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designideas
2003年5月号
最適なアクティブ・プローブは
シングル・エンドか、差動か


新しいアーキテクチャーを採用したアクティブ・プローブが登場したことで、数GHzという超高速信号の測定が簡単かつ正確に行える環境が整った。しかし、この環境を使いこなすには、プローブの動作原理と回路トポロジーを理解し、そのトレード・オフを熟知する必要がある。シングル・エンド信号用プローブを使うのか、それとも差動信号用プローブを採用するのか。その疑問に答える。 (本誌)

マイク・マクティーグ*1
Mike McTigue
米アジレント・テクノロジー社
Agilent Technologies, Inc.
 広帯域オシロスコープとアクティブ・プローブのユーザーは従来から、シングル・エンド用プローブと差動用プローブを使い分けていた。すなわち、シングル・エンド信号(接地を基準にした電圧)の測定にはシングル・エンド用プローブ、差動信号(正電圧と負電圧の差)の測定には差動用プローブを使うという単純な方法だ。
 それでは従来は、差動用プローブだけを購入して、これを差動信号とシングル・エンド信号の両方の測定に使うことはできなかったのだろうか。実は、こうした使い方は従来から可能だったのだ。しかし多くのユーザーがそうしてこなかったことには、現実的な理由があった。それは差動用プローブは、シングル・エンド用プローブよりも高価であり、使い方が難しく、さらに周波数帯域が狭かったからである。
 しかし現在では、こうした問題点はほとんど克服されている*2)。1つのプローブで、差動信号とシングル・エンド信号の両方に対応できる。この結果、アクティブ・プローブのユーザーに新たな疑問を提起することになった。シングル・エンド信号を測定するには、差動用プローブを使うべきか、シングル・エンド用プローブを使うべきかという疑問である。この答えは、測定性能と使いやすさとのトレード・オフによって決まる。

接地の状態が性能を左右する

 7GHzまで対応できるアクティブ・プローブ「Agilent 1134A」は、差動用とシングル・エンド用のプローブ・ヘッドを用意している。今回はこれを使って、周波数帯域や忠実性、使いやすさ、コモン・モード信号除去比、再現性、外形寸法などを比較した。図1にこのプローブの等価回路、図2に外観を示す。差動用とシングル・エンド用の2つのプローブ・ヘッドは、接続部の物理的な形状はほぼ同じである。このため両者の性能差は、主に回路トポロジーの違いに起因する。なおプローブの性能測定は、20GHzのベクトル・ネットワーク・アナライザー「Agilent 8720A」もしくは広帯域サンプリング・オシロスコープ「Agilent Infiniium DCA(digital communications analyzer)」に、プローブのデスキューと校正を行う器具「Agilent E2655A」を組み合わせて行った。
 前述のようにシングル・エンド用プローブは一般的に、差動用プローブよりも周波数帯域が広い。この違いは、基本的な物理法則に起因するものなのか、それとも差動アーキテクチャーを実現するプローブの構成が複雑になるからであろうか。この疑問を解決するために、差動用プローブとシングル・エンド用プローブの両方について、接続時に発生する寄生成分をモデル化してみた(図1)。2つのプローブは、ヘッドの形状は良く似ている。このためインダクタンスと静電容量の値は、同様な値になる。ただしシングル・エンド用プローブは、幅が広くて平坦な導体(ブレード)を有している。このためLG(接地インダクタンス)が小さくなるが、それほど劇的に減るわけではない。
 さらに以下の点にも注意が必要だ。すなわち差動用プローブは、両方の入力にチップ抵抗を備えているが、シングル・エンド用プローブは信号入力側だけで、接地側にはチップ抵抗を接続していないことである。これらの抵抗は、接続部の寄生成分であるLとCが引き起こす共振現象*3)を抑えるために不可欠なものである。
 シングル・エンド用プローブの等価回路を解析した結果、インダクタンスと静電容量の値と、接地インダクタンスLGの値が重要であることが分かった。周波数が高くなるとLGによりDUT*(テスト対象物)の接地とプローブの接地との間に電圧が発生し、これによって減衰器/増幅器の入力における信号が小さくなってしまう。LGを減らせれば、周波数帯域をさらに広げられるだろう。
 接地インダクタンスLGを減らすには、接地との接続線の長さを短くするか、接続をより強固にするかのいずれかが必要になる。究極的には、理想的な方法で接地接続を行うことが望ましい。例えば、短く幅の広い平面導体や、信号の周囲を同心円状に取り巻く導体(すなわち同軸プローブ接続)を用いる方法である。しかし、このような理想的な接地接続方法は、実際のプローブに適用するのは現実的ではない。シングル・エンド用プローブの使い勝手を大きく損なうことになるからだ。
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差動用の方が
帯域幅が広い


