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microprocessorreport
2004年4月号
英アーム社、ARM11の
製品系列を一気に強化


英アーム社は、最新のマイクロアーキテクチャーである「ARM11」に基づくプロセッサー・コアを開発した。「ARM1176」と「ARM1156」である。2004年第2四半期に出荷を開始する。今回の製品によって、同社はARM11ファミリーのコアを合計で6品種に拡充した。ARM1176はメモリーや周辺回路などに対する保護機能を搭載するほか、電圧と動作周波数を動的に制御する消費電力低減機能を付加できる。ARM1156はコード圧縮用命令セットの機能強化版を搭載した。(本誌)

トム R. ハーフヒル 米マイクロプロセッサー・レポート誌* シニア・エディター
Tom R. Halfhill Microprocessor Report Senior Editor
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 英アーム社*が、最新プロセッサー・コア・ファミリー「ARM11」の品種を一気に増やした。2004年の第2四半期には、「ARM1156」*1)と「ARM1176」という2つのシリーズが新たに出荷される。これらの新製品は、セキュリティーや消費電力管理、コード圧縮、オンチップ・バスといったさまざまな機能を搭載する。
 ARM1156には「ARM1156T2F-S」と「ARM1156T2-S」の2製品、ARM1176には「ARM1176JZF-S」と「ARM1176JZ-S」の2製品がある。ARM11ファミリーの最初のシリーズである「ARM1136」と同様、いずれも32ビットRISCアーキテクチャーの論理合成可能な(シンセサイザブル)コアである。表1にARM11ファミリーのプロセッサー・コアを比較した。

アーム社のコア命名方法を読み解く

 アーム社の製品にずっと注目し続けてきたのであれば、プロセッサー・コアの製品名を解読することによって新しいARM11コアの機能を知ることができるだろう。
 「ARM11」という接頭語は、ARMアーキテクチャーの最新世代であることを示す。ARM11ファミリーのマイクロプロセッサーに共通の特徴は、「ARMv6」と呼ぶ命令セット・アーキテクチャー、8段あるいは9段の命令パイプライン、アウト・オブ・オーダー完了を可能にするロード/ストア・ユニット、内蔵DMAコントローラー、DSP拡張、それから静的分岐予測機構*と動的分岐予測機構である。またこれまで発表されたすべてのARM11コアは、論理合成可能なソフトウエア・コアであることを示す接尾語「-S」を付けている。
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 新しく登場するARM1156とARM1176では、開発の方向性がかなり違う。ARM1156は2品種とも製品名に「T2」を含む。これは、拡張命令セット「Thumb(サム)−2」をサポートしていることを示す*2)。Thumb-2はコード圧縮用命令セット「Thumb-1」の機能強化版である。
 ARM1176はThumb-2をサポートせず、Thumb-1を利用する。Thumb-2は可変長命令セットであるため、デコード処理を追加する必要があるからだ。このため、ARM1156のパイプラインはARM1136およびARM1176より1段長い、9段となっている。
 ARM1156とARM1176はいずれも、ベクトル浮動小数点演算ユニットの内蔵を示す記号「F」を付けた品種を用意した。それがARM1156T2F-SとARM1176JZF-Sである。プロセッサー・コアと一体化したベクトル浮動小数点演算ユニットは、コプロセッサー・インターフェースで接続した補助的な演算ユニットに比べると、ずっと効果的である。
 ARM1176(およびARM1136)は「J」という記号も備えている。これはジャバ(Java)言語プログラム処理用アクセラレーター技術「Jazelle(ジャゼール)」の搭載を意味する。ARM1156は記号「J」を付けておらず、Jazelleをサポートしない。アーム社は、ハード・ディスク装置コントローラーのような制御用途にはジャバ・アクセラレーター技術は不要だと主張する。このことは多くの場合に正しい。しかしジャバ言語は数多くの組み込み機器に急速に普及している。一部の組み込み機器開発者は、ARM1156以外のコアを採用することになるだろう。
 そしてARM1176だけは、新しい記号「Z」が付く。これはメモリーや周辺回路などに対する保護機能「TrustZone(トラストゾーン)」*3)を表す。ARM1176はTrustZoneをサポートする最初のプロセッサー・コアである。そして命令セット・アーキテクチャーは、「ARMv6Z」へと変更されている。

