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2005年2月号
バーコードに対抗するRFID

バーコードと同じ時期に生まれた技術、RFID。それが今、非常に注目を浴びている。その背景にあるのが、サプライチェーン・マネジメントの実現とセキュリティー対策である。しかし、乱立する標準仕様、プライバシーへの懸念、不正使用を防ぐ法律の制定など、まだまだRFIDが本格普及するためには課題が残されている。

Brian Dipert*1)
  今から30年前、米オハイオ州ToryのMarshスーパーマーケットのレジで、10箱のジューシー・フルーツガムが、レジスター以外の方法で処理された。それが現在のUPC(Universal Product Code)バーコードシステムが世界で初めて実用化された歴史的な瞬間であった。それ以降、バーコードシステムの技術革新は続いている。最近では、米国と欧州の標準化グループの代表者たちによって、2005年からワールドワイドのバーコードリーダーをサポートする14けたの共通フォーマットの導入が合意された。このように、現在のバーコード技術は全体的には普及が進んでおり、十分に認知され成熟した技術である。もっとも、この十分に認知されているという点に関しては、疑問を持つ人がいるかもしれない。というのも、ジョージ・HW・ブッシュ元米大統領が1992年の大統領予備選挙のキャンペーンで米ニューハンプシャー州を訪れたとき、ブッシュ氏がある食料雑貨店でバーコードスキャナを使おうとして失敗し、慌てたことがあったからだ。もっとも、これは元大統領個人の問題だろうが……。
 しかし技術は確実に進歩を遂げている。RFID(Radio Frequency Identification)システム、すなわち無線による製品認識技術など、新進の競合システムが次々と出現し、その王座を狙っているのだ。


RFIDに注目が集まる理由

 RFID技術に最初の特許が認められたのは、1934年のこと。実は、バーコードと同じくらい古い技術なのだ。第二次大戦中に英国空軍がRFIDに似た技術を使って、敵機と味方機を区別しようと試みたという。また、1948年に「The Proceedings of the IRE*」という雑誌で発表されたHarry Stockman氏の論文「Communication by Means of Reflected Power」では、RFIDの理論と実践方法について詳述されていた。
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  多数の特許を取得している発明家のCharles Walton氏は、1973年に受動型RFID技術を使ったドアロックリーダーに関して、RFIDの初めての特許を取得した。このWalton氏の名前はSam Walton氏、つまり米国国防省と同時期にRFID技術を導入し、RFID普及の牽引役ともなったWal-Martの創設者と同姓であることは偶然とはいえ興味深い。
 このようにRFIDは古い技術である。それなのになぜ、ここ数年間で関心が急速に高まっているのだろうか。第1の理由が、チップの処理能力が向上したことである。ムーアの法則に従いチップの処理能力は向上する一方で、受動型RFIDの量産単価は50セントまで下がっている。アナリストは2010年ごろには、5セント以下になると予想している。
 また、インフラストラクチャの処理能力向上も重要な要素だ。1990年代後半のドットコムブームにより、ネットワーク機器や高速CPU、I/Oインターフェース、十分なメモリーとハードディスクを搭載した強力なサーバーの開発が進められたが、その後のドットコムの崩壊により、使われない膨大な通信帯域が残ったのである。
 RFIDへの関心が高まったもう1つの要因は顧客ニーズの向上にある。メーカーや卸売業者、小売業者は、コストの削減と信頼性の高い流通プロセスを確立したいと望んでいた。そのため、システムをできるだけ自動化し、製品一つひとつの現在位置や在庫量をタイムリーかつ正確に把握したいと考えたのだ。できることならば、店舗を超えて各製品を購入した個々の顧客とリンクし、収集したほかのデータと組み合わせて顧客の購買意欲をさらにかきたてる仕組みを模索している(p.36の「課題が残るRFIDのプライバシー問題」を参照)。また、政府も法的に許される範囲内であれば、消費者のニーズを把握することに関心を抱いている。


