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2004年2月号
Illustration by Chuck Mackey
シリコン仮想プロトタイピング、
先端LSIの設計期間を短縮


LSIチップを仮想的に試作する、「シリコン仮想プロトタイピング」が大規模論理LSIの設計で不可欠になりつつある。配線の動的な物理特性が、LSIチップ全体のアーキテクチャーを支配するようになってきたからだ。論理設計を完了させる前にチップ内部の物理特性や電気特性を把握し、設計に修正を加える。こうしてLSI設計のやり直しを減らす。

ガーベ・モレッティ
Gabe Moretti
 3年前までは、LSI内部を伝わる信号の伝搬遅延時間の大半を、ゲート遅延時間が占めていた。LSI設計において論理設計者は、論理ゲート間の遅延時間を概算で見積もるだけで良かった。配置配線に関する問題にそれほど注意を払わずとも、回路を設計できた。論理設計者はLSIのチップ・レイアウトを詳しく知る必要はなく、レイアウト設計者が論理設計の内容に神経を使う必要もなかった。
 論理合成*ツールは、伝搬遅延の要求を満たすように信号ドライバーの駆動能力を自動的に調節する。論理設計者は、信号を伝える導体の物理特性を気にせずに済んだ。難しい設計であっても、電気的な知識と物理的な知識を必要とすることはほとんどなかった。ブール論理があれば、それで事足りた。
 ところがLSI製造技術の微細化が進み、状況は一変する。製造技術が0.18μm(180nm)以降のLSIでは、ゲート遅延よりも配線遅延が伝搬遅延全体を支配する(図1)。配線による遅延時間を計算するためには、2次的あるいは3次的な作用を考慮する必要がある。例えばクロストークがそうだ。クロストークは、配線の物理特性だけでなく、隣接した配線との位置関係や、その配線を流れる信号にも依存する。もはやLSI設計工程における配置配線後の幾何学的状態について知らなければ、配線遅延を正確に見積もれない。高周波回路や低消費電力回路は、プリント回路基板上ですらクロストークの影響を受けやすいのだ。

