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designfeature
2003年11月号
Illustration by Mike O'Leary
分散型電源、
暴れる竜を飼い
慣らせ


電子システムの電源は、まもなくmV(ミリボルト)単位での電圧制御が求められるようになる。わずかな電圧降下でも電子システムのシャットダウンが発生する。それにもかかわらず、消費電流は減少する気配を見せない。こうした厄介な電源システムは、まるで暴れる竜のようだ。新しい給電アーキテクチャーと実装技術を組み合わせることで、暴れる竜を飼い慣らす取り組みが始まった。


ダン・ストラスバーグ
Dan Strassberg
 電源業界ほど、俗説や勘違いに満ちあふれた業界はほかにないだろう。しかし、かつての電源業界はもはや存在しない。ここ数年で電源システム設計はその性格を大きく変えてしまった。古いルールは、窓から放り出されてしまったのだ。
 次に電源業界に対するいくつかの見方を示す。ある見方は、いまもなお通用するかもしれない。しかし、その多くは全くの誤りではないにしても、もはや成立しない。
電源は「ローテク」である。
例外を除き、電気技術者であれば電源は設計できる。特別な知識や経験は必要ない。
電源は技術の後進分野である。ほかのエレクトロニクス分野に比べて、その変化はカタツムリの歩みのように遅い。
構成部品を購入して電源を組み立てることをやめ、電源モジュールを購入して製品に組み込もうとすると大金を失う。この原因は恐らく、電源モジュール・メーカーの策略によるものだ。
半導体メーカーが提供するリファレンス設計は、同等の電源モジュールよりもはるかに安価である。しかも半導体メーカーは厄介な仕事をすべて肩代わりしてくれる。このため開発コストも少なくて済む。
 事実は異なる。電源設計が取るに足らない仕事であることはまれだ。多くの場合は、高度な専門技術が求められる。しかも必要とする専門技術は、エレクトロニクスや電力、熱、機械、製造など多岐にわたる。経験豊かな電源技術者であれば、電源には非常に複雑なトレードオフが存在しており、それが信頼性とコストに重大な影響を与えることを理解している。このため半導体メーカーが提供する電源用リファレンス設計を製品に組み込む場合でも、電源設計の経験者にこの仕事を任せるべきである。加えて、電子システムの配電設計の経験があれば、電源モジュールを購入する際の大きな力となるだろう。
 電源設計は、高度な技術と経験を必要とする。ただし電源を電子機器に組み込む仕事の内容は、ここ2〜3年で大きく変わった。電源設計全体についても変化し、現在も変わり続けている。こうした変化は、電子機器設計者に大きな恩恵をもたらす。
 性能も向上している。数年前の製品に比べると、外形寸法は劇的に小さくなり、効率が高まり、価格は安くなった。価格が安くなった理由は、技術に進歩によるところが大きい。現在の経済不況による影響分は相対的に小さい。

