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EDN GLOBAL REPORT
July 2005

回転速度を可変にしたモーター制御技術
安価で機能性の高いICの登場により、19世紀に誕生したモーター技術は、21世紀に合わせてその姿を変えつつある。その結果と言えるかどうかは定かでないが、家庭用電化製品の性能と効率は向上し、動作音も静かになった。
 
 
Greg Vrana, EDN North America, Correspondent
 
 「たくさんのことが同時に発生している」米Fairchild Semiconductor社シニア・アプリケーション・マネジャーを務めるV. Sukumar氏のこの言葉によって、家庭用大型電化製品市場におけるモーター制御のトレンドについての議論が始まった。半導体技術、モーター技術、経済、消費者の好み、政策といったいくつかの要因により、多くの製品にインテリジェント・モーター制御が組み込まれている。そのような製品としては、例えば、洗濯機、冷蔵庫、HVAC(heating, ventilating and air-conditioning)システムなどがある。さらには電気掃除機にさえもインテリジェント・モーター制御が組み込まれている。
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 NEC Electronics America社シニア・システム・アプリケーション・エンジニアであるJohn Pocs氏によれば、モーター制御の利用に際して、回転速度可変駆動方式の採用が増加している主な原動力は、エネルギー効率にある。次第に多くの電化製品メーカーがユニバーサル・モーターや単相誘導モーターの代わりに三相誘導モーターや永久磁石BLDC(brushless dc)モーターを採用するようになっている。これは、効率向上並びに製品への新機能搭載を目的としている(囲み記事「消費者の利益」参照)。
 「現在、三相モーターやブラシレス・モーターの使用が増えているのは、主に効率性を理由としたものである」。そう語るのは、スイスSTMicroelectronics社でプロダクト・セールス・エンジニアを務めるRich Steele氏。「特にブラシレス・モーターについては、効率性のみならず、信頼性の高さと駆動音の静かさも増加の理由となっている」。
 多相式交流誘導モーターやBLDCモーター自体は目新しい技術ではない。新しいのは、これらのモーターが組み込まれた製品の方である。本来、そのようなモーターは制御しにくい上、効率的な動作を実現するには極めて高度なアルゴリズムを必要とする。「BLDCモーターは、そもそも一般製品用ではなかった。BLDCモーターを使用する際は、モーターを制御するセンサーが必要だったからだ」と、米Silicon Laboratories社におけるマイクロコントローラ製品のマーケティング・ディレクター、Ross Bannatyne氏は語る。「これまでは、BLDCモーターの代わりに誘導モーターが使われてきたが、現在はマイクロコントローラで使用する領域でBLDCモーターを制御できるようになっており、もはやセンサーは必要としない。そうすることで、コスト効率も高くなった」。
 エネルギーコストの高さと電力消費に関する政府規制に後押しされる形で、欧州や日本の家電メーカーでは、コンピュータによるモーター制御を10年以上前から実施している。「日本で使用されているエアコンの99%にはインバータ駆動のPM(permanent magnet)モーターが用いられているが、これはエネルギー効率の良さによるものである」と、米International Rectifier社モーション・コントロール・デザイン・センターでエンジニアリング・ディレクターを務める高橋 敏男氏は語っている。北米の家電メーカーは日本や欧州の例にならっている。これは規制によるものではなく、市場原理に基づくものである。とはいえ、エネルギー意識が高まるにつれて、政府規制は現実のものとなる可能性がある。 
 程なくして、日本や欧州でもさらに進んだ技術が導入された。この背景には、これらの国々における居住空間が北米のそれに比べ狭いこと、また、同じ機能を小型筐体(きょうたい)に詰め込むには、多くの場合、より一層進歩した技術が求められることがある。 
 一方、PMモーターとそのほかの型式のモーターとのコスト格差は縮小の動きを見せている。ここ数年間、永久磁石の製造コストは鉄鋼の価格の上昇を受けて下落した。PMモーターは出力密度が比較的高い。一定の馬力で比較すると、PMモーターは、一般的な交流誘導モーターに比べて3分の1から2分の1の大きさとなる。このため、鉄鋼に要するコストが少なくて済む。大方の技術がそうであるように、量産化が進めばコストも削減される。その上、メーカーは、より一層簡単にPMモーターを特定の応用製品に適合させることができる。また多くの場合、ベルトやプーリーを排除して機械設計を単純化し、電化製品内部の動作部分を直接駆動することもできる。