数々の課題を整理する

 伝搬遅延全体にとって、配線による伝搬遅延が占める割合が小さかった時代は、論理設計者は配線の遅延時間に標準値を使えた上に、静的タイミング・ツールによって回路性能を評価できた。しかし0.18μm(180nm)や0.13μm(130nm)といった製造技術のLSI設計には通用しない。隣接配線のパターンと配置に関する精度の高い情報が、回路動作の正確な予測に不可欠なのである。
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 90nmの製造技術を使うLSIの設計では、回路動作の予測に動的タイミング解析を必要とするだろう。回路動作の把握には、信号強度や隣接配線の位置といった情報だけでは不十分である。隣接する配線群で同時にアクティブになる組み合わせや、同時にアクティブになる信号の強度などが、回路動作に影響する。
 設計者は、開発中の回路が抱えるさまざまな物理特性に気を配らなくてはならない。電力をどのように分配するべきか、電源回路のトポロジーが論理回路の振る舞いにどのように影響するかについて理解しておく必要がある。例えば、電源配線と接地配線が電圧降下の原因となる。携帯型の電子機器では特に問題である。電源電圧を下げようと努力する一方で、製造技術の微細化とともに電源配線と接地配線の抵抗値が増大しているからだ。またゲート電圧を下げると、ゲート遅延が非線形に増大する。この結果、雑音の影響を受けやすくなる。
 製造技術の微細化に伴い、配線間結合容量や配線インダクタンスの影響が増える。隣接する配線で信号の状態遷移が起こると、配線間の結合容量によりクロストークが発生する。クロストークの大きさは、配線間の容量と信号のスイッチング速度に依存する。一方の配線で信号がスイッチングすると、もう一方の配線でグリッチが発生し、接続されているゲートが誤動作する可能性が生じる。隣接する配線で信号が同時にスイッチングする場合は、さらに厄介である。2つの信号の位相関係によって遅延時間が増えたり減ったりする。
 また微細化によって配線の断面積当たりの電流が上昇する。この電流密度が高くなり過ぎるとエレクトロマイグレーションが発生する。電源配線と接地配線では電流密度が高く、その恐れが少なくない。エレクトロマイグレーションとは、金属イオンの移動によって配線にボイド(空孔)が発生したり、配線の一部が膨れたりする現象である。ボイドは配線抵抗を増やすので遅延時間が長くなったり、雑音の影響を受けやすくしたりする。また配線の一部が膨れると、隣接した配線との間が短絡する恐れがある。
 アナログ回路の存在も、LSI設計を複雑にする。130nmプロセスで製造するLSIでは、そのほぼ半分が、アナログ回路を搭載した。しかも今後、アナログ回路を搭載するLSIの割合は増えていくとされている。多くのLSI設計では、アナログ回路が使用しているトランジスタ数はごくわずかに過ぎない。しかし回路面積はかなり大きい。そして設計者への負担は、さらに大きいのである。アナログ回路とデジタル回路を混在させたLSIの設計では、設計者は全体の性能と歩留りに注意を払う必要がある。高周波のアナログ回路設計は、チップ内の配線レイアウトを注意深く実行しなければならない。さらにはチップを搭載するパッケージの構造や入出力ピンの配置、LSIを搭載するプリント回路基板の配線パターンにも配慮する必要がある。
 製造プロセスの変化も設計に影響を与える。銅配線技術や化学的機械的研磨(CMP*)技術、サブ波長リソグラフィー技術などは複雑であるため、直観とは異なる設計ルールにつながることがある。例えばアンテナ・ルールは、ビアが増えるのを回避し、配線長を最小化することを目的とした。半導体ファウンドリー各社は製造プロセスの改良に伴い、こういった設計ルールを次々と変更している。また微細化に伴い、ウエハー間の製造ばらつきやチップ間の製造ばらつきの割合が増大する。チップ間の製造ばらつきを考慮して高い歩留まりを維持するような設計が、技術者に求められている。
 こういった配線遅延に関連するさまざまな課題のほとんどは、大規模ASIC*設計で発生する。論理シミュレーションの繰り返しでは、解決に時間がかかり過ぎる恐れがある。シミュレーションで解決できるとは限らない。シミュレーション1回当たりの実行時間が増大しつつあるからだ。
 最新のFPGA*設計でも、ユーザーである設計者が配線混雑度やタイミングなどの問題に注意を払う必要が出てきた。ただしFPGAチップでは配線チャンネルをあらかじめ決めてあるので、配線遅延の扱いはASICよりも容易である。ASICでも、同様のアプローチを考慮すべきだ(下記の「ASICでは新たなアプローチが必要に」を参照)。

論理設計と物理設計を並行させる

 論理設計中に実際の回路の物理特性を知る方法は、論理設計と並行して物理設計を始めることである。論理設計と物理設計を並行して進めることにより、設計者はこれまでよりも精度の高い回路情報を入手でき、物理的なパラメーターを順次変更できる。
 LSI設計チームは、設計中のクリティカルな部分については複数の案を評価できるようにしておく必要がある。電源ネットワークの全体的なトポロジー、機能ブロックのレイアウト、バスの構造などがその対象となる。設計者は、あらゆる物理的パラメーターを抽出して観察し、解析しなければならない。
 設計者がチップ・レベルのレイアウトや最適化を実行する場合は、抽象度の高いモデルでも問題なく適用できた。しかしクリティカルな機能ブロックの解析には、精度の高いモデルを必要とする。さまざまなレベルの物理パラメーターを抽出しなければならない。
 従って回路ブロックの仮想的なプロトタイプを使ってチップ・レベルのレイアウトを進める必要が生じる。仮想的なプロトタイプをLSI設計ツールの入力データとして使用し、タイミングやチップ面積、消費電力、シグナル・インテグリティーなどをモニターしながら詳細な配置と配線を完成させる。
 従来は、回路のネットリスト*を自動配置配線ツールに入力すると、ツールが回路セルの配置を実行していた。電源配線とクロック・ツリーの制約条件を順守しながら、回路セルの形状や配置の傾き、相互接続条件やタイミング条件などが最適になる配置を決定していた。
 しかし設計の規模が巨大化し、制約条件の複雑度が高まるにつれ、ツールが必要とするコンピューティング性能が高まり、実行時間が長くなってきた。もはや、フラットな設計では実現が不可能になりつつある。そこで階層的な設計手法が採り入れられてきた。ただし階層的な設計手法が有用なのは、チップ上の配置配線に関してある程度の精度を有する情報を設計者が得られる場合に限られる。

