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2004年10月号
燃料電池が携帯型機器を目指す

ノート・パソコンをはじめとした携帯型機器への搭載に向けた燃料電池の開発が活発である。既存の2次電池に比べ、大幅に高いエネルギー密度を実現できるからだ。消費電力の増大にあえぐ携帯型機器にとって、うってつけの「次世代電源」になり得る。しかし普及への道のりは平坦ではない。高熱を発生することや、補給する燃料の流通方法など、いくつかの課題が残されているからだ。燃料電池は2次電池を置き換えることができるのか、その可能性を探る。

ダン・ストラスバーグ
Dan Strassberg
 携帯型機器への搭載に向けた燃料電池技術の開発が進んでいる。自動車向けの燃料電池が既存の燃料エンジンをどう置き換えていくかという話題ほど世間一般の関心を集めてはいないものの、日本のノート・パソコン・メーカーをはじめとした企業の取り組みは非常に活発である。実際に試作品を開発し、動作を確認済みのメーカーもある(図1)
 一般の消費者が燃料電池を搭載したビデオ・カメラや携帯電話機、PDA、ノート・パソコンなどを購入できるようになるのはもう少し先の話である。メーカー各社は、燃料電池で動作する電子機器が小売店に並び始める時期を2005年の歳末商戦のあたりとみている。ただし、この予測を楽観的過ぎると指摘する業界関係者もいるようだ。
 燃料電池は、携帯型機器の2次電池を置き換える技術として有望視されている。とはいえ、燃料電池で駆動する電子機器の開発はそれほど簡単ではないだろう。単に既存の携帯型機器からバッテリーを取り外し、燃料電池を取り付ければ済むわけではない。例えば、10数種類の燃料電池技術が存在する中で、携帯型機器に適用できそうな技術は数種類にすぎない。そのほかの技術は携帯型機器に搭載できるほど小型化できなかったり、生成する電力がけた違いに大きかったりするからである。
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 現在、携帯型機器に搭載できる燃料電池として研究が進んでいるもののほとんどは、ダイレクト・メタノール型燃料電池(DMFC*)である。また、米メディス・テクノロジーズ社*が提唱する直接液体燃料電池(DLFC*)やアルカリ型燃料電池(AFC*)も携帯型機器に向けたものだ。同社によれば、DLFCやAFCはDMFCよりも実用的で、かつ原理的に低コストであるという。
 携帯型機器ユーザーの多くは、バッテリーをAC電源のコンセントに差し込んで充電するのに慣れている。こうしたユーザーは、携帯型機器に燃料電池が搭載されることで、使い捨ての燃料カートリッジを交換したり、燃料の容器に液体燃料を補充したりする手間が生じるのを歓迎しないだろう。しかし、2次電池よりも長い連続動作時間を必要としたり、2次電池の充電時間を長過ぎると感じているユーザーは、燃料カートリッジや液体燃料を持ち運んでもよいと受け入れる可能性がある。例えば、航空機の機内でノート・パソコンを利用する出張者などだ。このほか工場や倉庫など、AC電源コンセントを見つけにくい場所や、バッテリーを充電する時間が確保できない環境における作業者も該当する。

