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マイクロプロセッサーやチップ・セットなどは、かつてはUHF帯やマイクロ波帯の通信専用だった周波数で動作するようになってきた。こういったチップを搭載したシステムでは、半導体チップが発生する熱の管理(熱管理)が設計者にとって重要な課題となっている。半導体チップの温度が上昇するとその信頼性、すなわちMTBF*は指数関数的に低下するからだ。
信頼性の低下を回避するためには、システムに熱管理機能を組み込む必要がある。半導体チップの電源電圧を下げる、半導体チップのクロック周波数を低く抑える、チップ冷却用空気の風速を上げて放熱を強化するといった手法によって、ある程度は温度を制御できる。しかし欠点がある。クロック周波数を抑えることは性能の低下につながる。風速を上げたり、冷却用ファンを追加したりすると騒音が増大する。
チップ温度の測定方法
半導体チップ(ベア・チップ)の温度を正確に測定できれば、システムは必要に応じて半導体チップのクロック周波数を下げたり、ファンの回転数を高めたりできる。半導体チップの動作を維持しながら、できるだけ静かな状態で最大の性能を引き出せる。動作限界となる温度をより正確に測定できれば、最大性能をさらに高められる。
半導体チップの温度は極めて重要なパラメーターである。このため半導体チップによっては、外部から温度を測定できるようにしてある。通常はトランジスタをダイオード接続した素子か、あるいはダイオードそのものを半導体チップのホット・スポット(温度上昇が特に激しい部位)付近に搭載してある。このダイオードは、「サーマル・ダイオード」あるいは「リモート・ダイオード」と呼ばれる。
サーマル・ダイオードと接続してチップ温度を測定するセンサーICは、簡単に入手できる。このICは「リモート・ダイオード温度センサー」と呼ばれる。米ナショナル
セミコンダクター社のリモート・ダイオード温度センサーIC「LM86」は、その1つである。LM86のデータ・シートは、ほかのベンダーが供給している同種のICをリスト・アップしている。
こういった温度センサーICは、サーマル・ダイオードの温度が60〜100℃のときに±1℃の測定精度を備える。一見すると分かりやすい。ところがLM86のデータ・シートにあるグラフは、米インテル社のペンティアム4プロセッサー(サーマル・ダイオードを内蔵)にLM86を接続して120℃の温度を測定した場合の誤差がプラス側では12℃を超え、マイナス側でも4℃を超えることを示している。温度を測定するシステム全体の誤差は、温度センサーICの誤差よりも小さくならない。
もう少し詳しく説明しよう。ダイオードあるいはダイオード接続したトランジスタ(pn接合)の順方向電圧降下は、次式で求められる。

ここでISは逆方向飽和電流(シリコンの場合は通常10−15A、ただし製造プロセスに依存する)、IFは接合の順方向電流、qは電子の電荷量(1.6×10−19C)、kはボルツマン定数(1.38×10−23J/K)、Tは絶対温度(K)、ηは理想因子である。理想因子は接合が理想的な条件からどの程度ずれているかを示す。この値は製造プロセスに依存する。
順方向電圧降下は、2つのプロセス依存変数、すなわち逆方向飽和電流(IS)と理想因子(η)の関数になる。既知の順方向電流をダイオードに与え、順方向電圧降下を測定する。逆方向飽和電流と理想因子の値が分かれば、順方向電圧降下から動作温度を計算できる。図1には、動作温度が0℃、25℃、85℃、および125℃のときに、与えられた順方向電流値に対して順方向電圧がどのように変化するかを示した。なお図1では、逆方向飽和電流ISを1×10−15A、理想因子ηを1と仮定している。
逆方向飽和電流と理想因子の値は、半導体チップごとに変化する。そこで実際に利用するためには、温度センサーICとリモート・ダイオードの組み合わせごとに、既知の温度で校正を実行する必要がある。校正によって逆方向飽和電流と理想因子の値を確定させた後は、温度の関数としての電圧を温度センサーICが出力する。
しかし、リモート・ダイオードに対して温度センサーICを1つずつ校正する作業は、システムの大量生産を考慮すると実用的ではない。そこで別の測定手法によって校正手順を簡単にする。一方の電流値がifで、もう一方の電流値がN・IFの2個の電流源を利用して逆方向飽和電流ISの影響を取り除く(図2)。最初に電流値がifの電流源を利用して順方向電圧を測定し、次に電流値がN・IFの電流源を利用して順方向電圧を測定する。順方向電圧の差ΔVは温度と理想因子の関数であり、逆方向飽和電流には依存しない。このことを以下の式で説明する。