仮想プロトタイプを利用する

 シリコン仮想プロトタイピングは、論理設計の段階で配置配線に伴う物理的な情報を入手する手法である(図2)。LSIの設計チームはシリコン仮想プロトタイピングを使い、チップ製造に関する問題を特定し、優先順位を付ける。こうして開発作業を1つずつ順序正しく進めていく。この結果、設計のトレードオフを評価したり、レイアウトを改善したりできる。またチップ・レベルの設計における複数の案を比較可能になる。回路全体を複数のブロックに分割する設計案をいくつか用意し、それぞれの仮想プロトタイプについて物理的な解析を実行できる。仮想プロトタイプが存在しない場合、設計者は物理設計が完了するまで、詳細な特性を評価できない。
 シリコン仮想プロトタイピングによるタイミング出力と、詳細配置配線後のタイミング出力との相関性は極めて重要である。シリコン仮想プロトタイピングの出力を配置配線ツールに入力し、シリコン仮想プロトタイピングによる予測と配置配線ツールの出力を比較することにより、相関性を検証できる。この相関性は、抵抗分と容量分の抽出(RC抽出)、遅延の計算、そしてタイミング解析の精度に依存する。
 シリコン仮想プロトタイピング・ツールを利用する場合、設計者は数多くの段階を経由し、仮想プロトタイプを生成する。そして生成した仮想プロトタイプを調整する。まず、論理合成ツールによってネットリストを得る段階がある。ネットリストは機能的には正しい。ただし配線モデルは単純であり、回路のタイミング情報は近似値にすぎない。
 仮想プロトタイプの生成は実際には、チップのフロアプランニングから始まる。設計チームは階層的な手法によって設計を進める。すなわちLSIの回路全体を扱いやすい大きさのブロックに分割し、なるべく多くのブロックを並行して処理する。
 まず、ブロックである機能ユニットを配置する。配置には、各ユニットの情報とインターフェース要件を利用する。シリコン仮想プロトタイピング・ツールでは、設計要件の負荷が最も少ない分割方法を選択できる。そしてツールが、タイミング駆動アルゴリズムによって残りの部分の配置を自動実行する。こうした作業の後に、設計者はRC抽出とタイミング解析を行い、クロック・ツリーの合成を実行する。結果が設計の目標をある程度満たしている場合、この出力結果を基本設計として設計をさらに改良することになる。
 設計者は仮想プロトタイプを使ってネットリストを作成したり、各ブロックに対する物理設計やタイミング設計の制約条件を満足するように設計を改良したりする。改良したブロック同士を接続すれば、タイミング条件と物理条件を満足しているかどうかを検証できる。すべての回路ブロックを最適化し、設計の目的を完全に達成するまで、こういった一連の作業が続く。