利用周波数の違い

 新しいアプリケーションが開発されるとき、どんな場合でもその黎明期から成長期にかけてはさまざまな難題が発生し、それに対処するため、お互いに整合性のないさまざまなオプションが提案される*2)。これらのオプションの違いは、RFIDタグがリーダーと通信する基本的手段の違いによる。受動RFIDタグは電池を内蔵しない。そのため、誘導性結合か電磁結合のいずれかの方式を用いてリーダーから電力を供給する。一方、アクティブRFIDタグは電池を内蔵する。そのためにコストがかなり増加するが、その機能や能力を強化したり、動作範囲(通信距離)を拡大したりすることも可能である。半受動(semipassive)タグはその中間のタイプであり、チップの待機時には電池で動作するが、通信が開始されるとリーダーから電力を供給する方式だ。
 RFIDタグとリーダーはさまざまな周波数領域で電波を送受信する。低周波RFIDシステムは、米国内および国際的に125kHz〜134kHzで動作する。もう1つの国際標準として、13.56MHzという高周波で動作するものもある。UHF*帯域RFIDシステムは、866MHz〜960MHz帯で動作し、マイクロ波RFIDシステムは、2.4GHz〜5.8GHz帯を使用する。周波数以外のすべての条件が同じであると仮定すれば、高周波RFIDは低周波RFIDよりも長距離の通信が可能となる。というのも高周波RFIDの信号には、ニアフィールド効果による減衰がないからだ。タグとリーダーの距離が1波長以下である場合、信号強度は距離の3乗に反比例するが、1波長以上の場合は距離の2乗に反比例する。また、高周波RFIDはデータの高速な送受信が可能である。半面、高周波タグとリーダーは低周波のものよりもコストが高く、消費電力が大きい。そして高周波タグの信号は低周波よりもパッケージや湿度、近くにある金属部品などの環境要素によって減衰する。RFIDを設計する場合、世界のある地域では無料で利用可能な周波数がほかの地域では利用できなかったり、ライセンス取得のためにコストと時間がかかる場合があることを考えておかなくてはならない。電子レンジやコードレス電話機、無線LANのWi-Fiアクセスポイントと無線LANの端末、Bluetoothの送受信セットなどを同時に使用したことのあるユーザーならばだれでも経験しているように、RFIDが使用するライセンス取得の必要がない周波数帯では、これらの競合がスペクトルへ悪影響を与えるという問題も考慮しなければならない*3)


データ変調方式の違い

 RFIDタグは、キャリア周波数上でどのようにデータを変調し、リーダーに送り返しているのだろうか。ここでも一貫した方針は存在しない。AM(振幅変調)、特にASK*、FM(周波数変調)、PM(位相変調)、PWM(パルス幅変調)など、どれにも可能性がある。2つのタグが同時に電波を出す可能性をなくすために、メーカーの中にはTDMA*のアルゴリズムを採用するところもある。独Infineon Technologies社の13.56MHz PJM* RFIDタグは、同社が豪Magellan Technology社からライセンス契約により導入した変調技術を採用している。この技術はFTDMA*と衝突干渉を回避するため、チャンネル周波数ホッピング方式を採用しており、一般的な13.56MHzタグよりおよそ25倍も高速な848kビット/秒で読み出し/書き込みを行うことができるという(表1)
 CRC*やその他のチェックサムコードは、リーダーがタグから送られてきたデータを正しく受信できたかを判定することができ、ECC*回路は、誤ったビットを訂正し、再びスキャンを行うことをやめる。送信データの暗号化方式について、大規模な展開を行っている米国のスーパーマーケットのWal-Martなどでは、デファクト・スタンダード化を推進しているが、現在のところまだ統一されていない。どの暗号化方式を導入するか、またその暗号化方式をどの程度強力にするかによって、タグのコスト、大きさ、消費電力などの要素が大きく変わる。


