リーク電流の低減に挑む
プロセッサーLSIの高速化を支えるのはトランジスタの進化である。現在もトランジスタのスイッチング速度は向上し続け、それに伴って物理寸法は縮小し続けている。
ところが、高速化と小型化が進むにつれて、トランジスタを完全にオフすることが難しくなってきた。原因はリーク電流である。トランジスタのリーク電流は、ゲート絶縁膜が薄くなるに従って指数関数的に増加する。ゲート絶縁膜の絶縁能力が低下し、電流がゲート絶縁膜を通り抜けてしまうからである。こうなるとトランジスタは、理想的な「オン」状態と「オフ」状態を作り出せなくなる。「オン」状態と「半オフ」状態の間をスイッチングすることになってしまう。
プロセッサーLSIに供給する電源電圧を下げれば、消費電力を低減することは可能だ。ただし電源電圧を下げつつ従来と同等の処理性能を維持するためには、トランジスタのしきい値電圧も同時に低下させる必要がある。
半導体プロセスの設計ルールが90nm以下に移行するに従って、リーク電流によって消費されてしまう無駄な電力が、プロセッサーLSIの消費電力に占める割合がかなり大きくなってきた。このため、リーク電流の増加を抑えるための工夫が不可欠になっている。
プロセッサーLSIで消費されるリーク電流を抑える手法の1つは、構造の異なるトランジスタを混載することである。動作速度は高くないがリーク電流が小さいトランジスタと、リーク電流が大きくてもしきい値電圧が低く、動作速度が高いトランジスタの2種類を使い分ける。つまり、高速動作を必要としない回路ブロックには低速でリーク電流の小さいトランジスタを使い、高速動作が要求される回路ブロックには高速でリーク電流の大きいトランジスタを使用するという手法である。
現在のところ、この手法を実際のプロセッサーLSI設計に取り入れるためには、低速かつ小リーク電流のトランジスタを適用できる回路ブロックを、プロセッサーLSIの設計者が手作業で選別する必要がある。設計者はまず、回路ブロックの静的タイミング解析を実施して、タイミング・マージンの大きい回路ブロックを見つけ出す。次に、その回路ブロックのトランジスタを低速かつ小リーク電流のトランジスタに置き換えるのである。
トランジスタのリーク電流を操る
プロセッサーLSI全体のリーク電流を抑える技術のほか、高速かつ大リーク電流のトランジスタそのもののリーク電流を低減する技術も存在する。まずは、動作していない、つまり待ち受け(アイドル)状態にあるトランジスタを不活性化させる技術である。実際には、トランジスタに供給する電源電圧を遮断する。
この手法では、回路ブロックをオン・オフするときにある程度の電力が消費されてしまう。従って、プロセッサーLSI全体を考えたときに消費電力が低減されなければ、この技術を投入する意味がない。つまり回路ブロックのアイドル時間が短すぎる場合は採用できないことがある。回路ブロックをオン・オフする際に消費される活性化エネルギーと不活性化エネルギーが、不活性化によって低減できる消費電力よりも大きくなってしまう可能性が高いからだ。
このほか、回路ブロックが不活性状態から起動して活性化状態に達するまでの遅延時間も考慮する必要がある。つまり、ある程度の遅延時間を許容できないアプリケーションではこの技術を導入できないことになる。
リーク電流を制御するもう1つの技術は、トランジスタを形成する基板のバイアス電圧を制御することである。トランジスタのボディ領域に印加するバイアス電圧を動的に制御する。この技術を使えば、必要に応じて回路ブロックを高速動作させたり、動作速度を低くすることでリーク電流を低減したりといった制御を実現できる(図B)。
このほか、直列接続した2個のトランジスタを縦に積み重ねる(スタックする)技術も利用可能である。単一のトランジスタに比べてリーク電流を抑えられる。ただし高速動作が要求されない回路ブロックにしか適用できない。動作速度が単一のトランジスタよりも低くなってしまうからである。リーク電流による無駄な消費電力がトランジスタの数よりも大きな制約要件になっている場合に有効である。
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