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designideas
2003年7月号
薄く、軽く、低電力
理想のディスプレイが登場へ

英ペリコン社は、セグメント表示用ディスプレイに無機EL技術を用い、基板にはフレキシブルなフィルムを採用した。メンブレン・スイッチと共に使う。

有機EL技術は、ディスプレイ業界の「期待の星」だ。すでに有機EL技術を適用した小型パネルが製品化され、電子機器への搭載が始められている。ただし最終的な目標である大型テレビ用パネルの実現には、まだまだ時間が掛かりそうだ。一方、競合相手の液晶パネルとて、黙っていない。半透過技術の登場や、電子移動度が高い多結晶シリコン技術である「CGシリコン」の開発などで、その性能を伸ばし続けている。

グラハム・プロフェット
Graham Prophet
 1953年12月に、米国のカラー・テレビ放送サービスについて米連邦通信委員会(FCC)が米RCA社*の提案を承認してから、今年で50年目になる。このサービスは、最初のカラー・テレビ放送サービスではなかったものの、単一のCRT*からなるテレビ受像機を対象にした放送サービスとしては最初のものだった。このときRCA社は、わずか数カ月という驚くほどの短期間で、シャドウ・マスク方式のCRTを開発して見せた。
 現在、世界中で生産されているテレビ受像機のほとんどがCRTを採用している。シャドウ・マスク方式のCRTを実現する基本的な技術は、50年間変わっていない。今でも、用途が広く、効率が高い大型ディスプレイの1つとして、その地位を堅持している。
 家庭用テレビ受像機は、CRTが今もなお主役の座に付いている数少ない分野である。しかし、CRTテレビを大型のフラットパネル・ディスプレイで置き換えようとする競争が激化してきた。その有力な候補がPDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)とカラーTFT*液晶パネルである。しかし両者ともに、現時点では製造コストが高い。高級品市場には浸透し始めたが、一般消費者向け市場に浸透するにはまだ時間が掛かりそうだ。
 大型テレビ受像機を実現する有力な方法はもう1つある。背面投射型ディスプレイ(リア・プロジェクション)である。ただしこのタイプの家庭用テレビ受像機は、米国だけでしか売れていない。欧州でも日本でも、家庭用テレビ受像機の販売台数に占める割合はごくわずかだ。
 将来的には有機EL*パネルにも期待できる。一部では、家庭用大型テレビ受像機競争の最終的な勝者との見方がある。しかし現時点は、この期待を実現するには程遠いところにある。有機EL技術を採用した小型パネルは、その姿を見せ始めている。すでにヒューマン・インターフェース用部品として、新たな選択肢となった。
 これまで小型パネルは、用途によって差異化が図られてきた。ここしばらくの間は基本技術の革新は見られなかった。しかし状況は変わりつつある。民生機器や工業機器、計測機器、携帯型電子機器といった幅広い用途に向けた新しい小型パネルがここ数カ月のうちに市場に投入される見込みだ。