ICがもたらした電源革命

 電源業界に大きな変革をもたらしたのは電源設計者ではない。半導体メーカーである。現在のICは、半導体製造技術に合わせて設計されている。従って、限られた範囲の電源電圧しかサポートできない。従来、電源電圧と言えば5Vと±12Vがよく使われていた。しかしこうした2〜3種類の電源電圧だけで構成する大きなプリント基板は過去の遺物となっている。現在では、6種類以上の電源電圧を使うことが珍しくない。例えば、5Vと3.3V、2.5V、1.8V、1.5V、1.2、−5Vという具合だ。その上、電圧値が非常に低くなったと同時に電流値が非常に大きくなった。この結果、電力配電ネットワーク(すなわち電源/接地面)におけるIRドロップが設計の良しあしを決めるファクターに浮上した。
 電源電圧は今後もさらに低くなることは間違いない。近い将来、1Vを切り、0.8Vや0.6V、いずれは0.5Vに達することだろう。しかし一般的なICの消費電力は減らない。電源電圧VCCが下がって消費電力が一定ということは、電源電流ICが増えることを意味する。従って、配電抵抗RDはより低い値にする必要がある。
 低電圧動作のICでクローズ・アップされている問題は、IRドロップだけではない。ICで消費する電力自体も大きな問題である。ただし対象となる電子機器は、電池動作機器だけではない。消費電力が大きい機器でも問題になりつつある。消費電力が減れば、冷却の必要性が低減するからだ。電子デバイスの動作温度を下げることができれば、電子機器の信頼性を高められる。
 ICの消費電力を下げる代表的な方法に、パワー・セーブ・モードの活用がある。このモードに移行すれば、ICの消費電流を大幅に低減できる。しかしICが通常の動作に戻るときには、電源は短時間のうちに大電流を供給しなければならないという新たな問題に遭遇する。急激な電流変化は、電圧過渡現象の原因となる*1)。電源には、この過渡現象を補正する機能が求められる。
 従って、負荷に安定した電圧を供給するには、負荷の近くで電圧の変化を検出するリモート・センシング技術の導入が不可欠になる。しかし単純に導入すれば良いわけではない。この技術を導入し的確に設計しないと、電源の過渡応答特性や動的な安定性を確保できない。
 過渡応答に対するレギュレーション(電圧安定化)機能の必要性により、現在では電源設計者が数年前に適当だと考えた以上の動的な挙動制御が求められることが多い。動的な挙動を改善するカギはスイッチング周波数の高周波化にある。最近製品化されているPOL*(ポイント・オブ・ロード)コンバーターの多くは、パワーMOSFETをスイッチに採用している。パワーMOSFETは高速動作が可能なスイッチである。このため変換効率を落とさずに、スイッチング周波数を高めることが可能になった。この点に関しては、ICの電源電圧の低下との親和性が高いと言える。一般に、MOSFETのスイッチング速度を高めると、その破壊電圧(耐圧)とオン抵抗が下がる。電源電圧が低下すれば、耐圧が低いスイッチでも問題なくなる。オン抵抗が下がれば、出力電流の大小にかかわらず、コンバーターの変換効率は改善される。

