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designideas
2003年9月号
ジッターに注目、
信号を揺らす原因に迫る

数Gビット/秒のインターフェース技術やバス技術が普及してきた。この結果、データの完全性を保証するジッター測定の重要度が急速に増している。測定器としては、オシロスコープやビット誤り率テスター(BERT)などがある。アイ・ダイアグラムの表示は、従来はオシロスコープでしか実現できなかったが、最近ではBERTにその機能を搭載するようになった。事前にシステムのアイ・ダイアグラムをシミュレーションするソフトウエアも登場している。ハードとソフトを使いこなすことが、ジッターに関する問題を解決するカギになる。
  

ダン・ストラスバーグ
Dan Strassberg
 現在、システム設計者の間で「ジッター」がホットな話題になっている。見ただけで簡単に理解できることに加えて、データの完全性(データ・インテグリティー)を損なう多くの現象を定量化できるからだ。さらにアイ・ダイアグラムを使えば、グラフィカルな表示も可能である。
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 確かにジッターは重要な特性だ。その重要性を否定するつもりはない。しかし注目を集めるだけの価値があるかどうかは別の問題といえる。例えばビット誤り率テスター(BERT*)を扱う測定器メーカーはジッターではなく、むしろデータ・ストリーム中のエラーの確率を示すビット誤り率(BER*)に目を向けるべきだと指摘している。しかし一般には、「ジッターを使えばデータの完全性に関する問題を解決でき、ビット誤り率ではこの問題を解決できない」と信じられている。
 こうした考え方に対して、BERTメーカーはこう反論する。「最新のBERTならば単にビット誤り率を求める以上の情報が得られる。データ・エラーに関する問題を発掘する上でおそらく最良で最速のツールである」。しかしBERTメーカーやシグナル・インテグリティー用測定器メーカーは、最近ではオシロスコープでしか得られなかったアイ・ダイアグラムの表示機能を装備しつつある。こうした動きの理由として、標準規格に準拠するために必要なことが挙げられる。しかし決して最大の理由ではない。最大の理由は、アイ・ダイアグラムはジッター測定における信用をすでに勝ち取っており、アイ・ダイアグラム表示機能を備えないシグナル・インテグリティー用測定器を買いたがらない技術者が多いという、営業部門の実感である。

表1 数Gビット/秒に対応したジッター測定/シグナル・インテグリティー測定向けツール 出典:米アジレント・テクノロジー社。
    電子部品   サブシステム   システム  
テストを実行する段階 研究開発 製造 研究開発 製造 研究開発 製造






3.2Gビット/秒未満 帯域幅が6GHzのリアルタイム・サンプリング・オシロスコープ 帯域幅が20GHz以上のシーケンシャル・サンプリング・オシロスコープ 帯域幅が6GHzのリアルタイム・サンプリング・オシロスコープ 帯域幅が20GHz以上のシーケンシャル・サンプリング・オシロスコープ 帯域幅が6GHzのリアルタイム・サンプリング・オシロスコープ 帯域幅が20GHz以上のシーケンシャル・サンプリング・オシロスコープ
ビット誤り率テスター(BERT)(ユーザーが設定した電圧とUI内の時刻で入出力を比較できる機能を備えた機種) ビット誤り率テスター(BERT)(ユーザーが設定した電圧とUI内の時刻で入出力を比較できる機能を備えた機種)  
低ジッターのパルス発生器 低ジッターのパルス発生器  
周波数領域でジッターを観測できる高性能な測定システム 周波数領域でジッターを観測できる高性能な測定システム  
3.2Gビット/秒以上 帯域幅が20GHz以上のシーケンシャル・サンプリング・オシロスコープ 帯域幅が20GHz以上のシーケンシャル・サンプリング・オシロスコープ 帯域幅が20GHz以上のシーケンシャル・サンプリング・オシロスコープ
ビット誤り率テスター(BERT) ビット誤り率テスター(BERT) ビット誤り率テスター(BERT)
パラレル方式のBERT パラレル方式のBERT パラレル方式のBERT
伝送媒体(メディア) 周波数領域で物理層をテストできる測定システム 高性能なTDRオシロスコープ 周波数領域で物理層をテストできる測定システム 高性能なTDRオシロスコープ 周波数領域で物理層をテストできる測定システム 高性能なTDRオシロスコープ