RFIDのメリット

 RFIDのメリットは個々のユニットがユニークな識別用のデータシーケンスを持っていることにある。これに対して、バーコードで使われているUPCコードはメーカーの製品の全ユニットが共通となっている。EPC*がEEPROM、フラッシュメモリー、バッテリバックアップされたRAM、FRAM、MRAMなどの再書き込み可能なメモリーに記録されている場合、ユーザーは製品が製造、配送、販売、応用の各段階を通過するたびにEPCを変更したり追加したりすることができる。RFIDがどれだけのデータを保持する必要があるかは議論の余地があるが、アプリケーションによってある程度までは決まる。例えば伊仏合弁企業であるSTMicroelectronics社の「XRA00 UHF RFID」はEPCglobal Class 1をサポートしている。これは8ブロック(各16ビット)からなる128ビットのメモリーを使用しており、最初のブロックが16ビットのCRC値を格納している。次の6ブロックは、デバイスの在庫管理のために使用される96ビットの製品コードを、終端のブロックはメモリーの内容を保護するための“kill code”とロックコマンドにそれぞれ8ビットずつ使用している。
 EPCglobalの仕様では、RFIDリーダーはタグからEPCコードを読み取った後、そのデータを米VeriSign社が管理しているONS*というデータベースサーバーに問い合わせる。このサーバーは概念的に、URLをIP(インターネットプロトコル)アドレスに変換するDNSサーバーと似ている。つまり、RFIDタグが添付された製品の詳細情報を持つサーバーのIPアドレスを送り返すというわけだ。従来のAuto-ID Centerから派生したEPCglobalは、RFIDの標準化を推進する2つの主要組織の1つであり、もう1つはISO*である。RFIDが真にユビキタス(ubiquitous)なものとなるためには、データフォーマットの統一に向けて、2つの組織がお互いに協力する必要のあることは明らかである。米Boeing社は、上記の例よりはるかに大きなメモリーを使用する10kビットRFIDタグの採用を検討している。というのも、同社では長いシリアル番号や詳細な部品情報、修理の履歴などをRFIDタグに書き込むためだ。このように大きなメモリーを採用するRFIDタグは、RFIDリーダーがネットワークに接続されない閉じたシステムの中での使用を想定しているため、ONSにリアルタイムにアクセスできない。
 バーコードに対するRFIDのもう1つの重要なメリットは、タグとリーダー間でレーザーの照射方向を合わせる必要がないことである。RFIDの場合、タグとリーダー間の距離を近づけることは必要だ。しかし、採用するアンテナのタイプによって、両者の方向を揃えることは不必要になる。無指向性マイクロホンのような円偏波アンテナであれば、円形のパターンで電波を送受信する。そのようなアンテナを使用すれば、たとえ送信器側で受信器の方向を正確に制御できなくても、広帯域な信号を送受信できる。ただし、円偏波アンテナは、単一指向性マイクロホンに似た直線円偏波アンテナよりも電波の到達距離が短いため、注意が必要である。


RFIDの性能を補強する取り組み

 米国のジャーナリストで、一般に「Founder of The Science Of Success」といわれているNapoleon Hill氏(1883年〜1970年)は、「どんな困難、どんな失敗、どんな心痛の中にも、それらと同じ程度かそれ以上の成功や利益の種を含んでいる」と述べている。この言葉通りだとすると、規格の乱立で混乱状態にあるように見えるRFIDであるが、そのうちに混乱状況は収束する。そしてその統合された規格を推進していた会社は、大きな利益を手にすることになる(pp.38-39の囲み記事「RFIDの適用例」を参照)。Infineon社の「PJM」のような速度強化回路を採用したチップ以外にも、RFIDタグの性能を補強するいくつかのソリューションが提案されている。
 例えば、超小型化を実現した日立製作所の2.45GHz帯「ミューチップ(μ-Chip)」はその代表である。組み込みアンテナを含むこのチップはわずか0.3mm角という微小サイズを実現している(図1)。さらに消費電力や通信の安定性を実現しているのも大きな特徴だ(RFIDの採用を制限している1つの要素として、RFIDはバーコードに比べて信頼性が劣るということが、いくつかの実証実験において指摘されている)。
 RFIDのメーカーは、RFIDの利用についてさまざまな手段を研究している*4)。例えばタイヤの圧力や温度、湿度、汚染およびさまざまな生物学的因子、損傷などの各種要因、またアイテム(RFIDチップを貼り付ける管理対象物)に手を加えたかどうか、あるいは過剰な力や振動を与えるような誤操作をしたかどうかなどを検知し、レポートする環境センサーなどなど。
 タグはリアルタイムデータをレポートするだけではなく、測定結果がしきい値を超えた際に知らせるというような単純な結果も出力できる。もちろん、RFIDの応用範囲を拡大する上で、コストが最も重要な要素であることは言うまでもない。タグのコストがアイテム自体のコストより1けた〜2けたも小さければ、全体のコストにさほど大きな影響はでない。例えば、小売業者がRFIDタグをペーパータオルの大きなケースに添付することを考えているとしよう。小売業者が個々のロールにタグを添付することを考えるためには、RFIDのコストを大幅に下げなくてはならず、当面実現は難しいだろう。このコストによる採用の見送りは、少なくとも短期的には、RFIDのプライバシーに対する懸念を解決する手段として自然に作用すると考えられる。
 RFIDの未来は明るい。しかし、そのためにはRFIDタグの小型化とコスト低減は不可欠である。それらの負担はすべて、多くの半導体メーカーやRFIDシステムメーカーにのしかかってくるのである。