新しい意味

 ICの低電圧化により、1枚のプリント基板に必要とする電源電圧は2〜3種類の高い電圧から、多数の低い電圧に変化した。この結果、電源業界に古くから存在する用語の意味が変わりつつある。例えばDPA*(分散給電アーキテクチャー)とIBA*(中間バス・アーキテクチャー)、IBV*(中間バス電圧)、POL(ポイント・オブ・ロード)といった用語だ。
 たくさんの電源電圧を使うようになったため、つい最近までシステム設計者が見過ごしてきた電源シーケンスが重要になってきている。このため現在、電源メーカーは高度なシーケンス機能を有する電源モジュールの供給を始めている。米テキサス・インスツルメンツ社*の「PTHxx」モジュール・ファミリーがその代表例である(図1)
 分散給電アーキテクチャーの概念は、数10年前からさまざまな形で存続してきた。しかし約1年前までは多くの人が「分散給電アーキテクチャーは通信業界の用語であり、その後ほかの分野に広がった」と理解していたようだ。通信業界では分散給電アーキテクチャーが、約100Wを消費するボードを複数枚使って構成する電源システムのデファクト・スタンダード(事実上の標準)の座に就いた。このアーキテクチャーでは、通常各ボードは十分に安定化(レギュレーション)されていない48V(実際には36〜75V)と比較的高い中間バス電圧を受け取る。
 通信機器や可用性が高いコンピューター機器ではこの48Vの中間バス電圧を、ボードとは離れた場所にある交流入力の電源で作成する。交流ラインに何らかの故障が発生した場合は、大型の鉛蓄電池を利用する。ボードは36〜75Vと広い入力電圧範囲に対応している。このため鉛蓄電池の充電状態に配慮する必要はない。このアーキテクチャーでは、ボード上で交流電圧を中間バス電圧に変換しない。このため、この構成を中間バス・アーキテクチャーと認めない技術者もいる。
 通常、ボード上には「サブブリック」タイプ*のDC-DCコンバーターを実装する。実装場所は、バックプレーン・コネクターの近くである。このコンバーターで十分にレギュレーションを行った低い直流電圧を作り、ボード上に実装したICに給電する。DC-DCコンバーターには、トランスを使って入出力間を絶縁したタイプを使う。そして30cmを超える配線を介してIC(負荷)に接続する。従って、負荷の近くで必要な電圧に変換するという、現行のPOLの定義とは一線を画すものと言えるだろう。しかし、これらのコンバーターも技術的な側面からPOLと見なされるのが一般的だ。
 現行のPOLが広く知られるようになったのは2002年ころからだ(図2)。この新しい中間バス・アーキテクチャーは、サブブリック・タイプの絶縁型モジュールを使わない。非絶縁型POLコンバーターを採用し、絶縁部はバス・コンバーターに置く。バス・コンバーターは、サブブリック・タイプの絶縁型電源モジュールの一種である。ただし通常動作時は出力のレギュレーションを行わない。いくつかの場合に限り、軽くレギュレーション制御をかける。例えば、入力電圧の変動に対するレギュレーションは行うが、コンバーターの出力インピーダンスがゼロでないことに起因する出力電圧のレギュレーションは行わない。
 中間バス・アーキテクチャーの最大のメリットは、本質的に低コストな点にある(p.62の「本当の理由はコストだ」参照)。一方、最大のデメリットは変換効率が低下することだ。中間バス・アーキテクチャーでは、ボードに供給された電圧を中間バス電圧に変換し、この中間バス電圧をICの電源電圧VCCに変換する。変換時には必ず数%の損失が発生する。すなわち変換回数が多い中間バス・アーキテクチャーの方が変換効率の点で不利になってしまう。100Wの電力を供給する場合、変換回数が1回のアーキテクチャーと比べると、中間バス・アーキテクチャーの方が電力損失が2W程度大きい。しかし多くのシステム設計者には、効率が若干高いことよりも、コストが下がることの方が魅力的に映るようだ。
サブブリック・タイプの絶縁型DC-DCコンバーターは、コスト効率が高いプレーナー(平面)型トランスを採用していた。それでもトランスがコストを押し上げる大きな要因になっている。DC-DCコンバーター・メーカーの考えはほぼ一致している。「1個の絶縁トランスを使う電源システムの方が、複数個の絶縁トランスを使うシステムよりも安くなる」ということだ。
 しかし米バイコー社*は異なる見解を持つ。同社は最近「FPA(ファクトライズド・パワー・アーキテクチャー)」と呼ぶ手法を発表した(図3)。このアーキテクチャーは、複数の絶縁型POLコンバーターを使う。絶縁型POLコンバーターは、「VTM(変圧モジュール)」と呼ぶモジュールと「PRM(プリレギュレーション・モジュール)」からなる*2)。通常、1つのVTMに1つのPRMを組み合わせる。同社はFPAアーキテクチャーを使えば、コストを下げられると主張している。ただしその理由は明かそうとしない。しかし最近同社が発表したFPAの価格設定を見ると、1つのバス・コンバーターが複数のPOLコンバーターを駆動するシステムよりも安価な場合が実際に多いようである。加えて、「VIC(V・I Chip)」と呼ぶ実装技術を使うことで、非常に高い電力密度を実現している。さらにスイッチング周波数は4MHzと高いため、過渡応答特性も優れているはずだ。
 バイコー社のFPAには多くの疑問がある。しかし前述の中間バス・アーキテクチャーにもたくさんの疑問がある(p.64の「中間バス電圧は本当に必要か」参照)。
 前述のように、中間バス・アーキテクチャーを開発した主要な動機はコストの低減にあった。しかしいくつかの電源メーカーは、低コスト化に効果的と思われる選択肢を最初から除いている。例えば、バス・コンバーターでは入力ライン変動のレギュレーションだけを行い、負荷変動に対するレギュレーションは一切行わないと言う選択肢である。バス・コンバーターは入力変動に対するレギュレーションだけを行えば36〜75Vの通信機器に求められる入力電圧範囲を満足できる。従って、鉛蓄電池を使ったバックアップも可能になる。バス・コンバーターから、負荷変動に対するレギュレーション機能を取り除けば、フィードバック経路に使うアナログ絶縁機能のコストを節約できる。従って、バス・コンバーターの方が完全なDC-DCコンバーター・モジュールに比べれば安価にできるはずである。
 さらに電源メーカーがシステム・メーカーに対して、バス・コンバーターの入力電圧範囲を最大±10%に制限することを納得させていれば、POLコンバーターですべてのレギュレーションを行うことが可能になる。レギュレーションを行わないバス・コンバーターは、入力変動に対するレギュレーション機能を備えるものよりも安価になるばかりか、変換効率も電力密度も信頼性も改善できる。
 中間バス電圧の値に関する議論も活発だ。システム設計者は12Vよりも低い値を望んでいる。しかし電源メーカーの一部は、いくつかの高電圧用途を除けば、すでにさまざまな用途で使われている12Vが本命だと見ている。

