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microprocessorreport

2003年5月号
300MHzで5米ドルの
低価格DSPを米TI社が出荷


米テキサス・インスツルメンツ(TI)社は、最大動作周波数が300MHzと高く、1万個購入時の単価が5米ドルと低い16ビット固定小数点DSPを発売した。2個の積和演算器を内蔵しており、最大性能は600MMACS(MMACSは毎秒100万回の積和演算)に達する。動作時の消費電力は標準で194mWとかなり低い。 (本誌)

マックス・バロン
米マイクロプロセッサー・レポート誌* シニア・エディター
Max Baron Microprocessor Report Senior Editor
 低価格のDSP*という製品分野が定着し始めた。特に高価ではない、通常の機器に利用できるところにまでDSPの価格が下がってきたからだ。価格の引き下げを主導したのは半導体ベンダーとIP*ベンダーである。コストの増加を強く嫌う通信機器やマルチメディア機器が、DSPを採用できるようになった。
 しかしDSPの販売数量は、マイコン(マイクロコントローラー)に比べるとまだ少ない。より高い性能のDSPがマイコンと同じ程度にまで安価になれば、応用分野が広がり、販売数量がさらに増えるだろう。DSPの動作速度を上げるとなると、電力管理が必要になる。複数のALU*をより高い周波数で動かすためには、より多くの電力を与えなければならないからだ。
 2002年12月に米テキサス・インスツルメンツ(TI)社*は、高性能かつ低消費電力で低価格と主張するDSP製品2品種を発表した。「TMS320VC5501」(以下、C5501)と「TMS 320VC5502」(以下、C5502)である。いずれも2個の積和演算器を内蔵する。

DSPであり、マイコンでもある

 C5501とC5502は、TI社が「Application-Enhanced(アプリケーション・エンハンスド)」と称するC55xコア内蔵の製品系列の一部である。同社はこの名称を、OMAP*のような特定用途向けマルチコア・プロセッサーと汎用DSPの中間に位置する製品に使用している。
 図1にはC5501の内部構成を示した*1)。C55xコアと周辺回路で構成されている。C 5501は16ビット固定小数点DSPであり、クロック・サイクルごとに17ビットの積和演算を2回実行できる。コアの最大動作周波数は300MHzである。工業用や車載用などに適するように、−40〜80℃の温度範囲で300MHz動作を保証する。製造技術は、直径300mmのウエハーによる銅配線を利用した最小加工寸法0.13μm技術である。
 40ビットALUと16ビットALUという2個のALUが、デジタル信号処理とマイコンの処理を担う。内部の複数のバスとレジスター・ポートによって、1クロック・サイクルで最大3個のデータの読み出しと2個のデータの書き込みを実行する。このほかに用意したバスが、命令コードを各機能ユニットへ伝える。
 C55x DSPコアは、C54xの命令セット・アーキテクチャーに新たにいくつかの命令群を加えたコアである。コードの暗黙の並列実行をサポートするオートパラレル命令や、コンパイラーの作成やハンド・コーディング作業を簡単にするために正規化の程度を高めた命令などを追加した。C55xコアは、C54xコア用のプログラム・コードで動かせる。しかし、C55xコア用に記述されたコードは、既存のC54xコアでは実行できない。
 C5501とC5502は共に、16Kバイトの命令キャッシュ(I-Cache)を内蔵する。C5501は32Kバイトのデュアル・アクセスRAM(DARAM)*2)を、C5502は64KバイトのDARAMをそれぞれ搭載している。また両プロセッサーは、マイコンと同様に1ウエイトでアクセスできる32KバイトROMを内蔵する。外部メモリーとしては、C5501は16ビット・バスを通じて最大で8Mバイトの容量をサポートする。C5502は、16あるいは32ビットのバスを通じて最大で16Mバイトのメモリーを取り扱える。外部メモリー・インターフェースは、EPROMやSRAMのような非同期式メモリーだけでなく、シンクロナスDRAMやシンクロナス・バーストRAMのような高速かつ高密度のメモリーにも対応する。
 シリアル・インターフェースとしては全二重方式の多重チャンネル・バッファー付きシリアル・ポート(McBSP*)を2個用意した。パラレル・インターフェースではOMAPと同様に、8ビット・パラレルのホスト・ポート・インタフェース(HPI*)を搭載した。外部のホスト・プロセッサーはHPIを通じて、C5501の16K語の内部メモリーにアクセスできる。DMAコントローラーは、CPUの動作とは独立にデータ転送を実行する。
 C5502はC5501と同じプロセッサー・コアを内蔵しており、メモリー・サポートも同様である。両者の主な違いはDARAMの容量にある。ただしC5502の周辺回路は、C5501に比べるといくらか増強されている。McBSPが3個に増えているほか、HPIが8ビット通信と16ビット通信の両方をサポートする。C5502もC5501と同様に保護機能付きのROMを用意した。
 コアの動作周波数については、TI社は300MHzを超えたところまで視野に入れているようだ。今回のチップが内蔵するアナログPLLの周波数比が1対1と1対2、1対4であることと、動作周波数100MHzのメモリーが現在主流であることから類推できる。