モーターの制御

 三相誘導モーターやBLDCモーターの歴史は古い。それに比べ、これらのモーターを効率的に制御する技術は、まだ比較的新しい。いわゆるユニバーサル・モーターとは異なり(主要な型のモーターに関する基礎知識については、囲み記事「モーターの基礎」参照)、三相モーターおよびBLDCモーターでは、正確なタイミングでステータ巻線に印加するのに必要な電圧波形を生成する上でコントローラが必須とされる。モーターの基本的な制御には2通りの方法がある。つまり、スカラー制御とベクトル制御である。 
 スカラー制御は、モーター速度とステータ巻線の励起周波数が比例することを原則としている。また留意すべき点は、周波数を低くしてモーターの回転速度を低下させるときは、それに合わせて電圧も下げ、過剰な電流の引き込みを回避する必要があるということである。ローターが回転すると、ステータ巻線で逆EMF(electromotive force)が発生する。この逆EMFは、印加される電圧に逆らい、モーターによる引き込み電流を制限する働きがある。逆EMFはローターの回転速度に比例するため、適用周波数が低下すると、逆EMFも低下し、引き込み電流は増加する。スカラー制御では、モーターの回転速度の上限/下限に制限が設けられている。またスカラー制御では、負荷が絶えず変化する状態下においてモーターを最大出力で動作させることができない。 
 多相モーターを最大限の効率と理想的なトルクで稼動させるには、2つの制御方法のうち、より高度な方法に目を向ける必要がある。つまり、ベクトル制御である。このベクトル制御では、モーターから得られるフィードバックを利用することにより、理想的な回転速度やトルク出力が維持される。一般的なベクトル制御方式FOC(fields oriented control)では、ステータ巻線に流れる電流を変化させることにより、ステータ磁束とローター磁束の間の角度を90°に維持しようとする。このシステムでは、ステータ磁束角度を判断することはできるが、ローター磁束角度との位相を計算するには、ローター磁束角度を測定または予測する必要がある。 
 PMモーターの場合、ローター磁束の向きは、シャフト・センサー(光エンコーダやホール効果センサーなど)により機械的に決定されるローターの向きと同じ方向になる。交流誘導モーターのローター磁束角度の決定には、さらなる難題が待ち構えている。というのは、ローターの向きとローター磁束角度が直接的な関係を持たないからである。 
 機械的なセンサーを使用せずにローター磁束角度を判断するには、ステータ巻線の逆EMFを測定する必要がある。センサレス・フィードバックでは、シャント抵抗器をステータ巻線およびフィールド巻線に接続して使用する。コントローラは、通常A-Dコンバータ(ADC)を介して、シャント抵抗両端のこれらの巻線により発生する逆EMFの測定が可能である。逆EMF電圧とモーターの電気的特性を組み合わせることにより、コントローラでローター磁束角度を計算することができる。 
 システムにより一度でもローター磁束角度が測定されると、ベクトル制御アルゴリズムにより、ステータ巻線および相巻線に電圧を印加する最適なタイミングと、そのときの電圧の大きさが決定される。モーターをベクトル制御すると、モーターの性能が著しく向上する一方、トルクリップルと電流スパイクは低下する。ただし、無償で手に入れられる技術など存在しない。ベクトル制御アルゴリズムには数十年の歴史があるが、数字的に見ればそれは一時期に集中している。このようなモーター制御が非現実的であることは、これまで多くのエンジニアにより確認されている。例外は、極めて高性能の(つまりは大きな)モーターに適用した場合だけであった。