 次に、差動信号(VCM=0、VP=VM)で駆動する差動用プローブの等価回路を解析した結果を示す。差動用プローブでは、プラス信号とマイナス信号の対称性から、2つの接続の間に正味の信号が存在しない平面が現れることになる。すなわち実効的な接地平面である。この接地平面は、DUTの接地平面やプローブ増幅器の接地平面としっかり接続されているものとする。このような実効的な接地平面を考えれば、接地に対する信号ループの面積は、完全な信号ループの約半分に相当する。従って、シングル・エンド用の等価回路において、インダクタンス値を半分にした半回路モデル(Half Circuit Model)を解析すれば良いことになる。
 半回路モデルを解析すると、周波数帯域がより広くなることが分かる。さらに付け加えると、実効的な接地平面は理想的な接地接続方法である上に、使い勝手を損なうことはない。
 シングル・エンドの信号源を差動用プローブで測定する場合は、総合的な応答を求めるために重畳法を使えばよい。差動プローブの等価回路において、VCM=VP=VMと置くことで、シングル・エンド信号に対応できるようになる。重畳法の第1項については、VCMをオフにして測定する。第2項については、VPとVMをオフにして測定する。第1項はシングル・エンド信号の差動成分に対する応答である。従って、その応答特性はすでに議論したものと同じだ。第2項はシングル・エンド信号の同相(コモン・モード)成分に対する応答である。この応答は、プローブのコモン・モード信号除去性能が決めることになる。
 プローブが良好なコモン・モード信号除去性能を有していれば、シングル・エンド信号に対する総合的な応答は、シングル・エンド信号の差動成分に対する応答そのものになる。コモン・モード信号除去性能が十分に高くない場合は、差動信号とシングル・エンド信号の測定値の差となって現れる。図3の赤色と緑色の線は、これらの応答の間にほとんど差がないことを示している。
  さらに図3では、シングル・エンド信号を差動用プローブで測定した際の周波数応答(緑色)と、シングル・エンド信号をシングル・エンド用プローブで測定した際の周波数応答(青色)も示した。いずれも周波数帯域が7GHzまで対応できるプローブ増幅器を使っている。なおプローブの帯域は、プローブ出力とプローブ入力の比(利得)が3dB低下した周波数と定義した。明らかに、差動用プローブ・ヘッドの方が、シングル・エンド用プローブ・ヘッドよりも周波数帯域は広い。シングル・エンド用プローブ・ヘッドの帯域は約5.4GHz、差動用プローブ・ヘッドの帯域は約7.8GHzである。どちらのプローブ共に、DUTとの接続に適切なダンピング抵抗を使っているため、周波数応答は平坦である。
 図4(a)は、立ち上がり時間が約100psのステップ入力に対する、差動用プローブのタイム(時間)・ドメインにおける応答波形を示した。一方、図4(b)は同じステップ入力に対するシングル・エンド用プローブの応答波形である。どちらの図でも、赤色の線はプローブの出力波形、青色の線は入力波形を示している。ここで注意して欲しいのは、プローブのステップ応答性ではなく、単に100psのステップ入力に対してどれだけ忠実に追従できているかである。
  ステップ応答を測定には、入力は極めて高速な立ち上がりステップに対応できることが求められる。2つの図から、差動用プローブはシングル・エンド用プローブよりも高速な立ち上がり特性を有していることが分かる。ただし2つのプローブ共に、100psのステップ入力に対して、十分に追従できていると言えるだろう。