 実際に多くの技術者は、数Gビット/秒のデータ・ストリームが銅線を伝搬するときのデータの完全性を保証するためには、データの劣化に対応する多くのハードウエアやソフトウエアのツールの中から、複数のツールを使う必要があると指摘する。表1は、米アジレント・テクノロジー社*の資料を基に、本誌がまとめたものだ。同社は、数Gビット/秒のデータ・ストリームにおけるジッターなどを測定、解析するために、ほかの測定器メーカーよりも多くのツールを供給している。しかしそれでもなお表は完全には埋まっていない。例えば、同社は米ヒューレット・パッカード社の時代から、他社に先駆けてTIA(タイム・インターバル解析装置)を販売してきたが、数Gビット/秒のデータ・ストリームに向けたTIAは今もなお製造していない。
 今回の記事では、時間軸におけるジッターについて論じる。このジッターは、クロック周期もしくはユニット・インターバル(UI*)の中で事象(イベント)が発生する時点が変動する現象を指す。多くの場合、イベントとは論理状態の遷移である。理想的には、この状態遷移点はUIの中で変わらないはずだ。しかし実際には、ジッターは常に生じている。ジッターがいかにデータ・エラーの原因になるのかを図示するには、おそらくアイ・ダイアグラムに優る手段はない(図1)
 アイ・ダイアグラムは、実際のクロック信号、もしくは再生したクロック信号をタイミングの基準値に用いて、多数のUIの波形を重ね書きしたものだ。このパターンを見れば、データの状態遷移点が変動することで、期待していた論理値が逆になった際の原因を見つけ出せる。UIが長ければ、データが適正がどうか判断するために注目すべき点を見つけ出すことは簡単だ。しかしデータ伝送速度が高くなりUIが短くなると、この点を見つけ出すことは非常に困難になる。

ジッターとビット誤り率

 ジッターには、確定的(デターミニスティック)な成分が含まれている。この成分はDJと呼び、発生量を予測することが可能だ(図2)。有限の期間を測定することで、DJの最悪値を求められる。DJの確率密度関数(PDF*)は有限である(図3)
 しかしジッターにはランダムな成分も含まれている。RJ(ランダム・ジッター)と呼ぶ。通常、RJを示すタイム・インターバル分布は、ガウシアン分布のPDFになると仮定する(図4)。連続したUIを対象に、RJの瞬時値の測定を続ければ続けるほど、RJのピーク・ツー・ピーク値は大きくなる。非常に長い時間測定すれば、この値は無限大になってしまう。このためRJは通常平均値(rms)で表す。言い換えれば、ガウシアン分布のPDFにおける1σ(標準偏差)の値に等しい。
 ジッターがガウシアン分布で、システムの耐性がRJの1σ値の数倍に相当するピーク・ツー・ピーク・ジッターまで確保できていれば、表2を使ってシステムのビット誤り率を決定できる。多くの場合、ビット誤り率の目標値は10−12以下である。すなわち1兆個の伝送ビットに対してエラー・ビットは1個しか許されない。こうした低い誤り率を実現するためには、システムは±7σのランダム・ジッターがあっても、エラーを発生させないようにしなければならない。すなわちシステムのジッター許容度は、最小で14σ(ピーク・ツー・ピーク値)を確保する必要がある。

表2 ビット誤り率とピーク・ツー・ピーク・ジッターの関係
TJ(ピーク・ツー・ピーク・ジッター)は、システムが許容できる最大のジッターを指す。出典:米ウェーブクレスト社。
TJ(ピーク・ツー・ピーク値) ビット誤り率
1.3×10−3
3.17×10−5
10σ 2.87×10−7
12σ 9.87×10−9
14σ 1.28×10−12
14.069σ 1×10−12

