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2004年9月号
D級アンプが第3世代に突入

D級オーディオ・アンプ技術の採用がさまざまな分野で進んでいる。応用分野ごとに性能や機能を最適化した、「第3世代」のD級アンプICや組み込み用アンプ・モジュールが普及を後押ししているからだ。液晶ディスプレイを搭載した薄型テレビや、携帯電話機をはじめとした携帯型機器、大出力のオーディオ・アンプ装置などに向けた製品が入手可能である。D級アンプの歴史を振り返るとともに、最新の製品を紹介する。

ジョシュア・イズラエルソン
Joshua Israelsohn
 オーディオ・アンプの機能は単純である。入力された信号を一定の利得で増幅するだけだ。ただし単純といっても、決して簡単な作業ではない。入力信号を極めて正確に増幅する必要があるからだ。通常、オーディオ・アンプに求められる全高調波ひずみ率は、多少のひずみを許容できるような場合で1%程度、ひずみを最小限に抑える必要がある用途では0.0003%程度と低い。
 「入力信号をなるべくひずませずに増幅して出力する」。これがオーディオ・アンプの役割だというのが通常の考え方であろう。このため、1958年にデジタル(D級)・アンプ技術が初めて提案されたとき、オーディオ用アンプとしてふさわしい技術とは考えられていなかった*1)。D級アンプの出力段の動作が、2つの電位を高速で激しくスイッチングさせて出力信号を作り出すものだったからである。
 ここで、D級アンプの商用化の歴史を振り返ってみよう。D級アンプの進化過程を区分けする方法は数多い。今回は筆者独自の視点で、デジタル・アンプ製品の登場から現在に至るまでを3つの世代に分けて考える。
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 第1世代を代表する製品は、デンマークのタクト・オーディオ社*が発売したオーディオ・アンプ装置「タクト・ミレニアム(TacT Millennium)」である。デジタル・アンプ技術はデンマークのトッカータ・テクノロジー社*が提供した。このアンプの登場によって、デジタル・アンプ技術で十分なオーディオ性能を実現できることがついに証明された。
 第1世代の製品が発売されると、デジタル・アンプ技術でオーディオ・アンプを実現できるかどうかという議論は終わる。次はいかにして実用性を高めるかに話題が移ることになる。これと同時に、D級アンプを手がける技術者の目標は、何かしらオーディオ・アンプとして動作するものを作り出すことから、より多様な製品を市場に投入することに変わった。こうして第2世代品が登場し始めるのである。
 第2世代のD級アンプは、第1世代品に比べて小型化と低価格化が進んだ。オーディオ性能の向上もある。AB級アンプ技術を使った既存のミドル・クラス品と比較して、同等以上の性能を、より低い消費電力で実現できた。
 ただしこの世代では、オーディオ・アンプ装置のメーカーがデジタル・アンプ技術を採用することは簡単ではなかった。従来のAB級アンプとまったく異なる回路構成や、プリント基板レイアウトが特性に大きく影響する点、数多くの外付け部品を必要とするコントローラーICと悪戦苦闘しなければならなかったからだ*2)。ただしAB級アンプと比べて電源容量やきょう体のコストを低減できるというD級アンプ技術のメリットは享受できた。
 アンプ・メーカーが市場に合わせて製品の特性を最適化し始めたのも第2世代の特徴である。こうしたアンプ・メーカーの戦略に呼応するように、半導体ベンダーはD級アンプICの拡充を開始した。代表的な例は米トライパス・テクノロジー社*の製品群であろう。比較的単純なPWM*信号生成回路と出力段のパワーMOS FETを集積したD級アンプICである。アナログのオーディオ信号入力に対応した。出力フィルターを外付けして使う。
 一方、米テキサス・インスツルメンツ社*米シーラス・ロジック社*米アポジー・テクノロジー社*は、PCM*信号を入力とするD級アンプICを用意した。ただしこれらの製品は出力段のパワーMOS FETを外付けとしている。
 PCM信号を入力とするオーディオ・アンプには、複雑なフロント・エンド処理機能を組み込んでおく必要があった。通常はパワー・アンプではなく、ステレオ・プリアンプに搭載するような機能である。例えば、複数の音源から1つを選択する機能や音量調整、ステレオ出力のバランス調整、トーン・コントロールなどである。
 さらに時が流れると、アンプ・メーカーとD級アンプICベンダーの間に協調関係が結ばれた。つまり、アンプ・メーカーの設計者はD級アンプ技術の利点をきちんと理解するとともに、デジタル・オーディオ・アンプに関するマーケティング情報をICベンダーに提供するようになった。一方ICベンダーの設計者は、このマーケティング情報を参考に、第2世代のアンプが抱えていた課題の解決に乗り出したのである。
 この結果、アプリケーションごとの最適化を第2世代品からさらに進めたデジタル・オーディオ・アンプが相次いで登場した。第3世代の幕開けである。

