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2004年7月号
雑音の基礎(前編)

電子回路の高速化とともに電源電圧が低下し、信号振幅が小さくなってきた。このため、回路部品が発生する雑音が無視できなくなりつつある。本稿では、受動部品や半導体素子などが発生する雑音を2回に分けて解説する。前編である今回は、ショット雑音、熱雑音(ジョンソン雑音)、1/f雑音、1/f2雑音について述べる。

ジョシュア・イズラエルソン
Joshua Israelsohn
 雑音は多くの信号処理回路で、性能の基本的な限界を表す。このため電子回路設計の基本的な制約条件となる。計測および検査、医療用画像処理、高速データ通信といったさまざまな分野で取り扱われるデータの量は、かつてないほどの勢いで増加している。同時に半導体製造技術の進歩は、データ処理速度と集積密度を向上させてきた。一方で、半導体デバイスの電源電圧が低下し、信号振幅が小さくなりつつある。その結果、アナログ・フロント・エンドの雑音を管理することが、設計者にとって大きな負担となってきた。
 雑音について調べると、外部から飛び込んでくる不要な信号と、回路の内部で発生する不要な信号の2種類の雑音があることに気付くだろう。両方の不要な信号が「雑音」という名称でひとくくりにされている。しかし設計者が採用すべき対策は、両者で大きく異なる。
 本稿では、回路の内部で生じる雑音に注目する。もちろん、低雑音システムの設計では外部要因による雑音もきちんと考慮する必要がある(下記の「雑音の外部要因」を参照)。

雑音の周波数特性

 雑音の周波数スペクトラムは3種類に分類される。@周波数に依存しないフラットな雑音、A周波数に反比例する1/f雑音、B周波数の2乗に反比例する1/f2雑音である。
 ここで、pn(f)は雑音源の電力スペクトル密度であり、周波数fを中心とする1Hzの帯域内の平均電力を示す。cは一定の値を表す*1)
 雑音のスペクトラムと混同しないように、電力スペクトル密度はW(ワット)/Hz(ヘルツ)を単位とする。従って電力スペクトル密度を一定の周波数帯域幅で積分することによって帯域内の雑音電力(rms値)を計算できる。
 ただし、ほとんどの電子回路は信号を電流あるいは電圧として処理する。例えばバイポーラ・トランジスタはトランスコンダクタンス素子であり、入力信号である電圧を出力信号である電流に変換する。そこで信号と雑音の比較を簡単にするため、通常は周波数(Hz)の平方根当たりの電圧あるいは電流で表し、これを雑音スペクトル密度とする。
 先に述べた3種類の雑音周波数特性の中で最も多くみられるのは、フラットな雑音である。白色雑音とも呼ぶ。雑音電力が全周波数帯域に均一に分布しており、白色光が可視光の周波数帯域全体に均等に分布しているのと似ているからである。白色雑音は発生源によってショット雑音と熱雑音に分かれる。熱雑音は、発見者であるジョン・バートランド・ジョンソン氏にちなんでジョンソン雑音とも呼ばれる。ジョンソン氏は1928年にこの雑音源を発見した。ショット雑音の周波数特性と熱雑音の周波数特性は区別できない。ただし、両者の挙動は回路の動作条件によって異なる。