同時に発生する技術

 しかしながら、今日では、モーター制御に特化して設計された低コストのマイクロコントローラを使用すれば、回転速度可変モーターの制御を経済的に実現できる。「これ程簡単にモーターを制御できるなんて、今までなかったことだ」と語るのは、米Silicon Laboratories社のBannatyne氏。「今や、高速ADC、高速PWM(pulse width modulation)、高速CPU、温度センサー、それにモーターを制御する上で十分なI/Oを装備するシングルチップのモーター・コントローラが手に入り、その上、スイッチやLED、コントロール機器など、ほかに必要なものも取りそろえられる」(同氏)。
 これまでエンジニアは、DSP(digital signal processor)を使用して、ベクトル・アルゴリズムに必要な大規模演算を次々と処理してきた。汎用マイクロプロセッサと比較すると、DSPは、堅実な反復処理を実現するコードループに必要とされる高精度、高帯域幅という優れた特性を備えている。さらに、DSPおよびそのプログラミングツールは、決定や予測という要求を満たしてくれる。また、モーターのベクトル制御に関する問題には、DSPの場合と共通する課題が数多く存在する。しかし、現在の市場においてモーター制御を行なう応用製品のほとんどに、最速のDSPを採用することは、おそらく行き過ぎた行為であろう。もっと性能の低いプロセッサの方がうまく適合する。
 またDSPは、常にモーターを最大限に制御してくれるとは限らない。多くの場合、スカラー制御が応用製品の性能目標を達成する上で申し分ない制御方式である。例えば、誘導モーターを1台使用した低コストかつ大型の家電製品(例:ルームエアコン、食器洗い機、電子レンジ)などは、スカラー制御で事足りる。このようなケースでは、8ビットのマイクロコントローラが賢い選択といえることもある。
 さまざまな企業が、モーター制御市場をターゲットとした安価なマイクロコントローラを発売している。集積密度やクロック周波数が絶えず向上し続けていることから、今や、このような8ビット素子でMIPS(million instructions per second)単位の処理速度を実現できる。このような処理速度は、これまで高速プロセッサやDSPでしかなし得なかったものである。モーター制御用のマイクロコントローラには、ハードウエアとしての機能が集約されている。これらの機能としては、電圧インバータを制御するPWM出力や、電圧フィードバックや温度フィードバックを目的としたADC入力などがある。モーターをより一層、高度に制御する応用製品であっても、16ビットまたは32ビットのマイクロコントローラで十分である。負荷の動的な変化に対応しなければならない高速モーターを制御するのであれば、おそらく、DSPつまりDSP搭載のコントローラが正しい選択となる。 
 モーター制御の傾向がDSPを使用する方向へと向かっているのは明らかである。にもかかわらず、プログラマの中にはDSPの使用を拒み続けている者もいる。従来のマイクロプロセッサ・プログラミングモデルに満足している者にとって、DSPプログラミングはカルチャー・ショックとなる場合がある。事実、エンジニアは以前からDSPをアセンブリ言語でプログラムしてきた。これは、DSPアーキテクチャがC言語の仕様と完全にはマッチングしないからである。 
 さらに悪いことには、適切な割り込み処理や制御ポートなど、エンジニアが必要とする機能をDSPが常に備えているとは限らない。このことを理解した上で、米Texas Instruments社、米Microchip Technology社、米Analog Devices社、米Freescale Semiconductor社などの企業では、DSPとマイクロコントローラのそれぞれにおいて最も良い点を組み合わせたハイブリッド型プロセッサを導入している。DSC(digital signal controller)として知られているこれらの素子では、DSPの演算能力(DSPコアを使用するとおそらく互角)を備えるも、従来のマイクロコントローラに類似したプログラム方式を採用している。場合によっては、DSC開発への移行がスムーズに進むように、DSCの開発環境と、ベンダーがマイクロコントローラ開発に使用する環境を一緒にしている。ほとんどのベンダーが提供するモーター制御用ソフトウエアは、エンジニアが直ちに使用したり、独自の機能を追加したりすることが可能となっている。 
 米International Rectifier社では、これとは別のアプローチを採用してDSPプログラミング上の障害に取り組んでいる。同社のデジタル・モーター制御IC「iMOTION」には、ハードウエア組み込み型のFOC(fields oriented control)と、回転速度制御アルゴリズムが採用されている。また同社のエンジニアは、ソフトウエアを開発する代わりに、モーターのパラメータと応用目的に基づき多数のレジスタをチップ上に搭載している。「モーターのチューニングはすぐにでも実施できるようになる。その際、プログラムに時間と労力を費やす必要はない」と高橋氏(米International Rectifier社)は言う。続けて、「ハードウエアに全ての機能が組み込まれている」とも語る。 