半透過型の登場で汎用性が増す

 昼間に太陽の下で液晶パネルを見ることを想定してみよう。十分な可読性を確保するには、液晶パネルに十分な強度のバックライト光を当てる必要がある。それには多くの電力を要する。仮に、十分な可読性を提供できたとしても、バックライトの消費電力はその機器が消費する電力の大半を占めてしまうことになる。
 こうした問題を解決する液晶パネル技術が主流になりつつある。半透過型と呼ぶ技術である。その名が示すように、半透過型は透過モードと、入射光を使って表示する反射モードの両方で動作する。この技術を使えば、暗い場所でも、非常に明るい場所でも十分な可読性を提供できるようになる。現在、大手液晶パネル・メーカーの多くが半透過型フルカラー・パネルを製品系列に加えている。
 このパネルの問題点は「光量バジェット」にある。反射モードでは、パネルに入射した光をTFT層の下にある金属面で反射させて利用する。反射した光は、液晶層とカラー・フィルター層を「行き」と「帰り」の2回通過してユーザーの目に届く。各画素には入射光を取り込んで生かすために、窓領域を確保する必要がある。このためパネルの表示に利用できる画素の面積が減少してしまうことになる。こうした工夫は、透過モードでは光を遮るように働く。従って、一般的な透過型パネルと同等の輝度を実現するためには、バックライトの出力を高めなければならない。しかしバックライトの出力を高めることは現実的ではない。この結果反射モードでは、パネルに入射した光のほんの一部しか利用できないという問題を抱えてしまう(一般的なTFT液晶パネルでは、バックライト光のうち表面から出力される光は数%にすぎないと言うことを思い出して欲しい。液晶層は窓領域よりも優れた遮光機能を有するのだ)。
 半透過型パネルは、反射モードでは可読性が高いように思われるかもしれない。しかし高い可読性を達成するためには、直射日光、あるいは少なくとも明るい日光に近い入射光を必要とする。屋内環境において反射モードで動作させた場合は、可読性の高い表示はほとんど期待できない。ただし搭載する機器の電力に余裕があれば、バックライトを利用できる。こうすれば幅広い光学的な環境で快適に使用できるパネルを手に入れることができる。
 このほかに考慮すべき特性として視野角がある。パネルの設計によって違いがあるが、入射光を金属面で反射させるときは、単純な正反射ではなく、光の散乱や拡散を利用している。これによって視野角のパターンを作り出す。それでも反射モードの視野角には限界がある。透過モードから反射モードに切り替えるときは、視野角の制約や変動を覚悟すべきだ。液晶パネル・メーカーは、反射モードにおける出力光のパターンとその光量を公表している。しかし、せいぜい目安程度にしか使えない。機器に搭載したときの見え方を把握するためには、サンプル品を入手して電源を投入し、環境光を変化させながら、すべての角度から見る必要がある。

電源なしでも画像を保持できる

 しかし電気機器で使用できる電力が少なく、液晶パネルの駆動に数mAしか使えない場合はどうすれば良いのであろうか。しかもディスプレイには情報を常時表示させたいとする。
 今、この要求に応える技術が市場に投入されようとしている。液晶パネルに「メモリー効果」を持たせる技術である。この技術を使えば、通常通り画像を表示でき、さらに電源を落としても液晶パネルはその画像を表示し続ける。
 この技術を開発したのは英ZBDディスプレイ社*である。STN*液晶パネルのガラス基板表面(液晶と接する面)に微細な回折格子を並べたものだ。回折格子を使うことで液晶の分極状態を「ラッチ」し、電源を落としてもその状態を保持できる。この技術を導入することで、パッシブ・マトリクス方式であるSTN液晶パネルは、アクティブ・マトリクス方式であるTFT液晶パネルと再び競争できるようになる。なぜならば回折格子は、次の画面の走査が行われるまで画素の状態を保持して、電源が供給されなくても画面全体の画像を保持できるからだ。「このラッチは、分子レベルの機構を利用したものだが、機械的な衝撃を与えてもラッチした画像は乱れない。電源を再投入し、書き換えるまでラッチ状態を保つことができる」と同社は説明している。さらに回折格子の構造を工夫することで、画素ごとに異なる電圧で状態を保持できる。このため、少なくても7階調、最大では64階調の画像を保持できるという。
 ZBDディスプレイ社の最高財務責任者(CFO)であるリチャード・スキャンロン氏によると、「液晶パネルの従来の製造プロセスにわずかな変更を加えるだけだ。どんな液晶パネル用製造ラインにも適用できる」という。回折格子の製造方法は、CDやDVDといったメディア(媒体)をプレス(製造)するときに使われているプロセスに似ている。すなわちプレスによって、回折格子をガラス基板に形成する方法である。このため香港のバリトロニクス社*のような液晶パネル・メーカーが、この技術を導入することで回折格子を作り込んだパネルを製造できるようになる。2003年末には、液晶パネル・メーカーとIP(知的財産権)ライセンス契約が結べるとスキャンロン氏は期待している。こうしたパネルを入手したいのであれば、「双安定型(bistable)LCD」と名付けて販売している液晶パネル・メーカーを探すことだ。