D級アンプの採用が不可欠に

 第3世代に突入した現在、D級アンプはその存在感を高めている。実際に、D級アンプを採用することが必要不可欠な電子機器も存在する。例として液晶パネルを搭載したモニターや薄型テレビが挙げられよう。これらの機器はいずれも、小型のスピーカーを搭載することが多い。スピーカーを駆動するために数ワット〜10数ワットの出力を備えるアンプが必要である。ただしこの出力を確保すること自体は問題ではない。問題は発熱である。これに対処するために、従来のAB級アンプと比べて電力変換効率が高く、発熱量が少ないD級アンプが必要なのだ。
 もう少し詳しく説明しよう。液晶パネルの画素の色調は動作温度に依存して変化する。そこで通常はこの温度依存性を補正する対策を施しておく。ところが一般にこの補正係数は線形である。従って局所的に温度上昇が激しいホット・スポットの色調補正には対応できない。一方で液晶パネルを組み込む機器の外形寸法は最小化する必要がある。このためヒート・シンクを取り付ける空間を確保するのが難しい。またヒート・シンクを搭載すればコストが掛かり、機器の重量は重くなってしまう。こうした設計課題を解決するためには、電力変換における発熱をなるべく低く抑えることが必須である。
 電力変換効率が高いというD級アンプの特徴には、単にアンプ自体の発熱量が少ないという以上のメリットがある。同等のオーディオ性能を備えたAB級アンプを用いるのに比べ、機器全体のコストを抑え、さらに小型化を図ることが可能だ。

IC製品の選択肢が広がる

 ここからは実際の第3世代D級アンプ製品を紹介していく。まずは液晶パネルを搭載したエンターテインメント機器やコンピューター用ディスプレイ向けに開発されたD級アンプICを見てみよう。最新のD級アンプICには、出力フィルターを省くため、変調方式を改良した製品が存在する。出力フィルターが不要なため、デジタル・アンプを実装する際の容積とコストを比較的小さく抑えられる。出力フィルターを搭載していないにもかかわらず、D級アンプICからの放射電磁雑音(EMI*)の大きさが、出力フィルターを備えた第2世代品と同等以下だと主張する半導体ベンダーもある(下記の「EMIを根絶せよ」を参照)。
 現在入手可能な薄型ディスプレイ向けD級アンプICの例に、米マキシム・インテグレーテッド・プロダクツ社*の「MAX9713/MAX9714」がある。MAX9713がモノラル品、MAX9714がステレオ品だ。いずれも出力フィルターは不要(フィルター・レス)である。32端子のTQFNパッケージに封止した。ただし外形寸法は若干異なる。価格はMAX9713が1.6米ドル、MAX9714は2.0米ドル(いずれも10万個購入時の単価)。
 両品種ともに、変調周波数は3つの異なる固定周波数(335k/460k/236kHz)から選択可能。変調周波数を設定する専用端子を設けた。さらに、EMIを低減するために、335kHzを中心として±7%の帯域にスペクトラムを拡散させる機能も用意した。スピーカーとのケーブルが最長14インチ(約35.5cm)までFCC*(米連邦通信委員会)の定める放射規格に準拠する。
 MAX9713/MAX9714の出力電力は6Wである。負荷が8Ω、THD+N(全高調波ひずみ+雑音)が10%のときの値で規定した。THD+Nの仕様値は0.07%。負荷が8Ω、出力電力が4Wのときの値である。出力電力とTHD+Nの仕様値は条件が異なることに注意してほしい。電源電圧は10〜25V。データ・シートの電気的特性は電源電圧が15Vのときの値で仕様化している。データ・シートを詳しく読むと、アンプの出力はコンプライアンス電圧よりも電流によって制限されることが分かる。このことから、8Ω負荷の代わりに4Ωの負荷を接続しても、同等の出力電力が得られると思われる。
 2品種はいずれも、利得は13〜22dBまで、3dBステップで設定可能である。利得設定用の専用端子を備える。入力インターフェースは差動方式。差動入力の片側を接地電位に交流(AC)結合させておけば、シングル・エンドの信号源で駆動することもできる。MAX9713/MAX9714は、電源投入時にクリック雑音やポップ雑音を発生させずに動作を開始する機能を備えている。雑音抑制性能は最新のD級アンプICと同等である。D級アンプ製品を設計する際には、この機能を搭載したD級アンプICを採用するべきであろう。
 テキサス・インスツルメンツ社も薄型ディスプレイなどに向けたD級アンプICを供給中である(図1)。製品名は「TPA3002D2」。2チャンネル出力のステレオ品である。出力電力は9W(負荷が8Ω、THD+Nが10%、電源電圧が12Vのとき)。ステレオ・ヘッドホン接続用にプリアンプ出力を備えている。ボリュームは調整専用端子に印加する直流(DC)電圧の大きさで調整する。デジタル・インターフェースを介してデジタル値で設定するD級アンプICとは異なる。ポテンショメーターのように簡単な回路でボリューム調整を実現できるほか、デジタル・アナログ(D-A)変換器を使って調整することも可能である。利得は−40〜36dB。SN比は96dB、THD+Nは0.25%以下である(いずれも負荷が8Ω、出力電力が3Wのとき)。価格は1000個購入時の単価が3.49米ドル。