メリットはあるが、普及は遅れる

 中間バス・アーキテクチャーには、さまざまメリットがある。しかし電源モジュール・メーカーは、中間バス・アーキテクチャーのユーザー開拓に四苦八苦しているのが実状だ。
 中間バス・アーキテクチャーのメリットとは以下のようなものだ。例えばICに近くにPOLコンバーターを設置すれば、過渡応答特性が改善でき、リモート・センシングを省ける可能性がある。逆に、POLコンバーターを使わなければ、接地層のリターン電流経路は非常に長くなってしまう。従って、1つの接地層にさまざまなICの電源電流が流入することになる。VCC値は1V近辺と低い。このため、ICの誤動作などの問題が発生するかもしれない。
 結局、この程度のメリットだけでは、システム設計者は中間バス・アーキテクチャーの必要性を認めなかったようだ。価格の問題があるからだ。しかしこの問題は、中間バス・アーキテクチャーの需要が拡大すれば解決できる可能性を秘めている。電源メーカーは、10Aの絶縁出力を2つ備えるバス・コンバーターを、20A単一出力のバス・コンバーターと同じパッケージ寸法で製造できる。バス・コンバーターに入力変動に対するレギュレーション機能を導入したとしても、出力を2つに分けたことによるコスト増加分はわずかだろう。
 電源モジュール業界に中間バス・アーキテクチャーが浸透するかどうかは、すべてコストが決めることになりそうだ。電源ICメーカーは、多くの電子機器メーカーがDC-DCコンバーター・モジュールで多くのコストを浪費していると指摘する。加えて、電源ICメーカーが提供するリファレンス設計を基に、電子機器メーカー自身でコンバーターを組み立てれば、コストの大幅な節約を実現できると主張している。こうした主張を、電源設計以外の仕事に携わっている設計者がすべて信じているわけではない。しかし電源モジュール・メーカーでさえ、この主張が正しいことをときには認める。
 ある電源モジュール・メーカーは、ある大手システム・メーカーを例に現在の電源設計の実状を説明する。このシステム・メーカーは電源設計部門を擁している。1設計当たりの使用量が100万個を超え、電源の出力が約6A未満、または約20W未満の場合に電源を大きなプリント基板の一部として設計して組み立てている。この電源モジュール・メーカーによると、システム・メーカーはこれらの電源を電源モジュールを購入する場合の約1/3のコストで組み立てるという。 このコスト差は、社内での電源開発費用を考慮したとしても非常に大きなものである。
 ただしこのシステム・メーカーは、6A、20Wの制限を超えない場合でも1年間に10万個を超える電源モジュールを購入する。すなわちこのシステム・メーカーは、出力電力が比較的小さく使用量が多い場合に限り、社内での電源設計が経済的であると結論付けたのだ。もし世界のシステム・メーカーがこのメーカーと同じ判断を下せば、電源モジュール・ビジネスは決してかつての規模には戻らないだろう。しかし、それでもある程度の規模は残る。