多くの設計問題を取り扱う

 LSIチップを製造するプロセス技術の選択は重要である。過去、設計者は利用可能な最新の製造技術を前提に設計してきた。しかし現在では、最新の製造技術を選択することはリスクが大きい。設計仕様を満足しているのであれば、古くても安価で歩留まりの高い製造技術を選ぶ方が正しいかもしれない。
 シリコン仮想プロトタイピングは設計者に対し、製造技術の選択を支援する。設計者はまず、チップ・レベルのタイミング仕様と電力仕様、回路面積の制約を、ブロック・レベルに展開する。チップ・レベルのタイミング仕様を解析し、クリティカル・パスを特定する。それからクリティカル・パスのブロックに対してブロック・レベルの制約条件を使い、仮想プロトタイプの構築を進める。
 仮想プロトタイプを解析した結果が制約条件を満たしていれば、選択した製造プロセス技術を利用できる。制約条件を満たさない場合は、LSI設計の基本セルをスタンダード・セルではなく、フルカスタムのセルへ変えたり、製造プロセス技術を変更したりすることを検討することになる。
 シリコン仮想プロトタイピングはまた、セルの配置が相互接続に与える影響を可視化する。バスの経路を短くしづらい場合は、リピーターとしてバス・ブリッジを挿入することになる。バス・ブリッジの挿入によってバスの駆動能力と雑音を低減する。
 配線抵抗による電圧降下(IRドロップ)の影響を論理設計段階で把握することは従来、ほぼ不可能だった。詳細な配置配線を実行してIRドロップを解析するまで、未解決のまま残っていた。シリコン仮想プロトタイピングは、IRドロップを早期に検出できるようにする。設計の一部を実装した状態で、解析を実行できるからだ。このため、設計変更のコストを削減できる。この作業を実行する際に大切なことは、チップ・レベルでの要求事項からブロック・レベルに割り当てる電力を導くことである。
 LSIが数多くの大規模なマクロを含む場合、長い配線の途中にバッファーを挿入できないことが多い。バッファーを置くスペースが足りないからである。設計者はシリコン仮想プロトタイピングを使ってマクロの配置を可視化し、ネットリストに明示的にバッファーを挿入することによって問題の領域を修正できる。
 LSIの階層設計においてタイミング制約を満足させる作業は、退屈で時間がかかり、しかも誤りが発生しやすい。上位レベルと下位レベルの設計が競合するので、解決には再設計とシミュレーションを何回も繰り返す必要がある。タイミングの詳細な情報はしばしば、詳細に配置配線されたブロックからボトム・アップで得られる。これが上位レベルでは解決不可能なタイミング違反を引き起こすことがある。
 シリコン仮想プロトタイピングを使えば、設計者はチップ・レベルのタイミング制約条件をブロック・レベルや相互接続レベルへと変換できる。設計者が回路ブロックの設計を完了してチップ内に配置すると、シリコン仮想プロトタイピング・ツールが実装部分のタイミング情報を、チップ全体と比較する。比較結果が良好であれば、設計者はこのブロックと相互接続情報を利用して、設計を次の段階へと進められる。