携帯型機器がD級アンプを採用

 携帯型機器の開発では常に、消費電力の低減が課題になる。電池寿命を延ばすことが強く求められているからだ。必然的に、従来のAB級アンプをD級アンプで置き換えようという動きが活発化する。この結果、数ワット程度と比較的小さい出力電力を必要とする携帯型機器では、最新のフィルター・レスD級アンプICの採用が進んでいる。D級アンプが従来使われていたAB級アンプに取って代わり始めたのだ。
 携帯電話機やスマートホン、PDAなどへの組み込み向けに開発されたD級アンプICの例に、テキサス・インスツルメンツ社の「TPA2010D1」がある。出力電力が2.5Wのモノラル・アンプである。電源電圧範囲は2.5〜5.5V。無信号入力時の消費電流は、電源電圧が2.5Vのときに最大3.2mA、5.5Vのときに4.9mA(下記の「効率的なゼロを作り出せ」を参照)。待機状態に設定することで消費電流を最大2μAに抑える機能を用意した。価格は1000個購入時の単価が55米セント。
 実装面積を削減するため、パッケージに1.45mm角の9端子WCSP*を採用した。BGA*パッケージに封止した同社従来品に比べて、実装面積は1/3程度に抑えられた。必要な外付け部品は3個と少ない。すなわち、差動入力インターフェースに取り付ける抵抗が2個と、電源端子に接続するバイパス・コンデンサーが1個だけである。この3個の部品とD級アンプICからなるアンプ回路の実装面積は7.5mm2程度で済むという。
 アンプの利得は差動インターフェースに取り付ける入力抵抗の定数によって設定でき、300kΩを入力抵抗で割った値になる。差動インターフェースにはシングル・エンドの音源を交流結合で接続することや、2組の差動音源を加算して入力したり、シングル・エンド音源に1組の差動音源を加算入力したりすることも可能である。
 テキサス・インスツルメンツ社も、出力電力の値をTHD+Nが10%のときの値で仕様化している。この点はほかのD級アンプICベンダーと同様である。ただし他社と異なる点がある。すなわち他社が8Ω負荷で出力電力を規定しているのに対し、テキサス・インスツルメンツ社の場合は4Ω負荷の場合で仕様化している。ただしデータ・シートには負荷が8ΩでTHD+Nが10%のとき、および8Ωで1%のとき、4Ωで1%のときの出力電力も記載してある。
 TPA2010D1のTHD+Nは0.2%と小さい。この特性を達成できるのは8Ωの負荷に対して1W(電源電圧は5V)、0.5W(電源電圧は3.6V)、200mW(電源電圧は2.5V)のときである。TPA2010D1では、D級アンプICからの出力電流ではなく、電源電圧が負荷に対する電力供給能力を制限する。前出のMAX9713/MAX9714とは対照的である。
 電源電圧によって負荷に供給できる電力が制限される現象は、安定動作領域内で動作するD級アンプとAB級アンプのどちらでも起こり得る。D級アンプICの設計者が、負荷であるスピーカーのインピーダンスとD級アンプICの電源電圧のどちらに自由度を与えたかに依存する。D級アンプICの出力インピーダンスを考慮しなければ、一定の電源電圧でアンプが負荷に供給できる最大電力は、スピーカーのインピーダンスに反比例するからだ。
 ただし実際には、負荷が小さければ際限なく大きな電力を供給できるわけではない。例えばTPA2010D1では4Ωと8Ωの負荷に対して電気的仕様を定めている。負荷のインピーダンスを4Ω以下に下げると、アンプの出力段に集積したパワーMOS FETにおける消費電力が増加してしまう。パワーMOS FETのオン抵抗は、電源電圧が増加するのに従って400m〜700mΩまで増える。これに伴ってアンプの変換効率が低下して、最終的にはアンプの内部電力消費量の上限値に達してしまう可能性がある。
 そこで例えば、TPA2010D1の実装面積が小さいという特徴のみを活用したい場合、つまり出力電力が比較的小さくてもよい場合には、TPA2010D1に与える電源電圧を低い値に設定して出力電力を抑え、電力変換効率を改善することができる。