ショット雑音はpn接合で発生


 ショット雑音は、ポテンシャル障壁を通る電子流が離散的かつ量子的な性質を備えていることに由来する。ダイオードとバイポーラ・トランジスタで最も多く発生する。pn接合を横切る電流の定常的な平均速度は直流電流量で決まるものの、個々のキャリアはpn接合のポテンシャル障壁を超えるのに十分なエネルギーを得たときだけ、ランダムな事象としてpn接合を横切る*2)。極端に言えば電流を個々の電子のレベルの振る舞いとした場合、電流は数多くの離散的な事象で構成されることになる。
 ショット雑音による電流は次式で与えられる。単位はA(アンペア)で、rms値となる。
 ここでqは電子の電荷(1.6×10−19C)、IDは順方向接合電流、Δfは測定帯域幅である(図1)。式Dから、ショット雑音は接合電流の平方根に比例し、温度に依存しないことが分かる。この2つの事実は重要である。バイアス電流(ID)を増やすとショット雑音電流(In)は増大する。しかしバイアス電流の増加に比べ、ショット雑音電流の増え方はずっと緩やかである。例えば小信号回路におけるバイポーラ・トランジスタのトランスコンダクタンスgmはコレクタ電流に比例する。従ってバイアス電流の量をきちんと確保しておけば、回路のショット雑音を低く抑えておける。
 ここで、ICはコレクタ電流、kはボルツマン定数(1.38×10−23J/K)、Tは絶対温度(K)である。
 ショット雑音は雑音電圧として表すこともできる。ショット雑音電流とpn接合の動的なインピーダンスの積になる。この場合、ショット雑音電圧は温度依存性を持つようにみえる。pn接合の動的なインピーダンス、すなわちバイポーラ・トランジスタにおいてトランスコンダクタンスgmの逆数が、温度に比例するからだ。
 ショット雑音は順方向接合電流だけではなく、逆方向接合電流によっても発生する。しかしpn接合を逆方向に流れるリーク電流の大きさは、順方向に比べると何けたも小さい。従って実際の電子回路では逆方向接合電流のショット雑音は、ほかのさまざまな雑音によって打ち消されてしまう。

キャリアの不規則な動きが熱雑音に

 次に、ジョンソン雑音(熱雑音)に注目しよう。熱雑音は、キャリアのランダムな運動に由来する。熱雑音の電力(rms値)は次式で与えられる。
 ここで、Δfは測定周波数帯域幅(Hz)である。キャリアの運動は熱で励起される。熱雑音は時間ドメインで振幅がガウス型に分布する。周波数スペクトラムは均一である。熱雑音の周波数スペクトラムは広い。雑音源はどこにでも存在する。このため多くの電子回路で、ほかの雑音よりも支配的になる。
 熱雑音は、一定量のキャリアが伝導帯に存在すれば発生する。従って受動素子でも能動素子でも熱雑音を観測できる。抵抗素子の熱雑音電圧Enは、抵抗と温度、測定周波数帯域幅の関数になる。単位はV(ボルト)で、rms値である。
 ここでRは抵抗(Ω)である(図2)。この式を抵抗Rで割ると、熱雑音電流Inが得られる。Inはノートンの等価雑音電流とも呼ぶ。単位はA(アンペア)で、rms値である。
 電圧あるいは電流のrms値を1Hzの帯域幅で定義すると、スペクトル密度が得られる。電圧スペクトル密度(en)の単位はV(ボルト)をHz(ヘルツ)の平方根で割ったもの、電流スペクトル密度(in)の単位はA(アンペア)をHz(ヘルツ)の平方根で割ったものである。50Ωの抵抗器の雑音電圧スペクトル密度は約0.9nV/√Hz、1kΩの抵抗器の雑音電圧スペクトル密度は約4nV/√Hzになる。こういった値は覚えておくと便利だろう。
 熱雑音の電圧スペクトル密度は抵抗の平方根に比例するので、回路のインピーダンスが分かれば雑音電圧スペクトル密度を簡単に求められる。またこれらの値が1Hzの周波数帯域幅に対するrms値であることから、周波数帯域幅の平方根を乗じることによって信号の周波数帯域幅における値に換算できる。表1に、ケーブルの特性インピーダンスと電圧雑音スペクトル密度を用途別に示した。
 雑音源のrms値を素早く計算できると、回路の性能限界を決める支配的な雑音源を特定するのに役立つ。いくつかの雑音源が同じような大きさの振幅を示す場合は、それらの合計を求める必要がある(下記の「ランダム雑音を合計する」を参照)。
 ショット雑音のように、雑音の絶対値が増えても回路の信号振幅がさらに大きくなれば、回路の性能を改善できる。同様に熱雑音の場合も例えばgm-R段の抵抗Rを増やせば、回路の性能は高まる。熱雑音は抵抗Rの平方根に比例して増えるのに対し、gm-R段の利得は抵抗Rに比例して増えるからだ。
 抵抗器による熱雑音を除去しようとして、スイッチド・キャパシター回路を採用したとしよう。しかしこの回路にも、熱雑音の項が存在することに気付く。キャパシター自体は雑音を発生しないものの、回路のどこかで発生した雑音と以下の式のように関連する。
 単位はV(ボルト)のrms値。この式IでCはキャパシターの静電容量(F)である。例えばキャリアの熱運動によってキャパシターの電荷量には揺らぎが生じる。これは抵抗器における熱雑音と類似の現象である。スイッチド・キャパシター回路ではこのkT/Cの項があるので、雑音と信号帯域幅、消費電力、素子の実装密度の間でトレード・オフが生じてしまう*3)

