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2004年3月号
テレマティックス、
大市場獲得に向けて発進


テレマティックスとは、現在位置情報と無線通信機能を組み合わせて多種多様なサービスを自動車などに提供するシステムである。カー・ナビゲーションと携帯電話を組み合わせたシステムが多い。渋滞情報に基づく経路探索や事故発生時の自動通報などのサービスがある。ただし、普及に向けた課題は少なくない。標準化、セキュリティー、運転動作への悪影響などがある。

ロバート・クラボッタ
Robert Cravotta
 テレマティックス*に代表される自動車分野の技術革新は現在、自動車の運転そのものとは関係ないことが多い。ハンズフリー・キットやマルチメディア・システムを内蔵し、車内において携帯電話による通話や映画の観賞を可能にする。これらは、「走る、曲がる、止まる」といった自動車本来の運転機能とは異なる種類の機能である。
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 テレマティックスの概念は明確ではないし、一貫しているわけでもない。テレマティックスのアプリケーション開発を支援する業界全体がこうした状態にある。それは、テレマティックス自体の定義と期待されるサービスが常に変化しているからだ。さらにあいまいなのは、カー・ナビゲーション・システムやマルチメディア・システムなどを広義のテレマティックスに含めていることである。このためテレマティックス業界は機器そのものではなく、ハンズフリーやビデオ、オーディオといったアプリケーションを実現する機能に注目することによってテレマティックスを説明しようとしている。
 テレマティックス・システムの根底にあるのは、位置情報サービスと双方向無線通信機能の結合である。システムは自動車あるいは携帯型情報機器に組み込まれたハードウエアとソフトウエアだけでなく、サーバーに相当するインフラストラクチャーを含む。サーバーは自動車あるいは携帯型情報機器からデータを収集したり、逆に送信したりする。
 注意すべきなのは、自動車に追加する形で組み込まれたナビゲーション・システムや携帯電話機などは、そのままではテレマティックス・システムを構成していないことである。ナビゲーション・システムは正確な現在位置情報を得ることができるものの、データは一方向にしか流れない。携帯電話機は双方向通信機器ではあるものの、正確な位置情報を獲得する機能はない。両者を統合して初めて、テレマティックスに不可欠な機能を実現できる。

位置情報と双方向通信の結合

 テレマティックスという考え方は元来、携帯電話システムの発展形として存在していた。しかし期待できる市場規模が極めて大きなことから、テレマティックスの中心は自動車へと移ってしまった。位置情報を利用したセキュリティー、警告、経路探索、それからカスタマイズされた情報提供などのサービスが巨大市場を生み出すと予測されたからである。テレマティックス・システムは技術的には、位置測定モジュール、無線ネットワーク・アクセス、ユーザー・インターフェース、車両内ネットワークなどで構成される(図1)
 利用者の現在位置を測定する位置測定モジュールは通常、GPS*を利用する。ただし局地的なサービスを提供する目的であれば、携帯電話機システムなどのセル方式による位置情報を利用することもできる。
 無線ネットワーク・アクセスの手段は多くの場合、セル方式の携帯電話システムである。データ転送には、GPRS*といった既存のデータ通信規格を利用することが少なくない。このほか、無線LAN技術であるIEEE802.11やブルートゥースなどを利用したデータ転送も可能である。
 ユーザー・インターフェースの設計では、米国の車両システムはハンズフリー・インターフェースや音声認識技術に特に重点を置く(下記の「車内機器が運転に悪影響を及ぼす」を参照)。こういったユーザー・インターフェースは、ブルートゥースやUSBなどを内蔵する携帯型情報機器に組み込まれ始めた。
 車両内ネットワークではCAN*J1850*などが使われる。車両制御や車両診断などの情報システムを構築できる。
 テレマティックスを介したサービスは現在のところ、期間を定めた料金支払いあるいは利用機会ごとの料金支払いによって提供されている。これらのサービスを運用するためには、相当に大きな規模のインフラストラクチャーを必要とする(図2)。テレマティックス対応のナビゲーション・システムはユーザーに目的地までの経路を案内するだけでなく、中央のサーバーと通信することによって渋滞情報に基づいて経路変更を指示できる。車両が故障したり、事故に遭った場合に、現在位置を自動的に救急サービスに連絡するサービスもある。テレマティックスの課題は、100%のネットワーク接続性を提供することにある。携帯電話サービスは国土全体にくまなく普及しているわけではないものの、最も普遍的なネットワーク接続システムである。

