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designideas
2003年6月号
受信等化技術、EMIを増やさず
長距離伝送を可能に


受信等化技術を使えば、伝送媒体における損失と高周波での位相シフトを受信器側で補償できる。受信データに増幅伝達関数を乗じることでデータを再生する仕組みだ。一般的に用いられているプリエンファシス技術に比べて、放射電磁雑音(EMI)を増やさずに、データを長距離伝送できるようになる。 (本誌)

ドン・チェン*1
Dong Zheng
米ビットブリッツ・コミュニケーションズ社 
BitBlitz Communications, Inc.
 SERDES*(シリアライザーとデシリアライザーを合わせた回路)に受信等化機能やプリエンファシス*機能を追加すれば、バックプレーンやライン・カードのリンク長(接続長)を延ばせる。このうち受信等化は、送信側で行うプリエンファシスに比べ、放射電磁雑音(EMI*)を減らせることや、適応型等化が簡単なことなど、多くの利点がある。しかし、受信等化はプリエンファシスよりも一般的ではない。
 送信側に適用するプリエンファシスを、多くのユーザーが好んで使う理由はこうだ。接続線(伝送媒体)を通った後、すなわち遠端で信号品質の改善効果を直接、目で見て確認できるからだ。システム設計者の多くは、受信等化を採用したがらない。アイ・パターンを観測しただけでは、改善効果を見ることができないからである。すなわち、システム性能の改善具合や余裕度を直接観測できない。
 すでに周波数ドメインにおける受信等化の理論と応用技術は確立されている。例えば、受信等化を使うことで信号品質が高まる理由や、受信等化を適用した際の特徴が明らかになっている。さらに実際に測定したデータを見れば、アイ・パターンがほぼ閉じた伝送系でも、受信等化技術を適用すれば十分にデータを再生できることが分かる。ジッター耐量に高い余裕度が生まれることも確認済みだ。

受信側でブーストする  

 SERDESは、2点間(ポイント・ツー・ポイント)を高速に接続するために使用する一般的なトランシーバー機能である。シリアライザーは、伝送媒体を介してA地点からB地点にデータを送る際に、低速のパラレル(並列)・バス・データを高速のシリアル(直列)・データ・ストリームに変換する(図1)CDR*(クロック・データ再生)回路を組み込んだデシリアライザーは、高速のシリアル・データ・ストリームを元のパラレル・データ・フォーマットに戻す。
 図1は、SERDESの半分だけを使って単方向通信を行う場合の構成である。ただし、ほとんどのアプリケーションは双方向通信である。このため各通信ノードには完全なSERDES機能、すなわちシリアライザー(送信)機能とデシリアライザー(受信)機能が必要になる。SERDESを使用するメリットは、2つの通信ノード間でデータをやり取りする際のワイヤ(伝送線)の本数を削減できることにある。この結果として、伝送系の構成が単純になり、さらに伝送距離を延ばせるようになる。
 すでにSERDESとトランシーバーの組み合わせは、バックプレーンやライン・カードの用途では一般的だ。伝送媒体としては、通常、さまざまな仕様や形状のケーブル、もしくはプリント基板上のマイクロストリップ線路が使われる。伝送媒体の周波数帯域幅は有限である。このため送信器Aと受信器Bの間である伝送速度でデータを送る場合、通信可能な最大距離が物理的に決まってしまう。伝送媒体の伝送特性は、周波数の関数である。多くの伝送媒体に対して、(1)式のモデルを適用できる。

 T(f) = exp(−ks l(1+j)√ f−kd l f) (1)

ここでlは伝送媒体の長さ、fは周波数、ksとkdはそれぞれ導体と誘電体の損失を表す定数である*2)。データ伝送速度が3Gビット/秒以下であれば、誘電体損失よりも導体損失の方が大きい。このため(1)式は(2)式のように簡略化できる。

 T(f) = exp(−ks l(1+j)√ f) (2)

(2)式は実数部と虚数部に分かれている。すなわち信号の周波数が高くなれば信号振幅の減衰量が大きくなるばかりでなく、位相の変化量も大きくなることを示している。振幅の減衰量と位相の変化量は、どちらも距離lと周波数fの平方根に比例して増える。
 振幅の減衰は、受信端におけるアイの垂直方向の開口を狭めるように働く。一方、高周波領域での位相変化は符号間干渉(ISI*)を発生させる。これが発生すると、タイミング・ジッターが生じて、最終的には伝送可能な距離を制限することになる。
 例えば、500mVppでデータ伝送速度が3.125 Gビット/秒、シングル・エンドのPRBS−7*データを長さが20mの同軸ケーブル「Belden 8262*3)」を通過させると、伝送前は理想的なアイの開口が確保できていても、伝送後のアイは完全に閉じてしまう(図2)。こうした結果になる理由は、ISIによるジッターはデシリアライザーに内蔵したCDR回路のループ帯域外にあるからだ。このためSERDESでは、このアイを回復させようとすると、大きなビット誤り率(BER*)が発生することになる。
 (2)式をsドメインで表現すると、(3)式のようになる。

  T(s) =exp(−ksl√ s) (3)

ここで(3)式の逆数に相当する伝達関数を有する増幅器を使えば、伝送媒体の周波数依存性を補償することが可能になる。理想的には、増幅器が(4)式のような伝達関数H(s)を備えれば、完全な補償が実現できる。

H(s) =1/T(s)≒1 +α√s (4)

