コネクタの動作温度は特に重要だ。今日、以前に増して高い動作電流がバッテリーパックに要求されるからだ。特に大容量のバッテリーパックを放電させると、コネクタ内部に過剰な熱が発生してしまう。設計の序盤で不用意にピンの配置を決めてしまう設計者がいるが、コネクタピンのインピーダンスや定格電流を、容量性能や短絡閾(しきい)値に合わせることが重要であることを忘れてはならない。ほとんどの場合、こうしたパラメータの決定は、電子機器の要求に基づいて行わなければならないので、設計の後半でしか行えないはずである。なお、バッテリーパックとプリント基板の間にコネクタを用いる場合は、回路がショートしないように考慮して、2本の検出回路配線間の間隔を十分にとるように、注意を払わなくてはならない。
1次および2次の保護用ICは、セル電圧の検出回路配線によってセル状態を監視する。大電流を伴う充放電のサイクルにおいてセルのバランスが崩れると、検出回路配線のインピーダンスが問題になってくる。一方のセル対を他方のセル対よりも急速に充電または放電させると、セル対同士のバランスが崩れる。検出回路配線のインピーダンスが違っている場合でもセルから流れる電流が著しく違ってしまう。したがって、検出回路配線はセルにできるだけ近接させる必要がある。同じ理由により、セルの配線においても十分に注意する必要がある。
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ヒューズを選定する
ヒューズは通常、発熱体に加わる温度や電流及び電力に基づいて電流を制限する3端子素子だ。ほとんどの設計では、ヒューズによってバッテリーパックの2次保護レベルが決まるので、その選定は重要である。ヒューズを選ぶにあたり考慮すべき要因として、定格温度と、保持電流、トリップ電流*3) 、最大パック電圧、大きさがある。また、ヒューズがどのような条件で作動するかは、仕様で定められていなくても知っておくべきであろう。なお、UL(Underwriters Laboratories)規格の最大電源要求(limited-power-source requirement)基準が義務付けられている電子機器もある。
ヒューズが動作するのは発熱体を電流が流れる時だ。最悪時のタイミングや電力を見直すことで、意図した場合だけヒューズを確実に作動させることができる。プリント基板上に配置する際には、発熱体や高電力部品などから十分に離すべきである。そうすると、機械的な制約がなくなり、製造工程で発生する不具合や不必要な溶断を防ぐことができる。プリント基板上に部品を配置する場合は、最適な製造工程と性能を得られるよう、製造や工程の技術者と協力して作業を進めるとよい。
FETの選定
充電および放電用MOS FETの選定で考慮すべき点は、オン抵抗、ゲート−ソース間電圧、ドレイン−ソース間電圧、電力損失、絶対最大温度、定格電流、パッケージサイズ、コストである。こうした要因はすべてトレードオフの関係にある。例えば、オン抵抗の低いFETは、少々高いが発熱が少なくバッテリー容量において優れている。最悪の使用条件を想定して、FETの安全動作領域(SOA)を把握しておく必要がある。FETの消費電力や発熱特性を最悪条件のもとで分析しなければならない。例えば、最高動作温度時に最大DC電流を連続して流している時と回路がショートした場合である。
FETのオン抵抗がバッテリーパック全体のインピーダンスに影響することもある。保護用ICの種類によっては、放電用FETのオン抵抗によって過放電電流の検出閾値を決める。この場合、過電流によってFETがオフになる条件が、レイアウト次第で変わるので注意が必要である。
適切なレイアウトにするには、FET用のESD(静電気放電)保護キャパシタについても考慮すべきだ。ESD保護キャパシタは、経験的にFETに近接させて配置するのが良いことが知られている。また、最悪の条件を想定してFETのボディダイオードの電圧を見積もっておく。ボディダイオードをアノード同士で接続すると、逆バイアスがかかる。こうした部品の仕様を明確にせず、最悪の条件に対処しようとすると、FETが故障する恐れがある。