周波数に反比例する雑音

 続いてフリッカー雑音について説明しよう。この雑音はあらゆる能動素子で生じ、直流バイアス電流に依存する。
 ここでmは素子に依存した因子、aは0.5〜2の定数、bは0.8〜1.2の定数である*4)
 この雑音は周波数の逆数に依存する項があるので、1/f雑音と呼ばれる。ジョンソンが真空管の1/f雑音を発見したのは1925年のことである*5)。雑音が発生する機構は異なるものの、1/f雑音は半導体や金属薄膜、電解質溶液などで生じる。さらに機械系や生物系でも、わずかだが1/f雑音を生じるものがある。
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 1/f雑音が発生する仕組みの詳細は、完全には解明されていない。ただし現象を説明するモデルはいくつか存在している。半導体素子では結晶構造中の不純物や欠陥が影響しているとされる。MOS構造では、キャリアを周期的に捕獲して放出する酸化膜の表面準位が関係しているとみられる。半導体産業は製造技術の進歩によって、このフリッカー雑音を低減し続けてきた。
 1/f雑音は、ある周波数以下では熱雑音よりも大きくなる。この周波数を1/fコーナー周波数と呼ぶ。1/fコーナー周波数は動作条件、特に温度とバイアス電流に依存する。また製造技術にも影響を受ける。代表的な動作条件だと、高精度バイポーラ・プロセスによる素子の1/fコーナー周波数は1〜10Hzである。高周波バイポーラ・プロセスによる素子では、1/fコーナー周波数は1k〜10kHzであることが少なくない。MOS FETの1/fコーナー周波数は、FETのチャンネル長が短くなると高くなる。代表的な値は100k〜1MHzである。ガリウム・ヒ素(GaAs)FETやインジウム・ガリウム・リン(InGaP)・ヘテロ接合バイポーラ・トランジスタなどのV-X族化合物半導体素子は極めて広い周波数特性を備えており、1/fコーナー周波数は100MHzとかなり高い。
 MOS FETでは酸化膜によるキャリアの捕獲に加え、キャリアの生成と再結合による雑音が発生する。これはバルク半導体中のキャリア捕獲現象であり、伝導チャンネル中のキャリア数に揺らぎを生じる。すなわち、チャンネル抵抗の揺らぎとなって現れる。このメカニズムによるスペクトラムはコーシー分布、あるいはローレンツ分布と呼ばれる形状を示す。
 バースト雑音(ポップコーン雑音とも呼ぶ)が発生すると、ポテンシャルは2つの状態の間を往復する。バースト雑音のrms値は電流に比例し、周波数に対してはフラットである。そして特定の周波数(コーナー周波数)を超えると、周波数の2乗に反比例して(1/f2に比例して)減少する。バースト雑音の原因は同じ素子内でもいくつかあり、それぞれが異なるコーナー周波数を示す。フリッカー雑音にバースト雑音が重なると、フリッカー雑音の周波数特性である単調なスロープにバンプを生じる。フリッカー雑音もバースト雑音もガウス型の振幅分布にはならない。少数の測定から外挿しても、何らかの傾向を高い信頼性で求めることは困難である。
――次回に続く。
雑音の外部要因