初期コストと燃料コスト

 燃料電池が携帯型機器に普及するための課題として、コストの問題があげられる。燃料電池メーカーは、DMFCやDLFCは量産に入りさえすれば、リチウム・イオン2次電池と競争できる価格まで下がるという。なお、ここで比べているコストは、補充用の燃料を含まない、燃料電池の本体のみのコストである。ユーザーが燃料電池搭載の機器を購入する際の初期コストに相当する。
 現在のところ、燃料電池メーカー各社は実際に量産製品を市場に大量に流通させているわけではない。従って現時点では、消耗品を除く燃料電池本体を低コストで供給できると断言することは難しい。また、コストの算定の仕方に問題があるとの指摘もある。「DMFCを携帯型機器に搭載するためには、燃料であるメタノールの環境適合性の問題など、解決すべき課題がまだ残されている。この課題を克服するために必要なコストが大幅に過小評価されている」(メディス・テクノロジーズ社)。
 一方、燃料電池に補充する燃料のコストはそれほど高くはならない。DMFCの燃料であるメタノールや、メディス・テクノロジーズ社のDLFCの燃料である水酸化カリウム(KOH)はさほど高価ではないからである。燃料を持ち運ぶための使い捨てカートリッジについても、それほど高いコストにはならないと考えられる。
 携帯型機器における燃料電池の課題はコストだけではない。燃料電池の大きさや、重量に関しても問題がある。2次電池を搭載した機器に比べて外形寸法や重量の増加を最小限に抑える必要がある。この課題の解決方法として、燃料電池メーカー数社は、ノート・パソコンのリチウム・イオン2次電池を置き換える燃料電池システム(FCS*)を提案している(図2)米インテル社*は、ノート・パソコンのドライブ・ベイ*に収まる着脱可能なFCSを提案した。2次電池を搭載したノート・パソコンにFCSを装着することで連続動作時間を大幅に増やすことができる。
 ただしこの方法にも欠点がある。例えば、航空機で移動する出張者の場合、機内でパソコンを使うためのFCSや予備の燃料カートリッジを持っていくだけでは用意が十分とはいえない。翌日に行う顧客へのプレゼンテーションに備えて、夜間にバッテリーを充電するためのAC電源アダプターも用意しておく必要があり、荷物が増えてしまう。また、ドライブ・ベイにFCSを装着してしまえば、当然DVDドライブは装着できない。飛行中にパソコンでDVDソフトを鑑賞することはあきらめなくてはならない。
 このようなやっかいな問題を抱えているにもかかわらず、なぜ燃料電池が注目を集めるのだろうか。既存の電池技術に比べ、格段にエネルギー密度が高い電源を確保できるようになるからだ。例えば、どこでも入手可能なアルカリ乾電池の場合、PDAなど比較的消費電力の低い携帯型機器でしか利用できない。ノート・パソコンになると消費電力は高くなり、頻繁に電池を交換する必要が生じてしまう。1回の燃料を投入すると数Wh以上の電力を発生できる、燃料電池が注目されるのは自明である。
 ただし現状の燃料電池では、同じ容積の2次電池よりも連続動作時間が長いと言い切ることは難しい。燃料電池メーカーによると、容積が同じ場合、当面の連続動作時間はリチウム・イオン2次電池とさほど変わらないという。しかし、2〜3年後には、同じ容積の2次電池に対し、少なくとも2〜3倍の連続動作時間を実現できると予想している。ただし現状でも、燃料電池とリチウム・イオン2次電池の重量が同じだとすれば、燃料電池の方が連続動作時間を長くできるという。すなわち、同じ容積で比べると、DMFCやDLFCの方がリチウム・イオン2次電池よりも軽量になるとしている。

2次電池の性能はこれ以上高まるか

 携帯型機器の高性能化に伴って消費電力は増加し続けている。既存の2次電池ではこの消費電力の増加に対応できなくなってきた。そこで燃料電池が登場する。これが燃料電池メーカーの書くシナリオである。ところがここに落とし穴が存在する。2次電池の性能が大幅に高まってしまえば、燃料電池を採用する理由が消滅してしまう。
 ただし、2次電池の性能が限界に達しているとの指摘があるのも事実である。この指摘が正しいとしても、2次電池技術に次のブレークスルーが起きるまで、どのくらいの時間を要するのか予測しておくことは、燃料電池メーカーにとって重要であろう。
 2次電池は、この10年足らずの期間にニッケル・カドミウム(NiCd)電池からニッケル水素(NiMH)電池、リチウム・イオン電池と大幅に進化を遂げている。今後について燃料電池メーカーは、「2次電池の進化は停滞し、次の革新技術が登場するまでに10〜15年はかかるだろう」との見方を示している。これに対し、新しい2次電池用の材料や、より高速の充電が可能な2次電池がもっと早い時期、およそ2年以内で登場するだろうとする予測もある。なお、第三者の中立的な意見によると、次の2年以内に2次電池の技術革新が起こる可能性はおよそ50%であるという。
 2次電池の性能が急速に向上すると、携帯型機器における燃料電池の将来がかなり不透明になる。燃料電池の計画がとん挫する可能性すらある。ノート・パソコンを8時間動作させられ、かつ完全な放電状態から90秒でフル充電可能な、小型軽量で手ごろな価格の2次電池が登場すれば、燃料電池メーカーにかなりの脅威を与えることになるだろう。
f2次電池の性能向上は、まったく途方もないことでもない。仮に、適当な化学物質が存在すれば、15分で急速充電を行ってもピーク充電電流を50A以下に抑えられる可能性がある。これを実現できる有力候補がアドバンスド・リチウム・ポリマー(AliP*)であるという。従来は、50Aといった大電流の2次電池は、ノート・パソコンの一部でしか採用されていなかった。しかし、徐々に電子機器で一般的になり始めているようだ。
 携帯型機器の消費電力は増加する方向にある。既存の機器よりもはるかに複雑な機能を備えた製品が登場しているからだ。新たな機能追加によって増加する電力が、インテル社のペンティアムM(Pentium M)など、携帯型機器向けに消費電力を低減したプロセッサーによって削減できる電力を上回ってしまう。この結果、携帯型機器が必要とする電池容量が増える。この傾向が今後も続けば、2008年のノート・パソコンで8時間の連続動作時間を達成するには、2004年現在の製品よりもかなり大きな電池容量が必要になるだろう。