 理論的には、ジッターがガウシアン分布であると仮定すると、ビットの遷移回数が平均で1.3×10−12の場合でも±7σのジッターの許容範囲を外れてしまう。従って、1.0×10−12のビット誤り率を達成するには、ジッターが14.069σの範囲まで存在していてもシステムはエラーを起こさないように設計する必要がある。しかし多くのシステム設計者は14σで問題ないと判断しているようだ。
 時間軸におけるジッターを直接観測する際は通常、時間領域で行う。しかし時間領域と周波数領域には密接な関係があるため、周波数領域でも時間ジッターを観測できる。例えばスペクトラム・アナライザーは周波数領域の測定器だが、時間ジッターを検出可能だ。RJは周期的な現象のスペクトラム・ピークを広げる効果がある。DJの1種であるPJ(周期的ジッター)は、繰り返し速度に相当する周波数にピークが生じる。数Gビット/秒のデータ・ストリームであれば、繰り返し周波数は数GHzになる。こうした高周波に対応でき、さらにスペクトラム・ピーク間隔の分解能が数10〜数100Hzのスペクトラム・アナライザーがあれば、ピーク周波数とその周辺の周波数との関係から直ちにジッターの原因に迫ることが可能になる。
 アジレント・テクノロジー社やアンリツ*は、時間ジッターの測定や、その特性を把握する用途に向けた周波数領域の測定器を用意している。これらの測定器は、銅線ネットワークのデータ・ストリーム測定に向くが、光ネットワークの非常に高速なデータ・ストリームにも使えることが特徴だ。最近、銅線と光の境界線はあいまいになりつつある。例えばファイバー・チャネルは光通信を意味する名前にもかかわらず、高速の銅線ネットワークもカバーする仕様になっている。一部のシグナル・インテグリティー専門家によると、FCIA*(ファイバー・チャネル工業会)が提供している数Gビット/秒の銅線ネットワークに向けた資料は、データの完全性を測定する手法に関して最も権威あるものだという*1)

受動素子がジッターの原因に

 受動素子がジッターの原因になることもある。ジッターが発生した際に良く状況を吟味しなければ、受動素子が時間ジッターを与えたり、波形を劣化させ得る事実に気づかないだろう。実際に受動素子は、反射を発生させたり、雑音を拾ったり、信号の振幅を減らしたり、信号の立ち上がりを鈍らせたりすることで信号波形を劣化させる。すなわち信号の周波数帯域を狭くしてしまう。
 能動素子のしきい値領域を超えるほど信号が長い場合は、ICにおいて状態遷移を検出する時刻を不確定なものとしてしまう。この不確定性がジッターを生む。同様にSN比(信号対雑音比)を下げる原因となる振幅の減衰もジッターの発生原因となる。特に、信号の出力が始まったばかりで、振幅があまり大きくない状況でジッターが生まれやすい。例えば、LVDS*やそのほかの超高速伝送システムでよく見られる現象である。
 米TDAシステムズ社*が販売している「IConnect」のようなEDAソフトウエアを使えば、TDR*TDT*といった測定手法を使って伝送線路やコネクターをモデル化できる。このモデルを利用することで、シミュレーションでアイ・ダイアグラムを解析できる。完成度は非常に高く、オシロスコープで測定したものと区別できないほどだ。
 ジッター測定器には、多くのタイプがある。この中で、米ガイドテック社*米ウェーブクレスト社*がそれぞれ販売しているTIA(タイム・インターバル測定装置)が、製造ラインにおけるテスト装置の業界標準となっている。特にウェーブクレスト社は、RJとDJの分離技術に関して重要な特許を所有している。さらに同社は、ジッターに関する優れた入門書を発行している*2)。同社によれば、製造ライン用のジッター測定器にもかかわらず、供給した測定器の半数以上が研究開発用途で使われているという。
 ガイドテック社とウェーブクレスト社の測定器は、いずれもトリガーを使わない。テスト中の信号の状態遷移からタイミングを特定する。しかし両社のアーキテクチャーは根本的に異なる。ウェーブクレスト社のTIAは、UIの長さ(期間)と波形のデューティー比を直接測定する。一方、ガイドテック社は状態遷移が起こった時間を非常に高い精度で記録し、この格納したタイム・スタンプから所望の値を計算する。
 数Gビット/秒のデータ・ストリームを測定する場合、いずれの測定器ともにすべてのUIに対して状態遷移が起こった時刻や、その長さ(期間)、デューティー比も測定するわけではない。しかしいずれも状態遷移を認識し、カウントできる。ガイドテック社によると、「当社の製品は他社製品に比べて、単位時間当たりの測定を数多くできる」と主張している。さらに両測定器ともに、しきい値を変えて一連の測定を行うことで、オシロスコープと同様なアイ・ダイアグラムを得られる。