550MHzで動作、0.8mW/MHz

 新しく登場するコアはさらに、製品名の記号とは別に3つの重要な機能を備えた。1つは「AXI(Advanced eXtensible Interface)」と呼ばれるAMBA*バスの新バージョン(バージョン3.0)、2つ目は消費電力管理機能の「IEM(intelligent energy manager)」技術、3つ目はメモリー管理ユニットである。
 ARM1156とARM1176はいずれも、AXIをサポートする。ARM1176は、IEM技術をサポートする。IEM技術は、アーム社と米ナショナル セミコンダクター社が共同開発した、電源電圧と動作周波数を動的に変化させて消費電力を低減する技術である*4)
 そしてメモリー管理ユニットでは、ARM1176とARM1136だけが、通常のメモリー管理機能を搭載している。一方、ARM1156のメモリー管理ユニットはアドレス変換機能がなく、メモリー保護機能を提供するのにとどまる。ARM1156では組み込み機器を狙って論理ゲート数を削減するため、メモリー管理に関するすべての機能は実装しなかった。
 ARM11コアの最大動作周波数は、論理合成可能なコアとしてはかなり高い水準にある。台湾TSMC社が提供する、低誘電率材料を使った最高速版の0.13μm CMOSプロセス「CL013LV OD FSK」と米アーティサン コンポーネンツ社*の高速セル・ライブラリー「HS(high speed)」を使用したとき、ARM1176の動作周波数は550MHzに達するとアーム社は推定した。また低誘電率材料を使わないプロセス「CL013LV OD」を利用した場合は、動作周波数は500MHzになるとしている。さらに低速版のプロセス「CL013LV」でも、450MHzで動作する。TSMC社の一般的な0.13μmプロセス「CL013G」とアーティサン社のセル・ライブラリーを組み合わせた場合でも、動作周波数は300MHzを超える。アーティサン社のSage-Xライブラリーを使った場合は333MHz、Sage-HSライブラリーの場合は370MHzでテスト・チップが動作している。なおARM1176以外のARM11コアでも、同程度の動作周波数を得られるはずだ。これらのコアのマイクロアーキテクチャーは極めて良く似ているからである。
 ARM11ファミリーの消費電力は、論理合成可能なコアとしてはかなり低い水準にある。当初アーム社はARM1136の消費電力を約1.0mW/MHzと推定していた。TSMC社の一般的な0.13μmプロセスを使用した場合である。その後、米シノプシス社の消費電力解析ツール「Power Compiler」を使用して改善を加えた結果、現時点の消費電力は2割減少し、0.8mW/MHzになった。ARM1136の初期テスト・チップのデータに基づく値である。
 ARM1176の消費電力は、シミュレーションによるとARM1136と同じ、もしくはわずかに低い。なおARM1176の推定値は、IEM技術を組み込んでいないときの値である。またARM1156の消費電力は、ARM1136およびARM1176よりも若干少ないはずである。ARM1156はメモリー管理ユニットが軽く、さらにはJazelle拡張を搭載していないからだ。
 また同社は、ARM11ファミリーのEEMBC*ベンチマーク・スコアをまだ公表していない。2004年にはARM1176のスコアが発表される予定である。このためプロセッサーの性能指標となるのはドライストーン(Dhrystone)2.1ベンチマークになる。ARM11プロセッサーの性能は動作周波数が550MHzのときに、649〜743ドライストーンMIPSである。