RFIDが創出するビジネスチャンス

 コスト面からみて、まだ普及段階に入っていないのに、なぜ多くの人々がRFIDに興奮しているのだろうか。
 理由は簡単である。RFIDタグやリーダー間で交換されるデータそのものの価値は小さくとも、それらのデータを保存し、転送し、加工する際に大きな価値が生まれてくるからである。その結果として、米AMD社や米IBM社、米Intel社、米Sun Microsystems社のようなCPUベンダーとその系列システム部門、米Apple Computer社や米Dell社、米HP社のようなシステムパートナー、米Cisco Systems社のようなネットワーク機器ベンダー、米Microsoft社や米Oracle社、独SAP社のような企業向けソフトウエア・サプライヤーなど、多くの企業が利益を得ることができる。
 このようにRFIDによりビジネス機会が増えるということは、RFIDのメディア露出度が大幅に増えているという事実からもうかがうことができる。当然、RFIDデータが爆発的に増大することによって、DRAMやハードディスクドライブなどの記憶デバイスのベンダーやイーサネット、その他のシステムのビルディングブロック・サプライヤーを潤す可能性を秘めている。
 RFIDリーダーを設計したり、他社が開発したリーダーを導入したりするメーカーは、コスト的に顧客が許す限り、周波数やフォーマット、変調方式、干渉抑圧手法、その他の可変量の多様性などについて、できるだけフレキシブルにすることが重要である。リーダーのデジタルサブシステムの場合、ROMの代わりにフラッシュメモリーや小型ハードディスクドライブに記録したコードを用いてファームウエアを書き換えたり、ASICではなくFPGAやPLDのような更新可能なハードウエアを用いたりして、フレキシビリティを確保することができる。RFIDリーダーのアナログサブシステムの場合、ハードワイヤード回路の代わりに英Anadigm社、米Lattice Semiconductor社、および英Zetex社のようなメーカーから提供されているプログラマブル・アナログアレイの使用も可能である(図2)
課題が残るRFIDのプライバシー問題
 
 サプライヤーにとってのRFID技術のコストとメリット、つまり一般消費者にとっての価格とメリットは、その商品を売るプロセスのすべてを明らかにできることだ。つまり、RFIDタグが添付された商品の製造から流通、小売店のレジで精算されるまでのすべての流れを把握できるのだ。
 ただし購入後も、もしRFIDがアクティブのまま残っていれば、消費者にとってメリットは特になく、むしろデメリット、特にプライバシーにかかわるマイナス面が目立つようになる。
 米Wikipedia財団のウェブサイト(www.wikipedia.org/wiki/RFID、オンライン百科辞典のサイト)は、RFIDの説明の中でRFIDのプライバシー問題を以下のように要約している。
●製品の購入者は必ずしもタグを削除することを意識しないし、削除することができない場合もある。
●RFIDリーダーは、本人が気付かないうちに、ある一定の距離でタグを読み取ることができる。
●購入者がRFIDタグ付きの製品をクレジットカードやお得意さまカードなどで購入した場合、店はその製品の固有なIDを購入者の個人情報と結びつけることができる。
●タグはすべての製品に対して、世界的に固有な番号を即座に、または後に割り当てることができる。この事実はたとえプライバシー問題を引き起こそうが、多くのアプリケーションで不必要であったとしても変わらない。