ジッターの代わりにBERを測定

 ビット誤り率テスター(BERT)の構成は極めて単純だ。最も重要な機能ブロックはパルス・パターン発生器である。これを使ってシリアル・データ・ストリームを生成し、テスト対象物(UUT*)に印加する。2番目に重要な機能ブロックは、判定用比較器である。UI内のある時刻でUUTの出力値と期待値を比較する。3番目に重要な機能ブロックはカウンターである。データ・ストリームを構成するUIの全数、さらに判定点で測定データと期待値が異なるUIの数をカウントする。
 高性能なビット誤り率テスターでは、判定点を変えるほかに、比較器の1と0のしきい値を変化させられる。ビット誤り率が最も低い、すなわち最善の状態になるのは、常に受信データを正確にUIの中央でサンプリングし、1と0のしきい値が正確に信号振幅の中点にある場合と考える技術者は多いだろう。しかし、DJ(確定的ジッター)の原因について有用な知見が得られるサンプリングのタイミングやしきい値は、理想値から外れたところにある場合が多い。さらにビット誤り率テスターでは、サンプリング点やしきい値を変えることで、アイ・ダイアグラムだけでなくジッターのバスタブ曲線を作成できる(図5)
 バスタブ曲線は、アイ・ダイアグラムの断面図である。アイ・ダイアグラムではよく、カラー表示を使って各画素に信号の出現頻度を表示する。しかし最新のパソコン用ビデオ・アダプターを使えば、3次元のアイ・ダイアグラムを作り出せる。出現頻度にカラー表示を使わない。画面上の画素ごとにおける高さを使って表示する。
 こうして作成した3次元表示のアイ・ダイアグラムの設定電圧レベルに「ナイフ」を当ててスライスすると、バスタブ曲線が得られる。ただし表示データのダイナミック・レンジを最大にするために、バスタブ曲線の縦軸である出現頻度は対数スケールを使うのが一般的だ。通常、3次元表示で見られる線形スケールではない。
 ジッターのバスタブ曲線を得る方法は、もう1つある。UI内の判定点に対してビット誤り率(対数スケールで表示された値)をプロットする方法である。このバスタブ曲線は、前述のものとほとんど変わらない。しかし場合によっては、より有用な場合がある。アイ・ダイアグラムはPDFを表示するが、ビット誤り率はCDF(累積分布関数)を表示するからだ。