携帯電話機が期待するディスプレイ

 ソニー*のLCDプロダクト・マネージャーであるマシュー・タッピング氏は、「携帯電話機向け小型カラー・パネルで重要な点は2つだけだ」と指摘する。1つは可読性、もう1つは消費電力である。
 同社は、DC-DCコンバーターと液晶駆動(ドライバー)、チップ・セレクト、タイミング発生など、駆動に必要な回路をガラス基板に載せた低温多結晶シリコンTFTカラー液晶パネルを販売している。携帯型電子機器向けパネルとしては、例えば1.94インチ型パネルを用意している。外形寸法は37.1mm×51.5mm×3.2 mmで、画素構成はRGBの縦ストライプ、画素数は128×160である。サンプル出荷は2003年6月に始まっており、量産は2003年8月に始まる計画である。まず携帯電話機に、このパネルが搭載される予定だ。
 タッピング氏によると、このパネルの消費電力は、25フレーム/秒の動画を6万5000色表示した際に約3mWである、という。この数字は、バックライトの消費電力である150m〜200 mWに比べたら、非常に小さい値である。従って、携帯型電子機器を電池で駆動する場合は、機器に対する入力が途絶えてからバックライトをオフするまでのタイム・アウト時間を2〜3秒に減らす必要があるだろう。
 英デンシトロン社*は、液晶パネルの大規模な製造拠点を中国に開設した。まずは、1.9インチ型のカラーSTN液晶パネルの製造を開始する(図1)。パネル・モジュールの面積は38.5mm×51.9mmで、表示部の面積は33.1mm×42.4mmである。画素数は128×160。表示色数は4096色である。このパネルは半透過型である。しかしこの今後製造する大型パネルでは、透過型と半透過型のいずれかを選択できるようになる。
  京セラ*は、2.5〜10.4インチ型のカラーSTN液晶パネルを用意している。これらのパネルの特徴は、表示領域の中心とモジュールの中心が同じ点である対称構造になっていることにある。このため電子機器の機構設計が容易になる。多くの液晶パネルは、液晶駆動回路などを一方の端にまとめて配置するため、対称構造にはなっていない。
 このほか小型液晶パネルのトピックとしては、TFT素子の元になるシリコン膜の特性改良が挙げられる。多結晶シリコン膜は、アモルファス・シリコン膜よりも電気的な特性が優れる。CG(連続粒界)シリコン膜*は、さらに電気的な特性が高い。電子移動度は多結晶シリコン膜よりも数倍、アモルファス・シリコン膜よりも数100倍大きい。CGシリコン膜の電気的な特性は、結晶シリコンに近い。このため液晶パネルと同一の基板上に駆動回路などの複雑な回路を作り込めるようになる。例えば、シャープはこうした液晶パネルを「システム液晶」と呼んでいる。液晶駆動ICを取り付ける面積が小さくなり、さらに厚さも劇的に薄くなる。

期待の星「有機EL」

 業界ウオッチャーの中には、有機ELパネルが最終的には液晶パネルに取って代わるという意見がある。多くの企業が有機ELパネルの開発に、数年を費やしてきた。この結果、現在では有機ELパネルを購入して、電子機器に搭載できるようになっている。
 有機ELパネルは自発光型である。金属半導体膜を成膜する従来の無機ELパネルと違い、有機半導体膜を積層し発光体とする。一般に「低分子」と「高分子(ポリマー)」の2つの基本技術がある。低分子技術の開発元は米イーストマン・コダック社*、高分子技術の開発元は英ケンブリッジ・ディスプレイ・テクノロジー(CDT)社*である。両社は、ぞれぞれのIPをさまざまな企業にライセンス供与している。
 有機ELパネルは開発当初、輝度が低く、色純度も低かった。しかし何年間かの開発を経て、十分な輝度を得られるようになり、明るい環境下でも高いコントラスト比を達成できるようになった。前述のように自発光型であるため、バックライトは必要ない。このためモジュールの厚さは薄い。光の利用効率は液晶パネルに比べて高い。発光体が表面に近いところにあるためだ。液晶パネルでは、偏光板やカラー・フィルターを光が通過するうちに減衰してしまうため、光の利用効率が低いという問題を抱えていた。
 消費電力を低減できるという特徴もある。自発光型であるため、必要な画素をだけを光らせ、それ以外の画素は光らせる必要がないからだ。液晶パネルは常時、バックライトを光らせる必要があった。このほか有機ELは、視野角が広く、スイッチングが速い。フル・ビデオ・レートに対応でき、低温環境でも高速動作を維持できる。色純度に関しても、3原色共に良好であり、これらの材料を組み合わせることで広い色再現範囲を得られる。
 このように有機ELパネルは数多くの特徴がある。しかし最大の特徴は、フレキシブルな基板の上に大型で、しかも安価なパネルを実現できる可能性があることだろう。有機EL材料は、印刷プロセスを使って塗布し、成膜できる。CDT社や、そのほかの数社は、インクジェット・プリンターのヘッドを使ってフルカラー・パネルを製造できることを実証している。
 有機ELパネルは、液晶パネルなどと同様に、駆動方式としてパッシブ・マトリクスとアクティブ・マトリクスの両方を適用できる。アクティブ・マトリクス方式の場合は、成膜したシリコン膜を使って形成したスイッチング・トランジスタを利用する。シリコン膜は、多結晶でもアモルファスでも構わない。
 有機ELパネルの究極的な姿は、ロール状に巻き取ったフレキシブルなフィルム基板(もしくは金属薄板、フォイル)に、ロール・ツー・ロール方式でインクジェット印刷により有機EL素子を形成した画面寸法が1m、あるいはそれ以上のフルカラー・パネルだろう(p.54の「50インチのテレビ用パネル実現に向けて」参照)。

