高速デジタル信号を扱うICでは、トランジスタのスイッチングによって電源や接地(グラウンド)のインダクタンス成分に高周波電流が流れ、電圧変動が発生する。ICチップ上にバイパス・キャパシターを作り込んでおけば、このスイッチング雑音を軽減できる。
図1は基本的なトーテム・ポール出力回路である。直列終端された伝送線路を駆動している。最初に、バイパス・キャパシターC1を接続していない状態を考えよう。回路は非動作状態で、伝送線路に電圧は印加されておらず、電流も流れていないと仮定する。
まず、時刻t1でトーテム・ポール出力回路のトランジスタ・スイッチAをオンにする。するとプリント基板の電源から、ICパッケージのインダクタンス成分LVを介して電流が流れ込む。この電流は、スイッチAと終端抵抗を経由し、伝送線路を伝搬していく。このとき伝送線路に流れる電流の大きさは、特性インピーダンスをZ0として、(1/2)×(VCC/Z0)で与えられる。この電流は、伝送線路を1往復(ラウンド・トリップ)してくる時刻t2まで流れ続ける。
電流がパッケージのインダクタンス成分LVを介して急に流れ込むと、ICチップの電源配線上のある点V1に電圧の乱れが発生する。いわゆる電源バウンスである。続いて、時刻t3でスイッチAをオフにする。この動作では過渡的な変動は発生しない。この直前には、スイッチAに電流が流れていないからである。スイッチAをオフにするのと同時にスイッチBをオンにすると、スイッチBから電流が一気に吐き出される。この電流がインダクタンス成分LGを介してグラウンドに流れることで、ICチップのグラウンドに相当する点G1において電圧変動が発生する。いわゆるグラウンド・バウンスである。
次に、ICチップ上の点V1と点G1の間にオンチップ・バイパス・キャパシターC1を接続する。このキャパシターが、過渡的に発生する高周波電流に対して短絡経路として機能する。その結果、点V1と点G1に生じる過渡電圧が平均化されて同じ大きさになる。つまりスイッチのオン/オフごとに、点V1と点G1に同じ大きさの電圧変動が生じるようになる。ただし電圧変動のピーク値は、バイパス・キャパシターを付加しない場合の半分に抑えられる。
キャパシターを接続すると、スイッチのオン/オフによって生じる過渡電流は、半分が電源側、半分がグラウンド側に分散される。キャパシターを接続していないと、トーテム・ポール出力回路の出力論理が高レベルに遷移するときは電源側だけに電流が流れ、低レベルに遷移するときはグラウンド側だけに電流が流れる。
オンチップ・バイパス・キャパシターを付加した直列終端回路を採用すれば、バイパス・キャパシターを付加しない場合と比べて、ICの電源端子とグラウンド端子の数を減らしてもICを安定に高速動作させられる。
今度は、直列終端抵抗を用いた出力回路を2つ組み合わせて、差動ペアを構成してみる。ただし、バイパス・キャパシターはいったん取り除いておく。差動出力回路では、図1の時刻t3、t4で発生しているようなグラウンド・バウンスと同時に、時刻t1、t2で発生するような電源バウンスが生じる。
このとき点V1と点G1における過渡的な電圧変動は、互いに反対の方向に向かって発生する。この状態でオンチップ・バイパス・キャパシターを接続すると、点V1と点G1の電圧変動がお互いを打ち消し合う。従ってキャパシターの静電容量が十分であれば、電源バウンスとグラウンド・バウンスはほとんど発生しないことになる。
ここで、バイパス・キャパシターをICチップ上ではなく、パッケージとICチップの間に取り付けるとしよう。パッケージのインダクタンス成分に起因するスイッチング雑音に対しては低減効果が期待できる。ただし、ボンディング・ワイヤーやICチップ上の配線パターンなどのインダクタンス成分によるスイッチング雑音は低減できない。
(ハワード・ジョンソン*1)) |