さまざまな市販ツール

 シリコン仮想プロトタイピングを提供しているLSI設計ツール・ベンダーはあまり多くない。多くのLSI設計ツール・ベンダーが買収され、統合されたからだ。設計ツールの年間ライセンス料は一般にかなり高価である。25万米ドルを超えることが珍しくない。
 シリコン仮想プロトタイピングの実行にはさまざまなツールを駆使する。少なくとも物理合成ツールとシグナル・インテグリティー解析ツール、クロック・ツリー合成ツール、フロアプランニング・ツール、自動配線ツール、電源プランニング・ツール、IRドロップ解析ツールが必要である。ツール・ベンダー各社の製品を以下に紹介しよう。
 米ケイデンス・デザイン・システムズ社*は2002年に、階層設計に対応したLSI設計システム「SOC Encounter」を市場に投入した。3000万ゲートまでの大規模なLSI設計を対象とする。1000万ゲート未満のフラットな設計手法には、廉価版の「Nano Encounter」がある。いずれもシリコン仮想プロトタイピングを使い、RTL*記述やネットリストからチップの物理的な情報を抽出する。
 米マグマ・デザイン・オートメーション社*は、数種類のシリコン仮想プロトタイピング用ツールを販売している。階層設計以外には、「Blast Create」を用意している。このツールは論理合成、物理合成、可視化、静的タイミング解析、消費電力解析などのツールを含む。階層設計には「Blast Plan」を用意している。このツールは、大規模な設計を取り扱い可能な複数のブロックに分割し、チップ・レベルでブロック間の遅延時間を割り振る。いずれのツールも、同社のLSI設計システム「Blast Fusion」と組み合わせて利用する。
 米モントレー・デザイン・システムズ社*は、階層設計用のシリコン仮想プロトタイピング・ツール「Calypso」を用意している。階層設計プランニング・ツールや物理合成ツール、物理プロトタイピング・ツールなどを組み合わせた。Calypsoを利用すると、タイミング解析とその最適化、クロック・ツリーの合成、IRドロップ解析、ブロックの配置、ポートの最適化、アンテナ効果の抑制、グローバル配線などを実行できる。
 米シノプシス社*のLSI設計システムである「Galaxyデザイン・プラットフォーム」は、複数のポイント・ツールを組み合わせることによってシリコン仮想プロトタイピングをサポートしている。このLSI設計システムは、論理合成ツール「Design Compiler」と、論理合成と自動配置の統合ツール「Physical Compiler」、テスト合成ツール「DFT Compiler」、消費電力管理ツール「Power Compiler」、フロアプランニング・ツール「Floorplan Compiler」、自動配置配線ツール「Astro」、静的タイミング解析ツール「PrimeTime」、テスト・パターン自動生成ツール「TetraMAX ATPG」、RC抽出ツール「Star-RCXT」、階層物理検証ツール「Hercules」、光学近接効果補正ツール「Proteus」などで構成される。設計者はチップのレイアウトが完了する前の段階で、RTL設計の変更が物理設計に与える影響を評価できる。
 ケイデンス社およびシノプシス社のシリコン仮想プロトタイピング・ツールや合成ツールと連携して動作するツールが、カナダのアイシナジー・ソフトウエア社*が開発した「SOC Plan」である。このツールは物理設計を可視化することによって設計アーキテクチャーの評価を支援する。アーキテクチャーの変更が物理設計に与える影響が分かる。設計者が入力した仕様や制約条件に基づいてツールが回路ブロックの配置やアスペクト比を修正したり、配線長やタイミング、配線混雑度を最適化する。
 米ハイア・デザイン社*は、FPGA向けのシリコン仮想プロトタイピング・ツール「Plan Ahead」を提供している。設計者は、物理設計に関する複数の「what-if」シナリオを検証し、レイアウトの前に潜在的な問題を解決できる。クリティカル・パスやモジュールをグループ化し、接続性を解析したり、配線使用率を制御することによって実際に配線できる可能性を高められる。
 アナログ回路あるいはアナログ・デジタル混在回路を含むLSIの割合は増え続けている。こういったLSIに向けた設計ツールが米メンター・グラフィックス社*の「ICassemble」である。このツールは、トップ・ダウンのフロアプランニング機能、対話型配線機能、自動配線機能を備える。アナログ回路の設計者は物理的なレイアウト環境で回路ブロックのプランニングと実装、接続が可能になる。
ASICでは新たなアプローチが必要に