実装技術が支える

 分散給電アーキテクチャーにとって、パッケージは重要な構成要素と言える。出力電力が20W以上の絶縁型コンバーターでは、1/2ブリックや1/4ブリック、1/8ブリックのモジュールが一般的だ。しかし非絶縁型コンバーターではまだ、パッケージ寸法に関するデファクト・スタンダード(業界標準)が登場していない。これまでは、ボードに対して垂直に実装するSIP(シングル・インライン・パッケージ)モジュールが非絶縁型POLコンバーターの標準になると思われていた。しかし現時点では、SIPモジュールが支配的になるとは考えにくい。今後にデファクト・スタンダードの座に就くパッケージが登場することに賭けた方が賢いようだ(図4)
 パッケージを議論する場合は、鉛フリーはんだ付けへの対応を忘れてはならない。スウェーデンのエリクソン社*は、鉛フリーはんだ付けに対応したDC-DCコンバーターの供給を始めた最初の大手電源モジュール・メーカーである。鉛フリーはんだは、従来のすず鉛系はんだよりも融点が高い。その上、鉛フリーはんだ付けの工程で利用できる融点の範囲は、すず鉛系はんだ付けよりも狭い。このため大きなボードに小さな電源モジュールを鉛フリーはんだで実装すると、モジュール内部のはんだが蒸発してしまうという問題が生じる。もちろん、実装時に小さな電源モジュールを熱的に遮断すれば、この問題を緩和できる。従って、小さなSIPモジュールを大きなボードに鉛フリーはんだ付けで実装する場合は、特殊な手法を採用しなければならない。
 現在電源モジュール業界では、マルチチップ・モジュール(MCM*)が成功を収めるかどうかが話題になっている。米インターナショナル レクティファイアー社*オランダのロイヤル・フィリップス・エレクトロニクス社*米パワーワン社*がMCM技術を利用したPOLコンバーターを供給している。バイコー社はFPAファミリーのPRMとVTMや、VIC技術を使った超小型のBC(バス・コンバーター)ファミリーなどを製品化している。ただし同社は、VIC技術がMCM技術かどうかについては明らかにしていない。
 パワーワン社が製品化しているMCM技術利用のPOLコンバーター「MaXyz」は、郵便切手大と小さい。大きなボードの裏面に実装することを想定している。すなわち、このコンバーターを電力供給先のICの真下に配置する。こうすることで、両者間の接続線を短くできる。
 バイコー社のVICモジュールは、デバイス周辺に設けた薄い部分にはんだバンプを設け、これを使ってボードと接続する。ボードに長方形の切り抜き部を作れば、VICモジュールを実装後の高さを低く抑えることが可能になる。実際の高さは、VICモジュール自身の厚さである6mmにできるという。同社ではこの実装技術を「インボード」と呼んでいる。
 採用するPOLコンバーターを決定した場合は、まず実装技術に関してよく検討する必要がある。最も基本的な検討事項は、電子部品を実装してDC-DCコンバーターをホスト・ボードに作るのか、それとも購入した電源モジュールをボードに実装するのか、ということだ。別の小さなボードや基板を使う場合は、余分なコストがかかるように見えるかもしれない。しかし大きなデジタル・ボードとDC-DCコンバーターは、テスト手法やバーン・イン工程が違う。こうした違いを考慮すると、別ボードにした方がコストの節約になる場合もある。
 
本当の理由はコストだ

チャック・サボリス*A-1) 米デイテル社
Chuck Sabolis Datel Inc.