差動用は接地の影響を受けづらい

 コモン・モード信号除去比は、差動用とシングル・エンド用のどちらのプローブにとっても気になる特性だ。差動用プローブの場合は、プラスとマイナスのプローブの両方に共通な信号が現れてはならない。一方、シングル・エンド用の場合は信号と接地の両方に共通な信号が現れてはならない。コモン・モード信号出力がゼロならば、印加信号に対するコモン・モード信号除去比は無限大である。
 差動用プローブとシングル・エンド用プローブの等価回路を見ると、プローブの減衰器/増幅器の接地端子から「アース」接地との間に抵抗とインダクターの並列回路が入っていることが分かる(図1)。これはプローブ・ケーブルのシールドやアース接地によって形成される伝送線路、もしくはアンテナによるインピーダンスを簡略化した等価回路である。アウトサイド・モード・インピーダンスと呼ぶ。
 これは非常に重要である。なぜならば、シングル・エンド用プローブにコモン・モード信号が入力されたときに、接地インダクタンスLGはアウトサイド・モード・インピーダンスと共に分割器を構成するからだ。この分割器は、増幅器に入力される接地信号を減衰させる。従って、通常の増幅器への入力信号と接地入力の減衰量が異なることになるため、増幅器の入力にはその差に相当する信号が現れ、これが出力信号にも影響を与える。接地インダクタンスが大きいと、コモン・モード信号除去比は小さくなる。このためシングル・エンド用プローブを使う場合は、接地との接続線をできるだけ短くすることが重要になる。
 さらに、アウトサイド・モード信号がインサイド・モード信号(同軸ケーブルの内部を流れる正常なプローブ出力のこと)に直接影響を与えないことにも注意が必要である。しかし、反射されたアウトサイド・モード信号は、プローブ増幅器の接地に影響を与える。従って、インサイド・モード信号に間接的に影響を与えてしまう。
 差動用プローブにコモン・モード信号を入力すると、減衰器/増幅器のプラス入力とマイナス入力の両方に同じ信号が与えられることになる。このときに出力される信号は、増幅器のコモン・モード信号除去比の関数で決まる。接続インダクタンスには依存しない。
 コモン・モード雑音に重畳されたシングル・エンド信号を測定する場合、シングル・エンド用プローブと差動用プローブはどちらが優れたコモン・モード信号除去性能を発揮するだろうか。この答えは、シングル・エンド用プローブの接地接続インダクタンスと、差動用プローブに備える増幅器のコモン・モード信号除去比に依存する。今回、例として取り上げた差動用とシングル・エンド用のプローブ・ヘッドでは、差動用プローブの方がシングル・エンド用プローブよりもコモン・モード信号除去性能が優れていることが分かる(図5)。従って、大きなコモン・モード雑音が存在する場合は、差動用プローブの方が正確に測定できることになる。
 こうした関係は、シングル・エンド用プローブの接地接続を極めて低いインダクタンスに抑えられる場合(実現は困難)を除いて、差動用とシングル・エンド用のプローブの関係として一般的に言えることである。なお、以下の点について注意して欲しい。今回提示したシングル・エンド用プローブのコモン・モード信号除去性能の評価結果は、多くのシングル・エンド用プローブに比べて同等以上であることだ。今回使用したプローブは、接地との接続線が非常に短い。
 図5のコモン・モード応答は差動用プローブの場合、
 コモン・モード応答(差動)=20log(VOC/VIC)
で与えられる。ここでVICは、プラスとマイナスの入力端子に入力する共通の電圧、VOCはVICを入力したときにプローブ出力に発生する電圧である。
 一方、シングル・エンド用プローブの場合は、
 コモン・モード応答(シングル・エンド)
           =20log(VOC/VIC)
になる。ここでVICは信号入力と接地入力の端子に入力した共通の電圧、VOCはVICを入力したときにプローブ出力に発生する電圧である。

