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2004年10月号
部品の許容誤差による最悪条件の回路設計

電子回路の信頼性を高めるには、ICなどの能動部品の特性変動だけでなく、抵抗などの受動部品の許容誤差も考慮に入れなければならない。受動部品の仕様に定められている許容誤差と、経時変化などを考慮したドリフト許容誤差を合わせた最悪条件を想定し、回路設計に臨む必要がある。

ロン・マンチーニ*1) 米テキサス・インスツルメンツ社
Ron Mancini Texas Instruments Inc.
 信頼性の高い電子回路を設計するためには、設計段階ですべての許容誤差の影響を考慮しておかなくてはならない。ICのような能動部品の特性ばらつきに起因する回路の不具合について解説した文献は多い。例えば、オペアンプICのオフセット電圧や、入力電流といった、特性ばらつきの影響を説明したものである。ところが、受動部品の許容誤差が信頼性に与える影響はあまり議論されていない。受動部品の許容誤差について記述した文献はごくわずかである。さらに、それらは回路設計者の観点から記述されたものではなく、科学的観点から論じたものがほとんどだ。そのため設計現場での実用性に欠けるものとなっている。
 そこで、受動部品の誤差の最大値を仮定して基本回路を計算してみる。誤差が最大となる条件、いわゆる最悪条件における回路の挙動を明らかにするためだ。その結果、最悪条件で出力電圧のような回路パラメーターが、機器の動作寿命期間を通して、どんな値を取り得るか推定できる。

受動部品の許容誤差を算出する

 抵抗はすべての電子回路に使われる基本的な回路部品である。従って、抵抗の許容誤差の影響については詳細に調べておく必要がある。例えば、抵抗の誤差は0.5/1/2/5/10%のようにパーセントで表される購入時の許容誤差(P)で仕様が決められている。購入時の許容誤差は、購入した抵抗の抵抗値がその誤差の範囲内に収まっていることを保証するものである。例えばPが1%の10kΩ抵抗は、購入時の状態で抵抗値が10kΩ±1%の範囲、つまり9.9k〜10.1kΩの間に収まっていることが保証される。
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 一般に、購入時の抵抗値は許容誤差範囲の上限あるいは下限に近いものが多い。その理由は、多くの抵抗メーカーが誤差の小さい抵抗を選別し、後に残ったものを一般品として販売しているためである。
 次に、購入後の抵抗値の変動について考えてみる。使用状態において外部ストレスが加わると抵抗値が変化することがあるからだ。例えばプリント基板の組み立て工程におけるはんだ付けストレスなどである。こうしたストレスが印加されると、組み立て品が工場から出荷される前に、抵抗値が購入時の許容誤差を超えてしまう可能性がある。部品の特性値はその寿命期間を通じて絶えず変化しているのだ。温度や経年変化、機械的圧力、湿度、取り付け条件、日光、ちり・ほこりなどの外部ストレスによって素子の組成や大きさ、表面状態などに変化が生じるからである。機器の動作中に発生した部品の特性値の変化をここではドリフト許容誤差(D)と呼び、パーセント値で表す。
 表1に抵抗の許容誤差の推定値を示す。購入時の許容誤差Pとドリフト許容誤差Dはお互いに独立したパラメーターとして扱っている。購入時の許容誤差はトリミングや選別によって低減できるが、ドリフト許容誤差は機器の通常動作中に発生しており、機器を使用する前に補正しない限り修正できないからである。また、抵抗の種類によってはドリフト許容誤差の方が購入時の許容誤差より大きいものもある。
 ドリフト許容誤差の大きさは、抵抗の製造プロセスと機器の動作環境によって決まる。抵抗メーカーは安定していて制御可能な方法で、しかもドリフトしにくい材料を使って許容誤差範囲の狭い抵抗を生産している。しかし、製造工程でのドリフト量を少なくするためにプロセスや材料をいかに厳しく管理しても、機器に組み込まれた後のドリフトを小さく抑えられるとは限らない。
 表1に示すドリフト許容誤差は、周囲温度が−25〜85℃で、通常の使用状態での最悪値である。抵抗メーカーがデータ・シートなどで、特に記述していない限り、温度ドリフトは予測不可能だ。抵抗値は温度の上昇に伴って増加する場合もあれば減少する場合もある。従って、設計者は表1の最悪値よりも小さいドリフト許容誤差を回路設計に用いる際には、抵抗メーカーに相談すべきである。
 購入時の許容誤差とドリフト許容誤差について述べてきた。もう少し詳しく検討するために、今度は数式を使って解析してみる。
 回路図中の抵抗は通常、R1、R2のように記述する。この記述法を使用して、抵抗値が最も変動したときの値を、(1±T)R1で計算することができる。Tは購入時の許容誤差とドリフト許容誤差を加算した全許容誤差である。全許容誤差の極性は、外部条件や製造方法、材料、内部ストレスなどによって変わるため、プラスとマイナスの両方の極性をとり得る。計算では変動量が大きい方の極性を仮定しておくべきである。すべての抵抗が同じ極性にドリフトするとデータ・シートに明記されていない限り、回路中の各抵抗について最悪条件を与える極性を設計者が判断する必要がある。例えば抵抗値が10kΩで、購入時の許容誤差が5%の抵抗R1に対して変動後の最大値を計算すると、(1+0.01P+0.01D)R1=(1+0.05+0.05)R1=1.1R1=11kΩとなる。同様に、変動後の最小値を求めると、(1−0.05−0.05)R1=9kΩとなる。