消費電力でAB級に迫る

 出力フィルターを必要としない、いわゆるフィルター・レスD級アンプICの登場によって、D級アンプ回路の消費電力はAB級アンプに迫るほどに低減された。米ナショナル セミコンダクター社*の1.3W出力D級アンプIC「LM4667」はその例である。待機状態に設定した場合の消費電流は標準0.01μAと小さい。動作状態において無信号入力時の消費電流は3.5mAである。
 ナショナル セミコンダクター社は従来からAB級アンプICの有力ベンダーであった。数年前にオーディオ・パワー・アンプの製品ライン「Boomer」シリーズを拡充し、D級アンプIC製品を発売した。同社によるとD級アンプICへの参入によってAB級アンプICの供給を終了させることはないという。AB級アンプとD級アンプがそれぞれ得意とするアプリケーションに向けた製品を投入していくとした。
 LM4667も携帯電話機やPDAに向けた製品である。そのため9端子のマイクロSMDパッケージを採用した。大きさは1.5mm×1.5mm、高さは端子を含めて0.6mmである。利得は6dBあるいは12dBに設定できる。利得と待機状態は外部からデジタル値で設定する。設定用に2個の端子を割り当てた。待機状態からの起動時間は標準5ms。起動時にクリック雑音は発生しない。ΔΣ(デルタ・シグマ)変調器を採用することで、雑音とひずみの特性を従来のPWM方式に比べて改善できたという。THD+Nの値は電源電圧が3V、出力電力が100mWのときに0.35%。価格は48米セントである。

