最近、私はオックスフォード大学の客員研究員として英国に4カ月間滞在していた。オックスフォードは本当に美しい町である。機会があればぜひ訪れてほしい。訪問するに値する町だと思う。気候は穏やかで、暑過ぎず、寒過ぎず、湿度も適当である。コンピューターにも良い環境だと言えるだろう。
表皮効果の温度特性を考える
今回は、天候、特に温度がプリント基板の信号配線の表皮効果に与える影響について考えてみたい。
図1は、一般的なストリップ・ライン構造の差動線路における信号減衰量を周波数の関数として表示したものだ。この図には、点線で示した3つの漸近線を掲載した。
左側にある漸近線はαr,dc=4.34(Rdc/ Z0)dB/mで表現できる。信号配線の直流抵抗Rdc(Ω/m)だけを考慮し、インピーダンスZ0は一定と仮定した。従って、直流損失はRdcに比例して変化することになる。抵抗の温度補正係数(TCF*)はTCF=1.0039T−30で記述できる。ここでTは温度(摂氏)である。RdcにTCFを乗じることで、温度補正をかけた直流抵抗を求められる。
中央の漸近線はαr,skin=4.34(R0/Z0)√ω/ω0dB/mで表現できる。表皮効果だけを考慮した抵抗性損失を表している。ここでR0は、特定の周波数ω0(ラジアン/秒)での配線の交流抵抗である。この項は√TCFに比例する。変動幅は、温度の関数である表皮深さ*に依存する。すなわち、温度が上昇すると銅(配線材料)のバルク抵抗はTCFに比例して増加し、αr,skinが大きくなる。一方、表皮深さも√TCFに比例して増加するが、αr,skinを小さくするように働く。両者の効果が組み合わさった結果として、αr,skinは√TCFに比例して増加することになる。
√1+aにおいてaが非常に小さい場合は1+a/2と近似できる。このためαr,skinの温度依存性は、直流抵抗の温度依存性の半分でしかない。例えば、温度が40℃上昇すれば直流抵抗の増加率は17%であるが、αr,skinの増加率はその約半分の8%になる。
右端の漸近線は、αd=4.34(θ0ω/ν0)×(ω/ω0)−θ0/πdB/mで表現できる。これは誘電体損失をモデル化した直線である。ここでν0は伝搬速度(m/s)、tanθ0は誘電体材料の誘電正接である。いずれも周波数ω0における値である。実際には誘電体損失は抵抗性損失よりも温度依存性がかなり大きい。特に温度がプリント基板材料のガラス転移温度に近づくと誘電体損失が急増する。しかし今回は、議論を単純にするために誘電体の温度依存性を考慮せず特性値は固定して、配線抵抗だけを考慮することにしよう。
高周波で誘電体損が支配的
図1の3つの曲線は、上記の3つの損失メカニズムを総合したものだ。低温(0℃)と室温、高温(70℃)の曲線である。銅による損失の温度依存性は、周波数が高くなると目立たなくなることに注意してほしい。表皮効果が現れ始める周波数より下の領域、すなわち一定損失の領域では、温度補正係数(TCF)が直接損失に影響を与える。表皮効果が現れ始める周波数より上の領域では、損失はおおむね√TCFに比例して増加する。
周波数が1GHz以上になると配線損失は、誘電体損失が支配的になる。このためTCFの影響は急速に減少して行く。こうした高周波領域では、ユーザーを悩ますのは銅の抵抗値の温度変化ではなく、誘電体損失の温度変化である。
(ハワード・ジョンソン*1)) |