 ハードウエア側のDSCには、ADC、CAN(controller area network)インターフェース、PWM出力機能、優れた割り込み処理機能、フラッシュ・メモリーが搭載されている。また、エンジニアにとって馴染み深いスタック・アーキテクチャが使用されるほか、制御アプリケーションに必要なビット操作命令も用意されている。フラッシュ・メモリーにより、製造ラインの最終段階における制御ソフトウエアの追加や、現場でのメモリー書き替えによる機能更新で製品寿命の延長が可能となる。さらに、製品化までの時間短縮とコスト削減もまた、フラッシュ・メモリーの使用により可能となっている。さらなるコスト削減を図るべく、自社のDSCをROMで提供するベンダーも存在する。しかし、大部分の設計者はフラッシュ・メモリーにこだわっている。 
 そのほかのDSC機能は、安全性と堅牢性に重点を置いている。Write-once(1回書き込み)レジスタでは、PWM極性などの核となるレジスタをプログラムし直すことにより、プログラムの暴走による大惨事の発生を未然に防ぐことができる。DSCにはフォルト入力機能を持たせることもできる。このようにすると、オーバーヒートなどの危険な状況下においてPWM出力をシャットダウンしてモーターの破損を防ぐことができる。また、DSCでは、障害の状態を検出することもできる。例えば、発振器の電力損失や固着してしまったローターなどを検出することができる。
 応用した製品にもよるが、モーター・コントローラのADCにより、モーターや周辺の温度を監視することができる。動作温度が安全な範囲を超えると、コントローラにより適切な措置がとられる。エアコンの場合を例にとってみると、温度が危険なレベルに達すると、機能を完全に停止させるのではなく、コントローラがあえて性能を落とす場合がある。過剰なトルクの発生は、ベアリングの破損やそのほかの機械的障害を意味することがある。トルクの通常値を監視することにより、このような過剰なトルクがモーターで発生した場合にコントローラで検出できるようになる。ローターの標準以下の回転速度やステータ巻線に流れる電流の大きさなども、上記と同様の障害を示している場合がある。巻線電流がゼロの状態であれば、ステータ巻線が破損している可能性がある。このような状況下においてコントローラは、速やかにシステムを停止し、表示ランプを点灯する。あるいは、保守要求さえも発行する場合がある。
 応用製品の制御に最適な素子の選択は、一筋縄ではいかない場合がある。救いとしては、良い選択がおそらく存在するということである。素子の選択に際しては考慮すべき事項がいくつか存在する。回転速度を変更可能とすることの必要性、負荷の動的変化の有無、モーターの回転速度、効率性の重要度、必要な性能をスカラー制御で実現する可能性の有無、モーター以外の機能を制御する必要性の有無などだ。 
 モーターの選択はこれとは別の問題である。こちらの問題は、コントローラ選びにも影響を及ぼすことがある。開ループ制御が十分な場合や、電気機械センサーによるフィードバックが可能な場合は、シンプルなマイクロコントローラを選択するのが最も良いと思われる。その一方、DSCが必要とされる場合もある。例えば、モーターが多数の相巻線を備え、絶えず負荷が変動する状況下において一定のトルクで駆動する必要性がある場合や、高速回転による運転を要する場合などである。モーター以外の機能についても制御または監視させる必要がある場合は、十分な演算命令セットを備えるコントローラを使用する必要がある。この点について確固たる指針は存在しない。とは言え、米Silicon Laboratories社のBannatyne氏によれば、最低でも20MIPSの性能がなければ誰もベクトル演算をしようとはしないという。
 ブリッジ・ドライバ回路には、もう一つの設計上留意すべき点がある。ブリッジ・ドライバ回路は、コントローラのPWM出力により駆動され、適切な値の電圧をモーターに供給する。ディスクリート設計には、MOS FETを6個またはIGBTを6個、スイッチ・ドライバICおよび6個のダイオードを使用する。米Fairchild Semiconductor社のSmart Power Moduleはハイブリッド素子である。この素子では、上述の部品全て(場合によってはさらにサーミスタも含む)が1つの熱伝導性絶縁基板上に集積している。このモジュールのスイッチング素子には全て同系製品の金型が使用されている。そのため、それらのスイッチング素子は、似たような電気特性を持つ。ディスクリート部品に基づいてドライバ回路を設計するのではなく、工場試験済のブリッジ・モジュールを使用すると、レイアウト、絶縁、熱など、設計上の課題を解決しやすくなる。一方でコスト削減も実現できる。 
 政府規制と並んでエネルギー・コストに関する消費者意識が高まるにつれ、DSCモーター制御は、ますます主要電化製品に普及していくものと思われる。よりよい性能、新しい機能、目新しくシンプルな設計オプション、さらにモーター音の静かさが加わった様は、まさしく19世紀の発明品から変貌を遂げつつある21世紀テクノロジの姿といえる。さらに、最先端のモーター制御は、エレクトロニクスによって確実に進歩し続ける。現在でもなお、低コストで実現できる高性能プロセッサに促される形で、際立った利点を備える旧式モーター技術の復興が検討されている(囲み記事「今後の展望」参照)。