 この伝達関数を10dB/decadeの可変利得増幅器を持つフィードフォワード・システムに組み入れる(図3) *4)。 増幅器のブースト・ファクター(利得)を調整することで、伝送媒体と増幅器からなる伝送系の周波数依存性を補償できる。この増幅器をリンクの送信端に挿入した場合が、プリエンファシスであり、受信端に挿入した場合が受信等化である。例えば、1チャンネル当たり3.125Gビット/秒のクオド・トランシーバーIC「BBT3400」*5)では、CDR回路の前段にブースト・ファクターをプログラムできる可変利得増幅器を16個備えた受信等化方式を採用している(図4)

受信等化のメリット

 受信等化は、プリエンファシスに比較していくつかの長所がある。例えば、プリエンファシス方式に比べて、放射電磁雑音(EMI)を小さくできることである。受信等化では、ブーストのレベルを高くする必要があっても、高周波信号成分の利得を高めることなく信号を伝送できるからだ。
 さらに適応型システムを採用しやすいという長所もある。ユーザーが受信端で、ブースト・レベルを設定できるからである。プリエンファシスでは、受信側で大きな開口のアイを得られるとはいえ、通常、等化器(イコライザー)の出力は内部ノードになっておりユーザーが触ることはできない。このため等化器の特性を設定しようとすると、実験室を使って特別な測定系をセットアップする必要がある。
 例えば、トランシーバーIC(BBT3400など)を使えば、ビット誤り率が10−12以下のデータを回復させるようにブースト・ファクターを設定できる。その例が図4で、BBT3400を組み込んだトランシーバーの構成を示した。
 しかし問題が1つある。受信データからは、入力ジッター耐量のマージン(余裕度)に関する情報が得られないことだ。入力ジッター耐量のマージンに関する知識と、それを十分に保証することは、信頼性が高いシステムを設計する上で極めて重要である。
 そこで図5に示す手法を使う。ビット誤り率が10−12に達するまで入力データに位相変調をかけ続けることで、入力ジッター耐量のマージンを測定する方法である。図5では、トランシーバーICのシリアライザー出力を並列インターフェースを介して、トランシーバーICのデシリアライザー入力にループ・バックしている。
 ビット誤り率テスターは、伝送媒体とトランシーバーIC、ビット誤り率を測定するために誤り検出器に流すデータ・パターンを発生させる。位相変調器は、ビット誤り率測定用クロック発生源を正弦波で変調する。変調周波数がデシリアライザーのCDR回路のループ帯域よりも高い場合は、位相変調の最大値が入力ジッター耐量のマージンとなる。
 長さが20mのケーブル(Belden社製)を介して伝送した3.125Gビット/秒のPRBS-7パターンをトランシーバーIC「BBT3400」が受信した場合、10−12以下のビット誤り率で最大0.5ユニット・インターバルの高周波変調が可能だ。なお3.125Gビット/秒のNRZ*信号の場合、1ユニット・インターバルは320psに相当する。この場合の入力データのアイの開口は、図6に示したアイの開口よりも大きいが、こうしたビット誤り率が大きい伝送データでも再生できる。
 受信等化技術を利用した位相変調測定法を用いることで、BBT3400は10−12のビット誤り率で0.5ユニット・インターバルのマージンがあり、入力ISIジッターに関しては約1ユニット・インターバルに耐えられることが分かった。言い換えれば、図4に示した構成でデータ再生を行う場合には、0.5ユニット・インターバル以上のマージンを有していることになる。

 

用語解説 / 会社情報
*1)
ドン・チェン(Dong Zheng)氏は現在、米国カリフォルニア州のビットブリッツ・コミュニケーションズ(BitBlitz Communications)社でシステム・アプリケーションズ・エンジニアリング部長を務めている。米スタンフォード大学で電気工学博士号を取得。なお修士号は米ルトガース(Rutgers)大学、学士号は中国の清華(Tsinghua)大学で取得した。
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【SERDES】
serializer deserializer
低速なパラレル(並列)・データを高速なシリアル(直列)・データに変換するシリアライザーと、高速なシリアル・データを低速なパラレル・データに変換するデシリアライザーを収めた回路。「セルデス」、「サーデス」などと読む。
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【プリエンファシス】
pre-emphasis
ケーブルなどの周波数特性をあらかじめ求めておき、その特性を補償するためにデータ送信時に特定の周波数を強調して送る技術。これを使えば、受信時のアイ・パターンの開口を大きくできる。
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【EMI】
electromagnetic interference
電磁波妨害
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【CDR】
clock and data recovery
クロック・データ再生
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*2)参考文献
Cheng,David,Field and Wave Electromagnetics,Addison-Wesley
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【ISI】
intersymbol interference
符号間干渉
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【PRBS】
pseudo random binary sequence
疑似ランダム・バイナリー・シーケンス
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*3)参考文献
米国のケーブル・メーカーであるベルデン社(Belden Inc.)の同軸ケーブル。同社のホームページはhttp://www.belden.com/
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【BER】
bit error rate
ビット誤り率
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*4)参考文献
Shakiba,M,"A 2.5Gb/s Adaptive Cable Equalizer," ISSCC、1999
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*5)参考文献
米ビットブリッツ・コミュニケーションズ社のトランシーバーIC。詳細は同社のホームページを参照されたい。
http://www.bitblitz.com/
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【NRZ】
non return to zero
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