シーケンシャルかリアルタイムか

 数Gビット/秒のデータ・ストリームに向けたジッター測定には、2つのタイプのデジタル・オシロスコープが有用である。一般的なタイプは、リアルタイム・サンプリング・オシロスコープである。現行機種の最大周波数帯域幅は6GHzである。専門的なタイプとしては、帯域幅が80GHzと広いシーケンシャル・サンプリング・オシロスコープがある。このタイプのオシロスコープをアジレント・テクノロジー社では「DCA(デジタル・コミュニケーション・アナライザー)」と呼ぶ。一方、米テクトロニクス社*は「CSA(コミュニケーション・シグナル・アナライザー)」と名付けている。テクトロニクス社では、CSAと名付けたモデルを複数用意している。しかし、すべてがシーケンシャル・サンプリング機とは限らないことに注意して欲しい。一部には、リアルタイムでサンプリングでき、さらにランダム・サンプリング・モードで動作する機種もある。
 広帯域オシロスコープの第3のメーカーは米レクロイ社*だ。しかし同社は、シーケンシャル・サンプリング機を製造していない。同社の最高性能機は「SDAシリーズ」である。これはリアルタイム・サンプリング機で、ランダム・サンプリングもサポートしている。同社はこのモードを「RIS(ランダム・インターリーブ・サンプリング)」と呼ぶ。
 リアルタイムとシーケンシャルの2つのサンプリング・オシロスコープは、いずれもトリガーと安定した遅延時間の後に繰り返し波形を必要とする。しかし波形は周期的である必要はない。シーケンシャル・サンプリング機は、非常に広い帯域幅を有しているにもかかわらず、リアルタイム・サンプリング機よりも波形をゆっくり取り込む。トリガーがかかると1回のサンプリングを行う。その後、次のトリガーに対する準備のために、サンプリング点を少し先に進める。こうすることでシーケンシャル・サンプリング機は高周波信号を非常に低い周波数の信号に変換する。この動作モードを搭載することで、実際のサンプリング速度は200kサンプル/秒に過ぎないが、1秒当たり数1000億サンプルあるいは数兆サンプルといったサンプリング速度を実現できることになる。
 シーケンシャル・サンプリング機でこうした広い周波数帯域幅を実現できる理由の1つには、サンプリング回路に0次のホールド回路(ボックスカー・サンプラー)を採用していることがある。サンプリングを1回完了すれば、処理を行ったアナログ波形は超高周波入力信号に対する低周波のレプリカになる。
 このほかシーケンシャル・サンプリング機のメリットとして、A-D変換速度が比較的低いため、分解能が高いA-D変換器を使えることが挙げられる。14ビットは普通である。一方、広帯域のリアルタイム機では8ビットが一般的だ。ただし、繰り返し波形の読み取り値を平均化する処理を行うことで、8ビットを超える分解能を得られる。
 デジタル・オシロスコープで正確なジッター測定を行うには、アパーチャー不確定性が低いことが求められる。アイ・ダイアグラムの測定を行うには、トリガー信号を発行してから波形の測定を開始するまでの時間、すなわち外部遅延は非常に安定していなければならない。この時間は、測定しようとしているジッターに加わるからだ。しかし心配しないで欲しい。これらの時間の安定性は、最新の機種ではfs(フェムト秒)オーダーと小さい。
 実際にジッターを測定する場合を想定する。ここで、測定すべき本来のジッターに加えて、測定の際には200fs rmsのRJ(ランダム・ジッター)源を3つ考慮しなければならないと仮定する。なおRJ源はすべてガウシアン分布のPDFで表現できるとする。すなわち3つのRJ源の分布は形状が似ており、その値はrmsで表される。このため2乗和の平方根をとってこれらを足し合わすことが可能だ。この結果、√120000fs=346.4fs rmsのジッターが本来のジッターに加わることになる。この値は、ガウシアン分布の±7σの点に相当し、約4.874 ps p-pに等しい。
 例えば、3.125Gビット/秒のデータ・ストリームを測定する場合を考える。この場合、UIの期間は320psである。従って、4.874ps p-pのジッターが加わっても、UIの約1.5%に過ぎない。1つのUIに2つの状態遷移が含まれる場合でも、UIのわずか約3%である。ほとんど問題にならない。
 オシロスコープ・メーカーは、3.125GHzのデータ・ストリーム測定においては、現状で最高性能のリアルタイム・サンプリング機が達成している6GHzの−3dB帯域幅で問題ないと主張する。しかし多くの技術者は納得していないようだ。
 こうした技術者は−3dB帯域幅が1けた以上高いシーケンシャル・サンプリング機を好む。この選択には正当な理由がある。エイリアシングと呼ぶ現象がその理由だ。この現象は、PJ(周期的ジッター)に似たスプリアス周波数成分が信号に重畳されるものである。オシロスコープのA-D変換器に、fN(ナイキスト周波数、すなわちサンプリング周波数の半分)を超えるエネルギーが多く含まれる信号を入力する場合に現れる。現在、最もサンプリング速度が高いリアルタイム機は20Gサンプル/秒品である。この場合fNは10GHzである。前述の6GHzという−3dB帯域幅では、このfNの60%しかない。このため実際には、遮断周波数が急しゅんなフィルターを使って、fN以上の周波数成分を減衰させてエイリアシング問題が起きないようにしている。しかし、ピーク・ツー・ピーク振幅が1LSB*(最小量子化ビット)以上の信号がA-D変換器に入力される可能性もある。この場合は、エイリアシングやジッター測定に影響を与える。これこそが技術者が−3dB帯域幅にこだわる理由である。