RFIDタグの生死は分からない
 
 標準規格に基づいたRFIDの仕様は、タグに“kill”コマンドを送る機能を備えている。しかし、現在のRFIDタグおよびシステム設計では、システムがkillコマンドを送ったかどうかについて表示もされないし、一般消費者に保証もされていない。また、一般消費者にとって望ましい、永久に「死んだ」タグかどうか、判断できない場合がある。例えばUPC(universal product code)がない場合は、EPC(electronic product code)が払い戻しプロセスで重要となる。例えば、購入した商品を返却し、払い戻しを要求する際には、EPCコードが利用される。店側はその商品を売り場に戻す前に「死んだ」コードを復活させる必要があるだろう。
 小売業者は、UPCと購入者のクレジットカード番号など、その他の情報を加えて、購入者と販売した商品とを正確に結びつけることが可能である。しかし、グローバルなRFIDデータベースは、世界中のいかなる場所で消費者が商品を入手しようとも、小売業者がそれらを監視できる可能性を与えることになる。
 この能力は、その他の行為にも拡大して適用することができる。パスポートや運転免許証、または一般消費者の体の中にRFIDタグが埋め込まれたとしたらどうなるだろうか。政府機関は、個人監視能力を持つことができ、プライバシー監視能力を有効にも不正にも利用できる。また、精密な高感度アンテナと十分なDSP演算能力を備えた機器を持った不審人物が、家の外からRFIDタグの内容をスキャンし解析しているとしたら、あなたはどう思うであろうか。
 専門家の中には、RFIDの価格が高いのは、プライバシーの脅威を誇張し、RFIDを批判することにより、複数アイテムへの応用が制限されているからではないかと考える人もいる。しかしこの考えは、ムーアの法則が長年にわたって支持されていることを考えれば、神経質過ぎるように思われる。また、コンピューターやテレビのような高価な商品の場合、RFIDのコストは微々たるものであるということも考慮に入れなければならない。他の専門家は、RFIDは一挙に注目を浴びたが、ふたを開けてみると、実質的にメリットがデメリットを上回っていたという、一連の技術の一例に過ぎないと主張する。メーカーがいったん導入を決めたらならば後戻りはできない。法的監視があったとしても、不正使用を防止するシステムのチェックとバランスは、十分ではないように思われる。

プライバシーは簡単に盗める
 
 アナリストたちは、一般消費者は自身のプライバシーに鈍感で無関心であり、個人情報を簡単に提供することも多いと指摘する。このような見方は一部、当たっているかもしれないが、重要な間違いが1つある。昔の一般消費者は、プライバシー情報を提供する相手を意識的に選択していた。彼らはスーパーマーケットの割引カードを使ったり、ウェブサイトの入力フォームに情報を書き込んで送信したり、割戻しや登録カードに情報を記入して郵送したりといった場合は常に注意を払っていた。
 米ラスベガスで開催された「Black Hat Briefings 2004」で、独DN-Systems Enterprise Internet Solutions GmbH社のLukas Grunwald氏は、「RFDump」プログラムを発表し、リーダーを持っている人物ならだれでも、いかに容易にRFIDタグにアクセスし、データを変更できるかを示した。タグのクラッキングは消費者と小売店の両方にとって、由々しき問題である。RFIDリーダー・アドインカードを組み込んだ携帯型コンピューターにRFDumpプログラムをインストールすると、だれもが新しい100ドルの値札を25ドルに簡単に書き変えることができる。もはや万引きで頭を悩ましている場合ではない。また、RFIDの最大到達距離(周波数に依存する)が数インチ〜数フィートであるといわれているにもかかわらず、歩道から店舗内のRFIDカードをスキャンできる可能性もあるという。かつて電波の到達距離が数ヤードの距離まで延長された802.11信号は、現在では信号処理技術と誤り訂正技術の進歩により、「プリングルス(米Procter & Gamble社が提供するポテトチップの商標)」の缶(ボール紙の円筒の内側にアルミ箔を貼った構造になっている)を使い、信号エネルギーをある特定の方向に集中させることで到達距離を数マイルまで延ばすことが可能になっている。
 RFIDを取り巻くプライバシー問題などに関する情報については、 www.aclu.org/ www.nocards.org/ www.eff.org/などで公開されている。
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RFIDの適用例
 