消費電力を抑える設計

 C5501を300MHzで動かすときには、コアの電源電圧を1.26Vに、入出力の電源電圧を3.3Vに設定する必要がある。このとき、消費電力は標準で194mWとなる。ALUと周辺回路におけるクロック・ゲーティング設計と、電力効率の高いメモリー・インターフェースの使用によってこの消費電力を達成した。コアの周波数と電圧レベルを制御することによって、消費電力をさらに下げられるかもしれない。
 C55x DSPコアは、機能ユニットごとにクロックの供給を制御できる。このコアはチップ内のどの部分が使われているかをモニターし、使われていない部分へのクロックの供給を停止できる。
 消費電力の低減用にユーザーが利用できるツールもある。特定のアーキテクチャーの電力消費量をカスタマイズするために、ユーザーが定義できるアイドル・ドメインを用意した。チップのユーザーは、CPUとキャッシュ、周辺回路、DMA、クロック発生回路、外部メモリー・インターフェースに対して動作期間とクロック停止期間(アイドル・ドメイン)を定義できる。同社はドメインという用語を、同じクロック周波数を供給するオンチップ・クロック・ドメインではなく、クロックの供給をまとめて停止できる機能ユニット群に対して使用している。またコア・アーキテクチャーは、8ビットと16ビット、24ビット、32ビット、40ビット、48ビットの可変長命令をサポートする。このため、32ビット・メモリー・バス上で複数の命令を同時に伝送できる。このことは外部バスによる消費電力の抑制に役立つ。

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販売戦略か、
必然の重なりか


 C5501に比べるとC5502の方が内蔵メモリーと周辺回路が多いにもかかわらず、両者のチップ寸法は同じである。パッケージもほぼ同じであり、動作周波数はどちらも300MHzである。ところが、C5502の価格は1万個購入時の単価で9.95米ドルと、C5501の約2倍にもなる。C5501のチップでは、その違いである32KバイトのDARAMと一部の周辺回路があるべき部分が鏡面のように何も作り込んでいないシリコンだとでも言うのだろうか。たぶん違うだろう。出荷順としては、C5502がまずサンプル出荷され始め、次いでC5501が2003年第3四半期から出荷される予定である。
 TI社の値付けは、販売戦略によるものだろうか。競合ベンダーである米アナログ・デバイセズ社は、最大動作周波数が300MHzで性能が600MMACS*のDSP「ADSP-21532」を1万個購入時の単価9.95米ドルで発売した*3)。TI社はこの製品に対抗してC5502の価格を設定している可能性がある。C5502はADSP- 21532と同じくらいの性能を達成するだろう。TI社の強みは、チップの消費電力が低いことと、2003年第3四半期に価格が半分のC5501を出荷するという約束である。
 あるいは、この重なりは必然なのだろうか。C5502は、最大動作周波数が300MHzと200MHzの2種類の品種で販売される。これは、製造歩留りの関係で2種類の速度を設定したことを示唆する。後になると製造歩留りが向上するので、C5501は300MHzで動くとも言える。またC5501の内蔵DARAMは容量が少ないので、高速動作を助けるかもしれない。
(C2003:In-Stat/MDR)

用語解説 / 会社情報
【米マイクロプロセッサー・レポート誌】
リード・エレクトロニクス・グループの米In-Stat/MDR社が発行するマイクロプロセッサー技術専門誌。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.mpronline.com
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【DSP】
digital signal processor
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【IP】
intellectual property
一般的には知的財産権のこと。ここでは企業間で取引される半導体の大規模な回路ブロックを指す。
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【ALU】
arithmetic logic unit
算術演算ユニット
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【米テキサス・インスツルメンツ社】
Texas Instruments Inc.
大手半導体メーカー。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.ti.com/
国内連絡先は日本テキサス・インスツルメンツ。同社のホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.tij.co.jp/
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【OMAP】
Open Multimedia Application Platform
OMAPプロセッサーはC55xコアとARMコアを混載している。
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*1)
C5501の概要は下記ホームページでも閲覧できる。
http://www.tij.co.jp/jsc/docs/dsps/product/c5000/c55xcore/tms320vc5501.htm
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*2)
読み出し用ポートと書き込み用ポートを備えるRAM。デュアル・ポートRAMとも呼ぶ。
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【McBSP】
Multichannel Bufferd Serial Port
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【HPI】
Host Port Interface
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【MMACS】
million multiply-accumulates per second
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*3)
ADSP-21532は、米アナログ・デバイセズ社が米インテル社と共同開発した「マイクロ・シグナル・アーキテクチャ」に基づく最初のDSP製品2品種の1つ。この製品に関するリリースは下記ホームページで閲覧できる。
http://www.analog.com/Press_Releases/CDA/ Printer_Friendly_Page/0,1865,9040,00.html
なお2003年3月にアナログ・デバイセズ社は、動作周波数が300MHzで1万個購入時の単価が4.95米ドルのDSP「ADSP-BF531」を2003年第3四半期に出荷すると発表した。リリースは下記で閲覧できる。
http://www.analog.com/Press_Releases/CDA/ Printer_Friendly_Page /0,1865,20523,00.html
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