RFIDの適用例
ここでは、RFIDの応用例をいくつか紹介する。
これらの応用例は、読者が将来RFIDテクノロジーの導入を試みる意欲を高め、
かつRFIDにかかわるプライバシー問題への意識を高めるだろう。
Wal-Martの例
スーパーマーケットの大手Wal-Martは、2003年6月に米国シカゴで開催された「小売システム会議」でRFIDシステムの導入を発表し、産業界のRFIDに対する関心を呼び起こした。現在、主要なサプライヤーと共同で、米テキサス州Sangerにある同社の配送センターとDallas/Fort Worth地域にある7カ所のスーパーマーケットを結んだRFIDの試験運用が実施されている。Wal-Martに商品を卸している上位100社のサプライヤーは、2005年1月までに3カ所のテキサス配送センターに向けて、商品にRFIDタグを添付することになっている。また、Wal-Martは2005年6月までにRFIDプロジェクトを、6カ所の配送センターと250カ所のWal-MartおよびSam's Clubの店舗で実行する計画を立てている。加えて2006年1月までにさらに200のサプライヤーをこのプロジェクトに参加させようとしている。Wal-Martと競合する企業もRFID導入プロジェクトを開始し始めている。
政府機関などの例
国土セキュリティーや在庫管理、およびその他の必要性に迫られた米国政府は、RFIDシステム展開の重要な推進力となっている。米国防省への納入業者は2005年の1月までにそれぞれの在庫品に対してRFIDタグの適用を始めなければならない。米運輸省の連邦道路管理局は、米国内の道路管理施設を10年以内に半減するという目標の下に、DSRC (Dedicated Short-Range-Communications)システムを共同開発するRFIDメーカーを招集している。道路上で考えられるRFIDの利用法としては、交差点での衝突事故、転覆および悪天候による道路の障害などをドライバーに警告したり、走行速度が速過ぎてカーブを曲がり切れない恐れがある車に注意を促したりするという使い方が挙げられる。米連邦通信委員会(FCC)は、1999年に5.9GHz帯をDSRCアプリケーションに割り当てた。米国務省は2005年の本格実施への移行を目指して、現在RFIDを内蔵した生体情報パスポートのテストを行っている。国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization)も、2015年の本格導入を目指して、同様の提案を行っている。また、税関のコンテナ・セキュリティー・イニシアティブ(CSI)やSST(Smart and Secure Trade)Lanesイニシアティブは、米国の港湾でコンテナのセキュリティーを保証する一手段として、RFID技術を導入しようとしている。現在までに米国の全出荷量の約3分の2に当たる、国際貿易港上位20港の国の政府がCSIとSSTの実行に合意している。
米国以外でもRFIDの導入を検討している政府機関がある。例えば、EUが高額のユーロ紙幣にRFIDタグの埋め込みを計画しているといううわさがある(20米ドル札にRFIDタグが埋め込まれているといううわさもあるが、発見されたことはない)。英国政府もRFIDタグを埋め込んだナンバープレートの導入を検討中である。このナンバープレートは道路に埋め込まれたリーダーや、監視車に搭載されたリーダーによって、300フィート離れた距離でも番号を解読することができる。BSEの流行によって提案された、羊や山羊の耳に電子的なタグを取り付けて管理する方法は、60万頭以上の家畜を有するEU加盟国で2008年1月からの実行が義務化される。ISO11784/85も、EU域内貿易の対象となる動物に対してRFIDの適用を義務付けしている。特にEUの大手RFIDサプライヤーであるオランダのRoyal Philips Electronics社は、この分野の活動を積極的に行っている。カナダも2005年1月から家畜への電子タグの取り付けを実施する計画を立てている。
医薬品業界の例
医薬品業界では、薬品(個別パッケージが箱詰めされた大箱単位ではなく、個別のパッケージ単位に拡張されつつある)の流通経路追跡や偽造薬品の排除、誤配達、盗難防止などのために、大規模なRFIDシステムが導入される可能性がある。
電子商取引などの例
「E-Zpass」や「FasTrak」システムは、高速道路料金を自動的に収受する。プライバシー保護に意識の高いユーザーは、これらのシステムがユーザーの支払い方法だけでなく、車に搭載されたRFIDタグがリーダーを通過した日付、時間および場所の情報まで記録していることに注意を払う必要がある。RFIDベースの電子料金支払いシステムとしてはこのほかに、米ExxonMobil社の「Speedpass」、米MasterCard社の「PayPass」、米NCR社の「FastLaneシステム」や「FreedomPay」がある。フィンランドのNokia社は携帯電話機用アドインキットとして、初の電子支払いが可能なモバイルRFIDモジュール(モデル5140)を発表している。Nokia社、Royal Philips Electronics社、ソニーの3社は、モバイル商取引と情報交換の推進のためにRFIDに関する共同開発体制「Magic Touch」アライアンスを発足させた。
生体埋め込みの例