ここでは、RFIDの応用例をいくつか紹介する。
これらの応用例は、読者が将来RFIDテクノロジーの導入を試みる意欲を高め、
かつRFIDにかかわるプライバシー問題への意識を高めるだろう。

Wal-Martの例
 スーパーマーケットの大手Wal-Martは、2003年6月に米国シカゴで開催された「小売システム会議」でRFIDシステムの導入を発表し、産業界のRFIDに対する関心を呼び起こした。現在、主要なサプライヤーと共同で、米テキサス州Sangerにある同社の配送センターとDallas/Fort Worth地域にある7カ所のスーパーマーケットを結んだRFIDの試験運用が実施されている。Wal-Martに商品を卸している上位100社のサプライヤーは、2005年1月までに3カ所のテキサス配送センターに向けて、商品にRFIDタグを添付することになっている。また、Wal-Martは2005年6月までにRFIDプロジェクトを、6カ所の配送センターと250カ所のWal-MartおよびSam's Clubの店舗で実行する計画を立てている。加えて2006年1月までにさらに200のサプライヤーをこのプロジェクトに参加させようとしている。Wal-Martと競合する企業もRFID導入プロジェクトを開始し始めている。

政府機関などの例
 国土セキュリティーや在庫管理、およびその他の必要性に迫られた米国政府は、RFIDシステム展開の重要な推進力となっている。米国防省への納入業者は2005年の1月までにそれぞれの在庫品に対してRFIDタグの適用を始めなければならない。米運輸省の連邦道路管理局は、米国内の道路管理施設を10年以内に半減するという目標の下に、DSRC (Dedicated Short-Range-Communications)システムを共同開発するRFIDメーカーを招集している。道路上で考えられるRFIDの利用法としては、交差点での衝突事故、転覆および悪天候による道路の障害などをドライバーに警告したり、走行速度が速過ぎてカーブを曲がり切れない恐れがある車に注意を促したりするという使い方が挙げられる。米連邦通信委員会(FCC)は、1999年に5.9GHz帯をDSRCアプリケーションに割り当てた。米国務省は2005年の本格実施への移行を目指して、現在RFIDを内蔵した生体情報パスポートのテストを行っている。国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization)も、2015年の本格導入を目指して、同様の提案を行っている。また、税関のコンテナ・セキュリティー・イニシアティブ(CSI)やSST(Smart and Secure Trade)Lanesイニシアティブは、米国の港湾でコンテナのセキュリティーを保証する一手段として、RFID技術を導入しようとしている。現在までに米国の全出荷量の約3分の2に当たる、国際貿易港上位20港の国の政府がCSIとSSTの実行に合意している。
 米国以外でもRFIDの導入を検討している政府機関がある。例えば、EUが高額のユーロ紙幣にRFIDタグの埋め込みを計画しているといううわさがある(20米ドル札にRFIDタグが埋め込まれているといううわさもあるが、発見されたことはない)。英国政府もRFIDタグを埋め込んだナンバープレートの導入を検討中である。このナンバープレートは道路に埋め込まれたリーダーや、監視車に搭載されたリーダーによって、300フィート離れた距離でも番号を解読することができる。BSEの流行によって提案された、羊や山羊の耳に電子的なタグを取り付けて管理する方法は、60万頭以上の家畜を有するEU加盟国で2008年1月からの実行が義務化される。ISO11784/85も、EU域内貿易の対象となる動物に対してRFIDの適用を義務付けしている。特にEUの大手RFIDサプライヤーであるオランダのRoyal Philips Electronics社は、この分野の活動を積極的に行っている。カナダも2005年1月から家畜への電子タグの取り付けを実施する計画を立てている。