技術課題も徐々に解決

 もちろん、この夢の実現までにはまだ時間を要する。課題もある。課題の1つに、有機化学の問題がある。有機ELに関連する研究者はすでに、3原色用の有機EL材料をすべて開発した。しかし青色材料は、赤色材料や緑色材料よりも開発が困難であった。実際に青色材料は最終的な寿命の確保について、ほかの2色の材料に遅れており、これがフルカラー・パネルの進歩に対する制約になっている。寿命が十分に確保できていないと、次のような現象が起こる。経年変化により色のバランスが崩れ、初期のパネルに比べて表示色が遷移してしまうという現象である。絶対寿命(光出力のレベルが−3dBになるまでの時間)は、現在では3原色共に商用として許容できる値まで達している。ただし、CDT社は、緑色材料の絶対寿命が4万時間、赤色材料が6万時間と見積もっているのに対して、青色時間は1万1000時間と短い(図2)。従って、現在発売されている初期の有機ELパネルは、モノクロ品である。
 こうした中、米イーストマン・コダック社は、フルカラー有機パネル・モジュール「AM550L」を発売した。このパネルは、同社のデジタル・スチル・カメラ「Easyshare LS633」のモニターとして採用されている。このパネルの画素数は521×218画素(QVGA)で、画面寸法は2.16インチ型である。評価キット「AMEV1-100」も用意している。このモジュールは、三洋電機との共同出資会社であるエスケイ・ディスプレイ*で製造した。さらにイーストマン・コダック社は三洋電機と共同で、5.5インチ型と15インチ型のアクティブ・マトリクス方式のフルカラー有機ELパネルを試作している。
 有機材料は大気や水蒸気に触れると、化学的な特性が急速に劣化する。このため成膜した有機材料を密封することが不可欠になる。これらの理由から、当初の製品はガラス基板を採用している。プラスチック材料やフレキシブル基板を使ったタイプは、今後製品化されるだろう。
 現在は、こうした次世代有機ELパネルの実現に向けた企業提携が活発になっている。最近の例には、韓国サムスン電子*のディスプレイ部門と米バイテックス・システムズ社*の提携がある。サムスン電子は、有機EL技術のライセンスを取得しており、バイテックス・システムズ社は薄膜のバリアー・コーティングを専門としている。サムスン電子では、バイテックス・システムズ社の技術を使うことで密封層として機能していた第2のガラス・シートを不要にし、ディスプレイ全体の厚さを低減することを狙っている。
 CDT社の「高分子」有機材料を使って製品化した最初の有機ELパネルは、「Norelco Spectra*1)」というシェーバー(ひげ剃り機)に使われている。さらに台湾のデルタ・オプトエレクトロニクス社*が製品化した英数字表示が可能なモノクロ・パネルは、MP3プレーヤーに搭載される。このプレーヤーは間もなく発売される予定だ。CDT社でビジネス開発担当副社長を務めるスチュワート・ハウ氏は、「液晶パネルの後を追って有機ELパネルが発展することを期待している。高分子技術は徐々に普及しており、当初は優位にあった低分子技術に追いつきつつある。高分子材料を使ったパネルは、モノクロからフルカラーへ、画面サイズはより大型へと急速に進歩している」と話している。

