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designideas
2004年9月号
スペクトラム拡散で電源回路のEMIを低減

ジョン・ベッテン 米テキサス・インスツルメンツ社
John Betten Texas Instruments Inc.
 スイッチング電源は雑音の発生源として悪名が高い。いわゆるスイッチング雑音を発生するからだ。この雑音は配線パターンなどを介して放射電磁雑音(EMI*)となり、電源回路の外部や周辺回路などに飛び込む。このためスイッチング電源を設計する際には、スイッチング雑音が電源供給源に入り込まないように対策を施しておく必要がある。同じ電源供給源から電源を得て動作する回路すべてに雑音をまき散らしてしまうのを防ぐためである。
 実際の対策としては、EMIフィルターを使う方法がある。EMIフィルターを電源回路に挿入することで、雑音が外部に漏れ出すのを阻止するとともに、雑音を雑音発生源に戻すための低インピーダンス経路を作り出す。ところがこの手法には問題がある。すなわち雑音が大きくなるに従って、EMIフィルターの実装に要する基板面積は大きくなり、部品コストも増える。雑音対策が大幅に難しくなってしまう。
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 そこで、スイッチング電源のスイッチング周波数を変調することでEMIを低減する方法を提案する。スイッチング周波数が固定された電源回路では、スイッチング周波数に最大のピークを持つEMIが発生する。スイッチング周波数の高調波周波数にもEMIのピークは生じるが、その大きさは高調波の次数が高まるにつれて減少する。スイッチング周波数を固定せずに常に変化させ続ければ、EMIの周波数分布(スペクトラム)は広帯域に拡散し、ピーク値は低減される。つまり、ある周波数におけるEMIの時間的な平均値を低く抑えるわけだ。
 図1は、簡単な構成でEMIのスペクトラム拡散を実現できる回路である。点線で囲んだ部分は周波数が約500Hzの発振器として機能する。この発振器の出力でスイッチング周波数を変調する仕組みである。この回路をスイッチング電源に組み込めば、EMIの低減をわずかなコストで実現できる。対策に要する基板面積も小さくて済む。
 図1の発振器部分は、電源(5V)を投入すると自動的に発振を開始する。まずコンデンサーC3の端子電圧が0Vから上昇し始める。ここでコンパレーターIC「TL331」(IC1)の反転入力端子(1番ピン)の電圧はC3の正極端子電圧に等しい。また非反転入力端子(3番ピン)に印加する基準電圧(VREFH)は、R1とR6からなる抵抗分圧器と電源電圧によって決まる。電源投入直後は、VREFHはコンパレーターICの反転入力端子の電圧よりも高い。従ってコンパレーターICの出力端子(4番ピン)はハイ・インピーダンス状態である。
 時間経過とともにC3の正極端子電圧が高まると、反転入力端子の電圧も高まってVREFHを超える。すると直ちに、コンパレーターICの出力端子の電圧は接地電位まで降下する。この状態は、R5がR6に並列接続されたのと等価である。またR3はC3と並列接続された状態になる。従って、R1とR6、R5が抵抗分圧器を形成し、非反転入力端子の基準電圧を下げる。このときの基準電圧をVREFLとする。一方C3は放電を始め、正極端子電圧がVREFLに等しくなるまで低下し続ける。
 C3の正極端子電圧がVREFLまで低下すると、コンパレーターICの出力端子は再びハイ・インピーダンス状態に戻る。コンパレーターICの基準電圧はVREFHに高まり、C3は充電を始める。この一連の動作を繰り返すことで、発振状態を作り出す仕組みである。なお発振を維持させるためには、発振器に使用する部品の定数に注意する必要がある。つまりC3が充電されたときに、正極端子電圧がコンパレーターICの基準電圧VREFHよりも高くなるように、またC3が放電したときに正極端子電圧が基準電圧VREFLよりも低くなるように部品定数を選ぶ。
 発振器の発振周波数fはC3の静電容量によって決まり、次式で近似的に求められる。
ここでΔVREF=VREFH−VREFL、VBIASは発振器に与える電源電圧である。
 発振器で作り出した信号は、コンデンサーC2で直流成分を取り除き、抵抗R4を介して電流モードのPWMコントローラーIC「UCC3813」(IC2)の周波数設定端子(RCピン)に交流結合する。実際にはこのPWMコントローラーICでスイッチング電源を制御するわけだ。なお、C2の静電容量はC3よりも大きい値を選んでおく。
 PWMコントローラーICの周波数設定端子に発振器出力の交流信号の正電位部分が印加されている間は、周波数設定端子に接続したコンデンサーCTの充電電流が増加する。するとPWMコントローラーICのPWM出力信号の周波数が上昇していく。交流信号の負電位部分では、CTの充電電流が減少し、PWM出力信号の周波数を下げる。図2に発振器の出力信号波形を示した。この波形がCTに印加される。
 R4の値を変えることで、CTの充電電流の変化量を制御できる。R4の値を小さくすると充電電流の変化量が大きくなり、結果としてPWM出力信号の周波数帯域幅が広がる。つまりスペクトラム拡散の効果が高まる。またPWM出力信号の周波数掃引速度は発振器の出力周波数によって調整可能である。
 図3は、図1の回路を使って実際にスペクトラム拡散によるEMI低減効果を測定したものだ。紫色の波形はPWMコントローラーICに発振器を付加していないとき、緑色の波形は発振器を付加したときの電流測定値である。1dBμVが1dBμAに相当する。PWM出力信号の基本波周波数が約12kHzの帯域に拡散されていることが分かるだろう。発振器を付加しない状態と比べて、EMIのピーク値は10dBμA程度低減されている。
 拡散帯域幅を広げればEMIのピーク値はさらに減少する。ただし一方で、スイッチング電源の出力に発振器の出力周波数で現れるリップル電圧が大きくなってくるので注意が必要だ。また、図2に示した発振器の出力波形のなまりがなるべく生じないように、つまり波形の直線性をできるだけ高くしておくことも重要である。発振器の出力波形がなまると、PWMコントローラーの出力周波数が最高値と最低値にとどまる時間が長くなる。その結果、拡散したEMIのスペクトラムに2つのピークが生じてしまう。このほかPWMコントローラーの出力周波数の最低値は、スイッチング電源に磁気飽和が生じないような値に設定する必要がある。

用語解説 / 会社情報
【EMI】
electromagnetic interference
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