セルの選定は、化学組成やサイクル寿命、保存容量の損失、保管寿命、インピーダンス、さまざまな放電速度での容量、温度特性、機構的および環境的な要求に基づいて行う。リチウムイオンのセルパックは角型と円筒型があり、それぞれ大きさと容量が異なる。セルパックとプリント基板の接続に際しては、発生する熱の問題を見積もる必要がある。セルパックには留め金があり、それでプリント基板に取り付けることができる。セルパック内の配線は短いほど熱の損失を抑えられ、容量を改善できる。セル同士の配線には、細いニッケル板がよく用いられる。はんだ付けするよりもセル端子や筐体への接合が精密に行えるからだ。また、はんだ付けをすると、制御できない高熱がバッテリー部品に加わり、プラスチックでできているセパレータ(隔離板)やベント(液口)を破損してしまう可能性がある。
スマートバッテリーパックの重要な基本機能の1つが、電池をモニターし制御して、環境条件や動作条件がセルの許容範囲を越えないように保護することである。1次保護用ICはセル電圧の測定データを残量ゲージICに伝え、過電流や回路短絡に対してバッテリーパックを保護している。この1次保護用ICがセル電圧を検出した残量ゲージICに送ると、残量ゲージICは、1次保護用ICにFETをオープンにするように命令を出す。2次保護用ICにも同様のセル電圧を検出するための接続が個別にある。これによって、1次保護用ICが壊れた場合に備えて、二重に過電圧保護を実現している。
セルを回路に接続する順序も重要だ。1次および2次の保護用ICの接続順序が正しくないと、セル接続時にヒューズが作動してしまう恐れがある。2次保護用ICが永久故障信号を発するからだ。また、保護回路はセルから電流を消費するため、バッテリーパックの実使用容量を減らしてしまう。このため、保護回路の非動作時電流は、極力少なくする必要がある。
スマートバッテリーパックにおいて次に重要な機能が、バッテリー充電状態の判定である。充電している状態では、残量ゲージを表示する以外の役割がある。バッテリーパックは、バッテリー内の各セルの充電状況をモニターし、計算して、すべてのセルが均一に充電されるようチェックし、各セルが過負荷になっていないことを確認する。充電状態を表示すると、充電および放電サイクルの終了判定をできる。過充電と過放電はいずれもバッテリー故障の主要な原因である。セルの放電動作範囲内の下限レベルを維持しなければならない。残量ゲージICは、セルパックの電圧、電流、温度のいずれかに基づいてFETをオフにするタイミングを判断する。電荷量も計測して容量の加減を調べる。通常は、残量ゲージICはSMBus* 1.1のような標準プロトコルを用いてデータ伝送を行う。残量ゲージICのファームウエアは、EEPROMやデータフラッシュメモリーのパラメータと共に重要である。これらのパラメータはバッテリーパックの動作や、電子機器に影響を及ぼしてしまう。また、電圧と電流を正確に計測するためには、セルと検出抵抗の検出ラインを別々に配線することが重要である。回路がショートすると80A〜90Aもの高い電流が生じることがある。こうした電流が検出抵抗を流れると、その両端に高電圧が生じて残量ゲージICを破損させてしまう恐れがある。
この検出抵抗の選定では、定格電力と定格温度、価格、許容差、パッケージサイズを考慮する必要がある。残量ゲージの正確な電荷量を知るのに必要な短絡電流レベルによって、検出抵抗が決まる。検出抵抗には回路のショートや高電流放電によって負荷がかかり、発熱して破損するため、定格電力と定格温度が重要になってくる。検出抵抗値は、残量ゲージの電荷量精度を犠牲にしないように可能な限り小さい値とすべきである。検出抵抗の許容誤差は重要だ。動作温度範囲を超える破損の恐れが高い高温での保護動作の精度に影響するためだ。1%未満に抑えるべきである。電力損失を最小にしてバッテリーパックの効率を向上させるため、残量ゲージの分解能に影響しない範囲で、検出抵抗値を極力低くする。
サーミスタの選択も重要
システムのバッテリー充電器にサーミスタを使うことで、充電開始時の温度を検出し、バッテリー温度が過度に低いまたは高い場合に充電すべきかどうかを決めることができる。使用時には、サーミスタの抵抗対温度がこのシステムで許容されるかどうかに注意すべきである。また、残量ゲージ用の温度検出素子として、サーミスタをバッテリー充電器で利用することもできる。多くの場合、残量ゲージはボードに搭載した温度センサーを使用している。残量ゲージの温度に関する定数がサーミスタの仕様に対応していることを確認する必要がある。これらの定数によって残量ゲージのインピーダンス値が決まるからである。