製品が続々登場

 高分子材料を使った第1世代のパネルの代表例に、米デュポン・ディスプレイ*社の製品がある。すでに出荷が始まっている。このパネルは、画素数が128×64で、画面寸法は2.1インチ型。黄色表示と緑色表示のパッシブ・マトリクス方式のモノクロ・パネルである(図3)。さらに同社は、高分子材料を使った、160×160画素のモノクロ・パネルと、QVGA表示が可能なアクティブ・マトリクス方式の4インチ型カラー・パネルを発表している。
 デュポン・ディスプレイ社は、CDT社からライセンス供与を受けた高分子有機EL材料の開発を進めているほか、そのほかの有機EL関連企業とも協力関係を構築している。例えば、米ユニバーサル・ディスプレイ社(UDC)*とは、低分子材料と高分子材料の両方の分野での協力に合意した。この合意では特に、化学分野のソリューションに焦点を当てている。具体的には、アクティブな化合物をインクジェット技術で印刷できるように変換する材料の開発である。このほかデュポン・ディスプレイ社は半導体エネルギー研究所*と共同で、有機ELパネル向け多結晶シリコン技術の開発に取り組んでいる。デュポン・ディスプレイ社でヨーロッパ支社のディレクターを務めるジュッタ・ラスプ氏は、「将来、有機ELパネルの価格は、バックライトを含む比較的複雑な液晶パネルと同程度になるだろう」と見ている。
 オランダのフィリップス・セミコンダクター社*やデンシトロン社なども有機ELパネルの製品発表を行ったり、実際に製品を出荷している。この2社は、ドット・マトリクス表示部が64×128画素で、これに132×176画素の表示部を加えた2インチ型フルカラー・パネルを販売中だ。画面輝度は40〜50cd/m2である。このほかデンシトロン社は、画面輝度が250cd/m2と高い有機ELパネルも開発している。高さが47mmの1行のデジタル表示が可能なパネルで、公共表示向けである。

有機ELは電流駆動デバイス

 有機ELパネルは、電流駆動デバイスである、このため最適な性能や画面輝度、階調を得るためには、専用駆動ICを使う必要がある。有機EL向け駆動ICメーカーとしては、米クレア・マイクロニクス社*TDK*、伊仏合弁のSTマイクロエレクトロニクス社*、フィリップス・セミコンダクター社がある。
 TDKの小型有機ELパネルは、競合他社に比べて構造が若干異なる。同社は、マルチカラー表示が可能な有機ELパネルを製品化している。フルカラー・パネルではない。このマルチカラー・パネルは、複数の有機薄膜を組み合わせて白色光を作り、この光をカラー・フィルターに通すことで複数の色を作成している(図4)
 16色(2種類の基本色を4階調表示)と64色(3種類の基本色を4階調表示)の表示が可能な有機ELパネルを販売中だ*2)。これまで同社は、自動車で使用するドット・マトリックス・ディスプレイ用に、モノクロ有機ELパネルを供給してきた。しかし研究開発段階だが、フルカラー品にも取り組んでいる。
 一方、ドイツでは国内で有機ELパネル技術を確立するために、複数の企業がコンソーシアム「DFF(フラットパネル・ディスプレイ・フォーラム*」を結成した。このコンソーシアムには、79社が参加しており、このうち13社はパイロット・ライン構築に向けて動いている。
 第3の有機EL技術
 低分子、高分子のほかに、もう1つの有機EL技術もある。この技術は「樹枝状高分子(デンドリマー)」と呼ぶ。英国ケンブリッジ地域の新興企業であるオプシス社*が開発したもので、2002年にCDT社がその知的財産権を取得した。
 低分子技術では、バンドギャップ特性が似た材料が隣接した場所にあると、そこで発生した光を吸収してしまい、全体としての効率を制限してしまうことが課題の1つとして挙げられている。樹枝状高分子技術は、雪の結晶のような分子を形成している。この内部では、発光のコアとなるアクティブ部の周辺をほかの有機構造体が囲んでいる。この結果、この構造体の中でさまざまな特性の微調整が可能になると同時に、発光を行う余地を与える。
 樹枝状高分子技術を使えば、わずか1層のアクティブ層を形成するだけで、高い光電変換効率が得られる。さらに製造コストを低減できる。しかし高分子材料や低分子材料に比べると、開発が進んでいない。今後の開発が待たれる。