高出力のD級アンプ

 携帯型機器に使われるのは出力電力が比較的低いアンプである。この対極に位置するのが、家庭用ステレオ機器やホーム・シアター・システムなどへの組み込みに向けた高出力アンプである。こうしたアンプでは数10Wをはるかに超える出力電力が必要である。そのため、コントローラーICと、パワー出力段を作り込んだ別のICの2チップで構成することが多い。ほとんどの半導体ベンダーは、コントローラーICを標準のCMOSプロセスで製造し、パワーMOS FETを集積したパワー出力段ICは高耐圧プロセスで製造している。
 英ウォルフソン・マイクロエレクトロニクス社*はPWMコントローラーIC「WM8608」を供給中である。パッケージは7mm×7mmの48端子TQFP。4チャンネルのステレオPCM入力信号を通常のステレオ信号のほか5.1チャンネル、6.1チャンネル、7.1チャンネルのサラウンド信号として符号化する機能を搭載している。6チャンネルのPWM出力と、サブウーハー用に帯域幅を狭めたPWM出力を1チャンネル用意した。5.1チャンネルと6.1チャンネル、7.1チャンネルのサラウンド音源を5.1チャンネルまたは6.1チャンネルのスピーカー群に出力可能である。SN比は標準96dB、THD+Nは標準0.1%(いずれも出力電力が30Wのとき)。価格は4.17米ドル(1万個購入時の単価)である。
 WM8608の出力端子はCMOSのほか、LVDSインターフェースにも対応可能である。EMIの抑制効果が期待できよう。プリント基板レイアウトの自由度も高められる。パワー出力段ICはテキサス・インスツルメンツ社あるいは伊仏合弁のSTマイクロエレクトロニクス社*の製品を使う。これらのパワー出力段ICの代わりに、英ジーテックス・セミコンダクター社*米ビシェイ・インターテクノロジー社*米フェアチャイルドセミコンダクター社*の駆動ICとパワーMOS FETを組み合わせてもよい。
 WM8608はさまざまなタイプのスピーカーと組み合わせることを想定し、4バンドのイコライザーと高音域の補償機能を用意した。ボリュームは出力チャンネルごとに調整できる。調整範囲は−103.5〜24dBで、0.5dB刻み。また、各チャンネルのピークを動的に圧縮する機能を搭載した。利得とイコライザーの設定が組み合わせよって0dBを超え、デジタル・クリッピング雑音が発生するのを防止する役割を果たす。ワード長が16ビットあるいは20ビット、24ビット、32ビットのいずれかで、サンプル・レートが32k〜192kサンプル/秒の入力信号に対応した。
 ジーテックス・セミコンダクター社は、ステレオPWMコントローラーIC「ZXCW8100S28」でD級アンプIC市場に参入した。ジーテックス社あるいは他ベンダーから入手した駆動ICとパワーMOS FETを組み合わせることで、ステレオD級アンプとして機能する。筆者は評価ボード「ZXCW502CEVAL」を用いて実際に試聴してみた。透明感があり、雑音の小さいアンプという印象である。負荷が4Ωで出力電力が1WのときのSN比は118dB、THD+Nは0.021%である。負荷が8Ωのとき、THD+Nの値は出力電力が10Wに達するまで0.1%以下で、20Wを超えると1.2%程度と若干大きくなる。
 ZXCW8100S28はサンプル・レートが32k〜192kサンプル/秒、ワード長が16/24/32ビットのオーディオ信号入力に対応する。32ビット信号処理回路を搭載した。この回路でボリュームや低音域信号、高音域信号を調整したり、クリッピング雑音の発生を抑制したりする。さらにスイッチング素子の特性補償も担う。ジーテックス・セミコンダクター社独自のデジタル・フィルター・アルゴリズム「ZTA」を搭載した。このため同社によると、過渡特性が向上するとともに、ステレオ・イメージを改善できるという。
 テキサス・インスツルメンツ社とナショナル セミコンダクター社は、PWMコントローラーICとパワー出力段ICの両方を販売している。ただし両社の製品はそれぞれ異なったアプリケーションに向けて開発されたものだ。従って仕様や価格も異なっている。テキサス・インスツルメンツ社のPWMコントローラーIC「TAS5508」は、32k〜192kサンプル/秒の標準的なサンプル・レートに対応した8チャンネルのPCM入力を備える。パッケージは64端子のTQFPだ。32ビットのデータ・パスと48ビットのオーディオ・プロセッサー、76ビットの累算器などからなるDSPコアを搭載している。
 利得は−100〜36dBまで、0.25dB刻みで設定できる。2ポールの高音/低音調整機能と6バンドのイコライザー機能を用意した。オーディオ・アンプの設置環境やスピーカー位置の自由度を高められるだろう。1000個購入時の単価は6.30米ドルである。
 テキサス・インスツルメンツ社は、パワー出力段ICとして出力電力が100Wの「TAS5121」などを製品化している。1000個購入時の単価は3.5米ドルだ。なお、出力電力の100Wという数字は、負荷が4ΩでTHD+Nが10%のときのrms値である。負荷が4Ωと同じでも、80W(rms値)出力時のTHD+Nの値は0.2%、1W(rms値)では0.05%と低下する。
 ナショナル セミコンダクター社は170W出力のD級アンプを構成できるPWM方式の駆動IC「LM4651」とパワーMOS FETの「LM4652」を供給している。サブウーハーや車載用ブースター・アンプ、パワー・アンプ内蔵型スピーカーなどに向ける。価格はLM4651が3.25米ドル、LM4652が2.75米ドル(いずれも1000個購入時の単価)である。
 1チャンネルのアナログ入力を備えたD級アンプ・チップ・セットである。LM4651およびLM4652ともに、最近では見かけることが少なくなったスルーホール・パッケージを採用している。LM4651は28端子のMDIP、LM4652がTO-220-15パッケージ封止。170Wの出力電力は、負荷が4ΩでTHDが10%のときの値で規定されている。出力を125Wまで下げると、THDの値は1%になる。このチップ・セットを使えば、高出力アプリケーションに適した170W出力アンプを小型かつ安価に実現できる。