プリント基板レイアウトの観点からは、対象部品の温度を確実に検出できる位置にサーミスタを配置することが重要である。サーミスタの配置に物理的制約がないか、プリント基板設計者とともに確認しておくとよい。バッテリーパックには使用温度範囲がある。その範囲外でバッテリーパックを使おうとすると、恒常的な性能劣化や重大な故障が生じることが多い。したがって、バッテリーの仕様にはこうした制限を明記しておく必要がある。また、バッテリーの実際の動作温度は、周囲温度よりも高くなることに注意すべきだろう。すなわち、バッテリーを使っている機器からの熱や、熱伝導、熱放射を除いた熱などが影響を及ぼす。
基板レイアウト、デフォルト値も
電流と電圧を高精度で検出するには、主要部品の配置と信号ラインの引き回しが重要になる。ヒューズやFET、過電流検出抵抗といった高電力アナログ部品は、互いに近接させてまとめて発熱対策を打つべきだ。また、FET近傍に銅パターンを置くと、FETの電力損失を改善できる。電圧や電流の検出ラインは高電流の所から遠ざけて配置し、ノイズを減らす。クロック線やデータ線の配線についても同様にノイズに注意するべきである。部品の配置にも、干渉を避けるためのスペースを設けよう。バッテリー容量を増やすためには、大量の充放電電流が流れる配線のインピーダンスをできる限り小さくする。電池の負側と正側から保護用ICの検出入力に続く配線は、幅を広くかつ短くする必要がある。そうしないと、セルバランスに関する問題や検出セル電圧の精度が悪化する恐れがある。
フラッシュメモリーにセルパックのパラメータを記憶させておくと、残量ゲージICはこれらを参照できる。また、電子機器はこうしたパラメータを用いてセルパックの充放電を制御できる。充電のパラメータとしては、充電終了電圧と、充電終了を知らせるパラメータ、電流、充電抑制温度などがある。まずはデフォルト値に設定しておく。そのあと、アプリケーションの理解を深めながらシステムにおけるバッテリーパックの機能を最適化するのがよい。表を作成し、ファームウエアを十分にチェックしていく必要がある。このファームウエアにチップメーカーが提供するデフォルト値を入れておく。ただし、このデフォルト値が期待通りにいかないと、バッテリーはファームウエアに問題を抱える場合も出てくる。
スマートバッテリーの適切な部品選定には、アプリケーションにおける仕様上の要求事項と部品に対する制約を徹底的に調査しなければならない。バッテリー部品の1つ1つがバッテリー全体の性能に影響を与える。適切な部品を選択する時間を十分にとれば、製品開発サイクル内での再設計を回避し、開発期間の短縮とコスト削減を実現できる。バッテリーパック設計の全体像をとらえて部品間のトレードオフを評価すれば、電子機器システムにとって最良のバッテリーパックを設計できる。
Arun Sanghani氏は、Motorola社のEnergy Systems 部門の上級電気エンジニアであり、1999年から同社に勤務している。それ以前はVideolarm社の電気エンジニアとして閉回路テレビジョンのハードウエアおよびソフトウエア設計、開発、テストに従事。同氏はNorth Carolina State Universityで学士号を取得、現在はジョージア(GA)州、Lawrencevilleに在住。
用語解説 / 会社情報
*1)セルパック
ここではバッテリーパックに収容している電池単体をセルと呼び、そのパッケージをセルパックと称している
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*2)EEPROM
Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory
電気的に消去可能なプログラマブルROM
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*3)トリップ電流
電流引き外し。ヒューズが動作する電流。
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【SMBus】
System Management Bus
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