セグメント表示用も依然進化中

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 表示する情報が複雑でない用途では、限られた量のデータを表示できればよい。こうした用途に向けた広大なディスプレイ市場が存在している。
 英ペリコン社*でマーケティング・ディレクターを務めるクリス・バーナード氏は、「非多重セグメント・ディスプレイ市場は、世界全体で40億米ドルに達する」と見積もっている。同社は、時分割駆動なしのセグメント・ディスプレイを必要とする家電機器や民生機器に向けたパネルというすき間市場で地位を確保しており、EL(エレクトロルミネセンス)技術を利用した「InterfaceDisplay」と呼ぶカスタム製品を製造している。発色数は限られる。主に青色と緑色である。効率は10〜15lm/Wと決して高くないが、絶対輝度は50〜200cdを得られる。
 ペリコン社では、セグメントごとに印刷し、それをフレキシブル基板に並べる技術を開発した。パネルは、フレキシブル・フィルム上に形成できるため、これをメンブレン・スイッチに重ね合わせることが可能になる。表示機能を備えたフィルムは、表示機能に影響を与えることなく、メタルドーム・スイッチを動作させるために十分なストロークを確保できる。
 この技術を使えば、1mm×1mmという小さな表示セグメント(もしくは照明領域)、または0.5mmと薄いフレキシブル基板で大きな表示セグメント(もしくは照明領域)を備えるパネルを実現できる。ただし、このパネルは絶対輝度が非常に低い。このため屋外の使用には適さないが、屋内ではどのような光の環境でも使用できる。さらに非常に暗い環境で使用する際には、明るさを落として低輝度にすることも可能だ。このほか利用できるスイッチだけを常に照明で浮かび上がらせ、ユーザーをガイドするといったことが可能になる。
 このパネルは、2つの平板電極で発光材料を挟んだサンドイッチ構造になっている。前面の電極は透明である。周波数が200Hz〜1kHzで、電圧値が100〜200Vの交流電圧を印加することで駆動する。この構造から分かるように、このパネルは電気的に見ると容量性の負荷である。同時にオンする必要がある複数のセグメントを結合して1つのセグメントとして扱える。
 ペリコン社では、電池セル1個の低い電圧から駆動電圧を作成する機能を含んだASICを開発した。このASICはマイコン・コアを内蔵する。さらに個別仕様の表示パターンを含むカスタマイズ・オプションとソフトウエアを1つのパッケージとして提供している。このデバイスは、蛍光表示管に比べて、実装空間の使用効率が高いという特徴がある。リモコンやオーディオ機器、セットトップ・ボックスなどに使えるだろう。 END  

50インチのテレビ用パネル実現に向けて

 FED(フィールド・エミッション・ディスプレイ)は、多くの企業で活発に研究が行われている技術である。この技術も大型テレビ受像機市場を狙っており、実際に開発に取り組んでいるエンジニアは、最終的には、PDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)や大型のカラーTFT液晶パネルよりも経済性の面で上回れると確信している。
 FEDの基本原理はCRTと同じだ。真空中に飛び出た電子が蛍光体に衝突し、この結果として光が放出される。CRTではRGB3色の蛍光体に対して、それぞれ1本の電子銃が対応しており、ここから電子が飛び出す。この電子ビームを走査することで、1つの画像を作り出す。
 FEDでは電子ビームを走査しない。パネル全面に配置した複数の電子源を使う。初期のFED研究では、先端が鋭くとがった微小構造の電子源からの放出に集中していた*1)。要するに、微小なスケールのコロナ放電を利用していたことになる。しかし最近では、異なる技術への取り組みが目立ってきた。例えば、英プリンタブル・フィールド・エミッター(PFE)社*では、電子源を印刷技術で形成できるようにすることで、製造コストの問題を解決することを目指している。FEDは2004年より前に製品化されることはないだろう。しかしこの分野で意欲的な企業は、30インチ型以上の大型テレビ市場向けパネルの量産に、しっかりと目標を据えている。
 半導体の製造設備に対する資本コストについては、さまざまな情報を聞くことがあるだろう。大型パネルの製造にも、それに匹敵する規模の投資が必要になる。プリント基板メーカーは、プリント基板をパネル化し、すべて完成した時点でそれぞれを分割する。パネルの製造方法もこれと同じだ。大型ガラス基板(マザー基板)の上に、複数のパネルを作り込み、製造における「スケール・メリット」を得ようとしている。最終製品となるパネル寸法が大きくなればなるほど、マザー基板も大きくなり、製造設備もそれに対応する必要がある。これらの製造設備が扱えるマザー基板の大きさは、一般に「世代」として知られている。例えば第6世代の製造設備は、長軸の長さが約1mで、縦横比が4対3の基板を採用している。現在、ディスプレイ・メーカーは、大型テレビ受像機市場を獲得するために、2.1m×1.8m(厚さは0.6 mm)のガラス基板を処理できる製造設備の設計に取り組んでいる。
 こうしたガラス基板を採用した場合、機械的な取り扱い方法が大きな問題となる。しかし半導体と同様に、スケール・メリットの追求には従わざるを得ないだろう。一度、製造設備に莫大な資金を投入すれば、大幅なコスト・メリットを得ることができる。この設備で製造するパネルがテレビ受像機向けでなく、小型〜中型と仮定しよう。この場合は半導体の製造と同様に、この製造設備の生産能力が市場で最大であれば、その後数年間にわたってその分野において、ずば抜けた価格競争力を得られるようになる。
 現時点では、大型テレビ受像機のCRTを置き換えて勝利を収めるディスプレイ技術はまだ明らかになっていない。しかし多くの製造技術を経験することは、いくつかのパネル技術に類似している処理方法やプロセス・ステップを学ぶことになる。ディスプレイ・メーカー各社は最新設備を導入し、製造プロセスを成熟させて行くことで、最終目標である家庭用テレビ受像機向けパネルの製造に対処しようと考えている。
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用語解説 / 会社情報
【米RCA社】
Radio Corporation of America
1919年に設立された通信/民生機器メーカー。現在は仏トムソン社の傘下。同社がRCAブランドの民生機器を製造している。RCAブランドのホームページは、http://www.rca.com/
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【CRT】
cathode ray tube
ブラウン管とも呼ぶ。