 市場調査会社から最近届いた電子メールによると、電源システム・アーキテクチャーに占める中間バス・アーキテクチャーの割合は、現在の2.8%から2年後には17.1%に伸びるという(調査は完了していないため、暫定的な結果である)。抜かりない市場調査会社は、最も知りたい5年後の予測は明かさない。知ることができるのは、調査費を支払ったスポンサーだけである。
 いずれにせよ2年間で2.8%から17.1%に伸びるとは驚きだ。成長率は611%である。平均年間成長率に換算すると247%になる。中間バス・アーキテクチャーがこの成長率で伸び続ければ、5年後には全市場の257%を占めるというとんでもない数字になる。
 2年間という時間は、電源市場特有の氷河期のようなゆっくりとした変化のペースに比べれば、わずか数ミリ秒(ms)に過ぎない。この短期間に中間バス・アーキテクチャーは市場を一掃し、主役の座に着くという。その第1の原動力は、「コストの削減」という最も強力な動機である。
 驚くべきことに電源メーカーの多くの販売/営業部隊は、中間バス・アーキテクチャーのコスト削減効果を顧客に素直に話そうとはしない。電源メーカーは少なくとも表向きは、技術的な性能改善(負荷レギュレーションの向上や低雑音化、過渡応答の高速化など)というメーカーにとって優位な理由にしがみついているのが現状だ。この主張は間違いではない。しかし電源メーカーの実態は違う。電源メーカーのマネジャーは、オンボード用電源モジュールのコストを半分に削減することを目標に掲げている。この指示を受けて、多くの電源技術者は中間バス・アーキテクチャーに取り組んでいる。それにもかかわらず、電源業界は性能が中間バス・アーキテクチャーのストーリーのすべてであるかのごとく装っているのだ。
 企業の発表や業界紙の記事の多くは、新旧の分散電源のコストを比較するときに、過去に発売された絶縁型DC-DCコンバーターの実勢価格と、新たに発売されたバス・コンバーターおよびPOL(ポイント・オブ・ロード)コンバーターの発表時の価格を使う。なぜだろうか。実勢価格は、何年にもわたる激烈な競争と、抜け目ない購買担当者によってたたかれてきた結果である。一方、発表時の価格はメーカーの言い値である。市場でもまれた価格ではないのだ。このような比較は、中間バス・アーキテクチャーのつり銭をごまかすことに等しい。公平ではない。市場でもまれれば、中間バス・アーキテクチャーが低コストであることは明らかになるだろう。
それにしても、電源業界が中間バス・アーキテクチャーをコスト削減手法として位置付けるのに消極的なのはなぜだろう。成熟化や標準品化による価格破壊を恐れているのか、もしくは新たな主力商品の価格低下を遅らせようとしているのか。その答えは分からない。しかし悲しいかな、中間バス・アーキテクチャーの開発者は、コスト削減のためにその方式を考えたのである。確かに開発者によっては、DC-DCコンバーターと負荷の間のインダクタンスを減らす方法として中間バス・アーキテクチャーを採用した場合があるだろう。しかしこうした開発者でさえ、このアーキテクチャーがもたらす低コスト化を歓迎しているのだ。
 実際に、1つ以上の電源電圧を必要とする場合、中間バス・アーキテクチャーを使えばコストを削減できる可能性がある(しかし単にある電圧から1つの電圧を作成する場合は、必ずしも中間バス・アーキテクチャーが最善とは断定できない)。コスト削減という執拗な圧力は、いや応なく電源技術者を攻め立てる。この結果、電源技術者は遅かれ早かれ、中間バス・アーキテクチャーの低コスト化というメリットに気付くだろう。
 引き潮に逆らって砂をすくうことは、エネルギーを浪費する愚かな行いだ。ほとんどのDC-DCコンバーター・ユーザーにとって、中間バス・アーキテクチャーの採用はコストの削減になる。そろそろ電源メーカーは、中間バス・アーキテクチャーを使えばコストを削減できると宣伝しても良い時期なのではなかろうか。
中間バス電圧は本当に必要か