よくある質問

 D級アンプICを手がける半導体ベンダーのアプリケーション・エンジニアに、ICユーザーからよく尋ねられる質問を3つ挙げてもらった。このうち2つは、プリント基板レイアウトに関するものである。つまりD級アンプIC周辺の配線をどのように引き回すべきか、そして外付けの受動部品はどこに配置するべきかである。残りの1つは外付け部品の最適な定数はいくつかという質問である。
 これらの質問に対する答えは、たいていの場合、半導体ベンダーの提供するデータ・シートやアプリケーション・ノートを注意深く読めば見つけ出せる。ただし、実際にアンプ回路を設計する際には、半導体ベンダーの用意したリファレンス・デザインと同じだけの基板面積を確保できない可能性がある。また、寄生効果や電源との結合といった、周辺回路との相互作用の問題が発生する場合もあるだろう。こうした問題への対処方法は設計ごとに異なる。従って半導体ベンダーのリファレンス・デザインをいくら眺めていても解決できない可能性が高い。

ドロップ・イン型のD級アンプ

 オーディオ・アンプ装置の性能がある一定のレベルを超えてしまうと、アンプ自体のセールス・ポイントはもはや性能そのものではなくなる。エンド・ユーザーの使用感を高めるような、機能やフレキシビリティー、ユーザー・インターフェースなどが競合製品との差異化のポイントになるわけだ。
 米D2オーディオ社*は、アンプ装置メーカーの設計者が製品を差異化する作業に集中できるように、ドロップ・イン・モジュール型のD級アンプを販売している(図2)。同社の製品群は共通のアーキテクチャーに基づいたもので、オーディオ性能やチャンネル数などを特定のアプリケーション向けに最適化している。具体的な製品としては、例えば、AVレシーバーおよびホーム・シアター用の「XR125」、複数の居室にオーディオ信号を配信する用途に向けた「XM100」、商用スピーカーと接続する用途に使える「XC100」、アンプ内蔵型スピーカー用の「XS250」がある。
 ドロップ・イン・モジュールのため、アンプ装置の設計者がD級アンプ回路のレイアウトや部品の選定、フィルターの設計などに時間を割く必要がない。オーディオ入力とスピーカー出力、電源、制御用インターフェースを接続するだけでアンプ機能が実現できる。後はアンプ装置の差異化に集中することが可能だ。
 D2オーディオ社のD級アンプ・モジュールはパワー出力段回路をプラグイン・ドーターカードに搭載している。ドーターカードを取り換えれば、簡単に出力電力を変えられる。オーディオ信号の入力インターフェースはAES/EBU規格に準拠したデジタル・オーディオ入力のほか、SPDIF*、I2Sインターフェース。ワード長が16〜24ビットでサンプル・レートが32k〜192kサンプル/秒のオーディオ信号に対応した。
 アンプ・モジュールに入力されたオーディオ信号はサンプル・レート変換器と適応型PCM/PWM変換器、レベル・シフター、ゲート駆動回路、出力パワーMOS FET、フィルターを経由してスピーカーに出力される。デジタル信号処理を担うのはDSPコアと駆動信号補償回路などを集積した独自のASIC*である。
 例えば、XR125は出力が7チャンネル、出力電力が125W(負荷が8Ωのとき)である。ひずみは1W程度の出力のときに0.05%未満。SN比は105dBを超える。また周波数応答特性は20Hz〜20kHzの範囲でリップルが±0.5dB以内と平坦である。外部から調整可能なトーン・コントロール、ボリューム調整、5バンドのイコライザーなどの機能を搭載した。アンプ・モジュールは標準の2線シリアル・インターフェースとソフトウエア制御API*を介して外部から制御可能。価格は150米ドル(1万個購入時の単価)である。
EMIを根絶せよ

