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signalintegrity
2004年2月号
意図的なオーバーシュート

 アーニーはいすに腰掛け、こめかみに指を押し当てながら、遠くをぼんやり見つめていた。湿った真夜中の空気と冷めたコーヒーの香りがタバコの煙と混ざり合い、散乱した未解決の仕事に関する資料の上を漂っていた。
 アーニーはスキューの問題で途方に暮れていた。彼は、1つのクロック・ドライバーICを使い、複数のレシーバーにクロック信号を分配する回路を設計していた(図1)。レシーバーは8つあり、1〜7番のレシーバーは同じ特性で、8番のレシーバーだけ特性が異なる。8番のクロック配線の終端には、4つの負荷が接続されており、合計した入力容量は12pFである。この入力容量によって遅延特性が変化し、大きなスキューが生じていた。 
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 信号源インピーダンスで終端した配線では、容量負荷によって発生する追加の遅延時間はZ0CINで近似できる。この近似値は、直列終端されたドライバーの信号源インピーダンスZ0と容量性負荷CINで構成されるRCフィルターの群遅延に等しい。1〜7番のクロック配線はZ0=50Ω、CIN=3pF。従って、これらの配線に発生する追加の遅延時間は150psになる。一方、8番のクロック配線は負荷容量が4倍と大きいため、追加の遅延時間は600psに達する。この遅延時間の増加分、450psがアーニーにとって重大問題であり、深夜まで彼を悩ませる原因だった。
 アーニーは直列終端ではなく、8番のクロック配線に「エンド終端」と呼ぶ技術を導入すべきだった。この理由は、8番のクロック配線での伝搬時間が信号の立ち上がり/降下時間よりも長いことに加えて、エンド終端を使えば特別な方法で負荷を駆動できることにある(対策法C)。特別な駆動方法とは、立ち上がりと降下の両エッジにおける駆動点インピーダンスをZ0/2にする方法である。配線のインピーダンスはZ0であり、エンド終端のインピーダンスもZ0であるため、これを並列に接続した際の合成抵抗はZ0/2になるからだ。従って、エンド終端を採用すれば、CINによって発生する追加の遅延時間は(1/2)Z0CINになる。配線長には依存しない。追加の遅延時間は、直列終端の半分に抑えられる。
 ただしエンド終端には副作用がある。遅延時間は減少するが、反射が大きくなってしまう(図2)。この反射は、レシーバーに信号の立ち上がり/降下エッジが到着し、その後に配線を1往復する時間が経過したときに受信信号に現れる。反射の大きさ(振幅)は、約(1/2)Z0CIN/T10−90%。ここでT10−90%は、ドライバーが出力する信号の立ち上がり/降下時間である。
 残念ながら、アーニーはエンド終端を選ばなかった。彼は、直列終端の抵抗値(R8)を小さくする方法を選んだ(対策法D)。抵抗値を小さくした理由は、意図的にオーバーシュートを起こすためだ。受信信号のなまりが改善され、しきい値を横切るタイミングが若干早まると考えたのである。
 この考え方は、技術的な観点で見れば正しい。しかし実際は、CINの容量値がばらつく。アーニーは、この点を見過ごしていた。R8を小さくすると、共振を起こしやすくなる。この状態でCINがある値に変化すると、オーバーシュートは危険なレベルに達してしまう(対策法E)。この結果、レシーバーにおいてラッチ・アップが発生したり、大きな遅延時間が発生する確率が高まる。 意図的なオーバーシュートのリスクは、ときにそのメリットを超える。
ハワード・ジョンソン*1)

用語解説 / 会社情報
*1)ハワード・ジョンソン(Howard Johnson)氏
同氏は、「High-Speed Digital Design」と「High-Speed Signal Propagation」の著者。ご意見は、次の電子メール・アドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie@sigcon.com
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