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microprocessorreport
2003年12月号
NEC、暗号化回路内蔵の
MIPSプロセッサーを開発


組み込み機器用プロセッサーでは、暗号化処理が必須の機能となりつつある。NECエレクトロニクスは、暗号化処理用のアクセラレーター回路を内蔵したMIPSアーキテクチャーのマイクロプロセッサー「VR4133」を開発した。ソフトウエアで処理する場合に比べ、暗号化処理性能が3倍に向上する。(本誌)

マーカス・レヴィ 米マイクロプロセッサー・レポート誌* シニア・エディター
Markus Levy Microprocessor Report Senior Editor
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 インターネットのセキュリティー標準であるIPSec*をサポートするハードウエア・アクセラレーターが、組み込み用プロセッサーで必須の機能となってきた。2003年だけでも、ルネサス テクノロジ、米IDT社*米ブレシス・コミュニケーションズ社*などのマイクロプロセッサー・ベンダーが、IPSec処理回路を搭載したプロセッサーを製品化している。
 こういったプロセッサーは、無線LAN用機器や小規模企業用ネットワーク・ルーターなどを狙う。ハードウエア・アクセラレーターを追加せずに、プロセッサー・コアとソフトウエアの組み合わせによってセキュリティー機能を実行することは現実的ではない。プロセッサー・コアの負荷が著しく増大するからだ。
 最近では、NECエレクトロニクスがIPSec処理回路を搭載した64ビットRISC型マイクロプロセッサー「VR4133」を開発した*1)。このプロセッサーはMIPSアーキテクチャーの「VR4130」コアと、同社が独自に開発したIPSecアクセラレーターを内蔵する。
 VR4133で興味深い点は、以前にNECエレクトロニクスが携帯型情報端末(PDA)向けに開発したマイクロプロセッサー「VR4131」の派生品だということである。マイクロプロセッサー・レポート誌(以下、MPR誌)は、VR4131は性能と消費電力のバランスが良く高い競争力を備えているにもかかわらず、PDA向けでは成功を収めていないと見ている。PDA用プロセッサーのほとんどは、ARMアーキテクチャーのプロセッサーが占める。
 VR4131は、PDA用プロセッサーとしては珍しく、低価格帯サーバー用プロセッサーやネットワーク管理用プロセッサーなどに採用された。ただしPDAでも採用例はある。カシオ計算機の「BE-300」*2)に採用された。ウインドウズCEを載せた低価格帯のPDAである。BE-300の価格は179米ドル前後だろう。電池動作時間を延ばすために、カシオ計算機はVR4131を166MHzとかなり低い周波数で動作させている。これはVR4131のスーパースカラー性能のおかげである。
 NECエレクトロニクスは、VR4130コアとVR4131プロセッサーの開発努力を埋もれさせはしなかった。いくつかの周辺回路を追加し、VR4133で別の応用分野へと狙いを定め直した。無線LAN機器やルーター、工業用機器、医療用機器、外部記憶装置などである。こういった分野ではMIPSアーキテクチャーのプロセッサーが強い。従って良い選択と言える。ただしこの分野にも、ARMアーキテクチャーのプロセッサーが着実にシェアを広げつつある。

ハードウエア処理の大きな利点

 VR4133のIPSec用アクセラレーターは、ESP*処理アルゴリズムを実行するハードウエアである。128ビットの暗号化処理を実行するIPSecプロトコル群の一部を担う(図1)。セキュア・トランザクションの処理スループットはアクセラレーターの性能によって決まる。NECエレクトロニクスは、ソフトウエア処理に比べて3倍の性能向上をもたらすと主張する。なおこのアクセラレーターは、SHA-1*ハッシュ関数*を利用したヘッダーの認証処理も実行できる。
 同社はVR4133を、いくつかのソフトウエア・モジュールとともにユーザーに提供する。その1つがインターネット・キー・エクスチェンジ(IKE*)・ソフトウエア・スタックである。IKEは、セキュア・トランザクションを確立するためのネゴシエーション・フェーズでだけ実行される。パケットごとには実行しない。このため、ソフトウエア処理で済む。IKEを利用すれば、送信側と受信側で暗号マップ中のすべてのIPSecセキュリティー・パラメーターを手作業で指定する手間を不要にできる。また、IPSecに基づくセッションの途中で暗号鍵を変更し、通信相手を動的に認証できるようになる。