 スタンダード・セル方式ASICを設計している技術者は、論理機能の設計を常に優先してきた。配置や配線といった作業は後回しだった。LSI設計は、機能設計から始まる。電子機器が備える機能を作り出すためである。
 この点では、LSI設計ツールも同様である。少なくともデジタル論理LSIでは、論理的な振る舞いを扱うツールが、物理特性を扱うツールよりも上流に存在する。その良い例が論理合成ツールである。ツールの出力を改良するには、設計者は制約条件を指定することによって回路の物理特性にも配慮する必要がある。しかし、設計者がRTL記述で表現した機能と等価なブール論理が、ツールを駆動していることに変わりはない。
 こういった論理設計優先のアプローチは、180nmという微細な製造技術が登場するまでは設計者を十分に満足させてきた。この時点でLSI設計ツール・ベンダーは物理合成ツールを開発し、市場に投入した。しかしこのツールは、論理合成の出力を単に操作しただけだった。現在は、物理合成ツールだけでは要求を満たせない。
 130nmの製造プロセス技術を駆使したLSIの設計では、設計者は利用可能な回路面積の60%程度しか使用していないという統計がある。理論的には1億ゲートをチップに配置できる。ただし、それらのゲートを正しく接続することは極めて難しい。さらに微細な90nmプロセスでは、設計数が少ないために統計的なデータが存在していないものの、ゲート利用率について130nmプロセスよりも高い値を期待できる理由はない。実際には、ゲート利用率はさらに低くなるだろう。
 設計者はすぐに、2.5億もの論理ゲートをチップに配置できるようになる。ただし電源配線とクロック配線、信号配線に合計で9層以上の金属配線層を必要とするだろう。また数1000もの入出力ピンを扱うために、フリップチップ・パッケージが広く普及することになる。
 130nm以下の製造技術によるLSIの設計では、チップのプロトタイプを入手し、回路の性能に影響を与える寄生効果を実際に測定する必要がある。数多くの物理変数を考慮しなくてはならないので、相互接続の取り扱いは極めて難しくなる。設計者は2つ以上の論理セルを接続する信号配線の動特性を扱わなければならない。また、数種類の製造技術を扱う必要がある。
 それにもかかわらず、設計者が半導体ベンダーから入手できるライブラリーは論理セルしかない。増え続ける複雑なルール・セットに従いつつ、その場その場でセル同士を接続する必要がある。
 こうなると設計者はシステム・レベルの設計段階でも、問題解決作業に取り組まねばならない。現在は設計工程の中で、検証作業が大きな時間と負担を占めている。しかし間もなく、配置と配線が設計工程で最もコストのかかる工程となるだろう。

相互接続をセル化する

 ただし、アプローチは1つではない。さまざまなアプローチを試せるだけの十分な回路面積がチップには存在している。例えば不規則な構造よりも、規則的な構造を作成する方が容易である。メモリーLSIとPLD(プログラマブル・ロジック・デバイス)はその代表だ。
 そこで半導体ベンダーは、可能な限り規則的な構造に近づけたASICを開発すべきである。チップに未使用領域を作成して設計者に利用させるのではなく、グリッド領域を作成して設計者に利用させる。グリッド領域は、チップのどの位置に機能ブロックを配置し、どのようにして機能ブロックを相互接続するかを定める。機能だけでなく、相互接続もブロック化し、セル・ライブラリーとして入手できるようにするのだ。
 こうなると半導体ベンダーは、平行配線のセルや、さまざまな配線長の相互接続セルなどを用意するかもしれない。バスのセルでは、配線ピッチが異なる複数のセルが登場しよう。電源分配グリッドやクロック分配グリッド、信号分配グリッドがマトリクス状に配置され、チップをFPGAに似た規則的な構造に変える。
 こういったアーキテクチャーだと設計者は、プラットフォーム設計を修正して適用できる。機能ユニットをいくつかのブロックに集約し、ブロックを集めてプラットフォームを形成する。それから固定されたグリッドを利用して、設計者はブロックを動的に移動させつつレイアウトしていく。
 相互接続は、相互接続セルを使うことによってのみ、実現できる。このため物理合成ツールは、セル・ライブラリーが定義した相互接続ルールを自動的に順守することになる。プロセス・ルールは、隣接する相互接続セル間の間隔を強制的に確保することによって、信号配線間の干渉を避ける。
 ブロックの配置場所は、相互接続の要求仕様と利用可能な各種の分配グリッドによって決まる。すべての配置は、利用可能な相互接続グリッドの集合を形成する。その集合は大きな領域となるものの、大きさは有限である。カスタムの相互接続が存在していないからだ。最終的な回路は通常、チップの利用可能な回路領域よりもはるかに小さな面積となる。従って相互接続の制約条件は問題とならない。
 この方式が実用化されれば、電子機器の開発工程ではシステム・レベル設計の重要性が高まるだろう。半導体ベンダーは、アーキテクチャー・レベルの相互接続ライブラリーを用意しなければならない。このライブラリーは電源や遅延時間などの要件を備えており、ゲート・レベルで利用できる。設計者は、トランザクション・ベースのシミュレーターを使い、設計工程の早い段階でチップのタイミングを評価できるようになる。そしてブロック間の接続ごとに、遅延時間や消費電力を割り当てる。一方でブロック内の信号伝送には、固定の遅延時間を使用する。
 回路ブロックのビヘイビア・モデルと各接続の伝搬遅延時間をLSIのアーキテクチャー設計に利用することで、時間領域での振る舞いを全体的に把握できるようになる。シミュレーションの実行時間は既存の方式よりも短くて済む。また、既存のシミュレーション言語を使って実行できる。