コナー・クイン*B-1) 米アーテシン・テクノロジーズ社
Conor Quinn Artesyn Technologies, Inc


 多くのコンピューター・システムでは、48Vもしくは12Vという2つの直流配電電圧の一方を採用している。これらの電圧は交流ラインから絶縁されており、さらに十分に安定化されている(標準±5%以下)。12Vと48Vの境界線は、1000Wと1500Wの間にある。境界線以下では12Vが使われ、それ以上では48Vが使われる。なおハイ・エンド・システムの中には、400Vの直流電圧で配電するものもある。
 12Vのシステムは、現在POL(ポイント・オブ・ロード)コンバーターで採用されている。しかし従来から48Vを使っている業界では、異論があるようだ。この業界の一部の企業は、大規模に量産されている低コストのPOL製品を採用するために、12Vの中間バス電圧を採用する方向に動きつつある。しかしほかの企業は、48VからICの電源電圧に直接変換する単一コンバーター方式にとどまることに固執する。固執する理由は、冗長度とフォールト・トレランスにある。
 コンピューター業界では、12V以外の中間バス電圧についても議論が活発だ。例えば12Vバスは、POLコンバーターで1V近辺の電圧に変換する際に大きな問題が発生する。そこで業界では、12Vよりも技術的に優れた解として7〜8Vの中間バス電圧を提案している。しかし冷却ファンやハード・ディスク装置(HDD)の電源として12Vが使われているため、7〜8Vの採用をためらわせている。
 一般に、通信機器は電源に−48V(標準−36〜−75V)、もしくは24V(18〜36V)の電源を使う。いずれもレギュレーションは行わない。通信機器ではカード・ケージの機構上、カード間の空間をほとんど確保できない。この物理的な構造のため、冷却用空気の流れが制限される。従って、個々のカードは非常に低消費電力であることが要求される。
 カードあたりの消費電力が標準で50〜100Wであれば、供給電圧が12Vよりも低い電源でも電流量は問題にならない。従って、多くの通信用途では「ブリック」タイプのモジュールを使って3.3Vまたは5Vを作り配電するのが一般的である。POLコンバーターは、この3.3Vまたは5Vを入力として動作する。その後、さらに低い電圧を作成し、ICに供給する。現在では、ICの電源電圧は2.5Vが一般的だ。しかし、こうした低い電圧を入力とするPOLコンバーターは高い電流に伴う問題が発生する。従って、バス電圧として使うことは難しい。
 消費電力が大きい通信機器用カードでも12Vの中間バスを使うことは可能だ。ただしこの場合は、入力電圧範囲の問題を解決するため、バス・コンバーターにはある程度のレギュレーション機能が必要になる。電源メーカーではこれらのシステムに対しても、7〜8Vという低い中間バス電圧について論じてきた。通信機器では、冷却ファンやHDDは通常12V動作ではない。このため12Vバスにこだわる理由は、コンピューター業界に比べれば少ない。
 システム設計者の中には、中間バス・アーキテクチャーの採用に熱心であり、同様に中間バス電圧の選択に熱心な技術者がいる。そうした設計者に、以下の議論を贈ろう。
 「中間バス電圧は必要か」。低コストの量産品である12VのPOLコンバーターを活用したいならば「YES」だ。最高の変換効率を望み、2回の変換で電力を無駄にすることを望まないならば「NO」である。48Vアーキテクチャーが優れた冗長度を実現できると考えているならば「NO」。12VのPOLコンバーターは冗長度が不要なほど信頼性が十分に高いと考えていれば「YES」である。
 「企業向けシステムでは、12Vバスよりも低い中間バス電圧を検討すべきか」。12Vを1V近辺の電圧に変換することが非効率で、例えば降圧用トランスを使わない簡単な低コスト構成で制御することが難しい場合は「YES」。ただし、この場合は8Vの方が恐らくPOLコンバーター設計が低コストになるため良い結果が得られるだろう。システムにHDDや冷却ファンの駆動用の12Vを使っている場合は「NO」。この場合は、最も実践したくないことだが、中間バス電圧が2つ必要になる。システムにHDDを使わず、しかも外部から冷却用空気流を供給できる場合、あるいは冷却ファンの電源をほかから供給できる場合は「YES」である。
 「低電圧カードは3.3Vに固執すべきか」。必要なすべての電力を、3.3V出力の1/4もしくは1/8ブリック・モジュールから得ることができ、さらにほかの電圧についてはボードの周囲に配置した小型のPOLコンバーターから供給できれば「YES」。多くの設計者が認めているように、3.3V動作のICが減少し2.5V動作のICが増えるとみていれば「NO」。ボードによっては、5Vを含めて、10種類程度の電圧レベルを必要とすることがある。こうした場合は、入力が2.5VのPOLコンバーターは実用的ではない。従って、こうしたボードでは低価格のバス・コンバーターを採用し、比較的軽いレギュレーションをかけた12V、もしくは8Vを使うべきだ。ICに供給する低い電圧はPOLコンバーターで作る。