電気2重層コンデンサーと組み合わせ

 燃料電池と電気2重層コンデンサーは理想的な組み合わせといえる。電気2重層コンデンサーは体積当たりのエネルギー密度が高い。このため、例えばパソコンのディスク・ドライブが記録メディアを回転させ始めるときなどの、ピーク負荷時に供給するエネルギーを蓄えておく「リザーバー」として利用できる。リザーバーを設けておかないと、パソコンやビデオ・カメラなどの電子機器に搭載する燃料電池は、平均電力ではなく、ピーク電力に合わせた電池容量が必要となる。その場合、燃料電池は平均電力の4〜5倍の出力を備えておく必要が生じ、容積が大きくなってしまう。
 携帯型機器に組み込める電気2重層コンデンサーはすでに製品化されている。例えば、米マクスウェル・テクノロジーズ社*の電気2重層コンデンサー「BOOSTCAP」である(図3)。動作電圧は2.5V、内部抵抗は数mΩ程度である。一般的なノート・パソコン用2次電池の端子電圧である10.8Vに対応したリザーバーは、4個の4F(ファラッド)電気2重層コンデンサーを直列に接続することで実現できる。4個の電気2重層コンデンサーのコストは、大量購入時に10米ドル以下になるだろう。あるいは5米ドル以下に抑えられる可能性もある。
 ただし、5米ドルのコスト増加とはいえ、ノート・パソコンやほかの民生機器にとって無視できる金額ではない。このため、機器メーカーはリザーバーを実装するかどうかの選択に、ずっと悩み続けることになるだろう。
 ノート・パソコンのようにバッテリーか燃料電池かをユーザーが選択できる製品の場合、リザーバーは燃料電池ベースの電源モジュールに組み込まれる。この電源モジュールは燃料カートリッジに対応したもので、ドライブ・ベイに装着する。こうすると、ノート・パソコン本体にはリザーバーが組み込まれないため、ユーザーは燃料電池を選択しなければ、リザーバーのコストを負担せずに済む。ただし、パソコン本体にリザーバーが組み込まれていないと、バッテリーを交換したり、燃料カートリッジを取り付けたりする際に、パソコンをいったん停止させなければならなくなる。

燃料電池を機能させる

 図4はDMFCシステムのブロック図である。この図において特に注意すべき点は、ポンプと冷却用の2つの送風機である。これらの機構部品は比較的、耐用年数が短くコストが高い。さらに雑音の発生源になってしまう。なお、携帯型機器向けの2次電池ではこれらに相当する部品は使用されていない。
 燃料電池の性能を左右する重要な構成部品に電解質膜がある。DMFCでは電解質膜にプロトン交換膜(PEM*)が採用されている。燃料電池の出力電力は電解質膜の表面積に依存する。そのため、表面積を大きくすれば高出力の燃料電池が実現できる。ただし、単純に面積を広げるとDMFCの外形寸法も大きくなってしまう。
 そこで、電解質膜の構造に工夫を施し、外形寸法を大きくせずに燃料電池の出力電力を高める方法が考案されている。米ニー・パワー・システムズ社*は、PEMに多孔質シリコンを採用することで、電池の外形寸法を変えずにPEMの有効面積を1けた以上増大させる技術を開発した(図5)。シリコン膜に微細な穴をエッチングで形成し、穴の表面でも化学反応が起こるようにした。穴の表面積分が加わったことで、PEMの有効面積を大幅に増やせた。