再現性はどうか

 高周波プローブを使う際の問題の1つに、測定結果の再現性がある。プローブやケーブル、測定者の手の位置などが測定結果に影響を与えないことが理想的である。しかし残念ながら、これらの要因は通常アウトサイド・モード・インピーダンスを変化させてしまう。従って、測定結果に影響を与える。このアウトサイド・モード・インピーダンスは、プローブの等価回路よりもはるかに複雑である。シールドを施していない伝送線路(アンテナとして機能する)はプローブや手、ケーブルの位置の影響を受けやすいからだ。
 アウトサイド・モード・インピーダンスの変化を考慮してシングル・エンド用プローブの等価回路を解析すると、この変化によってプローブ応答が変動することが分かる。さらにアウトサイド・モード・インピーダンスはコモン・モード応答を決める要因の1つであるため、この変化によってコモン・モード信号除去性能も変わってしまう。接地接続のインダクタンスが高ければ高いほど、プローブ応答の変動幅は大きくなる。
 一方、差動用プローブではどうだろうか。アウトサイド・モード・インピーダンスの変化を考慮して差動用プローブの応答を解析したところ、大きな変動は発生しないことが分かった。これはプローブ増幅器のコモン・モード信号除去比によるところが大きい。この増幅器は、接地に存在するすべての信号を減衰させ、プローブや手、ケーブルの位置関係によって生じる変動を大幅に抑えられる。
 図3の周波数応答は、差動用プローブの方が、シングル・エンド用プローブよりもスムース(滑らか)である。言い換えればシングル・エンド用プローブの周波数応答は凸凹が多い。これはアウトサイド・モード・インピーダンスが変動したためだ。プローブのケーブルにフェライト・ビーズを加えれば、アウトサイド・モード信号を減衰させ、アウトサイド・モード・インピーダンスの変動を抑えることが可能になる。これによりプローブや手、ケーブルの位置による影響を若干だが減らせる。
 差動用プローブとシングル・エンド用プローブを比較した結果、差動信号を測定する場合でも、シングル・エンド信号を測定する場合でも、差動用プローブの方が有効であることが明らかになった。それならば、どうしてユーザーはいまもなお、シングル・エンド用プローブを使い続けているのだろうか。この理由としては、シングル・エンド用プローブはさまざまな測定環境に対応することができ、さらにプローブ先端のネットワークが複雑でないためコストが低く、小型であることが挙げられる。プローブが小型であれば、回路の狭い領域に対するプロービングが可能になり、さらに非常に近接した複数の測定点にプローブを当てられるようになる。こうした観点から考えると、差動信号あるいはシングル・エンド信号のどちらかに対応した1つのプローブ・システムを備えることが最適解なのであろう。
 電子産業における信号伝送方式は、接地電位の変動やクロストーク、EMI*を抑えるために、シングル・エンド方式から差動方式に移行しつつある。従って、さまざまな新規の分野で、差動プロービング技術が不可欠になっている。差動プローブは、2つの差動信号間にある実効的な接地平面が、シングル・エンド用プローブ(同軸タイプを除く)のそれよりも理想に近い。このため良好な測定性能が得られる。最新の差動用プローブは使いやすく、性能も高い。さらに差動信号とシングル・エンド信号の両方に使える。コスト効率が高いソリューションと言えるだろう。

用語解説 / 会社情報
*1)
同氏は、1979年に米アリゾナ州立大学を卒業し、米アジレント・テクノロジー社(当時は米ヒューレット・パッカード社)に入社し、同社のコロラド・スプリングス・テクノロジー・センター(Colorado Springs Technology Center)で厚膜ハイブリッド回路の開発に取り組んできた。1983年に次世代オシロスコープとプローブの開発/設計を担当するため、オシロスコープ研究開発ラボに異動した。以来、サンプリング・オシロスコープやリアルタイム・オシロスコープの開発に携わってきた。最近では、7GHzに対応したプローブ・システムを含む、次世代広帯域オシロスコープに不可欠なプローブ・システムの開発に貢献している。
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*2)
例えば、米アジレント・テクノロジー社の「Agilent 113Xシリーズ」など。

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*3)
Dascher, Dave "The truth about the fidelity of high-bandwidth voltage probe", Agilent Technologies, AN 1404, http://cp.literature. agilent.com/litweb/pdf/5988-6515EN.pdf.
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【DUT】
device under test
テスト対象物
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【EMI】
electromagnetic interference
電磁波妨害
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