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microprocessorreport

2003年3月号
東芝と米ミップス社、
800MHzのMIPSコアを開発


 東芝と米ミップス・テクノロジーズ社は、MIPSアーキテクチャーに基づく最上位のプロセッサー・コア「TX99」を共同開発した。従来の最上位コア「20Kc」を改良したもの。2次キャッシュを内蔵すると共に、動作周波数を800MHzに高めている。TX99コアを内蔵した最初のマイクロプロセッサー「TMPR9961」は、DRAMを集積してグラフィックス処理性能を強化した。 (本誌)

マーカス・レヴィ
米マイクロプロセッサー・レポート誌* シニア・エディター
PMarkus Levy Microprocessor Report Senior Editor
 東芝は、同社の最上位プロセッサー・コア「TX99」とこのコアを内蔵する最初のマイクロプロセッサー「TMPR9961」の詳細を2002年10月中旬に開催されたマイクロプロセッサー・フォーラム*で発表した。
 TX99コアは、米ミップス・テクノロジーズ社が開発したEnhanced MIPS64命令セット・アーキテクチャーの最上位プロセッサー・コア「Amethyst(アメジスト)」(開発コード名)を実際に動作する半導体として実現したもの*1)。ミップス社のこれまでの最上位プロセッサー・コア「20Kc」を改良した。
 東芝はTX99コアを利用し、民生機器などに向けたLSIを開発する計画である。テレビ受像機、セットトップ・ボックス、ネットワークの基地局、カー・ナビゲーションなどの市場を狙う。
 民生機器向けLSIの最初の製品がTMPR 9961である。最小加工寸法が90nmの技術で製造された。内蔵した回路は、動作周波数800MHzのTX99コア、32Mバイトのグラフィックス用埋め込みDRAM*(eDRAM)、USB*インターフェース、IEEE1394インターフェース、MPEG*デマルチプレクサー、グラフィックス・コントローラーなどである。

20Kcコアを小さく、速く

 図1には、Amethystコアの内部構成を示した。256Kバイトの2次キャッシュを搭載する。2次キャッシュは4ウエイ・セット・アソシアティブ方式を採り、コアの1/2の周波数で動作する。MPEG符号化処理といったマルチメディア用途に役立つ。
 またこのコアは、動作周波数400MHzにおいてデータ転送速度が最大6.4Gバイト/秒に達するMGB-IIバスを内蔵する。MGB-IIバスはポイント・ツー・ポイント構成の非多重バスである。単方向当たりで64ビットのデータ・バスを備える。
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 米ミップス社は、20KcコアについてのEEMBC*によるベンチマーク結果を公表していない*2)。しかしマイクロプロセッサー・レポート誌(以下MPR誌)は、2次キャッシュの付加によって性能を最大20%向上できると考えている。この推定は、米モトローラ社のマイクロプロセッサー「MPC7455」のベンチマークに基づく。このチップは256Kバイトの2次キャッシュを内蔵する。動作周波数1GHzでの公表ベンチマーク値と、2次キャッシュを無効にしたときの性能数値(非公開)とを比較したデータを推定に利用した。
 最小加工寸法90nmの製造技術でAmethystコアを実現するために施された手設計による調整作業の内容はあまり見えない。分かっているのは、20Kcコアに比べて回路面積を小さくし、動作周波数を向上させたことである(表1)。

表1 20KcコアとAmethystコアの概要 コアに2次キャッシュと埋め込みDRAMは含んでいない。
  20Kcコア(TSMCの0.18μmプロセス) 20Kcコア(TSMCの0.13μmプロセス) Amethystコア(東芝の90nmプロセス)
アーキテクチャー
MIPS3D付きMIPS64
命令の同時発行
2命令同時
パイプラインの長さ
7段
実行ユニットの数
整数演算が2、浮動小数点/3D演算が1
1次キャッシュ
命令32Kバイト/データ32Kバイト、 4ウエイ・セット・アソシアティブ方式
電源電圧 1.8V 1.0V 1.2V
動作周波数(最悪値) 360MHz 533MHz 不明
動作周波数(代表値) 425MHz 600MHz 800MHz
動作時消費電力(動作周波数の代表値における推定) 4.14W 1.37W 1.6W
動作時消費電力(2次キャッシュ込み) 搭載せず 搭載せず 2.2W
動作時消費電力(埋め込みDRAM込み) 搭載せず 搭載せず 3W
コアの回路面積 35mm2 20mm2 12mm2
2次キャッシュ込みの回路面積 搭載せず 搭載せず 22mm2