普及への課題

 燃料電池を携帯型機器に組み込もうとすると、従来の2次電池では生じなかった問題が浮上してくる。1つは冷却装置の問題、もう1つは燃料の運搬の問題である。
 2次電池を携帯型機器に組み込んでも、冷却装置の搭載は不要だった。2次電池では充電時でもほとんど温度上昇が発生しないからだ。一方、DMFCでは、エネルギー変換効率はおよそ50%以下にとどまっている。つまり、発電時に出力電力と同程度のエネルギーが熱として放出されてしまうことになる。このため携帯型機器に燃料電池を組み込む場合、冷却装置の搭載が不可欠になってしまう。すでに熱処理上の課題を抱えているノート・パソコンなどの製品では、燃料電池の搭載による発熱は最も懸念される問題である。
 燃料の運搬に関しては、現在のところ、DMFCの燃料であるメタノールは米国政府や国際的な規制により航空機に持ち込むことができない。ただしDMFCメーカーは、メタノールの運搬、特に小型カートリッジでの運搬に関して安全性を一度実証すれば、この規制が撤廃されるものと確信しているようだ。
 さらに、燃料の流通に関連する問題として、カートリッジの標準化がある。パソコン業界は、消耗品の標準化に関する実績に乏しい。アルカリ乾電池のように標準化された電池なら、ユーザーはどこにいても必要なときに入手できる。燃料電池の燃料カートリッジについても同様の標準化が期待されるだろう。標準化が実現されないと、補充用の燃料カートリッジを手軽に入手することは難しくなる。また、価格も高くなってしまう。

段階的に普及させる

 このように、燃料電池を携帯型機器に搭載するにはさまざまな課題が残されている。これらの課題を克服するためには、多くの企業の協調が必要になる。現在、段階的なアプローチを推奨している企業が数社あり、すでに1社は実行に移っているようだ。
 第1段階は、燃料電池式の充電器の投入である。これは既存の機器に組み込む必要はない。ノート・パソコンの場合、外付けのAC電源アダプターとの接続に使う標準コネクターを介して、パソコン本体に組み込んだバッテリーを充電する役割を担う。第2段階では、従来の2次電池を置き換える燃料電池ユニットが製品化されるだろう。図2に示したような製品である。第3段階になると、ノート・パソコンのドライブ・ベイに装着する、着脱可能な燃料電池ユニットが登場するようになる。さらに第4段階では、プラグイン型の燃料カートリッジを除く、ほとんどすべての燃料電池用部品が電源システムとして一体化されると期待できる。
 メディス・テクノロジーズ社の発表によると、PDAなどの携帯型機器用の燃料電池式充電器に関しては、すでに第1段階に突入しているという。同社はDLFC技術を使って、350mlのペット・ボトルとほぼ同じ容積の燃料電池式充電器を開発した。この充電器はビデオ・カメラに向けている。ビデオ・カメラのユーザーから、「ビデオ・カメラを使いたいときに限って電池が切れていて、しかも近くにAC電源コンセントがない」という不満がよくあがっていることを受けたものという。こうした不満を持つユーザーにはすぐに受け入れられ、一定の市場を確保するだろう。

用語解説 / 会社情報
【DMFC】
direct methanol fuel cell
ダイレクト・メタノール型燃料電池
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【米メディス・テクノロジーズ社】
Medis Technologies Ltd.
燃料電池メーカー。同社のホームページはhttp://www.medistechnologies.com/
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【DLFC】
direct liquid fuel cell
直接液体燃料電池
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【AFC】
alkaline fuel cell
アルカリ型燃料電池
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【FCS】
fuel cell system
燃料電池システム
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【米インテル社】
Intel Corp.
同社のホームページはhttp://www.intel.com/。日本法人はインテル。同社のホームページはhttp://www.intel.co.jp/
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【ドライブ・ベイ】
drive bay
コンピューター本体に内蔵する周辺機器を取り付けるために設けられた、きょう体内の空間のこと。
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【AliP】
advanced lithium polymer
アドバンスド・リチウム・ポリマー
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【米マクスウェル・テクノロジーズ社】
Maxwell Technologies, Inc.
電子部品や電源、テスト装置などのメーカー。ホームページはhttp://www.maxwell.com/
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【PEM】
proton exchange membrane
プロトン交換膜。燃料電池において陰極(水素極)と陽極(酸素極)を分離する膜。水素イオン(プロトン)だけが通過できる。電解質膜、メンブレンとも呼ばれる。一般には、高分子(ポリマー)膜などが使われている。
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【米ニー・パワー・システムズ社】
Neah Power Systems, Inc.
燃料電池の開発ベンダー。ホームページはhttp://www.neahpower.com/
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