標準化が課題

 テレマティックス関連の企業は、テレマティックス市場の将来に大きな期待を寄せる。常時接続の双方向データ通信は、ユーザーが必要とする情報を適切なタイミングで所望の場所に送信することを可能にするからだ。テレマティックスのサービス・プロバイダーは常時接続通信のおかげで、過去に不可能であった方法で最新のデータを収集し、利用できるようになっている。
 問題は2つある。1つは、通信サービスは人口密度の高い地域を広くカバーしているものの、人口密度の低い地域ではカバーできない領域が存在していることだ。解決手段には、送信電力の増強や複数の通信方式の採用、サービスが利用できない場合の通知などがある。
 もう1つの問題は、世界的に通用する標準的なアーキテクチャーと、相互接続性を確保するための標準仕様が存在していないことである。テレマティックス産業が発生初期の段階にあるからだ。同じ自動車メーカーでも車種が違うと、異なるインターフェースのテレマティックス・システムを搭載していることすらある。共通のインターフェースは存在しない。開発者にとっては、カスタムでの設計業務となる。システムの拡張や更新の手間が大きい。
 そこでいくつかのコンソーシアムが標準化作業に取り組んでいる。IDBフォーラム*OSGi*AMI-C*ERTICO*などである。

コストを削減する

 テレマティックス・システムの設計では、モジュール・アーキテクチャーを使うことが多い。複数の供給元からモジュールを選べるようにしておくことで、システムの柔軟性を確保する。新しい技術が利用可能になった場合、モジュールの交換によって対応できる。個々のモジュールについては、自動車特有の使用環境で品質や信頼性などを認定する必要がある。民生機器に同じ機能があるからといって、そのまま使えるわけではない。
 システム・コストと維持費の削減は、テレマティックス市場の拡大には不可欠な条件である。ただし設計の柔軟性を確保することとは相反する。現在、設計者は自動車内に携帯電話機を組み込むべきかどうかを検討している。エンド・ユーザーの携帯電話機を利用すれば、自動車に組み込む携帯電話システムのコストを削減できる。しかしこの場合、交通事故といった緊急事態の発生時が問題となる。事故発生時にユーザーの携帯電話機に電源が入っているとは限らないからだ。
 現在のところ多くのベンダーはコストを下げるために、多くの機能を統合したプラットフォームを提供している。統合しているのは、ハードウエアやオペレーティング・システム、ソフトウエア・アーキテクチャー、アプリケーション・プログラミング・インターフェース仕様、アプリケーション・ソフトウエアなどであり、さまざまなプロバイダーにまたがる。ただしどの無線インターフェースが主流となるのかが不明確なため、複数の無線通信規格をサポートせざるを得ない。こうして、ある無線通信技術が使われなくなった場合に、システムが陳腐化することを防ぐ。

10年を超える寿命を考慮する

 自動車に搭載する機器の寿命は長い。10〜20年あり、民生用電子機器に比べるとはるかに長い。このため、陳腐化をいかに防ぐかがテレマティックス・システムの設計者にとって大きな課題となる。
 普及済みのインフラストラクチャーを利用して有用なサービスを提供するとともに、新たに登場しそうな将来のインフラストラクチャーを組み込めるようにしておく必要がある。ハードウエア・リソースに将来の拡張に備えた余裕を設けておく、ハードウエア・リソースに拡張機能を持たせるといったことが考えられる。また、ソフトウエアをジャバ言語で実装することにより、ハードウエアに依存しないシステムを構築する手法もある。
 自動車のモデル・チェンジは、民生用電子機器のモデル・チェンジとは大きく異なる。自動車メーカーはモデル・チェンジのたびに型式認定を取得しなければならない。テレマティックス・システムは恐らく、自動車に不可欠な機能とは切り離された、独立した状態で存在し続ける。自動車販売店を経ずとも、無線通信によって必要に応じてソフトウエアをアップグレードできる。ただしこの場合は、個人情報の保護や不正アップグレードの防止といったセキュリティーの確保が必須となるだろう。