非常に長い時間が必要に

 シーケンシャル・サンプリング機は、スループットが低いことで悪名高い。1秒当たりに捕捉し、表示できる波形数が非常に少ない。こうした問題は、ジッター測定にどのような影響を与えるのであろうか。答えはこうだ。リアルタイム機が抱えている問題に比べれば、特に心配するような問題ではない。
 シーケンシャル・サンプリング機は、ほとんど例外なくリアルタイム機よりも遅い。しかしアーキテクチャーに依存するが、リアルタイム機はデータ処理に時間がかかる。例えば、サンプル点の間を補間する(sinx)/x演算処理である。シーケンシャル・サンプリング機は、サンプリング密度が高いためこうした演算処理は必要ない。
 最高速のリアルタイム機のサンプリング速度は前述のように20Gサンプル/秒である。すなわち50psごとにサンプリングを1回実行する。3.125Gビット/秒のビット・ストリームのUIは320psである。従ってリアルタイム機では、各UIの期間内でビット・ストリームを6回か7回しかサンプリングできない。この6個、もしくは7個のサンプリング信号と、UI期間の外部のサンプル信号を利用して、UI期間内のアナログ波形を再現する。ただし入力データの帯域幅が10GHz以下に制限されていれば、この再現方法で問題は生じない。
 しかしオシロスコープには、もう1つの問題がある。波形メモリーの容量に関する問題だ。現在入手できるリアルタイム機の中で最も波形メモリー容量が大きい製品は、1チャンネル当たり96Mサンプルである。このメモリーを使って3.125Gビット/秒のビット・ストリームを20Gサンプル/秒で取り込むと、1500万UIしか捕捉できない。テスト対象物(UUT)のビット誤り率が10−7を実現できているか、どうかを判断するには十分な長さだろう。しかしメモリーが一度いっぱいになってしまえば、ビット誤り率を評価するためには不十分なデータしか捕捉できなくなってしまう。
 さらにオシロスコープは、1500万ものUIに対して、波形がアイ・マスクの禁止領域(オープン・ゾーン)に入っているかどうかを確認して、エラーの可能性を評価するテストが必要になる。このテストは時間がかかる。例えばビット誤り率が10−12の仕様を満足するかを判定するには、最低でも1012回のテストが必要だ。すなわちオシロスコープは1500万回のテストを、少なくとも6万6677回繰り返さなければならない。ある技術者によると、ビット誤り率が仕様を満足していると判定するにはエラーが100回積算されるまでテストを繰り返すべきだという。このような控えめな方法でも1014回のテストが必要になる。オシロスコープが1回のテストにどのくらい時間を費やすかは分からない。仮に1つのUIに対するテストが1μsで終わるとする。この場合、1つのエラーを捕捉するまで1012μsを費やし、100個のエラーを捕捉するまでには1014μsもかかることになる。すなわち106〜108秒もかかる。24時間休みなくテストを行ったとして、11.57〜1157日。すなわち3.17年もかかる計算になる。
 BERTは、オシロスコープに比べるとはるかに高速である。通常の処理時間を含めても、1012個ものUI(320ps)に対して1つのエラーが発生したかどうかを直接判断するのに、10分もかからない。ビット誤り率に求められる仕様を10−12と仮定し、エラーを100個蓄積するとしても、BERTであれば1晩のテストで終わる。1000分はかからない。演算処理のオーバーヘッドを無視すれば、最長でも533分で済む。
 このためBERTを製造していないオシロスコープ・メーカーでさえ、BERTとオシロスコープの併用を勧める。その上、BERTはシリアル・データ発生器を備えている。これは、オシロスコープを使って行う多くのテストに利用できるものだ。最近では、米シンセシス・リサーチ社*の「BitAlyzer1500」のように、アイ・ダイアグラムを表示する機能を備えたBERTもある。テストの内容によっては、オシロスコープを省くことができる。同社は、この機能を搭載したことでユーザーの多くがオシロスコープを省いたり、新しいオシロスコープを購入せずに済むようになった、とまでは言っていない。しかし大幅に時間を節約できると説明している。オシロスコープとBERTの両方が必要な場合でも、ケーブルをオシロスコープからBERTに接続したり、再度戻したり、といった回数を減らせるからだ。