コンデンサーの誤差は種類に依存

 コンデンサーの許容誤差の取り扱い方は、あまり詳細に議論されていない。しかし、コンデサーの許容誤差ついても抵抗と同様に考えることができる。コンデンサーの種類による許容誤差の違いは、抵抗の種類による違いに比べて大きい。その理由は、コンデンサーを製造する方法が、種類によって根本的に異なっているからである。電解コンデンサーは購入時の許容誤差が−20〜80%などと大きい。一方でガラス・コンデンサーや、温度安定度の高いNPO特性のセラミック・コンデンサーのように購入時の許容誤差を1%に抑えた種類もある。コンデンサーを用いる回路設計においては、メーカーがデータ・シートで誤差の変動について断っていない限り、コンデンサーの許容誤差を3倍に見積もっておくのがベストである。設計者が確実なデータを持っていない場合は安全側に考えて妥当な判断となる。

非比率回路の誤差を見積もる

 実際の回路では、抵抗を使って回路動作を設定することが多い。このとき、回路動作が抵抗の絶対値によって決まる回路と、複数の抵抗の比によって決まる回路がある。本稿では、前者を非比率回路*、後者を比率回路*と呼ぶ。ここでは、この2つの回路における許容誤差の扱い方を説明する。
 非比率回路の例が図1(a)である。出力電圧をVOUT=IRで計算する場合を考えよう。ここでIは1mAの電流源で、Rは1kΩ、許容誤差5%の抵抗とする。VOUT=1mA×(1±0.05±0.05)×1kΩ=(1±0.05±0.05)Vとなる。つまり、VOUTの範囲は0.9V≦VOUT≦1.1Vとなる。この回路に別の抵抗RPを付加して誤差を補正すれば、VOUTの取り得る範囲を狭くすることができる(図1(b))
 抵抗RPは可変抵抗(ポテンショメーター)を使う。RPの値は以下のようにして計算できる。
@購入時の許容誤差を使って計算した最小値(R=0.9kΩ)より小さく、これに最も近い標準抵抗値R'を選ぶと0.82kΩとなる。
A選択した抵抗の最小値R'MINを次のようにして計算する。PとDは5%であり、R'は0.82kΩであるからR'MINは以下のようになる。
 R'MIN=(1−0.01P−0.01D)R'=0.9×0.82=0.738kΩ
B可変抵抗RPはR'MINとRの公称値1kΩの差を補正しなければならない。従ってRPMIN=1−R'MIN=1−0.738=0.262kΩとなる。
C可変抵抗の誤差は固定抵抗に比べて大幅に大きい可能性がある。そこでここではPとDをそれぞれ10%とし、RP=RPMIN/(1−T)=0.262kΩ/(1−0.01P−0.01D)=0.262/0.8=0.328kΩとなる。
Dこの結果からRPに500Ωの可変抵抗が使えると分かる。
 回路設計者の中には、この手順での設計は細か過ぎるので、抵抗値の大きい可変抵抗を安易に選んでしまうことが多く、その結果、精度の低下を招くとともに可変抵抗による回路のドリフト誤差が大きくなってしまうと言う人がいる。この問題を解決するには、調整範囲が足りなくなるというリスクを覚悟の上で可変抵抗の値を小さくする方法がある。しかし、もっと良い方法はより高精度な部品を使用することであろう。
 このように、非比率回路ではドリフト誤差を含めた全許容誤差を考慮する必要がある。購入時の許容誤差が5%でも、回路全体の誤差は20%(−10〜10%)になってしまう。