式Aは、式@で−1の項を削除して単純化したものである。−1の項はほかの項に比べると小さいので無視できる。式CからΔVの測定値が、ダイオードの温度と、ダイオードの理想因子ηD、温度センサーが内蔵する電流源の電流比Nに依存すると分かる。
リモート・ダイオード温度センサーICは、温度を読み取るまでに順方向電圧測定を2回実行する。1回目は単位電流値(IF)の電流源を使い、2回目は単位電流のN倍(N・IF)を出力する電流源を使う。LM86では、電流源の電流比Nは16に設定されている。温度によってΔVがどのように変化するかを把握するためには、1対の温度、例えば84℃と85℃に対して式Bを解けばよい。温度が1℃変化すると、ΔVは241μVだけ変化すると分かる。
式Bを温度について解くと、温度センサーICが実際に測定する値となる。温度センサーは順方向電圧を2回測定して電圧値の差(ΔVF)を計算し、温度TOUTに変換する。変換前には温度センサーICを、リモート・ダイオードの理想因子で校正しておく必要がある。温度センサーICが仮定している理想因子とリモート・ダイオードの理想因子が同じ値の場合は、出力に誤差は生じない。しかし製造プロセスの違いや部品間のばらつきなどによって理想因子がずれている場合は、温度の読み取り値に誤差が生じる。
式Bは、ある理想因子を有するダイオードの順方向電圧を与える。式Cで理想因子を仮定することで、温度TOUTを計算できる。

式Cを式Dに代入し、単純化することにより次式Eが得られる。

式Eは、ダイオードの理想因子ηDと温度センサーICの理想因子ηSの比が温度の読み取り値を決めることを示している。両方の理想因子が等しくないと、誤差が発生する。
実際の半導体デバイスを用いた測定
それではサーマル・ダイオードを搭載した実際の半導体チップの測定を検討しよう。インテル社がマイクロプロセッサーのデータ・シートに掲載しているサーマル・ダイオードの理想因子を表1に示す。温度センサーICの多くは、理想因子を1.008に校正してある。これは2N3904および2N3906タイプのトランジスタやペンティアムVプロセッサーの理想因子(標準値)に等しい。従って温度センサーICとペンティアムVプロセッサーを組み合わせたときは、誤差が最小になる。しかし、温度センサーICをペンティアム4プロセッサーに接続した場合は、かなりの誤差を生じてしまう(図3)。
サーマル・ダイオードの理想因子と、温度センサーICの理想因子が一致しているかどうかは、温度測定の誤差を大きく左右する。理想因子が1.008の温度センサーICと0.13μm版ペンティアム4プロセッサー(0.13μm技術で製造したチップ)の組み合わせでは理想因子は完全には一致していないものの、0.13μm版ではないペンティアム4プロセッサーに比べると、誤差のばらつきが小さい(図3(b))。0.13μm版ペンティアム4プロセッサーの理想因子は、最大値と最小値の差がかなり小さいからである。
システム設計者は、サーマル・ダイオードにおける理想因子以外の誤差要因も考慮する必要がある。それはサーマル・ダイオードの直列抵抗だ。最近のインテル社のデータ・シートは、サーマル・ダイオードの直列抵抗を掲載している。0.13μm版ペンティアム4プロセッサーの場合、直列抵抗の標準値は3.64Ωである。ノート・パソコン用ペンティアム4プロセッサーでは直列抵抗は3.86Ωになる。直列抵抗は、ピンの抵抗を含めたダイオード回路の内部抵抗である。ソケットの抵抗や外部リードの抵抗は含めていない。インテル社は、ソケット抵抗と外部リード抵抗については標準値だけを公表している。
直列抵抗は、温度センサーICが測定する順方向電圧の差ΔVにオフセットを加える(図4)。直列抵抗がなければ、ΔVはダイオード特性と測定電流源の関数になる。直列抵抗があると、ΔVは増加する。温度の読み取り値に与える影響は式Fで与えられる。