医薬品業界の例
 医薬品業界では、薬品(個別パッケージが箱詰めされた大箱単位ではなく、個別のパッケージ単位に拡張されつつある)の流通経路追跡や偽造薬品の排除、誤配達、盗難防止などのために、大規模なRFIDシステムが導入される可能性がある。

電子商取引などの例
 「E-Zpass」や「FasTrak」システムは、高速道路料金を自動的に収受する。プライバシー保護に意識の高いユーザーは、これらのシステムがユーザーの支払い方法だけでなく、車に搭載されたRFIDタグがリーダーを通過した日付、時間および場所の情報まで記録していることに注意を払う必要がある。RFIDベースの電子料金支払いシステムとしてはこのほかに、米ExxonMobil社の「Speedpass」、米MasterCard社の「PayPass」、米NCR社の「FastLaneシステム」や「FreedomPay」がある。フィンランドのNokia社は携帯電話機用アドインキットとして、初の電子支払いが可能なモバイルRFIDモジュール(モデル5140)を発表している。Nokia社、Royal Philips Electronics社、ソニーの3社は、モバイル商取引と情報交換の推進のためにRFIDに関する共同開発体制「Magic Touch」アライアンスを発足させた。

生体埋め込みの例
 迷子になったペットを識別して飼い主に戻すために、ペットの体内にチップを埋め込む「Avid」や「HomeAgain」などの「Chipping」プログラムが注目されている。メキシコ政府は最近、法務長官のRafael Macedo de la Concha氏がメキシコ市にある犯罪捜査情報センターで働く彼の部下160名と共に、皮膚下に米VeriChip社のRFIDチップを埋め込んだと発表した。アルゼンチン、ブラジル、コロンビアをはじめとした中南米諸国では、短期間の監禁を含む誘拐事件の増大に対処するためにRFID技術を採用する国が増えている。スペインのバルセロナ(Barcelona)にある会員制の「Baja Beach Club」では、現金を持ち歩きたくない軽装の会員が飲食代の支払いをする際、皮膚の下に埋め込んだRFIDチップを電子クレジットカードとして使用している。

位置追跡の例

 日本では大阪市と和歌山県田部市の小学校が生徒の衣服、カバン、名札などにタグを埋め込んで先生や両親が生徒の現在位置を追跡できるようにしている。同様の目的で、米フロリダ州のWannadoo市のテーマパークでは、入場者のチケットにタグを埋め込み、各グループのメンバーがお互いの位置をリアルタイムで確認できるようにしている。シアトル市のフットボールチーム「Seattle Seahawks」のホームスタジアム「Qwestフィールド」では、売店での待ち時間を短縮するためにRFIDを埋め込んだ「PowerBuy」タグを入場者に持たせている。米Texas Instruments社は、RFIDチップのサプライヤーであると同時にユーザーでもある。同社は自社工場内で製品の工程追跡のためにRFIDタグを使用している。また、2004年ギリシャのアテネオリンピックのマラソンと米国のボストンマラソンの参加者の靴にはRFIDタグが埋め込まれ、舗道や競技場のマットの中に埋め込まれたリーダーによって周期的に競技センターと通信できるようになっていた。これらのタグはかつての1980年のボストンマラソンでRosie Ruiz氏が行ったような不正を防止するだけでなく、ウェブサイトなどを通じてランナーの友人や家族、ファンなどにレースの進捗状況を一定時間ごとに知らせることも可能である。

物品管理の例
 Texas Instruments社は、ローマのバチカン図書館と共同で、200万点におよぶ書籍、写本、その他の貴重な物品にRFIDタグを添付して識別と管理を行おうとしている。また、米サンフランシスコ公立図書館は、蔵書にRFIDタグを添付することを検討している。しかし、電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation:EFF)やその他のプライバシー保護団体から猛反対されている。