比率回路の誤差は相殺される

 比率回路の例を図2に示す。複数の抵抗を使った電圧分割回路である。この回路では、誤差の一部が相殺される。次式で確認してほしい。
 電圧分割比(分圧比)の最大値を求めるためには、式@においてR2の全許容誤差(T)の極性をプラスとし、R1の全許容誤差の極性をマイナスにする。表2は抵抗誤差がまったくない理想的な分圧比と、誤差を考慮したときの最大分圧比、および両者から求められる分圧比の誤差を示している。分圧比の誤差はR1=R2の場合に最小になる。この分圧比誤差は全許容誤差に等しいことが分かる。非比率回路は全許容誤差の2倍、つまり2Tの誤差を見込む必要があるのに対し、比率回路は単にTの誤差を見込むだけでよいことになる。
 電圧分割回路における2つの抵抗値が同時に変動すれば、誤差は相殺される。比率回路で使用している抵抗が周囲温度の上昇に伴って同じ方向に同じ割合でドリフトすることを確認できれば、温度に対する全許容誤差の変動は考慮する必要がない。

高い同相信号除去比の差動増幅器IC


 個別部品を使ってCMRR*の高い高精度な差動増幅器を構成することは難しいといわれている。差動増幅器の許容誤差を解析すると、この説が正しいと分かる。図3の差動増幅器の出力電圧を次式を用いて計算してみる*2)。このとき、増幅器は理想的なものと仮定する。
 回路のCMRRは無信号状態で測定されるため、V1=V2=0とすれば式Aは次のように書き直せる。
 ここでR1=R3およびR2=R4の場合、利得はゼロとなり、CMRRは無限大になる。実際には抵抗の許容誤差とオペアンプの誤差により、CMRRの値はおよそ100dB以下となる。式Bを次式のように書き直すと、差動利得と抵抗誤差の関係がはっきりしてくる。
 式Cは4つの抵抗誤差を含んでいるため、全許容誤差Tの極性の組み合わせによって16通りの誤差要素が存在することになる。全許容誤差はすべての抵抗の誤差が同じ方向にドリフトする場合に最小値のゼロになる。また、最大値は2T/(1−T)である。
 抵抗の全許容誤差が1%(PとDがいずれも0.5%)の場合、オペアンプのCMRRは34.89dBまで低下する可能性がある。購入時の許容誤差Pとドリフト許容誤差Dがそれぞれ1%の抵抗の場合を考えると、CMRRはさらに劣化する。そして、その値は24.17dBまで低下する可能性がある。このCMRRの変動はCMRR誤差として計算できる。ただし、差動入力信号に同相モードの信号が重畳されていない状態では、抵抗の誤差は利得誤差となって現れる。
 個別部品を使った差動増幅器では、抵抗の誤差が入り込まないように回路を構成することや、回路中の抵抗をトリミングすることが難しい。このため、ほとんどの回路設計者はトリミング済みの抵抗を内蔵した差動増幅器ICを使用している。低価格の差動増幅器ICでも86dB程度のCMRRを容易に達成することができる。

機器出荷後のドリフト誤差は除けない

 製造の容易性を確保しつつ機器の性能を長い期間にわたって保証しようとすれば、受動部品が購入時の許容誤差Pだけでなくドリフト許容誤差Dも含んでいることを考慮すべきだ。また、部品のドリフト許容誤差が購入時の許容誤差よりも大きくなる可能性があることに注意してほしい。
 部品の購入時の許容誤差は機器の製造工程の最後で調整できる。しかし、機器の出荷後に発生するドリフト許容誤差は調整できないのだ。
 まとめると、非比率回路は抵抗の全許容誤差の2倍を見込む必要がある。一方、比率回路は誤差を抵抗の全許容誤差まで抑えることができる。個別部品を用いて高精度の差動増幅器を構築することはかなり難しいが、トリミング可能な抵抗を内蔵した、ばらつきの少ない抵抗を内蔵できる差動増幅器ICは、90dB程度のCMRRを比較的容易に実現可能である。

用語解説 / 会社情報
*1)ロン・マンチーニ氏
ロン・マンチーニ氏は米テキサス・インスツルメンツ社のスタッフ・サイエンティストである。連絡先は電子メール:rmancini@ti.com
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【非比率回路】
non-ratiometric circuit
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【比率回路】
ratiometric circuit
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【CMRR】
common mode rejection ratio
同相信号除去比
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*2)
Mancini, Ron, "Op Amps for Everyone," Newnes division of Elsevier Science, May 2003.
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