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【TFT】
thin film transistor
薄膜トランジスタ
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【有機EL】
organic electroluminescence
有機薄膜を使ったエレクトロルミセンス素子である。欧米では有機LED(light emitting diode)と呼ばれる場合が多い。
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【英ZBDディスプレイ社】
ZBD Displays Ltd.
2000年7月に設立された英国のベンチャー企業。ディスプレイ関連の技術開発に取り組む。ZBDはZenithal Bistable Displayの略。ホームページは、http://www.zbddisplays.com/
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【STN】
super twisted nematic
ネマティック液晶の配置を260度程度ねじったもの。パッシブ(単純)・マトリクス方式 の液晶パネルに使われている。
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【香港のバリトロニクス社】
Varitronix Ltd.
1978年に設立された香港の液晶パネル・メーカー。ホームページは、http://www.varitronix.com/
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【ソニー】
Sony Corp.
液晶パネルの製造に関しては、豊田自動織機との合弁会社「エスティ・エルシーディ」が担当している。低温多結晶シリコンTFT液晶パネルの製造に取り組む。ホームページは、http://www.stlcd.co.jp/
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【英デンシトロン社】
Densitron Technologies plc.
日本のデンシトロンと米デンシトロン社、英テイラー・ミラー社によって設立された。ホームページは、http://www.densitron.com/。国内連絡先はデンシトロン、電話03-3767-9701。ホームページは、http://www.densitron.co.jp/
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【京セラ】
Kyocera Corp.
パッシブ・マトリクス方式の液晶パネル開発/製造に取り組んでいる。ホームページは、http://www.kyocera.co.jp/
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【CGシリコン膜】
シャープと半導体エネルギー研究所が共同で開発した、電子移動度が高いシリコン薄膜。CGは「continuous grain」の頭文字を取ったもので、日本語では連続粒界と呼んでいる。n型シリコン膜の電子移動度は200〜300cm2/V・秒程度である。2002年10月には、CGシリコン膜を使ってガラス基板上に8ビット・マイコン「Z80C」の作成に成功したという発表を行った(本誌2002年12月号、p.21に既報)。
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【米イーストマン・コダック社】
Eastman Kodak Co.
カメラやフィルムなど映像に関する事業を中心に取り組む米国企業。ホームページは、http://www.kodak.com/。日本法人はコダック。ホームページは、http://wwwjp.kodak.com/
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【英ケンブリッジ・ディスプレイ・テクノロジー社】
Cambridge Display Technology Ltd.
有機EL材料の開発などに取り組む英国企業。ホームページは、http://www.cdtltd.co.uk/
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【エスケイ・ディスプレイ】
三洋電機と米イーストマン・コダック社の合弁会社として、2001年12月に設立された。有機ELパネルの製造に取り組む。2003年3月に、アクティブ・マトリクス方式を採用したフルカラー有機ELパネルの出荷を開始した。このパネルが「AM550L」。詳細は以下のURLを参照されたい。http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0303news-j/0303-1.html
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【韓国サムスン電子】
Samsung Electronics Co., Ltd.
韓国の総合電器メーカー。ホームページは、http://www.samsung.com/。日本法人は日本サムスン。ホームページは、http://www.samsung.co.jp/
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【米バイテックス・システムズ社】
Vitex Systems, Inc.
有機EL膜などを水蒸気や酸素から守るコーティング技術を扱う米国企業。ホームページは、http://www.vitexsys.com/
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*1)