アーキテクチャー設計が重要に

 今回の新しいアプローチを使用すると、アーキテクチャー・レベルの設計における相互接続が重要になる。アーキテクチャー設計者が機能をグループ化したり、ブロックの配置を修正したりすることによって、回路設計に影響を与えるからだ。
 新しいアプローチを利用すれば、アーキテクチャーの選択がチップの機能に与える影響を設計者にフィードバックできる。従ってアーキテクチャー・レベルで配置配線問題に対処できるようになるだろう。高位レベルの配線モデルを利用すれば、論理設計の前段階で、2次的な寄生効果を取り除ける。
 アーキテクチャー・レベルでの決定を早期に解析できれば、コストのかかる再設計を減らせる。設計がRTLの段階に進んでしまったり、さらに悪いことにはゲート・レベルになって問題が大きくなりすぎて管理できなくなったりという事態を回避できる。
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用語解説 / 会社情報
【論理合成】
logic synthesis
ハードウエア記述言語で記述した設計データ(RTL記述、状態遷移記述、真理値表など)から、ゲート・レベルの論理回路(ネットリスト)を生成すること。
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【CMP】
chemical-mechanical polishing
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【ASIC】
application specific integrated circuit
特定用途向けIC。ここではセミカスタムLSIを指す。
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【FPGA】
field programmable gate array
ユーザーが設計した論理回路を手元で書き込める半導体デバイス(PLD)のなかで、論理ブロックの構造がゲートアレイに近いタイプを指す。
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【ネットリスト】
netlist
電子回路の接続関係を表現した設計データ。各ゲート(あるいはセル)のどのピンから、ほかのゲートのどのピンにつながっているかを示す。論理図やトランジスタ特性などを含むこともある。
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【米ケイデンス・デザイン・システムズ社】
Cadence Design Systems, Inc.
同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.cadence.com/
日本法人は日本ケイデンス・デザイン・システムズ社。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.cadence.co.jp/
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【RTL】
register transfer level
論理回路をレジスターおよびレジスター間の組み合わせで表現した記述レベル。論理合成ツールの入力に使われることが多い。
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【米マグマ・デザイン・オートメーション社】
Magma Design Automation, Inc.
同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.magma-da.com/
日本法人はマグマ・デザイン・オートメーション。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.magma-da.co.jp/
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【米モントレー・デザイン・システムズ社】
Monterey Design Systems, Inc.
同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.montereydesign.com/
国内連絡先はソリトンシステムズ。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.soliton.co.jp/
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【米シノプシス社】
Synopsys, Inc.
同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.synopsys.com/
日本法人は日本シノプシス。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.synopsys.co.jp/
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【カナダのアイシナジー・ソフトウエア社】
Icinergy Software Co.
同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.icinergy.com/
国内連絡先はSSE(エス・エス・イー)。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.sch.sse.co.jp/
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【米ハイア・デザイン社】
Hier Design Inc.
同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.hierdesign.com/
国内連絡先はイノテック。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.innotech.co.jp/
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【米メンター・グラフィックス社】
Mentor Graphics Corp.
同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.mentor.com/
日本法人はメンター・グラフィックス・ジャパン。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.mentorg.co.jp/
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