 低雑音設計とは、雑音の最も低いアンプICやA-D/D-A変換器ICを探すことではない。目標性能や用途ごとの仕様、電気的環境と熱的環境を十分に理解し、回路を高いレベルで抽象化することから始まる。
 設計者が設計目標と動作条件をそれぞれ区別して理解する必要があるのと同様に、低雑音設計を実現するには、素子内部で発生する雑音とそのほかの不要な信号成分(外部要因による雑音)を区別する必要がある。例えば信号のひずみと信号の干渉を識別しなければならない。
 雑音はさまざまな原因で発生するものの、コヒーレントな信号ではない。雑音の周波数帯域幅は信号の帯域幅をはるかに超える。ドリフトのような直流に近い周波数から、信号帯域よりもはるかに高い周波数にまで分布する。
 逆に、不要な信号成分はコヒーレントであり、干渉や反射といったメカニズムに由来して発生する。周波数スペクトラムの形状は不要な信号の原因を知る手掛かりとなる。難しいのは、不要な信号成分だけを分離することである。それは、合唱から1名の声だけを取り出す作業に似ている。
 設計工程の初期では、製品の動作環境を調べる。そして近くにある信号干渉源の種類と周波数特性、信号強度、結合経路を明確にする。信号干渉源はさまざまである。高周波の発生源、誘導による電力結合、熱源によるドリフトなどが存在する。
 対策としては単純で普遍的な技術を使い、いかにして結合の度合いを減らすかが重要である。シールドや平衡外部信号線を使う、良好な接地を確保するなどの手法がある。
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ランダム雑音を合計する

 数多くの雑音源によるrms値を足し合わせることで、回路の雑音特性を把握できる。各雑音源に相関関係がないと仮定すると、それらの合計は次式で与えられる。
 rms値の合計ではしばしば、1つの項が支配的になる。このため、信号源のインピーダンスによって雑音の評価方法が決まることが少なくない。そこで回路の雑音源のほとんどが抵抗器である場合、非抵抗性の雑音を等価雑音抵抗で表現することによって比較を素早く実行できるようになる。例えば入力雑音電圧スペクトル密度が4nV/√Hzのアンプは、約1kΩの抵抗器と雑音的には等価である。
 50Ωの信号源を備えた回路では簡単な検討で、アンプの雑音が信号源のインピーダンスによる雑音を支配すると判断できる。実際にこの例では、ほかの雑音源を無視すると、全雑音スペクトル密度はアンプの値よりも0.1nV/√Hzだけしか大きくならない。
 雑音抵抗の合成は加算によって直接実行できる。まず、

としよう。このとき全体の雑音は次式で与えられる。
 先に述べた例を使うと、アンプの等価入力雑音抵抗は1kΩ、信号源のインピーダンスは50Ωであるから、次の結果を得る。
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用語解説 / 会社情報
*1)参考文献
Liu, Shih-Chii, Jorg Kramer, Giacomo Indiveri, Tobias Delbruck, and Rodney Douglas, Analog VLSI: Circuits and Principles, 2002, Bradford Books, MIT Press, p.314.
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*2)参考文献
Gray, Paul R, and Robert G Meyer, Analysis and Design of Analog Integrated Circuits, Third Edition, 1993, John Wiley and Sons, p.716.
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*3)参考文献
ジョシュア・イズラエルソン、「プログラマブル・アナログLSI、その使い勝手を検証する」、EDN Japan 2003年10月号、no.32、pp.38-53.
http://www.ednjapan.com/content/issue/2003/10/cover/cover.html
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*4)参考文献
Lundberg, Kent H, "Noise sources in bulk CMOS," http://web.mit.edu/klund/www/CMOSnoise.pdf.
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*5)参考文献
Johnson, John B, "The Schottky effect in low frequency circuits," Physical Review, July 1925, p.71.
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