長期間の駐車に備える

 自動車用テレマティックス・システムの消費電力は通常、自動車の走行中には問題とならない。ただし電源の品質は大切である。瞬間的な停電や電圧の大きな変動があっては困る。定格が直流12Vの車両用電源は、エンジン始動時には出力が直流6Vに下がる。しかもエンジンを動かしているときにバッテリーを外すと、電圧は40V以上になりかねない。オルタネーター*が発生する電力は、スパイクやノイズだらけとなる可能性がある。
 自動車がエンジンを停止していたり、あるいはアイドリング状態にあるときには、電力の管理が重要となる。このことは、電池で動作する携帯型電子機器と同じである。自動車のバッテリーに蓄えてある電力量は少しずつ減少していく。この間も、テレマティックス・システムは間欠的に動作している。盗難に遭った場合に位置を追跡したり、携帯電話機をリモート鍵として離れたところからドアの錠を開けたりする。またテレマティックス・システムは、自動車のバッテリーを交換している間、アクティブなメモリーの内容を保持しておく必要がある。
 テレマティックス・システムの待機時消費電力は相当に低く抑えなければならない。自動車を数週〜数カ月にわたって駐車しておいても、エンジンを始動できるような低い消費電力を保つ必要がある。このため、定期的な動作チェックのとき以外は、マイクロプロセッサーや周辺LSIなどを消費電力の極めて低いモードで動かすとともに、プログラム・メモリーやデータ・メモリーを低い電力で保持しておく。バッテリーの蓄電量が乏しくなってきたときは動作チェックの間隔を広げ、またシステムの動作速度を下げることによって寿命を延ばす。

個人情報の保護が必須

 テレマティックスの応用分野は現在は自動車が最も大きいものの、自動車分野にとどまるわけではない。位置情報と無線通信を組み合わせたサービスの応用範囲は極めて広い。携帯電話システム、PDA(携帯情報端末)、航空機、鉄道、海運、貨物輸送、タクシー車両などにも適用できる。米ユナイテッド・パーセル・サービス社*米フェデックス社*は、貨物配送用車両にGPSを搭載し、バーコード・スキャナーと携帯型署名レコーダーを組み合わせて貨物の現在位置をリアルタイムで追跡するシステムを構築している。
 世界中でどの地域を市場とするかによって、サービス・プロバイダーが提供するテレマティックス機能の種類が決まってくる。通信のインフラストラクチャーが地域によって異なるからだ。サービスの種類も国や地域によって違ってくる。日本のテレマティックス・システムでは、ナビゲーション・システムに建物の3次元表示機能を組み込んでいる。一方、米国では安全やセキュリティーに重点を置く。
 これらのシステムが採用するセキュリティー技術は、自動車や携帯情報機器などへの不正なアクセスを防げるようにしておく必要がある。個人情報を送信するときは、事前に個人のIDを認証することによって不法侵入を防ぐ。車両内や通信インフラ、あるいはサービス・プロバイダーで不正アクセスを検出した場合は、自動的に処理を実行する。
 エンド・ユーザーは、テレマティックス・システムが個人情報やシステム・データを適切に保護しているかどうかを調べておく必要がある。現在位置情報を利用した無線サービスの種類が増えるにつれて、このことは重要度を増す。
 テレマティックス・システムでは、エンド・ユーザーが個人情報を管理可能にすべきだろう。どういった情報を収集し、格納し、処理し、他者に提供するかを決めるのはエンド・ユーザーであるべきだ。テレマティックス・システムがどの程度普及するかは結局、エンド・ユーザーがシステムをどの程度信頼するかに依存する。
車内機器が運転に悪影響を及ぼす