 「従来のAB級アンプをD級アンプで置き換えることで変換効率を高めたい」。機器設計者のこの要求に応えるため、半導体ベンダーはD級アンプICの開発を進めている。プリント基板からAB級アンプICを取り除いてD級アンプICを載せれば置き換えが完了する、といったD級アンプICが手に入れば便利である。実際、第3世代のD級アンプICは、第2世代品よりもこのコンセプトに近づいた。
 ところが、D級アンプとAB級アンプには無視できない大きな違いが存在する。その1つが放射電磁雑音(EMI)である。リニア・アンプはEMIを生成しない。このためオーディオ用リニア・アンプの設計者は、電源条件以外の問題を見落としがちである。一方で、D級アンプの周波数スペクトラムは可聴周波数の範囲を超えて広がっている。D級アンプの変調器は通常、数100kHzで動作する。出力信号の立ち上がり/降下時間はナノ秒単位と極めて短い。周波数スペクトラムはメガヘルツ(MHz)の帯域まで広がってしまう。
 D級アンプICで発生したEMIは、確実にシステム設計上の問題になる。このため、機器全体のEMI対策としてD級アンプICのEMIを考慮する必要がある。採用を検討するD級アンプICのデータ・シートを入手して、出力信号の周波数スペクトラムを広帯域にわたって確認する作業が不可欠であろう。
 D級アンプICによっては、変調周波数を選択できる機能を備えた品種がある。この機能を利用すれば、D級アンプICから放射される高調波を、機器の特性に影響する周波数帯域の外側に追いやることが可能だ。また、スペクトラム拡散変調機能を搭載した製品もある。放射電磁雑音のエネルギーを比較的広い帯域幅に拡散させることで、EMIのピーク値を下げられる。
 半導体ベンダーが用意したリファレンス・デザインは、EMIを最小化するためのプリント基板レイアウトの参考になる。ただし実際には、許容できる放射電磁雑音の大きさは機器ごとに異なる。またD級アンプICを組み込んだ機器がEMI規格に適合していることは機器設計者が保証する必要がある。D級アンプICと外付け部品との配線を短くしたり、接地系の設計に注意したりといった、高周波回路のレイアウト技術が適用できる。
 出力フィルターが不要な(フィルター・レス)D級アンプICでは、スピーカーとのケーブル長が制限されている品種がある。この場合には、D級アンプICを負荷であるスピーカーになるべく近付けて配置しなければならない。1チャンネル(モノラル)出力のD級アンプICが登場したことで、アンプと負荷を近接させるためのレイアウト作業は比較的容易になった。この結果、D級アンプICを使って従来のAB級アンプICより小さく、低コストで、変換効率の高いオーディオ・アンプが実現できるようになった。
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効率的なゼロを作り出せ