いくつかの未検討事項

 高速バスの規格を策定する業界グループがそれぞれ、ジッター測定に関する標準仕様を開発してきた。この中に、「K28.5」と呼ぶデータ・パターンがある。これはファイバー・チャネルのテストに利用されているものだ。この分野の技術者によると、このパターンは非常に有用だという。理由は、長さはわずか20ビット(00111110101100000101)に過ぎないが、5個連続した「1」と5個連続した「0」を含み、さらにデータ・ストリームの平均電圧レベルをシフトさせることができることにある。このパターンを繰り返すことで、(0101001)や(1010110)という数列も得られる。DDJ(データ依存ジッター)を調べることができる。
 ジッター測定に向けた新しい装置として、プロトコル・アナライザーがある。従来プロトコル・アナライザーは、シグナル・インテグリティー(信号品質)に関する問題だけに使われていたようだ。具体的には、シグナル・インテグリティーに関する問題が原因で発生するプロトコル違反を追跡する用途で使われていた。しかし一般には、プロトコル違反の原因を突き止める必要がある。プロトコル・アナライザーから得られる情報は、原因の特定に役立つことは間違いない。しかし物理層の問題まで到達するためには、オシロスコープのようなアナログ波形を測定できる装置が必要になる。
 そこで米データ・トランジット社*は、プロトコル・アナライザー「BusDoctor Rx」に着脱式のアイ・ダイアグラム表示用モジュールを用意した。「EyePod」と呼ぶ。プロトコル・アナライザーのホストの役割を果たすパソコンの画面上でアイ・ダイアグラムを観測できる。同社によると、このモジュール(Pod)を使えばBERTの置き換えは難しいが、オシロスコープをテスト対象物(UUT)に接続する手間を省けると主張している。
 ジッター測定に関して、「黄金のPLL(golden PLL)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。黄金のPLLとは通常、データ・ストリームからトリガー信号を抽出する回路を指す。このトリガーはアイ・ダイアグラムの測定に用いられる。このPLLは、ハードウエアを使って構成するのが普通だ。しかしソフトウエアで構成する場合もある。オシロスコープ内部の演算処理によって、アイ・ダイアグラムを表示する。オシロスコープ・メーカーによってアプローチが異なる。このため黄金のPLLに関しては、ハードウエア方式を好む立場とソフトウエア方式を好む立場の両方で議論を戦わせている。
 このほか、ジッター測定に用いられる方法にTIE(タイム・インターバル・エラー)とジッター・トラックがある。黄金のPLLに限らず、安定したトリガー源であればアイ・ダイアグラムの基準信号に利用できる。さらにジッター・トラックを格納する際にも使える。ジッター・トラックとは、タイム・インターバルの測定を逐次記録したものだ。タイム・インターバルは、ジッターがなければ同じ時間間隔になる。複数回実行する一連の測定における各測定の開始点には、このようなトリガーが使われる。ジッター・トラック内におけるすべての測定結果の平均値を求めて、各測定値からこの平均値を差し引くと、時間とTIEの関係を得ることができる。TIEのヒストグラムをプロットすれば、rmsやピーク・ツー・ピーク・ジッターといった値を求めることが可能だ。

企業の特許戦略に一言あり

 最後に、ジッター測定について1つだけコメントしたい。独自技術の役割についてである。ジッターはデータの完全性にとって非常に重要なため、多くの企業がジッター測定に関する研究に取り組んでいる。こうした企業の中には、優秀な技術担当者を標準策定団体に送り込んでいるところもある。この技術担当者の使命は、その企業が特許を所有している技術を標準仕様に盛り込むことだ。標準仕様の一部として盛り込まれれば、非常に強い立場を手に入れられる。競合メーカーにライセンスを供与する場合は、その技術を組み込んだ製品を販売しても、決して回収できないような高額なライセンス料を要求する。このため特許を所有していない企業は、同じ測定を実行できる別の技術を開発しなければならない。
 時には、代替技術の方が技術的に優れている場合もある。しかしこうした優れた技術であっても、これを提案する企業は特許技術と等価な結果が得られることを証明する負担を強いられる。これは無駄な作業と言えるだろう。市場が混乱する恐れもある。この結果、重要な技術の普及を阻害するという「標準」の負の部分が強調されることになる。こうした事態を引き起こした企業は多分、自分たちが上手く立ち回ったことを誇りに思っていることだろう。しかしそれは、裏を返せば利己的過ぎると言えるのではないだろうか。