64ビット幅が暗号化処理に役立つ

 VR4133が内蔵するVR4130コアは、MIPS V命令セットとMIPS16命令セットに、MIPS64アーキテクチャーによる拡張を一部追加した64ビット・スーパースカラー・プロセッサーである。また32×32ビットのMAC*演算をサポートしている。このMAC演算は符号化復号化処理のようなDSPに近い処理には十分役立つ。ただしネットワーク処理での利用価値は高くない。
 VR4133マイクロプロセッサーはVR4130コアのほか、2ウエイ・セット・アソシアティブ構成の16Kバイト1次キャッシュや133MHzのSDRAMインターフェース、133MHzのSysADバスなどで構成される(図2)。なおSysADバスの動作周波数は、VR4131では100MHzだった。今回は133MHzに高めた。
 64ビット・プロセッサーを必要とするのは通常、アドレス空間が巨大な場合である。ただしセキュリティー分野の処理では事情が異なる。128ビットの暗号化を実行するAES*暗号の処理で64ビット幅のデータ経路を使うと、32ビット幅に比べて処理性能が2倍に上がると見込めるからだ。512ビット以上の暗号を扱う場合は、この差がさらに広がる。
 サード・パーティーによるサポートに関してVR4133を評価すると、MIPS V命令セットを採用しているために長期的な視点で見ると不利かもしれない。サード・パーティーはMIPS64命令セット・アーキテクチャーのプロセッサーをより強くサポートする傾向にあるからだ。しかしNECエレクトロニクスはこれまで開発ツールを独自に提供してきたので、特定のユーザーをサポートしていくことは可能だろう。そして同社がコンパイラーの改良を継続し、ユーザーの数が十分に存在している限りは、米グリーン・ヒルズ・ソフトウエア社をはじめとする開発ツール・ベンダーがVR413xシリーズをサポートしていくだろう。
 MIPS64はMIPS Wのスーパーセットである。MIPS WとVR4130コアを比べてみよう。MIPS W(およびMIPS64)アーキテクチャーの主要な部分は、浮動小数点演算のサポートである。この機能はネットワーク応用ではそれほど重要ではない。ただしMIPS Wで付加された条件付き転送とプリフェッチ命令は、ネットワーク応用に役立つとMPR誌は考えている。MIPS64はまた、先行するビットの1/0のカウント、整数の積和、整数の積差、回転、ビット挿入、ビット抽出などの命令を備えている。これらは一般の組み込み分野でも有用である。一方、VR4130コアも、先行するビットの1/0のカウント、整数の積和、整数の積差、条件付き転送(ゼロの場合とゼロ以外の場合)、プリフェッチ命令(「VR5000」に似たもの)を備えている。

消費電力の低さで有利

 VR4133の最大の特徴は、消費電力が低いことだ。動作周波数が266MHzのとき、消費電力は370mWに過ぎない。放熱性能が低いシステム向けでは、高い競争力を備える(表1)。IPSec処理のハードウエア・アクセラレーターを搭載したので、動作周波数を266MHzよりも下げて消費電力をさらに低くすることもできる。
 市場調査によると、ホーム・ゲートウエイと小規模企業向けネットワーク機器に普及しているマイコンのアーキテクチャーは、英アーム社の「ARM」、米モトローラ社の「ColdFire」、米インテル社の「XScale」である。MIPSアーキテクチャーとPowerPCアーキテクチャーのマイコンは、ハイ・エンドのネットワーク機器で主要な地位を占めていた。
 VR4133のスーパースカラー性能と低い消費電力は、競合製品よりも優位である。MPR誌は、内蔵キャッシュ容量が1次の16Kバイトしかないことは、スーパースカラー・プロセッサーとしては不十分だと考えている。ただし動作周波数が266MHzと低く、10/100Baseのイーサーネット接続機器が対象であることから、この小さなキャッシュでも十分なのだろう。またキャッシュ容量が小さいことは、チップ・コストの削減に寄与する。(C2003:In-Stat/MDR)

用語解説 / 会社情報
以下の説明はEDN Japanが作成した。
米マイクロプロセッサー・レポート誌*
リード・エレクトロニクス・グループの米In-Stat/MDR社が発行するマイクロプロセッサー技術専門誌。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.mdronline.com/mpr/index.html
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【IPSec】
Internet Protocol Security standard
インターネットで暗号化通信を実行するための標準規格。
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【米IDT社】
Integrated Device Technology, Inc.
プロセッサーやメモリーなどのベンダー。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.idt.com/
国内連絡先は日本IDT。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.idt.co.jp/
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【米ブレシス・コミュニケーションズ社】
BRECIS Communications Corp.
ネットワーク・プロセッサーのベンダー。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.brecis.com/
国内連絡先はパルテック。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.paltek.co.jp/brecis/
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*1)
VR4133は現在量産中。266MHz動作品の価格は、1万個購入時に1個当たり27.50米ドル。
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*2)
BE-300に関する情報は下記ページで閲覧できる。http://www.casio.co.jp/release/be_300.html
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【ESP】
encapsulation security payload
カプセル化セキュリティー・ペイロード
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【SHA-1】
Secure Hash Algorithm 1
認証やデジタル署名などに使われるハッシュ関数の1つ。米国標準局が連邦政府の標準ハッシュ関数として採用した。IPSecに採用されている。
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【ハッシュ関数】
hash function
原文から固定長の疑似乱数を発生する関数。
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【IKE】
Internet Key Exchange
インターネット・キー・エクスチェンジ(インターネット鍵交換)
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【MAC】
multiply and accumulate
乗算と累算。
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【AES】
Advanced Encryption Standard
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