迷子になったペットを識別して飼い主に戻すために、ペットの体内にチップを埋め込む「Avid」や「HomeAgain」などの「Chipping」プログラムが注目されている。メキシコ政府は最近、法務長官のRafael Macedo de la Concha氏がメキシコ市にある犯罪捜査情報センターで働く彼の部下160名と共に、皮膚下に米VeriChip社のRFIDチップを埋め込んだと発表した。アルゼンチン、ブラジル、コロンビアをはじめとした中南米諸国では、短期間の監禁を含む誘拐事件の増大に対処するためにRFID技術を採用する国が増えている。スペインのバルセロナ(Barcelona)にある会員制の「Baja Beach Club」では、現金を持ち歩きたくない軽装の会員が飲食代の支払いをする際、皮膚の下に埋め込んだRFIDチップを電子クレジットカードとして使用している。
位置追跡の例
日本では大阪市と和歌山県田部市の小学校が生徒の衣服、カバン、名札などにタグを埋め込んで先生や両親が生徒の現在位置を追跡できるようにしている。同様の目的で、米フロリダ州のWannadoo市のテーマパークでは、入場者のチケットにタグを埋め込み、各グループのメンバーがお互いの位置をリアルタイムで確認できるようにしている。シアトル市のフットボールチーム「Seattle Seahawks」のホームスタジアム「Qwestフィールド」では、売店での待ち時間を短縮するためにRFIDを埋め込んだ「PowerBuy」タグを入場者に持たせている。米Texas Instruments社は、RFIDチップのサプライヤーであると同時にユーザーでもある。同社は自社工場内で製品の工程追跡のためにRFIDタグを使用している。また、2004年ギリシャのアテネオリンピックのマラソンと米国のボストンマラソンの参加者の靴にはRFIDタグが埋め込まれ、舗道や競技場のマットの中に埋め込まれたリーダーによって周期的に競技センターと通信できるようになっていた。これらのタグはかつての1980年のボストンマラソンでRosie Ruiz氏が行ったような不正を防止するだけでなく、ウェブサイトなどを通じてランナーの友人や家族、ファンなどにレースの進捗状況を一定時間ごとに知らせることも可能である。
物品管理の例
Texas Instruments社は、ローマのバチカン図書館と共同で、200万点におよぶ書籍、写本、その他の貴重な物品にRFIDタグを添付して識別と管理を行おうとしている。また、米サンフランシスコ公立図書館は、蔵書にRFIDタグを添付することを検討している。しかし、電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation:EFF)やその他のプライバシー保護団体から猛反対されている。
航空手荷物追跡の例
米Delta Air Lines社は、2007年からのRFIDの本格導入を目指して、現在、フロリダ州ジャクソンビル(Jacksonville)とジョージア州アトランタ(Atlanta)の間で手荷物追跡のパイロット試験を行っている。ジャクソンビル空港は2005年2月のスーパーボウルの開催に先立ち、RFIDタグの本格導入を計画している。一方、米ラスベガス空港では2005年春からRFIDシステムの本格稼働を計画している。これらとは対照的に、サンフランシスコとシアトルの両空港は、RFIDは現在、使用中のバーコードシステムに比べてコストが高く、リーダーの信頼性もそれほど高くないという理由から、RFIDパイロット試験を棚上げしている。
航空機への通用例
航空機メーカー大手のBoeing社と仏Airbus社は共同で、2000社を超えるサプライヤーに対して、2005年中期までに航空機の機体やエンジンの部品にRFIDタグを付加することを要請している。その目的は不正な価格付け、部品番号データの誤り、承認されていない部品などの検出と排除であり、さらには、それらによるための米連邦航空局の罰金や部品交換に伴うダウンタイムによる営業損失など、余分なコストを低減することも狙いとしている。Boeing社はまた、米Fedex社およびDelta Air Lines社と共同で、RFIDタグが添付されたエンジン部品の試験運用を行っている。3社が使用するRFIDは、高温かつ反射の多い金属に囲まれた環境でも、安定な動作が可能とされている世界標準の13.56MHzタグである。またそれとともに大きな情報記憶容量を持つ915MHzタグのテストも計画しているが、この規格はヨーロッパではまだ承認されていない。
RFIDのソフトサポート
Microsoft社は、同社の「Axapta」、「Great Plains」および「Navision」など、ERP(enterprise-resource-planning)アプリケーションの今後のバージョンで、RFIDをサポートすること、および将来のサーバーオペレーティングシステムにもデバイスドライバに似たRFIDサポートを追加する計画を明らかにした。Microsoft社は2004年の4月に社内にRFID委員会を設置している。
石油・化学業界の例
米OIL ID Systems社は、同社が石油を保存、出荷、販売を行う際、製品の流通経路を追跡するために砂粒程度の大きさのRFID微粒子「MOTE」を使用する計画を立てている。同様の目的では、日本の呉羽環境(呉羽化学工業の系列会社)は日本アイ・ビー・エムと共同で、段ボールおよびプラスチック容器にRFIDタグを埋め込むことにより医療廃棄物を追跡監視する試験を実施している。
適用検討中の候補
このほか、まだ概念の段階であって実用化を検討中のアプリケーションとして、衣服にRFIDを埋め込むことで洗濯機や乾燥機の設定を自動的に行う、食物にRFIDタグを埋め込み、賞味期限が切れたことを冷蔵庫やユーザーに警告したり、電子食料品リストの要補充品目リストに自動的に追加したり、医薬品の消費量を監視して処方からのズレがあった場合に患者、かかりつけの医者、あるいは薬局などに通知したり、現在患者の薬剤棚にあるほかの薬品との併用禁止を警告するなどの動きがある。 |
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