航空手荷物追跡の例
 米Delta Air Lines社は、2007年からのRFIDの本格導入を目指して、現在、フロリダ州ジャクソンビル(Jacksonville)とジョージア州アトランタ(Atlanta)の間で手荷物追跡のパイロット試験を行っている。ジャクソンビル空港は2005年2月のスーパーボウルの開催に先立ち、RFIDタグの本格導入を計画している。一方、米ラスベガス空港では2005年春からRFIDシステムの本格稼働を計画している。これらとは対照的に、サンフランシスコとシアトルの両空港は、RFIDは現在、使用中のバーコードシステムに比べてコストが高く、リーダーの信頼性もそれほど高くないという理由から、RFIDパイロット試験を棚上げしている。

航空機への通用例
 航空機メーカー大手のBoeing社と仏Airbus社は共同で、2000社を超えるサプライヤーに対して、2005年中期までに航空機の機体やエンジンの部品にRFIDタグを付加することを要請している。その目的は不正な価格付け、部品番号データの誤り、承認されていない部品などの検出と排除であり、さらには、それらによるための米連邦航空局の罰金や部品交換に伴うダウンタイムによる営業損失など、余分なコストを低減することも狙いとしている。Boeing社はまた、米Fedex社およびDelta Air Lines社と共同で、RFIDタグが添付されたエンジン部品の試験運用を行っている。3社が使用するRFIDは、高温かつ反射の多い金属に囲まれた環境でも、安定な動作が可能とされている世界標準の13.56MHzタグである。またそれとともに大きな情報記憶容量を持つ915MHzタグのテストも計画しているが、この規格はヨーロッパではまだ承認されていない。

RFIDのソフトサポート
 Microsoft社は、同社の「Axapta」、「Great Plains」および「Navision」など、ERP(enterprise-resource-planning)アプリケーションの今後のバージョンで、RFIDをサポートすること、および将来のサーバーオペレーティングシステムにもデバイスドライバに似たRFIDサポートを追加する計画を明らかにした。Microsoft社は2004年の4月に社内にRFID委員会を設置している。

石油・化学業界の例

 米OIL ID Systems社は、同社が石油を保存、出荷、販売を行う際、製品の流通経路を追跡するために砂粒程度の大きさのRFID微粒子「MOTE」を使用する計画を立てている。同様の目的では、日本の呉羽環境(呉羽化学工業の系列会社)は日本アイ・ビー・エムと共同で、段ボールおよびプラスチック容器にRFIDタグを埋め込むことにより医療廃棄物を追跡監視する試験を実施している。

適用検討中の候補
 このほか、まだ概念の段階であって実用化を検討中のアプリケーションとして、衣服にRFIDを埋め込むことで洗濯機や乾燥機の設定を自動的に行う、食物にRFIDタグを埋め込み、賞味期限が切れたことを冷蔵庫やユーザーに警告したり、電子食料品リストの要補充品目リストに自動的に追加したり、医薬品の消費量を監視して処方からのズレがあった場合に患者、かかりつけの医者、あるいは薬局などに通知したり、現在患者の薬剤棚にあるほかの薬品との併用禁止を警告するなどの動きがある。
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用語解説 / 会社情報
*1)
テクニカル・エディター。RFIDのプライバシーに関する長期的な影響を懸念している。これに対する読者の意見は電子メールウェブサイトまで。
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【IRE】
Institute of Radio Engineers
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*2)参考文献
Dipert, Brian, "Pick a card," EDN, July 8, 2004, p.53
http://www.edn.com/article/CA431145.html
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【UHF】
ultra-high-frequency
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*3)参考文献
Dipert, Brian, "Running interference," EDN, Aug 22, 2002, p.24
http://www.edn.com/article/CA238426.html
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【ASK】
amplitude-shift-keying
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【TDMA】
time-division-multiple-access
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【PJM】
phase-jitter-modulation
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【FTDMA】
frequency- and time-division-multiple-access
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【CRC】
cyclic-redundancy check
巡回符号方式
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【ECC】
error-correction-code
誤り訂正符号
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【EPC】
electronic product code
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【ONS】
Object Naming Service
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【ISO】
International Organization for Standardization
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*4)参考文献
Marsh, David, "Safety check: Wireless sensors eye tire pressure,"
EDN, Sept 2, 2004, p.42
http://www.edn.com/article/CA446986.html
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