 米ミップス社はAmethystコアの設計でフロント・エンド部分を担当し、RTL*コードを生成した。そしてミップス社と東芝が共同で、東芝の製造プロセス用にコアを最適化するためのバック・エンド部分の設計を実施した。今後このコアを、シンガポールのチャータード・セミコンダクター社や台湾TSMC、台湾UMCなどのシリコン・ファウンドリーで製造可能にし、東芝以外の半導体メーカーにライセンスしていくことをミップス社は考えている。



グラフィックス用の埋め込みDRAM

 開発したマイクロプロセッサーTMPR9961は、単なるDRAM内蔵プロセッサーではない。図2には、TMPR9961の内部構成を示した。高速動作する回路ブロックはポイント・ツー・ポイント接続する。すなわち、動作周波数200MHzのクロスバー・スイッチによって結合してある。
 このクロスバー・スイッチの動作周波数はプロセッサー・コアの1/4である。ただし動作周波数は固定ではない。将来のTX99コア内蔵LSIでは、クロスバー・スイッチはコアの周波数の1/2で動く予定である。クロスバー・スイッチでのアービトレーションとしては、プログラム可能な優先レベルを備えている。同じレベル内では、ラウンド・ロビン方式を適用した。
 TMPR9961のクロスバー・スイッチは、最大4対のノードをサポートする。従って、競合が生じなければ、最大で4組の独立した接続を確立できる。しかし、同じスレーブ・ノードを2つのマスターが要求するといった競合が発生する場合には、どちらの要求が先に処理されるべきかをアービターが決定する。
 メモリー容量32Mバイトの埋め込みDRAMは、動作周波数150MHzの256ビット・バス・インターフェースを通じてグラフィックス・コントローラーに直接接続してある。グラフィックス・コントローラーは、2次元/3次元のジオメトリー演算と、ビット・ブリット、ライン・ドロー、アンチ・エイリアシングといったレンダリング機能を実行する。
 埋め込みDRAMは幅広いインタフェースとオンチップのレイアウトによって、描画速度を最大4.8Gピクセル/秒に向上させた。チップにDRAMを集積することによって、コントローラーとDRAMの間の接続信号線の静電容量は1/10〜1/100に減少した。このため、信号線の充放電に要する電流を減らせる。またこの高い描画速度は、動画像の再生を滑らかにする。

MPEGをソフトウエアで処理

 低速側の回路ブロックを接続するオンチップ・バスに東芝は、英アーム社からライセンスを受けてAMBA*-AHB*バスを採用した(アーム社のバスがMIPSベースのLSIに採用されたことは興味深い)。バスの動作周波数は100MHzである。
 周辺回路としてUSBインターフェース、IEEE1394インターフェース、2個のDMAユニット、デジタル・テレビ(DTV)・インターフェースに加え、東芝はMPEGデマルチプレクサーをAHBに接続した。このMPEGデマルチプレクサーはチューナーから入ってくるトランスポート・ストリームを受け取ってオーディオ・データとビデオ・データに分離する。そしてそれぞれの後処理を実行するために、プロセッサーへデータを渡す。MPEG処理ではフル機能のMPEGアクセラレーターを搭載するのではなく、MIPS64命令セット・アーキテクチャーの浮動小数点積和演算命令(MADD)と800MHzの処理能力を活用する。すなわち、ソフトウエアでMPEG2の符号化処理を実行する。EEMBCは、これらの性能を確認するためのMPEG2とMPEG4のベンチマークを近い将来、公表するだろう。