用語解説 / 会社情報
【BERT】
bit error rate tester
ビット誤り率テスター
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【BER】
bit error rate
ビット誤り率

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【米アジレント・テクノロジー社】
Agilent Technologies Inc.
米国の大手計測器メーカー。通信用半導体なども手がけている。ホームページはhttp://www.agilent.com/。日本法人はアジレント・テクノロジー。ホームページはhttp://www.agilent.co.jp/
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【UI】
unit interval
ユニット・インターバル。1UIは、ビット・ストリームの1周期分の時間である。
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【PDF】
probability density function
確率密度関数
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【アンリツ】
Anritsu Corp.
国内の大手計測器メーカー。ホームページはhttp://www.anritsu.co.jp/
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【FCIA】
Fibre Channel Industry Association
ファイバー・チャネル工業会。ホームページはhttp://www.fibrechannel.org/。なお日本国内には、同団体との姉妹関係になる「ファイバチャネル協議会」がある。ホームページはhttp://www.fcaj.org/。
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*1)参考文献
Nguyen, John, Pierre Raymond, and Hu Yoshida, Multiprotocol Fibre Channel: the foundation for server and storage data networks, Hitachi Data Systems, Santa Clara, CA, www.hds.com/pdf/wp94_multiprotocol_fc.pdf.
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【LVDS】
low voltage differential signaling
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【米TDAシステムズ社】
TDA Systems, Inc.
TDA/TDT測定で得た波形情報を基に、Spice(スパイス)解析モデルを生成するソフトウエア「IConnect」などを販売する米国のEDAベンダー。ホームページはhttp://www.tdasystems.com/。国内販売代理店は、エイ・ティー・イー・サービス。ホームページはhttp://www.ate.co.jp/
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【TDR】
time domain reflectometer
まず立ち上がり時間が短い高速パルス信号をケーブルや電子部品に入力する。その後、印加したパルス信号が入力ポートに戻ってくる反射信号を観測する測定技術。
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【TDT】
time domain transmission
1つのポートにパルスを印加し、伝送された信号をほかのポートで観測する測定技術。
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【米ガイドテック社】
GuideTech, Inc.
米国の計測器メーカー。ホームページはhttp://www.guidetech.com/。国内販売代理店はイノテック。ホームページはhttp://www.innotech.co.jp/
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【米ウェーブクレスト社】
Wavecrest Corp.
シグナル・インテグリティー向け計測器を扱う米国メーカー。ホームページはhttp://www.wavecrest.com/。日本法人はウェーブクレスト。ホームページはhttp://www.wavecrest.com/Japan/
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*2)参考文献
Wavecrest Corp, Eden Prairie, MN, Understanding Jitter: Getting Started, www.wavecrest.com/technical/VISI_6_Getting_Started_Guides/6understanding.pdf.
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【UUT】
unit under test
テスト対象物
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【米テクトロニクス社】
Tektronix Inc.
米国の大手計測器メーカー。ホームページはhttp://www.tektronix.com/。日本法人は日本テクトロニクス。ホームページはhttp://www.tektronix.co.jp/
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【米レクロイ社】
LeCroy Corp.
米国の計測器メーカー。高性能のオシロスコープなどを得意とする。ホームページはhttp://www.lecroy.com/。日本法人はレクロイ・ジャパン、電話03-3376-9400。ホームページはhttp://www.lecroy.com/japan/
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【LSB】
least significant bit
最小量子化ビット
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【米シンセシス・リサーチ社】
SyntheSys Research, Inc.
米国の計測器メーカー。ビット誤り率テスターやビデオ映像向けアナライザーなどを販売している。ホームページは、http://www.synthesysresearch.com/。国内販売代理店はNEC三栄。ホームページはhttp://www.necsan-ei.co.jp/
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米データ・トランジット社】
Data Transit Corp.
バス・プロトコル・アナライザーなどを販売する米国の計測器メーカー。ホームページはhttp://www.datatransit.com/。国内販売代理店はNEC三栄。ホームページはhttp://www.necsan-ei.co.jp/
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