コンフィギュラブル設計へ

 ARM11ファミリーの最初のプロセッサー・コアが誕生したのは2002年である。それから2年を経ずしてアーム社がこれほど多くの新技術を開発してきたことは、称賛に値する。同社の顧客が新しいプロセッサー・コアとその機能を歓迎すると、マイクロプロセッサー・レポート誌は確信している。
 問題となるのは、ARMコアの急速な品種展開によって妥協が強いられることである。過去にアーム社は、顧客が要求すればそれがどんな仕様であろうと、要求に応える32ビットRISCプロセッサーを提供してきた。しかし現在は違う。同社はすでに数多くのプロセッサー・コアとアーキテクチャー拡張、機能拡張を用意している。さまざまな顧客が要求する最適な組み合わせに応えようとすると、極めて数多くの似たようなコアを開発しなければならない。必然的に一部の顧客は、次善のコアで妥協せざるを得なくなるだろう。
 例えば低い消費電力と効率的なコード圧縮を要求する組み込み応用が存在することは容易に想像できる。しかしIEM技術とThumb-2技術の両方をサポートするプロセッサー・コアを、アーム社は現在のところ開発していない。効率的なコード圧縮技術であるThumb-2を望む顧客はARM1156を選択しなければならない。一方、IEM技術を利用したい顧客はARM1176を採用しなければならない。同様に、セキュリティー機能であるTrustZone拡張を実装したい顧客は、Thumb-2を欠くARM1176を選ばなければならない。そしてジャバ・アクセラレーターを利用するためには、ARM1136あるいはARM1176を選択することになる。ARM1156はジャバをサポートしていないからだ。
 アーム社は、すべての機能を包含する新しいコアを開発することにより、こういったジレンマを解決する可能性はある。すると、そのコアは、「ARM1196IEMT2AXIJZF-S」などという化け物のような名称となりかねない。顧客は正しい製品を発注しているかどうか確認するために、チェックサムを必要としそうだ。
 こんなことをせずに済む、より良い解決方法が存在する。コンフィギュレーション可能な設計である。モジュール形式で拡張可能な基本のARM11コアを用意し、顧客が自分のためにARM11プロセッサーをカフェテリア・スタイルで設計する。米テンシリカ社や米アークインターナショナル社、米ミップス・テクノロジーズ社はすでに、顧客がコンフィギュレーション可能なプロセッサー・コアを提供している*5)
 EEMBCベンチマーク・スコアは、コンフィギュレーション可能なプロセッサーが最高性能を達成する方法であることを証明した。しかし現在のところアーム社は顧客に対し、命令やレジスター、バスのような細部の変更を許可していない。コンフィギュレーションを可能にすること、すなわちモジュール式の論理合成可能なビルディング・ブロックを組み合わせてARMコアを組み立てるコンフィギュレーション・ツールをシステムLSI設計者に提供するだけで、アーム社は製品系列を整理統合し、顧客に大きな設計自由度を与えられるだろう。
 ただし、こういったコンフィギュレーション可能な機能がなくても、ARM1156とARM1176の投入は価値がある。組み込み分野における大手32ビット・プロセッサー・コア・ベンダーとしての地位をより強固にするだろう。 (C2003-2004:In-Stat/MDR)

用語解説 / 会社情報
以下の説明はEDN Japanが作成した。
米マイクロプロセッサー・レポート誌*
リード・エレクトロニクス・グループの米インスタット/MDR社が発行するマイクロプロセッサー技術専門誌。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.mdronline.com/mpr/
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【英アーム社】
ARM Ltd.
プロセッサー・コアの最大手ベンダー。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.arm.com/
国内連絡先はアーム。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.jp.arm.com/
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*1)
ARM1156の内容は本誌2003年2月号、p.65に詳しい。
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【分岐予測】
branch prediction
パイプライン処理において、分岐命令の結果をあらかじめ予測して次の命令を継続して実行すること。コンパイラーがプログラムを解析するときに分岐予測を実行して予測した情報を埋め込む静的分岐予測と、コンパイラーは分岐予測せず、プログラムの実行時に分岐を予測する動的分岐予測がある。
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*2)
Thumb-2の内容は本誌2003年8月号、p.19に既報。
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*3)
TrustZone(トラストゾーン)は、ARMプロセッサー・コアの拡張(エクステンション)として搭載される。プロセッサー・コア内蔵システムLSIで、メモリーや周辺回路などを保護するために利用する。保護された領域には、通常の動作モードではソフトウエアがアクセスできない。セキュア・モードと呼ぶモードに入ってはじめてアクセスできるようになる。ハードウエアで保護機能を用意したため、ソフトウエアで保護機能を実装する場合に比べてプロセッサーへの負荷を軽くできる。
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【AMBA】
Advanced Microcontroller Bus Architecture
英アーム社が開発したオンチップ・バス。
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*4)
本誌2002年4月号、p.63の「アナログとCPUの達人が消費電力の削減に挑む」を参照。
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【米アーティサン コンポーネンツ社】
Artisan Components, Inc.
半導体IPコア・ベンダー。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.artisan.com/
国内連絡先はアーティサン コンポーネンツ ジャパン、電話03-5283-3801。
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【EEMBC】
Embedded Microprocessor Benchmark Consortium, Inc.
組み込み機器用マイクロプロセッサーの性能をテストする業界団体。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.eembc.org/
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*5)
本誌2003年7月号、p.65および同年8月号、p.67の「米ミップス社、ユーザーが仕様を定義可能なコアを開発」を参照。
http://www.ednjapan.com/edn_j/2003/07/micropr0307.html
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