消費者の利益

 スカラー制御されたモーターを使用する昔ながらの電化製品は、おそらく、その効率が50%を下回っている。これは、理論上の最大値である約90%からは大きくかけ離れた数値である。ベクトル制御設計を導入すれば、パワーを損なうことなく、より一層小さなモーターを取り入れることができる。ベクトル制御可能なモーターは従来型のモーターより高価な場合がある。しかし、比較的単純な機械設計が、その高価な分を幾分埋め合わせしてくれる。ベクトル制御モーターを搭載した電化製品は、購入後の所有コストが従来型より低くなるほか、大抵はモーター音も小さくなると考えられる。その上、従来型の電化製品では実現できない機能も利用可能となる。
 多相モーターおよびコントローラの使用により従来型の電化製品がどのように生まれ変わるかを理解するために、一般の洗濯機を例に考えてみる。この頼れる電化製品は、これまで100年近くにわたり人類に多大なる奉仕をし続けてきた。しかし、それは大量のエネルギーを消費し、膨大な電力をお湯に変えて垂れ流す。新たに設計された洗濯機は、水平ドラムを採用し、水位センサーとインテリジェント・コントローラを搭載する。この仕組みにより、従来に比べ短時間で、より効果的な洗濯サイクルの実現が可能となっている。1回の洗濯で消費される水とエネルギーの量が最大50%低減され、その結果、洗剤の消費量も少なくなる。その一方、高速脱水によってこれまで以上に大量の水分が搾り取られる結果、乾燥時間が短縮され、ひいてはエネルギーの節約並びに衣類の損傷低減にもなる。
 インテリジェント制御された洗濯機モーターを使用すれば、洗濯物の偏り検知・修正機能など、消費者のニーズに合った機能を追加することも可能である。そのような洗濯機では、機械的な構造をさらに複雑にさせることなく、容易に逆回転を実現することができる。ベクトル制御モーターでも、洗濯ドラムを直接駆動することにより、機械的設計を簡素化させることが可能となる。また、ソフトスタート機能により、洗濯機の急激な始動を回避できる。これらの機能は、洗濯機駆動機構の効率性および信頼性をさらに高める上で役立つほか、音の静かな洗濯機を実現する上でも役に立つ。 モーター制御を適用したもう一つの良い例として、冷蔵庫が挙げられる。コンプレッサの単純なオン/オフ・サイクルによって、エネルギーは浪費され、メーカーは必要以上に出力の高いモーターの使用を強いられている。マイクロコントローラ制御を行なうだけで、エネルギー消費を25%削減することができる。これは、小型化されたコンプレッサにより、冷却負荷に合わせて絶えず速度を変化させることが可能なためである。
 米国エネルギー省(US Department of Energy)の調査によれば、電気モーターは、米国で作り出されるエネルギー全体の60〜65%を消費している。サンフランシスコで今年開催されたEmbedded Systems Conferenceの発表の場において、NEC Electronics America社シニア・システム・アプリケーション・エンジニアのJohn Pocs氏は、電気モーターで消費されるエネルギーの20%が無駄の多いスロットリングにより失われていることを示したABB Review Special Reportに言及している。例えば、ポンプやファンを50%の速度で運転させると、最高速度で運転する場合のわずか12.5%に相当するエネルギーしか消費されないと、この報告書では述べている。また、Pocs氏は発表において、モーター制御を効率良く行なうことにより、ポンプやファンを使用した製品では60%の節約を、HVACでは80%の節約をそれぞれ実現できるとも述べている。

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モーターの基礎

 モーターの誕生は19世紀にさかのぼる。以来、ほぼ100年に渡り、身近なところで活躍し続けている。モーターは、一般的に、その内部構造(ローターやステータにおける巻線や永久磁石の有無など)に基づいて分類される。もう一つの大まかな分類法では、整流ブラシの有無によってモーターが分類される。
 ブラシモーターの最も一般的な形は、ユニバーサル・モーターである。この「ユニバーサル」という表現は適切であるものと思われる。と言うのも、そのようなモーターは、電動工具から、小型電化製品、自動車のパワー・ウィンドウ、衣類用洗濯乾燥機にいたる、あらゆる場所で見受けられるからである。ただし、この名称は本来、直流交流両用モーターを表したものである。
 現在最も広く普及しているモーターは、交流誘導モーターである。このモーターは、文字通り、産業を「動かしている」。比較的価格が安く、なおかつ信頼性も高い交流誘導モーターからは、良いトルクが得られる。ユニバーサル・モーターや交流誘導モーターはいずれも家庭用電源ラインから直接電源を取れるという長所を持っている。これらのモーターに必要な制御は、オン・オフのスイッチだけである。その反面、ほかの形のモーターとの比較において、交流誘導モーターは電力損失が大きく、出力密度が低い。ユニバーサル・モーターは、整流アーク放電により破損しやすいという特徴を持っているため、ブラシレス・モーターほどの信頼性はない。ただし、安く入手することができる。
 永久磁石BLDC(brushless dc)モーターおよび三相誘導モーターでは、このような欠点が解消されている。電化製品メーカーがこれらのモーターに転向するのはこのためである。三相誘導モーターおよびBLDCモーターは、効率性が良く、モーター音も静かで、さらに信頼性も高い。その上、BLDCモーターでは効率性を95%以上に高めることができる。これに対し、誘導モーターの効率性は85%である。また、これらのモーターは、特定の用途に応じて物理的に形を合わせ易い。BLDCモーターは、低速(速度0も含む)でもフルトルクを生み出し、高速では良好に動作する。