溝型セルでCMOS論理の性能を確保

東芝 セミコンダクター社 技師長の村尾豊氏が、2002年のマイクロプロセッサー・フォーラムでDRAMを内蔵するTX99チップの詳細を発表した。
 技術的な見地からすると、TMPR9961の開発における最大の課題はDRAMの集積である。DRAMを埋め込んだプロセッサーはすでに市場に出ている。しかし、800MHzで動作するプロセッサー・コアに内蔵した例はない(東芝のチップもまだ市場に出ているわけではないが…)。
 プロセッサー・コアの性能には、DRAMの製造技術が影響する。DRAMセルのキャパシターに積み上げ型セル(スタックド・セル)・キャパシターではなく、東芝は溝型セル(トレンチ・セル)・キャパシターを使用してCMOS論理回路のプロセスと組み合わせた。トレンチ・セルだと、CMOSトランジスタを形成する前に高温処理のプロセスが入る。このため、トランジスタの特性制御が容易になる。一方、スタックド・セルでは高温プロセスがトランジスタ形成の後になるので、トランジスタの性能を劣化させてしまう。ただしトレンチ・セルは、基板からの雑音を受けやすい。この雑音は論理回路の消費電流が大きな部分で発生する。
 TX99コアを内蔵する大規模ASICのサンプルは、2003年第2四半期までは出荷されない。東芝はデジタル民生向けにすでに2件のASICを受注しているという。
 東芝は動作周波数を1.2GHzに高めたTX99コア内蔵マイクロプロセッサーの開発も計画している。このプロセッサーでは、埋め込みDRAMを利用して2次キャッシュと3次キャッシュを集積する。最小加工寸法65nmの製造技術で2004年の第4四半期までに、同45nmの製造技術ではさらに約18カ月後に実現する予定だ。
 この意欲的な技術目標は東芝の既存のマイクロプロセッサーを大きく飛び越えており、良い印象を与えるだろう。同社において現在、最も動作周波数が高いマイクロプロセッサーは0.13μm技術で製造した300MHz動作の単一パイプライン・プロセッサー「TMPR4937」だからだ。ただし最も性能が高いマイクロプロセッサーは動作周波数が266MHzでスーパースカラー構造の「TX7901」である。
 TMPR9961は、予定通りに行けば東芝が90 nm技術で製造し、出荷する最初の世代の製品となる。しかし45nmの製造技術に関する同社の計画は、意欲的に過ぎるのではないかとMPR誌はみている。製造技術として実現できたとしても、45nmプロセスによる複雑で大規模なLSIの利点を活かせるようなアプリケーション・ソフトウエアをシステム設計者が開発できるかどうかが、次の大きな課題となる。
(C2002-2003 : In-Stat/MDR)
用語解説 / 会社情報
米マイクロプロセッサー・レポート誌*
リード・エレクトロニクス・グループの米In-Stat/MDR社が発行するマイクロプロセッサー技術専門誌。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.mpronline.com
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【マイクロプロセッサー・フォーラム】
Microprocessor Forum
マイクロプロセッサー技術に関する講演会。毎年秋に米国で開催される。マイクロプロセッサー・レポート誌の発行元である米In-Stat/MDR社が主催している。同フォーラムのホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.mdronline.com/mpf/
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*1)
Amethystコアは米ミップス・テクノロジーズ社が基本仕様を開発した。Amethystコアを、実際に動作する半導体チップとして実現したのがTX99コアである。東芝と米ミップス・テクノロジーズ社、米アータイル・マイクロシステムズ社(東芝の子会社)が共同開発した。TX99コアの共同開発に関するリリースは、下記ホームページで閲覧できる。
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2002_02/pr_j1902.htm
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【DRAM】
dynamic random access memory
記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー
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【USB】
Universal Serial Bus
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【MPEG】
Moving Picture Experts Group
映像やオーディオのデータ圧縮方式の国際規格。
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【EEMBC】
EDN Embedded Microprocessor Benchmark Consortium
組み込み用マイクロプロセッサーの性能をテストする業界団体。ホームページ・アドレスは下記の通り。
http://www.eembc.org/
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*2)
未公表だったのはマイクロプロセッサー・レポート誌の掲載当時(2002年11月18日)。米ミップス社は2003年1月22日に20KcコアのEEMBCベンチマーク結果を公表した。この結果は下記ホームページで閲覧できる。
http://www.mips.com/pressReleases/012203.html
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【RTL】
register transfer level
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【AMBA】
英アーム社が開発したオンチップ・バス。バージョン2.0で、高速バスのAHBと低速バスのAPB(Advanced Peripheral Bus)の2種類のバスを用意するようになった。
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【AHB】
Advanced High-Performance Bus
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