 D級アンプICのデータ・シートに記載されている変換効率の仕様は、ごく限られた動作条件における値である。この値から実際のアンプの動作のすべてを読み取ることは不可能といえる。さらに、機器を設計する上で最も重要な条件における数値が記載されているとは限らない。単に計算が簡単だったり、特性がよさそうに見えたりする数字を選んで記載している場合もある。
 一般にアンプの変換効率は、最大出力電力を負荷に供給している状態で、電源からアンプに供給された電力のうち、負荷に到達する電力の割合で定義する。ところが実際のオーディオ信号を調べてみると、音楽でも音声でも、波高率(クレスト・ファクター)はかなり高い。従って、アンプの動作時間のうち、最大電力を出力している時間よりも、出力電力がゼロの付近に落ち込んでいる時間の方が長いと分かる。
 このことから、例えば携帯型機器の電池寿命を考えると、最大出力電力で規定された効率が高いからといって、必ずしも電池寿命が長くなるわけではないことが理解できよう。データ・シートに記載された「効率」の値だけでは、実際の機器に組み込んだ際の効率は読み取れない。特に、異なる変調方式を採用したD級アンプICの効率を比較するときには注意が必要である。半導体ベンダーごとに変調方式が異なる場合が多いからだ。
 出力電力がゼロ付近のときの変換効率を高めるには、効率的な「ゼロ」を作り出す必要がある。最も単純なD級アンプでは、簡単なパルス幅変調器と出力ブリッジ回路を組み合わせる(図A(a))。ゼロ信号では、スピーカーから出力される音声信号はない。ところがこのとき、出力フィルターに流れる電流はゼロにならない。このため、電力損失(I2R)が生じる。
 アポジー・テクノロジー社が開発した変調方式である3値パルス幅変調は、出力パワーMOS FETを不連続的に動作させることで、ゼロ信号付近の消費電力を低減する技術である(図A(b))。この変調技術はSTマイクロエレクトロニクス社のD級アンプICにも採用されている。アポジー・テクノロジー社によると、この変調方式は単純な2値方式に比べて、キャリアー信号の大きさを16dB低減できるという。
 ただしこの変調技術を利用するためには、正負2つの電源が必要である。携帯型機器では正負の電源を用意することが難しい場合があるので注意が必要だ。
 フィルター・レス(出力フィルターが不要な)D級アンプに向けた変調方式として、テキサス・インスツルメンツ社が採用しているのは、ゼロ信号のときにアンプの出力をコモン(同相)・モードで動作させる技術である(図A(c))。こうすると理論的には、ゼロ信号のときに電力を消費しない。信号電圧がゼロから離れるにつれて、2つの出力パルスの幅に差が生じ、スピーカー端子に差動信号を印加する仕組みである。
 複数のD級アンプICを比較評価するときには、最大電力出力時の効率だけでなく、アイドル電流も調べる必要がある。このとき、電源電圧と入力信号、負荷が同等の条件で各D級アンプICの仕様値を比較することが重要だ。例えば、負荷を接続しない状態でのアイドル電流を仕様値としているアンプと、負荷を接続した状態で無信号入力における電流を仕様値としているアンプを比較することはできない。
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用語解説 / 会社情報
*1)参考文献
Stanley, Gerald, "Audio power amplifiers : a brief history," presented to the Chicago Section, Audio Engineering Society, April 10, 2002.
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【デンマークのタクト・オーディオ社】
TacT Audio ApS
ハイ・エンドのオーディオ機器を手がける企業。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.tactlabs.com/
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【デンマークのトッカータ・テクノロジー社】
Toccata Technology ApS
デジタル・オーディオ・アンプ技術の開発企業。2000年6月に米テキサス・インスツルメンツ社に買収された。
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*2)参考文献
Israelsohn, Joshua, "Listening to Class D," EDN, Aug 30, 2001, p.65.
http://www.reed-electronics.com/ednmag/article/CA152804?pubdate=8%2F30%2F2001
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【米トライパス・テクノロジー社】
Tripath Technology, Inc.
D級アンプICのほか、DSLチップ・セットや無線通信用LSIを手がける半導体ベンダー。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.tripath.com/
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【PWM】
pulse width modulation
パルス幅変調
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【米テキサス・インスツルメンツ社】
Texas Instruments, Inc.
ホームページはhttp://www.ti.com/
日本法人は日本テキサス・インスツルメンツ。同社ホームページはhttp://www.tij.co.jp/
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【米シーラス・ロジック社】
Cirrus Logic, Inc.
同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.cirrus.com/
国内連絡先はシーラス・ロジック。ホームページはhttp://www.cirrus.com/jp/
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【米アポジー・テクノロジー社】
Apogee Technology, Inc.
独自のデジタル・アンプ技術「DDX(Direct Digital Amplification)」を採用したD級アンプICを開発、販売する企業。同社ホームページは下記の通り。
http://www.apogeeddx.com/
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【PCM】
pulse code modulation
パルス符号変調
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【EMI】
electromagnetic interference
電磁波妨害
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【米マキシム・インテグレーテッド・プロダクツ社】
Maxim Integrated Products, Inc.
米国のアナログ半導体メーカー。ホームページは、http://www.maxim-ic.com/。日本法人はマキシム・ジャパン。日本語ホームページはhttp://www.maxim-ic.com/ja/
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【FCC】
Federal Communications Commission
米連邦通信委員会
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【WCSP】
wafer chip scale package
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【BGA】
ball grid array
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【米ナショナル セミコンダクター社】
National Semiconductor Corp.
米国の大手半導体メーカー。ホームページはhttp://www.national.com/。日本法人はナショナル セミコンダクター ジャパン。ホームページはhttp://www.national.com/JPN/
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【英ウォルフソン・マイクロエレクトロニクス社】
Wolfson Microelectronics plc
アナログ・デジタル混在ICメーカー。ホームページはhttp://www.wolfsonmicro.com/
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【伊仏合弁のSTマイクロエレクトロニクス社】
STMicroelectronics
同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.st.com/
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【英ジーテックス・セミコンダクター社】
Zetex Semiconductor
英国のアナログ半導体/個別半導体メーカー。ホームページはhttp://www.zetex.com/
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【米ビシェイ・インターテクノロジー社】
Vishay Intertechnology, Inc.
パワー半導体や受動部品などの製造/販売を行う米国企業。ホームページはhttp://www.vishay.com/
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【米フェアチャイルドセミコンダクター社】
Fairchild Semiconductor International, Inc.
パワーICなどを手がける米国の半導体メーカー。ホームページはhttp://www.fairchildsemi.com/
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【米D2オーディオ社】
D2Audio Corp.
D級アンプ・モジュールを開発、販売する米国企業。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.d2audio.com/
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【SPDIF】
Sony Philips Digital Interface
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【ASIC】
application specific integrated circuit
特定用途向けIC。
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【API】
application programming interface
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