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今後の展望

  コストが低いモーター制御によって、かつてのモーター技術が再び呼び起こされている。そのような技術は、今後のモーター制御を背負って立つ存在になるかもしれない。SR(switched reluctance)モーターは19世紀に誕生したが、その制御は、これまで非常に困難なものであった。このSRモーターは、低コスト、スタート時の高トルク性、高速回転、高効率性、高信頼性という長所を持っている。また、ほかの形のモーターに比べて用途に合わせた設計が容易である。コストが低いDSC(digital signal controller:デジタル・シグナル・コントローラ)を使用すれば、SRモーターのこのような長所を電化製品市場で活かすことが可能である。
 SRモーターの機械的構造は単純である。ローターは型打ちした鋼製のラミネーションを軸に取り付けただけのものであり、巻線は使用されていない。ステータは、BLDC(brushless dc:ブラシレスDC)モーターのものと類似している。ローター巻線もブラシも取り付けられていないSRモーターは、メーカーにとって信頼性が高く、コストが低く抑えられるモーターとして位置付けられる傾向がある。業界専門家の中には、いつかSRモーターが最も経済的なモーターになると予測する者もいる。
 今日、SRモーターは困難な設計の中に活路を見いだしている。そこでは、SRモーター特有の機能により、SRモーターを選択することが最良となる。掃除機の「Dyson DC12」はその一例である。英Dyson社は先頃、小型かつ高性能が求められる日本市場にこのDyson DC12を投入した。求める性能水準を限られたスペース内で達成するために、英Dyson社のエンジニアは新たなファンを設計した。それは、10万回転/分のSRモーターにより駆動する構造となっていた。この高性能な掃除機は、診断情報をDyson社のヘルプ・ラインに報告することさえも可能である。この報告は、内蔵スピーカーに近づけた電話機を介して行われる。
 SRモーターは、振動と音が非常に大きい。そのため、掃除機や送風機など、元々騒音が発生する製品に使用される場合がほとんどだった。しかし、DSCを使えばこの問題を解決することができる。エンジニアは、モーターの各種エミッション(RF、熱的、電気的、物理的)の削減に取り組んでいる。ここで、ある手法が有望と見られている。「ランダム・トルク・パルス生成(random torque pulse generation)」と呼ばれるその手法は、次のような観察結果に基礎を置いている。モーターのトルクは、1回転ごとに同一レベルのパワーが供給される限り保持され、回転中のパワー供給のタイミングには影響されない。これによりエミッション全体の半分以上カットされているが、この手法を有効とするには高い処理スピードが必要である。
 モーターの設計上有望なもう一つの手法として、多相式も挙げられている。なお、「多相」とは相巻線が三相(標準的なモーターによく使用される)以上のものを指す。相巻数が増えるに従い、1相当たりの供給電流は減少する。電流レベルが低くなるにつれて、使用できるドライバも安くなり、ひいては、製品に使用されるドライバの総コスト削減にもつながる。多相巻線全体に渡って小さな電流ピークを発生させることにより、電流リップル、機械ノイズ、電気ノイズが低減される。多相モーターには冗長機能も備わっている。そのため、巻線に障害が発生した場合でもなお多相モーターは出力を落として運転を継続することができる。これは、交通手段のほか、故障しても運転を継続することに価値を見いだす用途において強みとなる。多相モーターの制御には、DSCを始めさらに多くの要件が必要となる。例えば、さらなるPWM出力およびセンサー入力、そして一段と高い性能が求められる。

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