用語解説 / 会社情報
*1)
急激な電流変化による電圧の過渡現象はe=L・di/dtで表現できる。ここでeは瞬間電圧、Lは電源と負荷の間のインダクタンス、di/dtは負荷に供給する電流の変化率である。
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【POL】
point of load
ポイント・オブ・ロード。負荷と近接した場所のこと。ここに実装するタイプのDC-DCコンバーターをPOLタイプと呼ぶ。一度、メインのDC-DCコンバーター(もしくはAC-DCコンバーター)で外部入力の電圧を比較的低い電圧に下げてから、POLタイプのDC-DCコンバーターで、負荷が必要とする電圧値に変換する。POLタイプが登場した原因は、ICの消費電流が増えているためだ。低電圧、大電流の電力をプリント基板上の配線で伝送すると、配線による電力損失が増えて、さらに電圧降下が大きくなる。
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【米シンコア社】
SynQor, Inc.
米国の電源モジュール・メーカー。ホームページはhttp://www.synqor.com/。日本法人はシンコア ジャパン、電話03-5909-5131。
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【DPA】
distributed power architecture
分散給電アーキテクチャー
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【IBA】
intermediate bus architecture
中間バス・アーキテクチャー
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【IBV】
intermediate bus voltage
中間バス電圧
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【米テキサス・インスツルメンツ社】
Texas Instruments Inc.
米国の大手半導体メーカー。電源モジュールの製造/販売も行っている。ホームページはhttp://www.ti.com/。日本法人は日本テキサス・インスツルメンツ。ホームページはhttp://www.tij.co.jp
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【ブリック・タイプ】
brick type
通信機器やサーバーなどに向けた電源モジュールの外形寸法を指す。フルブリックの実装面積は約122.6mm
×約64.2mm。サブブリック・タイプにはハーフ・ブリックやクォーター・ブリックなどがある。ハーフ・ブリックの外形寸法は約57.9mm×約61.0mm、クォーター・ブリックは約37mm×約58mm。高さは、出力電力やメーカーによって若干異なる。
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【米バイコー社】
Vicor Corp.
米国の電源モジュール・メーカー。モジュール型の標準電源を得意とする。ホームページはhttp://www.vicr.com/。日本法人はバイコー ジャパン。ホームページはhttp://www.vicr.co.jp/
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*2)参考文献
Strassberg, Dan, "Tiny pa-ckages, new architectures rock distributed power," EDN, June 12, 2003, p.18.
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【米デイテル社】
Datel, Inc.
電源モジュールなどを手掛ける米国メーカー。ホームページはhttp://www.datel.com/。日本法人はデイテル。ホームページはhttp://www.datel.co.jp/
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【米タイコ・エレクトロニクス社】
Tyco Electronics
米タイコ・インターナショナル社の電子部品部門。米ルーセント・テクノロジー社のパワー・システムズ部門を買収し、事業を開始した。ホームページはhttp://power.tycoelectronics.com/。日本法人はタイコ エレクトロニクス パワーシステムズ。ホームページはhttp://power.tycoelectronics.co.jp/
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【スウェーデンのエリクソン社】
Ericsson AB
スウェーデンの大手通信機器メーカー。電源モジュールの製造/販売も行っている。電源モジュールのホームページはhttp://www.ericsson.com/products/powermodules/
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【MCM】
multi-chip module
マルチチップ・モジュール。1枚の基板に複数のベア・チップなどを搭載し、小型パッケージに収めたもの。
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【米インターナショナル レクティファイアー社】
International Rectifier Corp.
米国の電源用半導体メーカー。ホームページはhttp://www.irf.com/。日本法人はインターナショナル レクティファイアー ジャパン。ホームページはhttp://www.irf-japan.com/
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【オランダのロイヤル・フィリップス・エレクトロニクス社】
Royal Philips Electronics N.V.
同社の半導体部門のホームページはhttp://www.semiconductors.philips.com/。日本法人は日本フィリップス。ホームページはhttp://semicon.philips.co.jp/
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【米パワーワン社】
Power-One, Inc.
米国の大手電源メーカー。ホームページはhttp://www.power-one.com/
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*A-1)
チャック・サボリス氏は、米デイテル社でマーケティング・ディレクターを務めている。
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*B-1)
コナー・クイン氏は、米ミネソタ大学から博士号と修士号を取得、またアイルランドのユニバーシティ・カレッジ・コークから学士号を取得している。
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