 米NHTSA(米高速道路交通安全局)*によれば、自動車事故の発生原因の多くは、運転者による不注意やわき見運転である。不注意の中で最も注目すべき原因に、運転中に携帯電話機を使用する行為がある。このため、携帯電話機などの機器を運転中に使用させないような法規制化が試みられている。
 米国の「雇用者のための交通安全ネットワーク*」は注意力低下の原因として最も多いのは、運転中にコーヒーをこぼしたり、あるいは床に何かを落したりといった行為だと指摘する。次に多いのは、ラジオやエアコンなどの操作だという。
 テレマティックス・システムのベンダーは、運転者の注意力が低下しないように、ハンズフリーや音声認識などによるユーザー・インターフェースを提供しようとしている。しかし全米自動車協会交通安全財団(American Automobile Association Foundation for Traffic Safety)*によると、ハンズフリー電話機も、運転者の注意力を低下させる原因になっているという。新型のカー・ナビゲーション・システムも同様である。このシステムは車線変更を合成音声で指示する。ただし運転者がナビゲーション・システムのディスプレイを見てしまうと、自動車の周囲に対する注意がそれてしまう。このため、走行中には地図表示ディスプレイに運転者がアクセスできないようにした機種もある。
 テレマティックス・システムのベンダーは、電子メール機能やウエブ閲覧機能といった、運転とは無関係な機能の追加を検討している。しかし、運転者の注意力を低下させる新たな原因とならないように、これらの機能を提供できるのだろうか。
 NHTSAのテストによると、音声出力の電子メール・システムが動いている場合、先行車両の周期的なブレーキに対する後続車両の応答時間が30%、あるいは310ms増加する。主観的作業負荷評価でも、音声によるやり取りは運転者の認知能力にとって大きな負荷となるという結果が出ている。
 使用が制限されたり、安全性に不安を生じたりする不要な製品の設計に大きなリソースを投入することは、製造物責任は別としても、テレマティックス・ベンダーにとって大きなリスクとなるだろう。
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用語解説 / 会社情報
【テレマティックス】
telematics
自動車などに無線通信システムや現在位置測定システム、コンピューターなどを搭載し、車両ごとにさまざまなサービスを提供すること。車両運行管理、カー・ナビゲーション、盗難通報、故障時の路上救援、音声認識、近隣店舗案内などが実際に運用されている。
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【GPS】
Grobal Positioning System
衛星利用測位システム
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【GPRS】
General Packet Radio Service
GSM携帯電話を基にしたパケット通信システム。
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【CAN】
controller area network
独ロバート・ボッシュ社が開発した自動車内ネットワーク規格。CANについては本誌2002年12月号、p.47に詳しい。
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【J1850】
米国の自動車技術団体SAE(Society of Automotive Engineers)が規定した車内ネットワーク用プロトコル仕様。
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【IDBフォーラム】
ITS Data Bus Forum
自動車用テレマティックス・インターフェースの標準化を呼びかけている業界団体。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.idbforum.org/
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【OSGiアライアンス】
Open Services Gateway Initiative Alliance
家電機器や車載機器などをインターネットに接続し、機器間で相互にサービスを提供するための技術仕様を策定している業界団体。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.osgi.org/
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【AMI-C】
Automotive Multimedia Interface Collaboration
車載用情報機器のアプリケーション開発用標準インターフェースを策定するために自動車メーカーが参加している業界団体。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.ami-c.org/
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【ERTICO】
European Road Transport Telematics Implementation Coordination Organization
欧州におけるITS(Intelligent Transport Systems and Services)の普及を推進する業界団体。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.ertico.com/
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【オルタネーター】
alternator
エンジンの回転を利用した発電機。バッテリーの充電に使う。ダイナモとも呼ぶ。
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【米ユナイテッド・パーセル・サービス社】
United Parcel Service of America, Inc.
米国の大手小口貨物配送会社。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.ups.com/
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【米フェデックス社】
FedEx Corp.
米国の大手航空貨物配送会社。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.fedex.com/
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【NHTSA】
National Highway Traffic Safety Administration
米高速道路交通安全局。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.nhtsa.dot.gov/
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【雇用者のための交通安全ネットワーク】
The Network of Employers for Traffic Safety
業務中に発生する交通事故の減少と交通安全の向上を目指した団体。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.trafficsafety.org/
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【全米自動車協会交通安全財団】
American Automobile Association Foundation for Traffic Safety
全米自動車協会交通安全財団。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.aaafoundation.org/
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