「Norelco(ノレルコ)」は、「Philishave(フィリシェーブ)」として欧州市場で販売されているひげ剃り機の米国市場向けブランドである。
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【台湾のデルタ・オプトエレクトロニクス社】
Delta Optoelectronics, Inc.
冷陰極管や有機ELパネルの開発/製造に取り組む台湾企業。ホームページは、http://www.delta-opto.com.tw
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【米デュポン・ディスプレイ社】
Du Pont Displays
有機ELパネルの開発/製造に取り組む米国企業。ホームページは、http://www.olight.com/dupont/olight/。日本法人はデュポン。ホームページは、http://jp.dupont.com/
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【米ユニバーサル・ディスプレイ社】
Universal Display Corp.
有機ELパネルの開発に取り組む米国企業。ホームページは、http://www.universaldisplay.com/
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【半導体エネルギー研究所】
Semiconductor Energy Laboratory Co., Ltd.
半導体や液晶パネル、有機ELパネルの研究開発に取り組む日本企業。ホームページは、http://www.sel.co.jp/
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【オランダのフィリップス・セミコンダクターズ社】
Philips Semiconductors
オランダの総合電器メーカーであるロイヤル・フィリップス・エレクトロニクス社の半導体部門。ホームページは、http://www.semiconductors.philips.com/。日本法人は日本フィリップス。ホームページは、http://semicon.philips.co.jp/
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【米クレア・マイクロニクス社】
Clare Micronix
米国のアナログ・デジタル混在ICメーカー。液晶パネル向け駆動ICや有機EL向け駆動ICなども製品化している。ホームページは、http://www.claremicronix.com/
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【TDK】
TDK Corp.
日本の大手電子部品メーカー。ホームページは、http://www.tdk.co.jp/
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【伊仏合弁のSTマイクロエレクトロニクス社】
STMicroelecronics N.V.
ホームページは、http://www.st.com。日本法人はSTマイクロエレクトロニクス。ホームページはhttp://www.st-japan.co.jp/
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*2)
TDKは、2003年5月20日〜22日に米国メリーランド州ボルチモア市で開催された「SID 2003(Society for Information Display 2003)」で、4096色表示が可能なマルチカラー有機ELパネルを展示した。2003年末から製品化を始める予定。詳細は以下のURLを参照されたい。
http://www.tdk.co.jp/tjaah01/aah40700.htm
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【DFF】
The German Flat Panel Display Forum
ドイツにフラットパネル・ディスプレイの製造拠点を確保することを目標にしたコンソーシアム。ホームページは、http://www.displayforum.de/
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【英オプシス社】
Opsys Ltd.
英国ケンブリッジに本拠を置く、有機ELを対象にした研究開発企業。ホームページは、http://www.opsysdisplays.com/
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【英ペリコン社】
Pelikon Ltd.
英国のELパネル・メーカー。ホームページは、http://www.pelikon.com/
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*1)
一般にスピント(Spindt)型と呼ぶ。形状は円錐。1画素当たりに数10〜数100個の電子源を並べる。国内では双葉電子工業などがこの電子源を使うカラーFEDの開発に取り組んでいる。
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【英プリンタブル・フィールド・エミッター社】
Printable Field Emitter Ltd.
FEDに向けた冷陰極の研究開発に取り組む英国企業。スクリーン印刷法で冷陰極を製造できるため、従来に比べて安価にできるという。ホームページは、http://www.pfe-ltd.com/
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