ここでIMINは単位電流源(2つの電流源で小さい方)の電流値、Nは電流源の電流比、Rは全体の直列抵抗、そしてηSは温度センサーICの校正済み理想因子である。直列抵抗が発生する誤差は、温度の読み取り値に正のオフセットとして追加される。その値は温度センサーICの測定用電流源の許容値によって変化する。
直列抵抗の違いによる温度測定の誤差を3通り示す(表2)。インテル社製マイクロプロセッサーの場合は、2品種のデータ・シートから最大配線抵抗と実際の直列抵抗の値を1Ωで代表できる。温度センサーICであるLM86の電流比Nは16、単位電流源の設定範囲は7μ〜20μAである。電流比Nが小さい温度センサーICを用いれば、オフセット誤差を小さくできる。ただし、ΔVおよび雑音耐性とのバランスを取る必要がある。
先述のように、直列抵抗は温度の読み取り値に正のオフセットを追加する。次の式Gは理想因子と直列抵抗の項を組み合わせた式である。この式を使って温度の読み取り値を計算できる。

ノート・パソコン用0.13μm版ペンティアム4プロセッサーとLM86を組み合わせ、40〜100℃の温度範囲で動作させて温度を測定した場合、式Gを利用すると総合的な誤差は−0.82〜3.3℃の間に入る。通常、技術者は数個のシステムを測定して温度の読み取り値における平均誤差を確定させる。そして読み取り値からオフセットの平均値を差し引いて温度の値を求める。このため温度センサーICによっては、オフセット・レジスターを内蔵している品種がある。
理想因子と直列抵抗以外では、電気的な雑音と熱電対効果が温度測定の誤差要因となる。微小な電気的雑音であっても、温度の読み取り値に1℃の誤差を与えることがある。式A〜式Cは、1℃の温度変化がΔVに約241μVの変化を生じることを示していた。従って温度測定中に雑音によって241μVの電圧変化が生じれば、温度の読み取り値に1℃の誤差を与えることになる。
温度センサーICのダイオード入力は差動型(D+とD−)である。シングル・エンド型の入力に比べ、雑音耐性を大幅に高められる。温度センサーICの中には、雑音耐性を高めるためにデジタル・フィルターを内蔵した品種がある。ソフトウエア制御によってユーザーは、レベルの異なる2種類の移動平均フィルターを構成できる。
しかしさらに重要なのは、プリント基板のレイアウトを適切に実行することである。雑音を抑えるために推奨されている手法として、ダイオード入力D+とD−の配線をできるだけ接近させ、かつ対称に配置することが挙げられる。D+とD−のペア配線の両側にグラウンド・パターンを配置したり、温度センサーICをサーマル・ダイオードに可能な限り近づけてレイアウトすることも雑音対策として有効である。D+とD−のペア配線はほかの信号配線からできるだけ離して配置し、D+とD−のペア配線とほかの配線を交差させる角度は直角とすることが望ましい。
熱電対効果についても触れよう。種類の異なる金属が接触すると、温度差に比例した微小電圧が発生する。これが熱電対効果である。例えば、一般的なはんだと銅の接点では、3μV/℃の電圧が生じる。熱電対効果がプリント基板で重大な問題を引き起こすことはあまりない。サーマル・ダイオードへの配線ではんだと銅の接続部をできるだけ少なくしたり、D+とD−の配線が異種金属の接合部を同じ数だけ含むようにレイアウトすることで熱電対効果を抑えられる。またこの異種金属接合部を温度が同じになるように配置することも、熱電対効果の低減に効果がある。
外部直列抵抗による誤差を最小化するためには、温度センサーICとサーマル・ダイオードをなるべく近づけること、サーマル・ダイオードへの配線にソケット接続を使用しないこと、配線の幅を10ミル(0.25mm)以上とすること、サーマル・ダイオード回路内では良好なはんだ接続を保つことが望ましい。
正確な温度測定は、パソコン・システムにおけるインテリジェントな熱管理の基本である。熱管理機能を正しく設計することによってシステムの性能を高めるとともに、騒音を抑えられる
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